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連載Cocotame Series

ミュージアム~アートとエンタメが交差する場所

VTuber・九条林檎 meets アンディ・ウォーホル in 京都【前編】

2022.12.01

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連載企画「ミュージアム ~アートとエンタメが交差する場所」では、アーティストや作品の魅力を最大限に演出し、観る者の心に何かを訴えかける空間を創り出す人々にスポットを当てる。

京都で開催中のアンディ・ウォーホルの大回顧展『アンディ・ウォーホル・キョウト/ANDY WARHOL KYOTO』(以下、『アンディ・ウォーホル・キョウト』)と、その関連イベントのひとつ『ウォーホル・ウォーキング/WARHOL WALKING』(以下、『ウォーホル・ウォーキング』)を、バーチャルタレントとして活動中の九条林檎が体験。

前編では、九条林檎がアンディ・ウォーホル作品に触れた印象などを語るとともに、『ウォーホル・ウォーキング』のルートから、京都駅と三十三間堂の様子を届ける。

九条林檎 KUJO RINGO

吸血鬼と人間のハイブリッドレディで、魔界の名門、九条家の長女。バーチャルタレント/VTuberとして、歌やダンス、ゲーム、悩み相談と、多岐にわたるテーマでコンテンツを配信中。2022年5月より、ソニー・ミュージックエンタテインメントが運営するバーチャルタレント育成&マネジメントプロジェクト『VEE』に所属。

『ウォーホル・ウォーキング/WARHOL WALKING』


 

 

京都に文化庁が移転することを記念した文化庁移転記念事業の一環として実施されている、アンディ・ウォーホルの足跡を辿る街歩き企画。1956年と1974年に京都を訪れているアンディ・ウォーホルが、当時、実際に足を運んだ京都の名所のなかから、京都駅前、三十三間堂、清水寺、祇園・白川筋の4つのエリアに、計5カ所のスポットを設置。京都駅から、『アンディ・ウォーホル・キョウト』が開催されている「京都市京セラ美術館」へとつづくルートが設定されている。また、『ウォーホル・ウォーキング』ではスマートフォンなどで楽しめる無料のオーディオガイドも用意されており、それぞれのスポットにあるQRコードを読み込むことで、アンディ・ウォーホルと京都にまつわるエピソードを聞くことができる。

なぜこんなに惹かれるのだろうと自分でも不思議に思った

ウォーホル・ウォーキング:京都駅

「京都は歴史への門である」というテーマで設計された駅。いっぽうで、古都の玄関口とは思えないような、ガラス張りの天井や大きな吹き抜けの空間など、近代的な構造も魅力。日本でもっとも在来線特急の発着種類が多く、観光客をはじめ多くの人が利用する国内有数のターミナル駅でもある。

「建造物の構造をまじまじと眺めるのが好きな我にとって、天井や柱の構造などを観ているだけでも楽しかったですね。そのあとに京都を巡ったわけですが、あのような歴史ある街の玄関口とは思えないほどの近代感、格好の良さ。我はそういうギャップのようなものが好きなので、京都駅も人間界のお気に入りスポットのうちのひとつになりました。京都駅のすぐ前に『アンディ・ウォーホル・キョウト』のコンテナが設置されていますが、普段大きなポップアートを街なかで目にすることはなかなかありません。大きく印刷されたコンテナが街なかにあるのは、ともすれば異物に映ってしまいます。ですが、違和感というものは不思議な高揚感を覚えるもので、 すごくワクワクしました」

――今回、九条さんには、京都で開催中の『アンディ・ウォーホル・キョウト』と、その企画のひとつである『ウォーホル・ウォーキング』を体験してもらいました。アンディ・ウォーホルというアーティストについて、以前から知っていましたか?

