イメージ画像
イメージ画像
連載Cocotame Series

ヒットの裏方

担当者たちが語る郷ひろみのプロフェッショナリズム【後編】

2022.12.26

  • Xでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Facebookでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • LINEでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • はてなブックマークでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Pocketでこのページをシェアする(新しいタブで開く)

ヒットした作品、ブレイクするアーティスト。その裏では、さまざまな人がそれぞれのやり方で導き、支えている。この連載では、そんな“裏方”に焦点を当て、どのように作品やアーティストと向き合ってきたのかを浮き彫りにする。

1972年のレコードデビューから50年間所属する、ソニーミュージックを代表するアーティストのひとり、郷ひろみ。今回は、この国民的アーティストのA&Rとして、1996年から現在までバトンを繋いできた担当者3名が集結し、これまでの活動を振り返りながら貴重な裏話を語る。

後編では、2019年以降のエピソードやプライベートの姿、驚きの『NHK紅白歌合戦』の舞台裏などを明かす。

  • 髙木伸二

    Takagi Shinji

    ブットンダ合同会社 代表

  • 甲斐孝子

    Kai Takako

    ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド

  • 井上真哉

    Inoue Shinya

    ソニー・ミュージックレーベルズ

郷ひろみ  Go Hiromi

1955年10月18日生まれ。福岡県出身。血液型A型。1972年8月1日、シングル「男の子女の子」でCBS・ソニーレコードより歌手デビュー。以降、歌手、俳優として活躍。2022年、レコードデビュー50周年を迎える。ベストアルバム『Hiromi Go ALL TIME BEST』発売中。2022年12月26日、日本武道館にて『Hiromi Go 50th Anniversary "Special Version" ~50 times 50~ in 2022』を開催。

きめ細やかな気遣いのある人

前編からつづく)――2019年からは井上さんにバトンが渡されました。これまでどのような印象的な場面がありましたか?

井上:まず思い出すのは、NHKの歌番組『SONGS』の収録シーンです。ひろみさんひとりで30分、メドレーで歌いつづけるという企画があったんですね。もちろんそれは、数々の代表曲があるからこそできることなんですけど、そのとき珍しくちょっと足を気にされていて、スタッフとしては心配もありました。もちろん、ひろみさんは痛みみたいなものは見せずに120%やりきって、オンエアでは微塵も足の不調はわからなかった。でも、あとから聞いたら、けっこう重症だったんです。ひろみさんのプロ意識の高さというものを目の当たりにした出来事でした。

――郷さんの素顔を垣間見た瞬間などもありますか?

井上:あれだけのレジェンドアーティストなので、担当した直後は、実は怖い方なんじゃないかとか、どう接すれば良いのかなどと勝手に考えてしまって、ずっと緊張してたんですね。そんなある日、雑誌の撮影がありました。自然光にこだわるフォトグラファーの方で、窓からの光をうまく入れたいからと、アシスタントの方が撮影の間ずっと、カーテンをおさえてくれていたんです。セッティングが完了してひろみさんが入り、結果、すごく良い写真が撮れました。いつもひろみさんは、現場スタッフの皆さんに感謝の声掛けをするんですけど、そのときは真っ先にそのアシスタントさんに、「ずっとカーテンを持っててくれてありがとね」とおっしゃったんです。もう、その場にいたみんなの目がハートになりました(笑)。

――それはハートになりますね(笑)。

井上:ひろみさんは常に全体が見えているというか、そこで一番頑張っているスタッフへの声掛けを忘れない。きめ細やかな気遣いのある人ですね。

髙木:でも、ひろみさんは単に優しいだけじゃなくて、厳しい人でもあるんです。例えば、コンサートの照明スタッフへの要求レベルはすごく高い。時には、ベテランで、技術のある照明さんでも音をあげるほどです。それでいて、一生懸命やったことに対しての失敗についてはいっさい怒らない。それがひろみさんの価値観。基本的にはスタッフを信じて、やると決めたら120%でやってくださる人なんです。

手抜きをしたり、努力をしないで悪い結果に陥るようなことには、口にはあまり出さないですけど、非常に厳しいです。そのテイストを本当にわかる感性を持った人じゃないと、ひろみさんのアーティスト担当はやれないですね。ただ優しいだけの人と考えたら事故になっちゃいますから。とは言え、私も数々の失敗をしてきていますが(苦笑)。

甲斐:担当を引き継ぐときに髙木さんから最初に言われたのが、「一生懸命やった結果の失敗は仕方ないけど、とにかく失敗したらすぐに謝りに行きなさい」ということでした。例えば、CDブックレットの表記で、“Arrangement”の“r”がひとつ抜け落ちてしまっていたときも、マネージャーさんに状況を説明して、郷さんとお会いできる時間を伺い、直接謝りに行きました。「どんなに小さなミスでも、どこかから先に郷さんの耳に入ってしまってはダメ、とにかく一番最初に謝りに行きなさい」というのが、髙木さんから徹底的に教えられたことでした。

