DEENインタビュー:「ずっとDEENの背中を追いかけていた」【後編】
2023.03.08
日本の音楽シーンで存在感を放ち、時代を超えて支持されつづけるレジェンドアーティストをクローズアップ。本人へのインタビューで、過去と現在の活動を辿る連載「THEN&NOW 時を超えるアーティスト」。
今回は、3月10日にデビュー30周年を迎えるDEENのふたりへのインタビュー。デビュー当時のことから、3月8日にリリースされるベストアルバムに込められた想いまでを聞く。
前編では、改めてデビューの経緯から、ヒット曲を連発していたころを振り返る。
DEEN
ディーン
(写真左より)山根公路(キーボード)、池森秀一(ボーカル)。1993年3月10日、シングル「このまま君だけを奪い去りたい」でデビュー。約160万枚のセールスを記録する。そのほか「瞳そらさないで」「Memories」「翼を広げて」といったヒット曲がある。2018年、ギターの田川伸治の脱退でふたり体制となる。2023年1月に、昨年行なわれた全国47都道府県ツアーのライブ映像を収録する『The Last Journey 47 ~扉~ -tour documentary film-』を発売。3月8日にはベストアルバム『DEEN The Best DX ~Basic to Respect~』をリリースする。
――まずは、3月10日にデビュー30周年を迎える心境からお聞かせください。
池森:30年間、とにかく駆け抜けた感がありますね。活動が継続できていることへの感謝の思いは年々増えるいっぽうです。当然、スタッフにも若い人が増えて、時間の流れを実感することも多くなりました。1993年に生まれた人が、今や30歳のいい大人ですからね(笑)。その歳月をちゃんと噛み締めて、前に進まなきゃなと思っています。
山根:30年ずっと休まずに、作品を出したりライブをやったりしてこれたのは、それを楽しみにしてくれるファンの方たちがいてくれたからこそ。感謝の気持ちは本当に年々強くなっています。
――1993年のデビュー曲「このまま君だけを奪い去りたい」に始まり、DEENには本当にたくさんのヒット曲があります。時間を遡って、改めてDEEN結成の経緯はどのようなものだったのでしょうか。
池森:すべては「このまま君だけを奪い去りたい」という曲ありきでスタートしました。既にNTTドコモのポケットベルのCMソングに決定していたあの曲を、誰の声で歌うべきかと、当時僕が所属していたビーイングの制作チームが探っていて、僕はそのコンペのためにスタジオに呼ばれたんです。僕自身はそのとき、何のために呼ばれているのかはまったく知らなかったんですけど。
――制作チームの方たちは、池森さんの存在をご存知だったということですか?
池森:はい。地元、北海道でブラックミュージック的な音楽をやっていたところを見付けてもらって、実はソロシンガー・池森秀一としてデビューに向けた準備をしていたんです。で、その日はプロデューサーが、「ちょっと試しでいいから、この曲を歌ってみて」と言うので、僕は何の期待もせず、ただその場で曲を覚えて歌った。すると数日後、「池森、お前の声でいくから」と。それがDEENの始まりでした。
――山根さんはそのころどんな活動をしていたんですか?
山根:僕は僕で別個に音楽活動をしていて、デモテープを送るなど、やはりビーイングとやりとりしていました。「このまま君だけを奪い去りたい」を、池森をボーカルに据えたバンドとして売り出そうと制作陣が考えたときに、たぶん、「そういえば、キーボードが弾けてコーラスやれるヤツがいたな」と僕のことが浮上したんでしょうね(笑)。
――初対面でのお互いの印象はどうだったんですか?
池森:印象……いや、そういうことを感じる余裕は一切なかったですね。いきなり会議室に呼ばれて、それこそ、「キミとキミでDEENだから」みたいな感じでしたから(笑)。デビューした先がどうなるかとか、まったく想像できなかったです。
山根:結果、瞬く間に「このまま君だけを奪い去りたい」がたくさんの人に聴かれるようになって、「じゃあ、次のシングル出すぞ」と、3カ月おきぐらいに新曲をリリースしてたので、最初のうちは何が何だかわからないままでしたね。デビュー当時は自分たちでプロデュースしてたわけじゃないので、手応えもなく、DEENというレールに乗っかってるイメージでした。
DEEN「このまま君だけを奪い去りたい (DEEN The Best DX)」Music Video
――とは言え、ヒット街道をひた走るのは、若き血が騒ぐようなことではあったんじゃないかなと。
池森:いや、山根の言うように、もう本当に次から次へとだったので、僕は曲を覚えて、一生懸命歌うということに必死でした。「よし、やったるで」みたいに何かが漲ってくる感覚とかは、正直、掴めなかったですね。DEENに対する自分のビジョンが見えないまま、曲だけが新幹線みたいにビューッと先に行っちゃう。常にDEENの背中を追いかけてる感じでした。
――その戸惑いと、どうやって折り合っていったんでしょうか?
