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連載Cocotame Series

ヒットの裏方

担当者たちが語る郷ひろみのプロフェッショナリズム【前編】

2022.12.25

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ヒットした作品、ブレイクするアーティスト。その裏では、さまざまな人がそれぞれのやり方で導き、支えている。この連載では、そんな“裏方”に焦点を当て、どのように作品やアーティストと向き合ってきたのかを浮き彫りにする。

1972年のレコードデビューから50年間所属する、ソニーミュージックを代表するアーティストのひとり、郷ひろみ。今回は、この国民的アーティストのA&Rとして、1996年から現在までバトンを繋いできた担当者3名が集結し、これまでの活動を振り返りながら貴重な裏話を語る。

前編では、アーティストとして変革の時を迎えていた1996年からのエピソードや、還暦を迎えてからの郷ひろみの挑戦などを明かす。

  • 髙木伸二

    Takagi Shinji

    ブットンダ合同会社 代表

  • 甲斐孝子

    Kai Takako

    ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド

  • 井上真哉

    Inoue Shinya

    ソニー・ミュージックレーベルズ

郷ひろみ  Go Hiromi

1955年10月18日生まれ。福岡県出身。血液型A型。1972年8月1日、シングル「男の子女の子」でCBS・ソニーレコードより歌手デビュー。以降、歌手、俳優として活躍。2022年、レコードデビュー50周年を迎える。ベストアルバム『Hiromi Go ALL TIME BEST』発売中。2022年12月26日、日本武道館にて『Hiromi Go 50th Anniversary "Special Version" ~50 times 50~ in 2022』を開催。

この人は本当に有言実行の人なんだ

撮影:干川修

――まず、1996年から2004年まで担当された髙木さんからお話を伺わせてください。郷ひろみさんの活動としては、1度目の渡米から帰国されて、「僕がどんなに君が好きか、君は知らない」「言えないよ」「逢いたくてしかたない」というバラード3部作がヒットしたころでしょうか?

髙木:そうですね。僕は「言えないよ」のころにレーベルに異動して、初心者マークをつけながら宣伝チームの一員となり、バラード3部作の次は何をやろうかと、試行錯誤が始まった時期に担当になりました。バラードのヒットがいったん収束して、数字的にちょっと難しくなっていた時期です。コンサートでひろみさんが、「僕は100万枚売るよ」なんて話をされると、僕は「どうやったらそんなにいくの?」なんて密かに思ってたんですけど、ひろみさんは、そのためには何が必要か、自分をどうブラッシュアップさせるかを常に考えていましたね。

最終的にひろみさんが選択したやり方は、アメリカに留学して、まず、徹底的にボイストレーニングをやること。もうひとつは、完璧にネイティブな発音の英語を身につけること。既に流暢な英語を話されていたんですけど、「アメリカで通用するためにはネイティブの発音が必要なんだ」と強くおっしゃっていました。1997年とか1998年のことです。

――ちょうど、アーティストとしての今後を模索していた時期だったんですね。

髙木:そんなときに、リッキー・マーティンの「リヴィン・ラ・ヴィダ・ロカ」が全米No.1になるという出来事があって、“日本でもヒットさせる”という至上命令がエピックレコードの洋楽セクションにくるんです。当時の洋楽担当は、米米CLUBのディレクターだった方で。ヒットの生み出し方をよくわかっている彼は、洋楽をヒットさせるなら日本語のカバーを作るのが一番近道と踏んで、「ぜひ、郷さんに」と持ってきたわけです。ひろみさんとスタッフで、早速そのミュージックビデオを見たら、これがなんともエロカッコ良くて、本人も含めてノリノリで「これやろうよ」ということになりました(笑)。

――それが、“♪アチチ”で一世風靡した「GOLDFINGER '99」になるわけですね。

「GOLDFINGER '99」(1999年)

髙木:準備していた曲をやめてそっちにいきました。案の定、発売して2週間で今までにないチャートの動きになった。最終的に40万枚くらいまでいきましたね。それだけ売れたら、アメリカ留学の話は保留にするかな? なんて普通思うじゃないですか。ところが、ひろみさんは何の躊躇もなく、「予定通り行くよ」と。これには驚きました。

――未来の見据え方が揺るがなかったんですね。

髙木:20代の人気絶頂のときにも、ひろみさんはあえて1年間留学しました。長期間のブランクはアイドルにとって致命的と言われた時代でも、それを貫いたんです。ただ、この2001年からの2度目の渡米は、前回よりさらに長い4年間の予定だったので、一体どうなっちゃうんだろう? 今、日本で頑張らなくて良いのかな? と、僕は戸惑うばかりでした。

――渡米されてからの郷さんは、どんなふうに過ごされていたんでしょうか?