存じあげなかったので、今回いろいろと予習をいたしました。ポップアートの旗手であるとか「キャンベル・スープ缶」だとか、さまざまな情報を得るなかで、もっとも心に響いたのが「自画像(髪が逆立ったかつら)」(写真右下)です。このウォーホル、良い写真だなぁと思ったんですよね。我はこういう人間が非常に好きなんです。

アンディ・ウォーホル 「自画像(髪が逆立ったかつら)」、「頭蓋骨のある自画像」1986年 アンディ・ウォーホル美術館蔵
ⒸThe Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. /Artists Rights Society (ARS), New York

なぜこんなに惹かれるのだろうと自分でも不思議に思っていたのですが、今回展覧会に行かせてもらって、解説を聞くなかで謎が解けました。このボサボサ頭の銀髪、カツラだというじゃないですか。アンディ・ウォーホル、本名アンドリュー・ウォーホラ。そのウォーホラが アンディ・ウォーホルという人物を自分のなかで作りあげ、見た目もブランディングして撮った写真だったんです。それってなんだか、VTuberに通じるところがあると思いませんか? 我はそういう、自分で自分を演出して新しい価値を作ってしまう人間が大好きです。

だからこの写真は、我にとってこんなにも魅力的に映る。自分のことをよくわかっている人間の写真です。自分というのは素の自分ではなく、他人から見えている自分ということ。あまりにもシビれる。はははは。

――『アンディ・ウォーホル・キョウト』では、初期から晩年までの作品(1950年代~1980年代)を観てもらいました。九条さんが特に気になった作品というと?

赤と黒で描かれた「影V」(1979年)です。それまでは具体的な作品が多かったですよね。何かに対してのスケッチ、広告主から依頼された絵やポップアート、何かしら明確なものがあったんです。そのなかで「影」は、かなり抽象的なものでした。我は赤と黒を基調とした衣装を着ているのですが、実を言うと、最初はそれと同じ色使いだったので目が止まったのです。

「影Ⅰ」「影Ⅰ」「影Ⅴ」
アンディ・ウォーホルは常日頃から光と影のコントラストに惹かれ、その捉えどころのない幻想的なイメージに魅了されていた。1970年代の作品には、陰影を用いたドラマチックな作品が多く見られる。版画を用いた「影」シリーズもそのひとつ。作品のいくつかにはダイヤモンドの粉が散らされ、影のゆらめきをより際立たせている。

作品の解説を聞いたところ、あれは一見影と光に見えるけれども、ダイヤモンドダストを散りばめることで、闇のなかにも光を見付けることができるというのを表現しているとのこと。それはまさに、我の活動方針にバッチリ合致するところだったりするのです。

これは人生の少しチートじみた話であまり大きな声では言えないのだが、人が大きな救いを得られるときというのは、大きく弱っているときだけだと我は思うのです。人は元気なときには、圧倒的に救われることはできない。だから闇のなかにこそ光がある、闇のなかにいるときこそ光が一番美しく見える。

そういうことを我が少しばかり常日頃から考えているので、すごく共鳴する部分がございました。少し上位存在目線ではございますが、なかなかやるじゃないか、みたいな心持ちでした。ウォーホルは、やはりそれを知っている人なんだと思った。それが何よりうれしかったです。

――キャンベル・スープ缶の作品にも注目されていました。

あれはまさに代表作ですから、チェックしないわけにはいきません。この作品がなぜ評価されているのか考えるのも楽しいですしね。 その向かいに展示されているシャネルの瓶もきれいで、我は気に入りました。

「キャンベル・スープⅠ」
版画の一種であるシルクスクリーンで制作された、アンディ・ウォーホルの代表作のひとつ。一見同じ絵が並んでいるように見えるが、よく見ると「TOMATO」「BEEF」などそれぞれ種類が違っている。安くて調理が簡単ですぐ手に入るキャンベル・スープは、アメリカ人にとってソウルフードと呼べる存在。アンディ・ウォーホル自身も20年間毎日食べつづけたという逸話もあり、大量生産や消費をテーマにした作品と言われる。

