イメージ画像
イメージ画像
連載Cocotame Series

ミュージアム~アートとエンタメが交差する場所

VTuber・九条林檎 meets アンディ・ウォーホル in 京都【後編】

2022.12.02

  • Twitterでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Facebookでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • LINEでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • はてなブックマークでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Pocketでこのページをシェアする(新しいタブで開く)

連載企画「ミュージアム ~アートとエンタメが交差する場所」では、アーティストや作品の魅力を最大限に演出し、観る者の心に何かを訴えかける空間を創り出す人々にスポットを当てる。

京都で開催中のアンディ・ウォーホルの大回顧展『アンディ・ウォーホル・キョウト/ANDY WARHOL KYOTO』(以下、『アンディ・ウォーホル・キョウト』)と、その関連イベントのひとつ『ウォーホル・ウォーキング/WARHOL WALKING』(以下、『ウォーホル・ウォーキング』)を、バーチャルタレントとして活動中の九条林檎が体験。

後編では、『ウォーホル・ウォーキング』から、清水寺、祇園・白川、京都市京セラ美術館の様子と、インタビュー後半を届ける。

九条林檎 KUJO RINGO

吸血鬼と人間のハイブリッドレディで、魔界の名門、九条家の長女。バーチャルタレント/VTuberとして、歌やダンス、ゲーム、悩み相談と、多岐にわたるテーマでコンテンツを配信中。2022年5月より、ソニー・ミュージックエンタテインメントが運営するバーチャルタレント育成&マネジメントプロジェクト『VEE』に所属。

歩いているだけで歴史を感じることができるのが京都

清水寺

――九条さんは、京都を訪れたのは2度目とのことですが、今回京都からどんな印象を受けましたか?

関東近辺にも鎌倉であったりとか東京にもそれなりの数の神社があり、好きで行くことがありますが、京都はやはり規模が大きいです。どこもかしこも古い建物がいっぱい残っていてワクワクしてしまいますね。やはり都市の規模の大きさ、歴史の深さ、いかに人々が街を大事に、今まで残してきたかが本当によくわかる。歩いているだけで歴史を感じることができるのが京都の深さなのだなと改めて思いました。

清水寺は過去に観光で行かせていただいたのですが、当たり前ですが全然変わっていませんでした。変わらずそこにありつづけることこそが歴史的建造物の価値でもあると思うし、揺るがずそこにあるからこそやはり惹かれる。万物流転のなかで、変わらないものに人間は惹かれるというのは、京都をいろいろ回っての印象です。

ウォーホル・ウォーキング:清水寺


 

創建から1,200年以上の長い歴史を持つ寺院。古都・京都の文化財として1994年にユネスコ世界遺産に登録された。境内には「清水の舞台から飛び降りる」の語源となった本堂や、三重塔などの国宝、重要文化財が立ち並ぶ。

「いわゆる“清水の舞台”では、本当にここから飛び降りたら絶命は逃れられないだろうと言ったような緊張感を味わいました。思い切ったことをするときに『清水の舞台から飛び降りる』という例えがありますが、あの緊張感みたいなものが言葉に託されていたのだなと感じ入ったりしましたね。やはり有名な場所というのは、本当に人々がいろいろ話しただけ、 話した属性みたいなものが付いていく。あの慣用句のところ、あのことわざのところ、このお話に出てきたところ。塔のほうを眺めるように設置されたウォーホルBOXの近くを歩いたりしながら、そんなことに思索を巡らすのが実に楽しい散策でした」

――今回、九条さんも訪れた祇園・白川筋や清水寺、三十三間堂などを巡って、アンディ・ウォーホルは京都という街から、さまざまなインスピレーションを得たと言われています。

インスピレーションというのはもともと生まれ育った以外から得るもの、自分の普遍的な価値観以外のところから得ることが多いと思われます。我は日本という国に親しみがありますから、逆にウォーホルがどこからどういうインスピレーションを得たんだろうと、絵と見比べながら考えてみるのが楽しかったですね。

ウォーホル・ウォーキング:祇園・白川筋


 

町家が連なり、白川が流れ、石畳の道がつづく祇園・白川筋は、京都の情緒が満喫できる観光スポット。春には、料亭などが建ち並ぶ白川の流れに沿ってソメイヨシノが咲き、人々の目を楽しませる。

「ウォーホルが訪れたときの写真と何も変わってないということに驚きました。石碑の形から道の感じから、本当に全部が全部変わらず残っている。改めて京都という街を、皆様が大切に守ってきて歴史を重ねてきたその深さを、実感することになりました」

コンプレックスを持っている人間が良いクリエイションができる

――多種多様なアイデアをアートに昇華したアンディ・ウォーホル、そのクリエイションの原動力のひとつが彼自身のコンプレックスだったとも言われています。クリエイターとしてその部分には共感できますか?