山根:ひとつ良かったなと思うのは、たぶん事務所の方針だったと思うんですけど、デビュー当時はメディアに出ることはほとんどなかったということ。今にして思うと、それで助かってましたよね。
――確かに、TVスポットなどもイメージ写真の印象が強いです。
山根:そのぶん、時間はあったし、自分たちで作った曲をなんとか世に出したいという思いがあったので、毎日のようにメンバーとスタジオに入って、1日1曲ぐらいの勢いで曲作りに励んでいました。ただ、自分たちがまだ実力不足であることは否めなかったので、そこは潔く認めて、DEENでは自分のできることを頑張ろうと思っていました。
池森:「このまま君だけを奪い去りたい」のイメージが付き過ぎていたので、あの曲の魅力を改めて分析したり、リスナーの求めているものを勉強したりしながら、自分たちがどういう曲を作るべきかを少しずつ究めていったんです。
――池森さんの声そのものの魅力もあったと思います。それがDEENの楽曲とすごくフィットしました。
山根:DEENとすぐにわかる声質と、一言一句を誠実に歌うところが池森の魅力なんですよ。それは最初に一聴して思いました。どんなジャンルであっても池森が歌うとDEENになる。だから、すごくバラエティに富んだ曲作りができるんです。
池森:それまで自分のやっていた音楽を思えば葛藤もあったんですけど、結果的にDEENが多くの人に受け入れられた。「試しでいいから歌ってみて」と言ったプロデューサーは、もしかしたらそういう未来が見えていたのかもしれませんね。あのときあのチャンスをもらえてなかったら、今はなかったと思います。
――池森さんが作詞作曲を手掛けた、メンバー主導のシングルが初めて世に出たのはデビューから2年後でした。1995年に、『劇空間プロ野球』のイメージソングになったその曲、「未来のために」を聴いて、当時の千葉ロッテマリーンズのボビー・バレンタイン監督がDEENの大ファンになり、2度目の監督就任後の2006年、千葉ロッテマリーンズの公式イメージソングをDEENに依頼するということにも繋がりました。
池森:そんなこともありましたね。でも、「未来のために」にはその前段の逸話があるんですよ。当時、読売ジャイアンツの監督は長嶋茂雄さんで、制作途中のデモ音源を「次の『劇空間プロ野球』の曲、こんな感じでどうですか?」と聴いていただく機会があったんですね。
ひとつは、その時点でほぼ決まりかけていた歌入りのデモ。もうひとつは、1曲だけお聴かせするのでは失礼だろうと、急遽用意したシンセの仮メロ入りのストック曲で。結果、長嶋さんが「こっちが良いんじゃない?」と選んだのは後者の曲でした。その意外すぎる展開に僕らは「えーっ⁉」となりつつ、「長嶋さんがそうおっしゃるならそっちだよね」と、“じゃないほう”の曲を急いで仕上げた。それが「未来のために」だったんです。
DEEN「未来のために (DEEN The Best DX)」Music Video Short ver.