四角い銀色の風船が室内に浮いている「銀の雲」も面白かったですが、こちらはとある偶然にびっくりしたんです。ウォーホル作品のなかでも有名なもののひとつだという、エルヴィス・プレスリーがダブって写っている「ダブル・エルヴィス」。これは有名人の多面性みたいなものを表現している作品だということですが、この作品を見たあとに「銀の雲」の部屋に行きました。そこの展示空間の照明演出で、「銀の雲」が浮かぶ部屋の壁に自分の影がふたつ映っていることに気付いたんです。しかも、ライティングによっては、結構はっきりと緑や赤などに分かれる。自分が「ダブル・エルヴィス」風の作品になってしまったような、自分自身にそのメッセージを突き付けられるような、鮮烈な体験でした。この空間演出自体はウォーホル自身の作品ではないですけれど、そんな関連付けも楽しかったですね。

「銀の雲(ウォーホル美術館シリーズ)」
銀の風船が室内に浮遊する「銀の雲」は、1966年の展覧会で発表されたインスタレーション。当初は浮かぶ電球を作る予定だったが、技術的な問題で銀色の四角い風船に変更したという。表面に周囲の空間を映しながら舞う風船は、結果としてアンディ・ウォーホルが当初より探し求めていた“浮かぶ絵画”を実現することとなった。

――いろいろな作品を間近で観て、もし、アンディ・ウォーホルが今生きていてコラボレーションできるとしたら、どんなことをしてみたいですか?

有名人の映像を集めた「スクリーン・テスト」の作品群があったんですが、あれの後ろに映り込む人をやりたいです。トランペットを吹かすような軽快なジャズの音楽に乗せて、後ろにひょいひょいっと(笑)。「スクリーン・テスト」の映像は500点くらいあると聞きましたが、それ全部に映り込む。シュールの積み重なりの面白さって絶対あるし、結構、我はシュールな笑いが得意なので、そういうのをちょっとやってみたいなと思いました。

「15分間は有名になれる」というのはインターネットの核心を突いている

――作品や展示からヒントを得て、ご自身のコンテンツの構想が生まれたりはしましたか?

これも「スクリーン・テスト」を見て思ったのですが、人が静止していて、時折瞬きをしたり少しだけ振り向いたりという映像のなかで、我が連想したのは最近流行りのディープフェイクです。ディープフェイクのなかには、写真を勝手に動かしてしまうタイプのものがございますが、写真をソフトに通して動かすときに、ちょうど「スクリーン・テスト」のような動きをするんです。偶然の一致ではあるのですがなんだかおかしくて、じゃあ逆にVTuberが、ディープフェイクに寄せていくこともできるのではと考えたりしました。ありとあらゆるディープフェイクっぽい動きを、パロディとして面白おかしく動画にしてしまう。そういうのも楽しそうだなぁなんて思いましたね。

そのほか、直接的な作品へのインスピレーションではないものの、ある発見がありました。VTuberというのは、やはり消費されるものなんです、それもその人の人間性が。その人の生きる様、どういう性格か、どんな趣味趣向をしているかを消費して楽しんでもらうのがVTuberです。パーソナリティが商品になっていると言えますね。従来のタレントの方々もそういった面はあるのですが、VTuberはより生活に密接している部分が大きいように思います。本当に24時間をすべて箱に詰めて売っているようなものですから。そういう意味でVTuberというのは、自らの生活そのものを使ったアートなのではないかと。だから逆だなと思いました。大衆に消費されるものがポップアート、個人の生活をもってアートを作るのがVTuberだと。 生き方がそのまま芸術になってしまうから、VTuberは面白い。

ウォーホル・ウォーキング:三十三間堂


 

正式名は蓮華王院で、その本堂が、通称、三十三間堂と呼ばれる。南北120mに伸びる堂内には、中尊・千手観音菩薩坐像と1,001体の千手観音菩薩立像が立ち並び、荘厳な雰囲気が漂う。