髙木:ちゃんと謝れば、ひろみさんは「うん。わかった」と、もうそのミスに関する話はいっさいしないんです。

――懐の深さが伺えます。

井上:先ほど、カメラの回っていないところでも……という話を髙木さんがされてましたが、僕も担当してから同じような場面を見るようになりました。ひろみさんってリハーサルでも手を抜かないんです。「リハーサルで100%できないと、本番で絶対100%以上にはならないから」とよくおっしゃっています。リハーサルは7、8割の力でやるアーティストがほとんどのなか、ひろみさんはテレビ番組のカメラリハーサルでも、基本的に衣装を着用されて臨むんですよ。

その様子は表には出ませんけど、あの本番でのパフォーマンスの素晴らしさは、リハーサルを完璧にやった上でのことなんです。それでも、疲れたとかしんどいとか、絶対におっしゃらない。実際、本当にタイトなスケジュールで、今でも年間60本以上のコンサートをやられてるし、その間にレコーディングをして、プロモーションをして、いろんなバラエティ番組やドラマにも出演されてるんですけど。

いつの間にか“24時間郷ひろみ”に

2022年12月『Hiromi Go 50th Anniversary Tour "The Final Countdown" in 2022』より

――疲れた顔はプライベートのときしか見せない方なんでしょうか。

髙木:プライベートでも疲れたところは見せないんですよ。昔は「23時間59分間が郷ひろみで、1分間は(本名の)原武裕美だ」とおっしゃってたんですけど、いつの間にか“24時間郷ひろみ”になってましたね。「いちいち切り替えるのが面倒くさいから」と(笑)。ご自宅でも常に背筋がピッと伸びてますよ。

井上:我々のようにパジャマでグダッとするなんて絶対にないみたいですしね。

髙木:時間を一切無駄にしたくない人なんです。例えば、年末の『NHK紅白歌合戦』の出番待ちでも、ひろみさんは業界が長いから、出番まであとどのくらいなのかが全部わかっている。でも僕らは、NHKのスタッフの方に「スタンバイお願いします」と言われたら、そう伝えざるをえないじゃないですか。ひろみさんは「まだ大丈夫でしょ?」なんて冗談めかしつつスタンバイしてくださるんですけど、なんと本を持って行くんですよ。舞台袖は暗いけど、ひろみさんは照明室は明るいことを知っていて、そこで出番まで本を読んでるんです。『紅白』で、ですよ? もう何やってるんですか? って話で(笑)。それくらい、時間を無駄にしないというのがひろみさんの哲学なんです。

甲斐:マイクを持った瞬間に切り替わりますしね。

井上:それで僕もひとつ驚いたことがあります。コンサートにはいろんな方が観に来られますが、その方たちとのご挨拶の場が設けられることがあって、普通は終演後なんです。本番前はやっぱりピリつくので、遠慮してほしいというアーティストがほとんど。

でも、ひろみさんは、開演5分前でも、にこやかにご挨拶されてるんですよ。業界の常識をご存知の方には信じられない光景だと思います。もちろん、時間になれば瞬時に切り替われる。これはやっぱり、リハーサルを完璧にされているからこその自信なんだな、と。

――素顔も含めたたくさんのエピソードが伺えて、郷さんが50年間第一線で活躍されている理由が紐解かれた気がします。

井上:先ほど話にも出たように、基本“数字はあくまでも通過点”のひろみさんなんですけど、それでも「50周年はちょっと感慨深い」とおっしゃっていますね。僕なんかは単純に、「郷ひろみがすごい」と思ってしまいますが、ひろみさんは、「50年間支えてくれたファンの皆さんがすごい」と心からおっしゃいます。

――2022年8月29日に、ソニーグループ本社ビルにファン50名を招待して行なわれた、レコードデビュー50周年記念式典では、招待された50名のファンの方たちを前に、涙ぐまれる場面もありました。

甲斐:ファンの方たちを本当に大事にされていると思います。全国を回るファンクラブイベント『Go's Club Party』でも、自分でMCをされてイベントを盛りあげ、最後はファンの方々とのツーショット撮影会まで。状況が許す限り、これを毎年つづけていらっしゃいます。

撮影:干川修

髙木:僕はたまたま、長く実績のあるアーティストの方たちを担当することが多かったので、最前線で長く活躍する人とそうでない人と何が違うんだろう? と考えたことがあるんです。アーティストというのは人気商売なので、やはり良いときもあれば悪いときもある。でも“運”は、本来みんなに平等に回ってくるものですよね。ただ、回ってきたときに、自分を最高の状態にしておいて、それを逃さず掴まなくちゃならない。そういった気持ちを、悪いときでも維持できるかどうか。それが、長くやっていけるかどうかの分かれ目だなと。

――郷さんを担当されて、そういうふうに思われたんですね。

髙木:はい。良いときは誰だって頑張れるんです。でも、そうでもないときに、次の良いときを信じてコンディションを整え、そして、来たときには逃さない。それができる最たる存在が、ひろみさんなんだなと思いますね。その結果、50周年という数字に辿り着いたんだなと。

