メジャーデビューで大海原へと漕ぎ出した梅田サイファー【後編】
2023.03.29
気鋭のアーティストの実像に迫る連載企画「アーティスト・プロファイル」。
今回は、3月29日にアルバム『RAPNAVIO』でメジャーデビューを果たす梅田サイファーが登場。実力派ラッパーを多く擁する彼らが、満を持してのメジャーデビューで新たに切り開いて見せる世界とは。メンバーへのインタビューから紐解く。
前編では、現在全13人が活動する梅田サイファーから、teppei、KOPERU、KBDの3名のラッパーをフィーチャー。梅田サイファーの成り立ちや関係性、そして、R-指定の活躍に対する率直な想いも明かす。
梅田サイファー Umeda Cypher
(写真左から)Cosaqu、teppei、コーラ、HATCH、R-指定、KennyDoes、テークエム、KBD、KOPERU、KZ、ILL SWAG GAGA、peko、SPI-K。大阪・梅田駅の歩道橋で即興でラップをしていた、個人のラッパーたちの集まりから派生した集合体。数々のラップバトルで実績を残してきた実力派たちで、映像作家、デザイナー、トラックメイカーなどの顔を持つメンバーもいる。2013年からインディーズでのリリースを重ね、2023年3月29日、アルバム『RAPNAVIO』でメジャーデビュー。
出入り自由で、サークル状になってフリースタイルでラップする集団を指す“サイファー”を、大阪は梅田駅の歩道橋上を起点に、2007年から毎週土曜日の夕方から夜にかけて行なっていた梅田サイファー。有志のメンバーが集合したヒップホップグループである。
「最初は自然発生的に集まった人間たち、ソロのラッパーの集まりやから、梅田サイファーとして音源をリリースするようになってからも、“グループ”や“クルー”ではなく、自分らはあくまでも“サイファー”やというエクスキューズを付けて活動してたんですね。でも梅田サイファーとしての活動が大きくなっていって、今回のアルバム『RAPNAVIO』でメジャーデビューすることを機に、“グループ”と表現するようになってますね。外側に向けてわかりやすくしたいという事情に加えて、連帯感がこれまで以上に強くなったし、個々のコミュニケーションも強くなっていったからという内部的な感覚の変化もあります」(KOPERU)
もともとはソロのラッパーの集まりだった梅田サイファー。現在のメンバーは、Creepy Nutsとして活動するR-指定のほか、KZ、peko、テークエム、KennyDoes、Cosaqu、HATCH、ILL SWAG GAGA、SPI-K、コーラ、そして、KOPERU、teppei、KBDの計13人で構成されている。
それぞれの梅田サイファーへの参加経緯もまったく異なっている。
「僕は2006年の『ULTIMATE MC BATTLE』(MCバトルの全国的な大会。通称UMB)や、『ヒダディー ひとり旅』(大阪を代表するヒップホップクルー・韻踏合組合のメンバーであるHIDADDYが全国を旅しながら、各地のラッパーとフリースタイルセッションをする映像集。後続のMCに大きな影響を与えた)のDVDを見て大阪のヒップホップシーンに触れて、フリースタイルに興味を持ったんですよね。それでmixiだったかモバゲーだったかの掲示板で梅田サイファーのことを知って、行ってみたのが最初です。とりあえず行ってみて、合わなかったら帰ればええかぐらいの軽い感じで。それが15、6歳のころでした」(KOPERU)
最年長のKBDは、梅田サイファーに参加したときには既にサラリーマンとして働いていた。
「だから梅田にも仕事終わりにスーツで行ったんですよね。KOPERUやR-指定はまだ10代やったし、ほかのみんなも20歳ぐらいで、だいぶ大人やったと思います。完全に初心者としてサイファーに参加して……当然やけど全然うまくいかなくて、すぐに輪から抜けて梅田のマクドでひとり反省会してました(笑)。でも、それからほぼ毎週参加するようになって、梅田サイファーのなかでラップスキルを伸ばしていった感じですね」(KBD)
teppeiは2009年に参加。そのときはまだ大学生だったという。
「tella(2022年に脱退)と一緒に行ったのがきっかけですね。それまでは、自分が一番ラップが上手いと思ってたんですよ。でもサイファーに参加したらショックを受けるぐらいみんなラップが上手くて。それでよくよく聞いたら、ふぁんくさん(2021年に脱退)やKZさん、KOPERUくんは『ENTER』(大阪を代表するMCバトルイベント)とか、いろんなバトルで優勝してきてる人だと知って、そんなすごい集まりやったんやと驚きましたね」(teppei)
