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京まふ:withコロナの世界で3年前の開催風景を取り戻す【後編】

2022.11.18

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「Action」では、急速に変わりゆく社会のなかで、ソニーミュージックグループやエンタテインメント業界の新たな試みに注目。どんなときでも人々に寄り添い、心を潤すエンタテインメントの未来を追いかけていく。

今回は、2022年9月に「みやこめっせ」「ロームシアター京都」を拠点に開催された『京都国際マンガ・アニメフェア2022』(以下、京まふ)をフィーチャーする。

一昨年、昨年は、新型コロナウイルス感染症の拡大により、まん延防止等重点措置、緊急事態宣言下という厳しい状況での開催だったが、今年は規制が緩和され、過去2年は取り止めになったキャラカフェエリアやコスプレエリアもオープン。さらに今年からは、メタバース体験やNFTアートの販売にも挑戦し、マンガ、アニメを中心としたコンテンツの総合見本市として、さらなる進化を目指した。

引きつづき感染対策は入念に行ないながらも、約3万人が来場し盛況を博した今年の『京まふ』について、主催の京都市、運営事務局を務めるソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)の担当者に話を聞いた。

後編では、メタバース空間での京都体験、NFTアート販売、クラウドファンディングなど、今年初めて実施されたオンライン施策と、これからの『京まふ』の在り方について語ってもらった。

  • 野沢陽子氏

    Nozawa Yoko

    京都市産業観光局 クリエイティブ産業振興室
    コンテンツ産業振興係長

  • 多田羅裕太氏

    Tatara Yuta

    京都市産業観光局 クリエイティブ産業振興室
    コンテンツ産業振興担当

  • カンスカ・マグダレナ

    Kanska Magdalena

    ソニー・ミュージックソリューションズ

  • 堀切万記

    Horikiri Maki

    ソニー・ミュージックソリューションズ

京都国際マンガ・アニメフェア2022

『京まふ』はマンガ、アニメを中心としたコンテンツの総合見本市。実行委員会とともに京都市が主催し、マンガ、アニメを活用した新事業の創出支援、クリエイターの育成支援や雇用機会の創出、コンテンツ都市としてのブランド力の強化、そして日本が世界に誇る文化のひとつであるマンガ、アニメを京都から発信することを目的に2012年よりスタートした。今年で11回目の開催となる。

メタバース空間でのNFTアート販売に初挑戦

──(前編からつづく)オンラインの施策について伺います。『京まふ』では一昨年からステージイベントのオンライン配信を行なっています。いっぽうで、今年の『京まふ』の会場はコロナ禍前の活況を取り戻し、「やっぱりリアルイベントの方が良い」という声も聞かれました。オンラインとリアルのバランスについて、どのように考えていますか?

カンスカ:感染防止対策の規制が徐々に緩和されるとともに、「リアル開催に軸足を戻そう」という声が増えている気がします。とは言え、ステージ配信も今では定着したので、これからもつづけていくことになるでしょう。ただ、『京まふ』のステージは主催者ではなく、出展企業や団体によるもの。配信するかしないかは、その方々次第ではありますね。

多田羅:オンラインは多くの方に見ていただけるというメリットがありますが、収益化が難しいという側面もあります。会場に足を運んでいただければ入場料収入が増えますが、オンラインは無料配信。もちろんご覧いただけるのはありがたいことですが、収益化も課題と捉えなければいけないと思います。

また、オンラインに関する初の試みでいうと、今年はメタバース空間『京都館PLUS X』も活用しました。『京都館PLUS X』は、京都市が2022年3月に立ち上げたメタバース空間です。東京にあったアンテナショップがなくなったため、どこにいても京都を体験できる場としてこの空間を設けました。バーチャル空間上にモニターやパネルを設置して、京都の伝統工芸やイベントなど、さまざまな情報発信を行なっています。

──『京まふ』では、『京都館PLUS X』でどのような取り組みを行なったのでしょうか。

多田羅:『京まふ2022』のメインビジュアルである京都市広報キャラクター・京乃つかさのNFTアートを販売しました。『京都館PLUS X』の空間内にあるパネルをタッチすると、NFT販売サイトにアクセスすることができるので、そこで購入していただくという流れです。『京まふ』会場の「みやこめっせ」にもPRパネルを展示しました。

今年は初めてのトライアル販売だったので、価格や枚数は悩みました。また、NFTアートを購入してくれた方限定の特典を付けるなど、メリットを用意する必要もあるのではないかと感じました。

野沢:『京まふ』がメタバース空間を主軸にしたイベントになることはありませんが、PRとして活用できればと思っています。近年は多くの企業や自治体がメタバース空間の創出に力を入れていますが、空間は用意できてもコンテンツの内容を充実させることに苦慮されているところも多いと感じます。

例えばゲーム性を持たせるとか、展示に絞りつつもそこでしか見られないものを用意するとか、そこでしか買えないアイテムを販売するなど、提供するサービスによって仕様も大きく変わってくるので、京都市としても研究しているところです。

多田羅:どうすれば多くの方に利用していただけるのかも、大きな課題です。ただ、時代の流れを考えてもメタバースに取り組む必要性は感じています。今後は、『京都館PLUS X』を利用するメリット、『京まふ』との連携で何を生み出せるのかをさらに考えていきたいです。

──NFTアートの取り組みはいかがでしたか?