「圧巻の情景でした。大抵、仏様というのは、1体そこにいるだけで、とんでもない存在感を放つものです。それがあそこまでの数でいらっしゃると、空間に重みを感じるとでも言えば良いのでしょうか。あの重厚感ばかりは、実際に訪れて迫力を感じていただくしかないと思います。そして、仏様は皆美しくていらっしゃいます。ウォーホルの1950年代の作品に「男」という絵がありましたが、あれを見たときに、仏様、とりわけ大仏様に似ているというように思いましたね。厚い唇、しっかりした鼻、切れ長の目。歌人の与謝野晶子さんは鎌倉大仏に対して“大仏様は美男におわす”と詠っていますが、顔というのは変わらぬ美の基準としてありつづけるものです。女性とも男性ともつかないあの美しいアルカイックスマイルに、アンディ・ウォーホルもまた触発されていたのかもしれないと思うと、ウォーホルの美に対する価値観を垣間見るとともに、人類全体の美に対する歴史みたいなものに思いを馳せる心持ちでしたね。特に『男』には金箔が使われていたので、余計に仏様のような雰囲気がしていました」

――インターネットが一般家庭に普及する前の1980年代に、アンディ・ウォーホルは「人は誰でもその生涯で15分間は有名人になれる。いずれそんな時代が来るだろう」と、未来を語ったと言われます。この言葉はご存知でしたか?

これはウォーホルの言葉だったんですか? インターネット上ではよく語られる有名な言葉なのですが、それは知りませんでした。「ネットのかみさま」という曲に「15分は有名になれる(誰だってね!)彼は未来を知っていたみたい(すっごい!)」という歌詞があって。

実際これはすごく的を射ています。今、有名になるのは簡単なんですよね。過激なことをすれば良いのだから。思い付くことはいっぱいあります。YouTubeで生配信したまま、とてもここでは口に出せないようなことをして名前を売れば、瞬く間に地上波のニュース枠を取ることができる。こんなに確実な方法はございません。その代わりに失うものも多いですが。しかし今のお話を聞いて、やはり彼が好きになりました。

――インターネットを活動の場にされている九条さんは、この言葉をポジティブとネガティブ、どちらに捉えていますか?

ニュートラルに捉えていました。りんごが手を離せば落ちるように、ただそこにある真理、と。誰でも15分間は有名になれる、それを知って15分を取るか、15分以外を取るか。そのバランスを綱渡りしていくのがインフルエンサーというものでございますから、肝に銘じないといけない。我自身も、いつもバランスを考えています。

――アンディ・ウォーホルがこの時代に生きていたとしたら、SNSと相性が良かったと思いますか?

「15分間は有名になれる」というのはインターネットの核心を突いていて、皆さんに親しまれている。だからこの言葉も、インターネットの有名人か、ビル・ゲイツのような人が言ったものだと勝手に思っていました。まさか、1900年代に生きた方の言葉だったとは。

ウォーホルは現代と相性が良かったと思いますよ。セルフブランディングがうまい人なんて、今の世の中、非常に歓迎されますから。それにしても、自分のなかのことわざ辞典に入っていたような言葉にこんな形で出会うなんて、本当に驚きました。

後編につづく

文・取材:諏訪圭伊子
撮影:干川修

『アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO』

開催期間:2022年9月17日(土)~2023年2月12日(日)
休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館)、12月28日(水)~1月2日(月)
開館時間:10:00~18:00(入場は閉館の30分前まで)
会場:京都市京セラ美術館 新館「東山キューブ」(京都市左京区岡崎円勝寺町124)
入館料:一般・土日祝:2,200円(当日)
一般・平日:2,000円(当日)
大学・高校生:1,400円(当日)
中学・小学生:800円(当日)
※すべて税込
※20人以上の団体割引料金は当日券より200円引き
※障がい者手帳等をお持ちの方(要証明)と同伴される介護者1名は無料
※未就学児は無料(要保護者同伴)
※会場内混雑の際は、今後、日時予約をお願いする場合や入場までお待ちいただく場合がございます。

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