その実力通り、梅田サイファーはMCバトルの常勝軍団として関西を中心に名前をあげていくことになる。その最たるものが、R-指定のUMBにおける大阪予選5連覇、全国大会3連覇という偉業だろう。その余勢を駆って、テレビ朝日/ABEMAで放送されていたMCバトル番組『フリースタイルダンジョン』にもレギュラー出演。そのラップスキルの高さをお茶の間にまで浸透させていった。また、DJ松永とのユニット、Creepy Nutsでも活躍し、梅田サイファーのラッパーとしては、シーン内外で最も名をあげたメンバーと言って良いだろう。
「R-指定は、3連覇がかかった『UMB2014』では、ここで勝っても負けてもラストイヤーにすると宣言してたんですよね。その大阪予選で、梅田サイファーのほぼ全員がR-指定と戦うことになって、それをR-指定はなぎ倒していった。その試合構成は偶然やったとしても、運命を感じたし、R-指定にとってもこれは“ケジメ”なんやろなと思いました。それを経てのR-指定の活躍ぶりは、やっぱりめちゃくちゃうれしかった。R-指定だけやなく、同じ時期にはKOPERUもアルバム『大阪キッド』でソロデビューしたり、キャラクターやスキル、スター性も含めて、売れていくべき存在がちゃんと注目されるようになったなと」(KBD)
「僕は普通にめちゃくちゃ悔しかった。僕はR-指定くんとKennyDoesとユニット“コッペパン”を組んでたし、DJ松永にR-指定くんを紹介したのも僕。それに同い年で、バトルでも勝ったり負けたりを繰り返していたから、『ドラゴンボール』で言うと“どっちが悟空でどっちがベジータになるか”みたいなライバル意識があったんですよね。だからR-指定くんがブレイクしていくさまを見て『うわ! R-指定は悟空になった!』と思ったし、やっぱり悔しかった。でもその反面、自分もやらなあかんなとも思わされたんですよね。僕ら全員が、R-指定がひたすら努力してるのを見てたから、うまいこと波に乗ったなんていうやっかみは微塵もなかったし、彼の頑張りを自分たちのプラスに変換しやすかった。これは梅田サイファーの全員が共通で思ってることだと思いますね」(KOPERU)
「だから、R-指定が天才みたいな扱いをされるのを見るとちょっと違うよな、と。もちろん、とんでもない才能はあると思うんですけど、それを超えてヤバいぐらい研究と練習をしてるのを知ってますし、それを積み重ねていける人ですからね」(teppei)
梅田サイファーは元来、“個人の集まり”であり、“出入り自由”な集団。だから個々人の方向性や意識はバラバラであり、その拡散性こそが梅田サイファーの魅力である。しかし、同時に足並みが揃いづらい部分があるのも事実だったという。
「1回来て、もう来なくなる人もたくさんいたし、反りが合わないと思った人もいたと思うんですよね。それぞれの“型”がそもそも違うし、“これが正解”“これこそ梅田サイファー”というものもないので統一感も乏しかった。僕自身、“俺は梅田サイファーとは意識の置き方が違う”と、めちゃくちゃ梅田サイファーが嫌いになったときも、正直あります」(KOPERU)
「グループになっても、いまだにリーダーはいませんからね」(KBD)
梅田サイファーとしては、アルバム『See Ya At The Footbridge』を2013年にリリース。そしてミュージックビデオも制作された楽曲「マジでハイ」を収録した『Never Get Old』(2019年)からリリースアーティストとしての活動を本格的に開始し、以降は2019年の『トラボルタカスタム』や2021年の『ビッグジャンボジェット』など、コンスタントにアルバムをリリースするなかで、より“グループ”としての意識を高めていった。
梅田サイファー - マジでハイ feat. R-指定, KZ, peko, ふぁんく, KOPERU, KBD, KennyDoes (prod. LIBRO)
「『Never Get Old』は、梅田サイファーとしてのラストアルバムぐらいの意識だったんですよね。帰郷や上京、結婚など、それぞれのライフプランが変わる時期だったから、梅田サイファーとしてもあまり動かなくなってたし、歩道橋の上のサイファーにも参加しなくなってた。だから、“梅田サイファーとして最後に1枚、ヤバい作品を作って終わろう”みたいな意識だったんですよね。ノリで作ってたそれまでの作品と違って、ちゃんと外を向いた作品にしようというコンセプトがありました」(KBD)