多田羅:『京まふ』11周年にちなんで、11,111円のNFTアートを111枚用意しました。

野沢:NFTの販売も今回が初めてだったので、いくつかの改善点はありますが、追加のコストをほとんどかけずに販売できるのはメリットです。別バージョンの背景やラフ画をセットで販売すれば、もっとレア感を出せたかもしれません。今年の経験を糧に、今後にいかしたいと思います。

──そのほかに、オンラインでの新たな取り組みはありましたか?

カンスカ:今年初めてクラウドファンディングを実施しました。「『京まふ』継続、発展のために、お力を貸していただけませんか?」というテーマでプロジェクトを立ちあげたところ、239万4,000円ものご支援をいただきました。

このクラウドファンディングは、『京まふ』に対するファンエンゲージメントを高めていくという観点からも、今年だけの試みで終わらせるのではなく、できれば今後も継続し“皆さんと一緒に作る『京まふ』”にしていけたらと。もちろん、ただ支援をお願いするだけでなく、応援してくださる方への返礼品もいろいろ考え、毎年のお楽しみにできればと思います。

──今年は、どのような返礼品を用意したのでしょうか。

堀切:クラウドファンディング限定グッズのほかに、メイン会場「みやこめっせ」への優先入場、ステージ全プログラム観覧可能な「京まふVIPパス」という限定パスや、ステージ上で記念撮影できるリターンも用意しました。『京まふ』は、昨年10回目という区切りの年を迎えられたので、今年は挑戦の年として新しい施策をたくさん展開しました。このなかから、つづけることが有効な施策を精査した上で12回目にいかしたいと思います。

未来に向けて種をまき、コンテンツ産業をサステナブルに

──『京まふ』では、京都市の産業支援というテーマも掲げられています。京都の伝統工芸体験、京都ならではのグッズの販売なども行なわれていましたが、京都ならではの取り組みを今後どのように発展させていきたいとお考えですか?

多田羅:京都の文化芸術は、世界に誇れるものだと思います。京都の情景と人気アニメを融合させたコラボビジュアルもそうですし、京都の老舗とのコラボグッズなど、京都だからできること、京都にしかできないことはたくさんあります。そういった特色を打ち出し、ほかのイベントとは違う京都らしさを大事にしていくことで、さらに京都のコンテンツ産業が活性化するお手伝いができればと考えています。

野沢:『京まふ』を始めた2012年当時は、まだマンガ、アニメのコンテンツの地位は今ほど高いものではありませんでした。伝統産業とコラボしたいと思ってお問い合わせしても、なかなか理解を得るのは難しい状況だったんです。でも、マンガやアニメ、ゲームがより一般化したことによって、メディア芸術の付加価値がどんどん高くなっていきました。今では逆に、「うちもコラボしてみたい」といろいろな方から声掛けをいただくようになりましたし、お話を持ち掛けると「ぜひ」と言ってくださる方も増えています。『京まふ』をつづけてきたからこそ時代の波に乗ることができましたし、ここからさらに大きな花を咲かせていくのが次の10年だと思っています。

堀切:例年開催しているので当たり前のように受け止めていますが、マンガやアニメのイベントで伝統工芸体験ができるのも『京まふ』ならではですよね。伝統工芸を体験しながら、自分の手でアニメグッズを作れるということ、京都とアニメのコラボレーションをもっとアピールし、次の10年に向けて京都全体をマンガとアニメで盛りあげられたらと思います。

──withコロナの時代が到来し、今後もしばらくは新型コロナウイルス感染症と共存していかねばなりません。来年以降の『京まふ』の在り方について、コメントをいただけますでしょうか。

多田羅:withコロナの時代になって京都に人出が戻りつつありますが、個人的には2019年の『京まふ』のような賑わいを取り戻すのはまだ難しいのではないかと思っています。やはり日本では今もマスクが欠かせませんし、ソーシャルディスタンスを取らなくて良いと言われても、密の状態には皆さん気おくれされるような気がします。だからこそ、2019年以前とは違う展開を自分たちで作っていく必要があると考えていて、メタバース空間やNFTアートといった新たな施策に挑戦しました。

今年はかなりの人出が戻ってきた『京まふ』。

また、『京まふ』は行政が主催するイベントなので、会期中の2日間に来場者を集めるだけではつづける意義がありません。『京まふ』を通じて観光客が増える、京都市内の産業が盛りあがる、若手のクリエイターが活躍の場を見付けるといった産業支援についても重視すべきだと考えています。

今年も学生主体のステージイベントを開催したり、百貨店と子ども向けの連携イベントを行なったり、未来のコンテンツ産業の芽を育てる取り組みを実施しました。数年後、数十年後も京都のコンテンツ産業を拡大できるよう、先々を見据えて取り組みを行なうことが『京まふ』の開催意義であり、目指すところだと思います。