間違いないです。コンプレックスを持っている人間が良いクリエイションができるということを我は信じて疑わないので。やはり深みが出るんですよね、コンプレックスを持っている人間というのは。コンプレックスが動かしようのない心の柱になり得るんです。例えば我は人間と吸血鬼のハイブリッドですが、吸血鬼の学校に通っていたので、足は遅いし、皆とは感覚も違うし、クラスメイトの皆さんからすると魚の頭を持ったヒトのようなものでございます。それで、彼らには異物と思われたようで、同等に扱われることなく、鬱屈とした学生時代を過ごしました。

しかしあの経験がなかったら、今の我はないと断言できる。学校での出来事に感謝したくは絶対にないのですが、それは動かしようのない事実です。変わっているからコンプレックスを持つのか、コンプレックスを持っていたから変わった存在になっていったのかはよくわかりませんが、因果関係があるのは事実だと思います。

何かしらに対する強い気持ちがあるからこそ、良いクリエイションが生まれてくる。これは我の好みもあるんですが、自分のなかの問題を表現で解決する方向や、問題自体を表現している作品って、やはり魅力的に思えるんですね。

――吸血鬼と人間のハイブリッドである九条さんは、どういったところにコンプレックスを感じていたんでしょうか。

どれほど努力しても周りには届かないことです。お前は産まれからして不正解だと周りから突き付けられてきました。努力でどうにかなるならまだ良いのですが、体の構造からして違うのでできないのです。どんなに努力してもお前は絶対に正解の場所に行けないんだ。1日にそれを何回も、そして毎日毎日言われることのなんと辛いことか。心が軋んで壊れてしまうまでそう時間はかかりませんでした。がしかし、だからこそ人間の世界でやれることもあると思ったのです。だから100%不幸だとは思いません。

コンプレックスのある人間は美しいです。本人は自覚していなくても、コンプレックスを持った人間が作り出した作品からにじみ出る独特の美しさというのは、絶対にあると思う。だからアンディ・ウォーホルが評価されているのは、我にはうれしく思われます。

ウォーホル・ウォーキング:京都市京セラ美術館

平安神宮や京都市動物園、京都国立近代美術館とともに、文化・学術ゾーン“岡崎エリア”を代表するスポットのひとつ。2017年から大規模改修を行なわれ、2020年春にリニューアル。レトロな雰囲気はそのままに、現代的で機能的なアート空間へと生まれ変わった。『アンディ・ウォーホル・キョウト』は新館「東山キューブ」で開催。1950年代に商業イラストレーターとして活躍していた初期の作品から、1960年代に事故や死を描いた「死と惨事」シリーズ、15点の映像作品、セレブの肖像画やカトリックの生い立ちにも触れる晩年の作品まで、包括的に紹介する。

「『アンディ・ウォーホル・キョウト』は、さまざまな作品が展示されていてとても見応えがありましたが、晩年に生み出された『最後の晩餐』は印象的でした。まるでDJが自分の好きな曲をリミックスして聴くのに似ているなぁと思いましたね。ウォーホル自身のアイデンティティであったり表現したいものであったり、自分の帰属しているさまざまなジャンルをすべてあのなかにリミックスしたように感じました。そのリミックスの幅でこれだけたくさんの印象を持たせられる、ウォーホルの才能に惚れ惚れしました。

――お話を聞くと、さまざまに思うことがあったように感じます。最後に、今回の京都訪問を通じて得たものがあれば教えてください。

間違いなく多大なインプットがされました。先ほども言ったように、VTuberというのは生活の大量供給というか、とにかく配信量やコンテンツ量が膨大です。今の若者というのは消費速度がとんでもないでございますから(笑)、 こちらとしてもとんでもない速さでコンテンツを作っていかなければならない。

いっぽうで、京都というのは不変の街です。以前訪れたときと、本当に何も変わっていなかった。そのゆるぎなさというものを肌で感じ、さらにそれがアンディ・ウォーホルのような芸術家に与えた影響にも同時に触れられました。やはり影響力の大きい街ですよね、京都という都市は。我もバッチリ影響を受けたと言えます。

日々、コンテンツをたくさん作っているなかで、自分の内側にひとつ揺るぎないものが欲しいと、今回の旅を通して改めて思いました。それはもしかしたら自分自身のコンプレックスから出発するものかもしれないし、もしかしたら仕事から生まれるものかもしれない。もしくは、自分が今までやったことのなかった、まったくもって違う表現かもしれない。その幅のようなものを、アンディ・ウォーホルの作品から学びましたね。彼もまた、旅、場所からのインスピレーション、コンプレックスからの脱却、さまざまな動機でアートを作りつづけたのでしょうから。

それにしても、本当に配信部屋にこもっていてはなかなかできない経験でした。アンディ・ウォーホルという人物の存在を知り、その生き様や作品に触れることで、改めて自分自身をキャッチーでポップに、それでいて濃厚に演出していきたい気持ちが強まった部分があります。

そして何より、アンディ・ウォーホルという人がこの旅を通して非常に好きになりました。我は変わった人間が大好きです。アンディ・ウォーホルがもしこの時代に甦ったとしたら、今度こそなるべく彼の思うままに伸び伸びと、そして自分の人生に自信を持って創作できることを、心から祈っています。

文・取材:諏訪圭伊子
撮影:干川修

『アンディ・ウォーホル・キョウト / ANDY WARHOL KYOTO』

開催期間:2022年9月17日(土)~2023年2月12日(日)
休館日:月曜日(ただし祝日の場合は開館)、12月28日(水)~1月2日(月)
開館時間:10:00~18:00(入場は閉館の30分前まで)
会場:京都市京セラ美術館 新館「東山キューブ」(京都市左京区岡崎円勝寺町124)
入館料:一般・土日祝:2,200円(当日)
一般・平日:2,000円(当日)
大学・高校生:1,400円(当日)
中学・小学生:800円(当日)
※すべて税込
※20人以上の団体割引料金は当日券より200円引き
※障がい者手帳等をお持ちの方(要証明)と同伴される介護者1名は無料
※未就学児は無料(要保護者同伴)
※会場内混雑の際は、今後、日時予約をお願いする場合や入場までお待ちいただく場合がございます。

連載ミュージアム~アートとエンタメが交差する場所

  • Sony Music | Tech Blogバナー

公式SNSをフォロー

ソニーミュージック公式SNSをフォローして
Cocotameの最新情報をチェック!