音楽をやっている人だったら、シンセの仮メロのデモ音源から全体像や完成図を想像できるけど、一般的には、歌詞がちゃんとある、歌が入っているほうを選ぶと思うんです。でも、長嶋さんはセンスがアーティストというか、やっぱり天才なんですね。ジャンルを超えて良いものの波動をこともなげにキャッチされる。結果的に「未来のために」はオリコンで1位を獲ったわけですから。
――そして、その波動がバレンタイン監督にまで。
池森:2度目の監督就任のときに、bayfmのスタッフが、千葉マリンスタジアム(現:ZOZOマリンスタジアム)でボビーさんへのインタビューをして、話の流れで「日本の音楽は何か聴きますか?」と聞いたんです。そしたら、「僕はDEENが好きです」と(笑)。そのお話があって、僕らが球場に遊びに行くことになり、それ以来ボビーさんにはすごくかわいがってもらっています。
――千葉ロッテマリーンズの公式イメージソング「ダイヤモンド」は、そういう経緯で生まれたんですね。
DEEN「ダイヤモンド」Music Video
山根:ボビーさんは学生時代、社交ダンスで全米チャンピオンになったことがあるそうで、「“チャチャチャ”のリズムで作ってほしい」と具体的にリクエストされました(笑)。
――なるほど。それで曲調がラテンなんですね。
山根:はい。制作過程でもけっこう密にやりとりしましたね。ミュージックビデオでもバレンタイン監督は見事な踊りっぷりを見せてくれているので、一緒に作ったという印象がすごく強いです。
――「未来のために」以降、メンバー主導の作品作りは順調に進んでいったんでしょうか?
池森:そうですね。アルバムでいうと2000年の『‛need love』では、完全に自分たちのプロデュースになっていました。
――もうその辺りでは、スタート時の“集められた”メンバーの違和感みたいなものはなくなっていましたか?
山根:メンバーはそれぞれ音楽経験を積んできた人たちだったので、一緒に音楽を作る楽しさ自体は最初からありました。だからこそ、スタート時から週に一度はプリプロルームを借りて、曲を持ち寄っては意見を言い合ってた。自分たちの曲を少しずつアルバムに入れられるようになり、さらにライブで音を奏でていくことで、お互いをより理解するようになっていったと思います。ライブのための練習は、週3、4回ほどずっとつづけてましたね。
――リスナーが求めている曲と、自分たちのやりたい曲との乖離みたいなものはありましたか?
池森:デビュー曲からの一連のヒットへの熱みたいなものを、リスナーの方たちが想像以上に持ちつづけてくれていたので、初期、いや、デビューから10年くらいは、自分たち自身がそこに追い付かなきゃと常に思ってましたね。2008年、15周年の日本武道館公演のときに、「やっとDEENの背中が見えてきた」と言った覚えがあります。
――現在所属のエピックレコードジャパンを含め、複数のレーベルで活動されてきましたが、制作スタッフとはどんな関係を築かれていますか?
池森:会社が統合されたりといろいろあるなかで、レーベルが変わるたびに担当者が変わるというのはよくあることだと思うんですけど、DEENはそれこそBMGジャパンの時代から、幸運なことに制作担当者が変わってないんですよ。一番信頼できる人と、その薫陶を受けた人たちとずっとやれてるということが、何よりうれしいです。
山根:DEENを俯瞰で見た意見やアイデアをもらうと、僕らもスイッチが入るんですよ。特にアルバムに関しては、スタッフ陣からコンセプトを提案されたほうが、闇雲にゼロから生み出すよりも楽曲のビジョンが見えやすい。スタッフのみんながずっとそこを受け持ってくれて、チームとしてDEENをやれているのはありがたいことだなと思います。
――DEENが始まり、走り抜けた1990年代は、音楽業界がディレイのかかったバブルに沸いた時代でした。
池森:そうですね。経済のバブルははじけていたけど、カラオケ人気とともにCD市場が活気づいて、音楽業界では、特にビーイングとエイベックスの勢いがすごかった。その風に乗っかって1990年代を過ごせたことは、すごく大きかったと思います。そこでファンになってくださった方たちがいまだに応援してくれてるんですから。
――DEENのヒット曲の数々が、青春の思い出とリンクしているんでしょうね。2000年代になると音楽が多様化していって、いわゆる国民的ヒットというものが、どんどん少なくなっていきました。
山根:この1曲、このアーティストをじっくり聴く、ということが難しい時代になったのかなとは思います。DEENは1990年代に、今の時代では考えられないほどのヒット曲というものを持つことができました。昨年、47都道府県を回るライブツアー“DEEN 47都道府県ツアー2022 ~The Last Journey 47の扉~”を行ないましたが、30年経っても、全国を回れば、それを聴きたいと集まってくれる人がいるということは、今さらながら本当にすごいことだと思います。
文・取材:藤井美保
『スマホケ Presents 「30th Anniversary DEEN LIVE JOY Special 日本武道館 2023」』
公演日時:2023年3月12日(日)
会場:日本武道館
詳細はこちら
30周年特別サイト
https://deen30th.com/
公式サイト
https://www.deen.gr.jp/
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