──コンテンツ産業にもサステナブルな視点が必要な時代になってきましたね。

多田羅:そうですね。京都市は、京都を東京に引けを取らないコンテンツ産業の拠点にしたいと考え、『京まふ』以外にも新たな事業を始めています。

野沢:今の話とつながりますが、やはり『京まふ』単体で来場者を増やしつづけるには限界があります。2022年度末には文化庁の京都への全面移転が実現し、京都が日本の文化芸術の拠点となっていくので、その点も強く意識すべきだと考えています。

一過性のイベントでなく、年間を通じて文化芸術を活用した地域活性化を行なうには京都市の力だけでは足りません。関係する企業、団体をどんどん増やし、官民一体で機運を高めていく。その上で、毎年9月は『京まふ』の開催という流れを作っていきたいと思います。

京都市にはそこまで巨大なスペースがないため、「コミックマーケット」規模の屋内イベントを行なうのは難しい現状です。できる範囲で関係する方々を増やし、イベントをより充実させていく。これまでの10年間で培ってきた土台をいかし、この先10年はさらにステップアップしていく。そうやって“NEXT『京まふ』”を考えていければ。今後もSMSの皆さんには、無理なお願いをすることもあると思いますが、一緒に乗り越えていただけたらと思います(笑)。

カンスカ:その思いに寄り添っていけるよう、我々も引きつづきコンテンツやテクノロジーに対して感度の良いアンテナを張っていければと思います。

リアルを望む声多数? 今後のイベントはどう在るべきか

──SMSは、『京まふ』のほかにもアニメやゲーム、VTuberなどの、大型フェスやエキシビションに携わっています。来年以降のイベントビジネスについて展望を聞かせてください。

カンスカ:この2年間、『京まふ』は頑張って継続してきましたが、やむを得ず中止になったイベントも数多くありました。ほかのイベントもリアル開催はできましたが、やはりコロナ禍前のような人出にはなりませんでした。そんななか、『京まふ』は“コロナ禍前の勢いが戻ってきたかもしれない”と初めて手応えを感じたイベントでした。

最近は中止になっていたイベントも復活してきており、厳しい2年間を経てようやくイベント業界にも明るい兆しが見えてきています。SMSだけでなく、運営をサポートしてくれる企業、施工業者、グッズ制作業者の方々も、皆さん忙しそうです。「イベントに積極的に参加したい」と言う出展社、足を運んでくださる来場者も増え、業界的には明るさを取り戻していますね。

堀切:『京まふ』を見ていると、来場者の方たちも現場に足を運べることを喜んでいるんだなと感じました。フードエリアやグッズ販売に長蛇の列ができても、皆さん辛抱強く並んで購入されたり、この2年間リアルイベントを心から待ち望んでいたんだろうなと思います。

それと同時に、この2年間ではオンラインだけでのイベントの楽しみ方は確立できなかったような気もしています。現状では会場でのイベントと配信を両方行なっていますが、そうすると「オンラインがあるなら、会場に足を運ばなくてもいいのかな」とお客様も迷ってしまいます。なので、場合によってはリアルに振り切るほうが、良い場合もあると思いました。

『京まふ』の今後に関しては、やはり西日本最大級のマンガとアニメのイベントというところが大きいと感じています。しかも、京都市の皆さんとご一緒できるというのは、我々にとっても貴重な場です。今年は、東京からのお客様を呼び込むためにツアーパッケージも企画しましたが、やはりまだ東京から足を運ぶ方は多くありません。とは言え、京都は日本有数の観光都市ですし、せっかくシルバーウィークのタイミングでもあるので、『京まふ』への来場と京都観光をセットにするなど、新たな打ち出し方も探っていけたらと思います。海外の方が、「せっかくなら『京まふ』の時期に京都に行きたい」と思っていただけるような企画を用意するなど、新たな試みにもチャレンジしていきたいです。

グッズ販売エリアも盛況。

──希望的観測ではありますがが、来年はコロナ禍もさらに落ち着いているのではないかと思います。皆さんも、これから来年の開催に向けて準備を始めていくのでしょうか。

野沢:そうですね。コロナ禍の影響は大なり小なりあるかもしれませんが、『京まふ』にご来場いただき、イベントを含めた京都の体験を提供していきたいと思います。ほかのアニメイベントとの差別化を図るためにも、『京まふ』だからできる体験、『京まふ』だから購入できるアイテムを用意し、『京まふ』をきっかけに京都にいらしていただけたらうれしいです。

文・取材:野本由起
会場撮影:干川 修

関連サイト

『京まふ』公式サイト
http://kyomaf.kyoto/(新しいタブを開く)
 
『京都館PLUS X』公式サイト
https://www.kyotokan.jp/vr-kyotokan/(新しいタブを開く)
 
ソニー・ミュージックソリューションズ
https://www.sonymusicsolutions.co.jp/s/sms/?ima=3603(新しいタブを開く)

主催京都国際マンガ・アニメフェア実行委員会、京都市
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