髙木:海外に出ると言っても、普通はレーベルも手伝ったりするというケースが多いんです。でも、ひろみさんは我々に一切頼らない。アメリカで通用する歌手になりたいという目標があったので、スタッフも全員現地の人で、ひとりで立ち回って楽曲制作をしていましたね。アメリカの音楽業界の仕組みは日本とは違って、決定権の多くを音楽出版社が握っているということも勉強されてるから、自分で音楽出版社にアポをとって楽曲を売り込みにも行ってたんです。実際NYでその様子を見て、「マジ? そこまでやる?」とびっくりしました。ああ、この人は本当に有言実行の人なんだなと。

――そういう一匹狼的な姿は意外なものに感じられます。

髙木:15歳からずっと大人に囲まれて、ご本人は最高のパフォーマンスをするだけで良いはずなのに、実はすごく地道なこともやっていらっしゃるんです。若いときに何度か行かれたアメリカで、現実の厳しさを知っていたということがあるのかもしれませんね。

2022年12月『Hiromi Go 50th Anniversary Tour "The Final Countdown" in 2022』より

井上:今年、レコードデビュー50年を振り返る取材を数々受けましたが、「2001年からのアメリカ留学がすごい転機になった。あれがあったから今もやれているんだ」というお話はよくされていますね。特にセリーヌ・ディオンやシャキーラなどを育てた世界最高峰のボイストレーナー、ドクター・ライリーと出会ったことが、本当に大きかったようです。

髙木:人の声の音域、特に高音は、年齢を経るとどうしても出にくくなるんですけど、ひろみさんは、ドクター・ライリーとのトレーニングをつづけるうちに、トップノートが半音上がったんです。そのことを子どものようにうれしそうに話してくれるひろみさんが、本当に素敵だなと思いました。2001年からですから、既に46歳を過ぎてのことで、今思えば、そこもすごいなと。

そう、声で思い出したんですけど、ツアーでコンサートがつづくときは、ひろみさんは夜11時には寝る。翌日歌う機会があれは、前日のアルコールは控える。レコーディングはだいたい午後1時からなんですけど、ひろみさんはその前にボイトレに寄ってくるんです。ジムだって必ず週3回通われていました。

井上:今も変わらずに、必ず週3回トレーニングに通われてますよ。

髙木:キャリア50年の大御所で、歌もうまくて、昨今は機械の力を借りることもできるのに、そこまで自分のコンディションを整えて現場に臨む。こんな人はほかにはいないですよ。なんでそこまでストイックになれるんだろう? と思ったりもしてたんですけど、あるときひろみさんが、トレーニングを定期的にやっている理由を「2時間のショウをやるときに、走り回りながら歌って、MCでマイクでしゃべり始めたときに息が切れていたくないじゃない?」とおっしゃった。ああ、なるほどと思いました。

――徹底したショウマンシップなんですね。

髙木:さらに、ひろみさんの素敵なところは、それをスタッフに強要しないところ(笑)。ツアーの打ち上げに行っても、「みんな楽しんでね」と言い残して、すっと去っていきます。自分の仕事に対して本当の意味でプロフェッショナルです。

通過点の先に次の目標を作る

――甲斐さんは、髙木さんの後任として、2005~2019年のご担当でしたが、その間に、35周年や還暦といったアニバーサリーもありました。

甲斐:ご本人はいつも、「数字は通過点。積み重ねてきたからここにいるだけ」とおっしゃっていますね。何周年だから、何歳だから、ではなく、普段から全力でやっているということだと思うんです。

髙木:通過点の先に、また次の目標を作る人なんですよ。ちょっと前は、「60代は僕が NYにやってきたことの成果が一番輝くときだ」とおっしゃってた。でも、たぶんもうちょっとしたら、70代の目標をご自分の言葉でファンに伝えるでしょうね。

井上:「今は黄金の60代だけど、ゴールドの次はプラチナだから、プラチナの70代かな」なんて、今、おっしゃってます。

甲斐:本当に良い意味でガツガツしてて、エネルギーが減らないんですよね。だから周りは、それに食らい付いて、振り落とされないようにするのに必死です(笑)。

髙木:本当に必死だよね(笑)。僕が担当してた時代、「ひろみさんが50代になったらフランク・シナトラみたいに“回らない郷ひろみ”でいきましょう」なんて言ってたのに、ガンガン回ってましたからね。「こりゃダメだ」と思いました(笑)。そのまま回りつづけて、今、67歳。きっと70代になっても……。