――これだけのキャリアがあって、しかも、毎年きっちり新曲を出されているというのは、音楽業界のなかでも稀有な存在です。

井上:新しい挑戦は、スタッフ側も常に考えて提案していますし、ひろみさんとも相談しながら、毎回“新曲”として表現してきています。

――Cocotameで郷さんにインタビューをさせてもらったときに、すごく印象に残った言葉があります。「前衛すぎてもいけないし、コンサバすぎてもいけない。そのギリギリのファインラインを常に探してます」と。それも継続の秘訣なのかなとも。

■関連記事はこちら
郷ひろみインタビュー:「順応しつつオリジナリティを出す。その“ファインライン”を探っている」【前編】
郷ひろみインタビュー:「順応しつつオリジナリティを出す。その“ファインライン”を探っている」【後編】

井上:いろんな選択肢があるなかで、50周年記念シングルを最終的に「ジャンケンポンGO!!」にされたのも、きっとそうですね。

「ジャンケンポンGO!!」(2022年)

スタッフ的にはちょっとリスクがあるかな? と思っていたんですが、ひろみさんはたくさんのデモを聴き、歌詞を見るなかで、おそらくプロデューサー目線で、「これは50周年を迎えた、今の郷ひろみにしか歌えない曲」と判断されたんだと思うんです。結果、大きな話題にもなって成功したわけで、まさにそこがひろみさんのファインラインだったのかなと思いますね。

人間としての根本を学ばせていただいた

――2022年12月31日には、『NHK紅白歌合戦』で「GO!GO!50周年!!SPメドレー」を披露されます。今回で35回目の出場となりますが、『紅白』は郷さんにとってどういう存在なんでしょうか?

髙木:答えになるかどうかわからないんですけど、ひろみさんには“これはオイシイ仕事だ”とか、“これは大きな仕事だから”とか、そういった意識はないんですよ。

井上:そうですね。どんな仕事でも変わらず、全力で取り組まれます。

髙木:コンサートも、毎年50本以上を当たり前のように、ずっとつづけてきていますしね。

撮影:干川修

――郷ひろみという類い稀なアーティストを担当されたことで、ご自身の人生観に影響などはありましたか?

髙木:心が折れそうなときや、ちょっと手を抜いてさぼっちゃおうと思うときは、いつもひろみさんのことを考えますね。またエピソードになっちゃいますけど、何に驚いたって、ひろみさんは移動中でも寝ないんです。ちょっとは寝てくれたらいいのになんて思うんですけど(笑)、必ず本を読むかパソコンを開くかしていますね。日本各地の在来線に乗る機会があるので、もしかしたら寝顔を見せちゃいけないというアーティストの宿命みたいなものもあるんでしょうけど。だから、年下の僕が手を抜こうなんてしちゃいけないなと、ひろみさんを思ってエネルギーチャージをしてます。

甲斐:私は、例えば時間を守るとか、仕事への向き合い方とか、人間としての根本のところをすごく学ばせていただきました。人間力ですよね。勉強することの大切さも間近で見せていただいたので、その影響で私も新しく始めたことがあったりします。

髙木:ひろみさんはプライドとかそういった余計なものを全部横に置いて、0から学ぶことができる人。デビューから30年経ってボイストレーニングを始めたのもそうですよね。一流の人に教えを乞うて、最短の時間で上達する。英語もペラペラだし、ゴルフもシングルですしね。もう、それは、あの方の生き様なんですよ。とても真似できないですけど。

井上:僕はいまだに、そんなレジェンドの担当としてちゃんと務まっているのだろうかという思いがあって、おふたりのように語る余裕は正直ないんですけど、やっぱり一番に思うのは、本当に細かいところまで、プロフェッショナリズムが徹底していらっしゃるということ。このチームでしっかり仕事ができれば、たぶん今後どんな現場でもやっていけるんじゃないかなと。いつか本当にそう思えるように、日々勉強中です。

――結局、担当のお三方が揃われても、郷さんの“隙”を見た方はどなたもいらっしゃらないということですね(笑)?

甲斐:髙木さんは少しは見られてるんじゃないですか?

髙木:ん? ちょっとだけね。でもそれは、“♪言えないよ~”ですよ(笑)。

文・取材:藤井美保

リリース情報

(通常盤)
『Hiromi Go ALL TIME BEST』
発売中
試聴・購入はこちら(新しいタブを開く)

関連サイト

公式サイト
https://www.hiromi-go.net/(新しいタブを開く)
 
オフィシャルミュージックサイト
http://www.hiromigo.com/(新しいタブを開く)
 
Twitter
https://twitter.com/hiromigostaff(新しいタブを開く)
 
Instagram
https://www.instagram.com/hiromigo_official/?hl=ja(新しいタブを開く)
 
YouTubeチャンネル
Hiromi Go Official YouTube Channel
https://www.youtube.com/channel/UCNqlZCafj9fqb9lEChEvDhA/featured(新しいタブを開く)

連載ヒットの裏方