「梅田サイファーのミーティングでそのコンセプトを聞いて。俺は、梅田サイファーにあった内向きの方向性が嫌いやったし、それもあって当時は距離を置いてたりもしたんですけど、“アルバムを通して梅田サイファーの可能性や個々人の可能性を形にしたい”という話になったんで、それなら協力したいです、と」(KOPERU)
「僕は普通にサラリーマンでしたし、結婚もしてたので、正直、自分のパートがあるならやろかなぐらいの心持ちだったんですよね。何かを表現するなら自分のソロでできるし、Japidiot(テークエム、OSCA/2023年脱退、tella、teppei、HATCHによるユニット)も動いてなかったし、そこまで“梅田サイファーでラップがしたい!”とは思っていなくて」(teppei)
そんななかで制作されたアルバム『Never Get Old』で、彼らは注目を浴びることとなり、つづいてリリースされた「トラボルタカスタム feat. KennyDoes, ふぁんく, KZ, KBD, テークエム, KOPERU, peko, R-指定&鋼田テフロン」は、現在YouTubeで600万回再生を超えるヒットとなった。
梅田サイファー - トラボルタカスタム feat. KennyDoes, ふぁんく, KZ, KBD, テークエム, KOPERU, peko, R-指定 & 鋼田テフロン
ここから、梅田サイファーは確実にシーンでの存在感を増し、グループとしても活性化。その動きが、メジャーデビューアルバム『RAPNAVIO』に結実した。
「デビューとはいえ、梅田サイファーのメンツとは10年以上一緒にラップしてるんで……やっぱりみんなオジサンになったと思います(笑)。でも年を重ねても、いまだに全員ラップが上手くなっていってて、進化しているのが単純にすごい。それには個人の積み重ねは当然、梅田サイファーで制作するときの切磋琢磨が確実に影響していると思う。だから、個人では行けなかった方向、今までの梅田サイファーでは進めなかった先に仲間とともに進めていると思います。大海原をみんなで進んで行ってるような感じというか」(KOPERU)
「昔は“自分たちしかない空間”やったと思うんです。“サイファー(円)”だから文字通り内側を向いていればよかったし、人数も多いから身内でパーティしてれば成り立っていた。でも“身内”だけじゃなくて、お客さんやリスナーという“他者”の視線をちゃんと感じるようになったことで、そこで自分たちが何をするべきか、どう楽しませるのかをしっかり考えるようになってますね。その上で、昔よりラップへの情熱は強くなっている。このモチベーションをキープしていきたいですね」(KBD)
「どんなことがあっても梅田サイファーのメンバーでありたいと思うようになりましたね。梅田サイファーのメンバーと接する時間がより多く、深くなっていくなかで、“ファミリー”という感覚が強くなっています。しかも、メンバーそれぞれのスタンスやスタイル、考え方は変わらずにこれているのがうれしい。確かに規模は大きくなって、関わる人も増えたけど、“ラップが好き”という根本はまったく変わらないし、それを変えへんために、スキルアップしている部分もありますね」(teppei)
個人の集まりだったところから、一体感が強まった現在の梅田サイファーのなかで、3人はどのような役割をこれから担っていくのだろうか。
「僕は元気とパワーですね! シンプルにわかりやすいラッパーやと思うし、ビートにジャストで合わせるような力強さと元気で、曲を引っ張っていくポジションなのかなと思ってます」(teppei)
「俺は韻や勢い担当だと思われがちなんですけど、役割的には“抜き”というか、曲のなかでちょっと力が抜けたり、普遍的な感じを出していければなと。根本の部分は変わらずにいたいですね」(KBD)
「梅田サイファーの華ですかね(笑)。華やかというか、ポップに上手いラップを聴かせるという存在でありたい。同時に、仲間たちを唸らせられるようなラップはちゃんと形にしたい。スキルがとにかくすごいメンツなんで、改めて、そのメンツを驚かせたいと感じるようになりましたね。とはいえ、アカレンジャーというよりはキレンジャーあたりの役割を担えればなと。裏のバランサーというか、非常識なメンツのなかの常識人でありたいですね(笑)」(KOPERU)
文・取材:高木“JET”晋一郎
『RAPNAVIO』
2023年3月29日(水)リリース
試聴・購入はこちら
https://UmedaCypher.lnk.to/RAPNAVIO
https://umedacypher.lnk.to/RAPNAVIO_0329
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