――“回る郷ひろみ”ですね。

髙木:その昔、「あなたの最高傑作は?」と聞かれたチャップリンが、必ず“Next one”と答えていたというけど、ひろみさんもまさにそう。それくらい常に高みを目指されているから、年下の僕らが疲れてる場合じゃないぞと自然と思える。良い楽曲を探してこよう、良いプロモーションをしようという気持ちになるんです。

井上:ご本人のエネルギーが周りに伝播するんですよね。

甲斐:そう。若い宣伝スタッフが、例えば、テレビの現場に来て、郷さんが200%出し切る姿を目の当たりにすると、自然と仕事への熱量が高まってくる。

井上:僕らスタッフもやり甲斐を感じて動けるようになるんですよね。それを郷さんが背中で見せてくださってるんだなと思います。

髙木:コンサート会場を出て行くときなんかも、普段なかなか会う機会のない宣伝スタッフ一人ひとりと握手していくんですよ。スタッフさえもファンになっちゃいますよね。

カメラが回っていないところでも全力

2022年12月『Hiromi Go 50th Anniversary Tour "The Final Countdown" in 2022』より

――郷さんは、50歳を超えてからも、ロックフェスなどに積極的に出演されていて驚きました。

甲斐:私が、フェスに出演した郷さんのステージを初めて見たのが、確か2013年だったんですが、会場の人にすごくウケるか、まったく引かれるかの一か八かだと思ってました。どう考えても郷さんのファンは多くない場ですからね。ところが、郷さんがステージに現われた途端、もう会場中が大盛りあがりだったんです。裏にいたアーティストの人たちまでみんな出てきて観ていたほどです。スタッフ全員、改めて“この人はすごい!”ってなりました。

髙木:そういう、本番でのお客さんの巻き込み方も、もちろんすごいんですけど、ひろみさんっていわゆるカメラの回っていないところでも全力なんですよ。僕が驚いたのは、『NHKのど自慢』での姿。番組自体は生放送なんですけど、放送終了後、来場者のためにゲストが1曲ずつ歌うのがお決まりなんです。普通は新曲を歌ったりするんですけど、ひろみさんは「盛りあがる曲をやろう」と言って、だいたい「2億4千万の瞳-エキゾチックジャパン-」をやる。もうそれだけで会場は大興奮です。

さらに、ひろみさんはステージから飛び降りて、会場中を走り回りながら歌う。1,000人も入らない体育館に来ている来場者たちは、もう大熱狂ですよ。もちろん、郷さんのファンじゃないっていう方たちだっている。でも、やる以上は、そういう方たちにも楽しんでもらうんだという強い思いがあるんです。本当に真のエンタテイナーですね。そういうところに僕は惚れました。それを体験した方たちは、たぶん一生、郷ひろみのことを忘れないでしょうね。

甲斐:そうそう、音楽番組の収録ではこんなこともありました。郷さんとある女性歌手の方がコラボするコーナーで、その女性が何かツボに入っちゃったみたいで、何度やっても同じところで間違えてしまう。結局8回ぐらい録り直したんですけど、たぶん、その女性歌手は緊張していたんでしょうし、周りもひやひやしてたと思うんです。でも郷さんは、「大丈夫だよ。僕は平気だからゆっくりね」と。もうその声のかけ方とか、醸し出す雰囲気とかが心底優しいんです。本当に1ミリたりともピリピリした空気にならない。そこもすごいなと思いました。

後編につづく

文・取材:藤井美保

リリース情報

(通常盤)
『Hiromi Go ALL TIME BEST』
発売中
試聴・購入はこちら(新しいタブで開く)

関連サイト

公式サイト
https://www.hiromi-go.net/(新しいタブで開く)
 
オフィシャルミュージックサイト
http://www.hiromigo.com/(新しいタブで開く)
 
Twitter
https://twitter.com/hiromigostaff(新しいタブで開く)
 
Instagram
https://www.instagram.com/hiromigo_official/?hl=ja(新しいタブで開く)
 
YouTubeチャンネル
Hiromi Go Official YouTube Channel
https://www.youtube.com/channel/UCNqlZCafj9fqb9lEChEvDhA/featured(新しいタブで開く)

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