ダフト・パンク【前編】10年前、『ランダム・アクセス・メモリーズ』が与えた衝撃
2023.05.16
世界中で聴かれている音楽に多くの影響を与えてきたソニーミュージック所属の洋楽レジェンドアーティストたち。彼らと間近で向き合ってきた担当者の証言から、その実像に迫る。
今回のレジェンドは、ポップロック界を代表するシンガーソングライターとして、1970年代から活躍するキャロル・キング。1973年にニューヨークのセントラル・パークで行なわれた伝説的なライブの開催から50周年となる今年、そのドキュメンタリー映画のDVDとライブ音源のCDが『ホーム・アゲイン:ライヴ・フロム・セントラル・パーク1973』として世界同時発売される。その発売を記念して、改めて彼女の魅力と功績を本作の制作担当者に振り返ってもらった。
後編では、アルバム『つづれおり』の大ヒット後のキャロル・キングの活動について語る。
キャロル・キング Carole King
1942年2月9日生まれ。1958年、16歳のときにシングル「ライト・ガール」でデビュー。1971年、「アイ・フィール・ジ・アース・ムーヴ(空が落ちてくる)」「イッツ・トゥー・レイト」などを収録するアルバム『つづれおり』が大ヒット。1970年代のシンガーソングライターブームを牽引するアーティストとなる。現在までに25枚のソロアルバムを発表。過去4回グラミー賞を受賞し、ソングライターの殿堂、ロックンロールの殿堂入りを果たしている。
関口 茂
Sekiguchi Shigeru
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
──(前編よりつづく)キャロル・キングは『つづれおり』以降も次々と名盤を世に出していきました。
1971年に『つづれおり』が出たあと、同年に『ミュージック』、1972年に『喜びは悲しみの後に』、1973年に『ファンタジー』と、立てつづけにアルバムをリリースしたんです。『ミュージック』も素晴らしい作品で、1曲目の「ブラザー・ブラザー」をはじめ、良い曲がたくさん収録されています。
チャートアクション的にも1位になっているので、全然一発屋で終わらなかった。ただ、良いアルバムを発表しつづけたのですが、『つづれおり』があまりに売れすぎちゃって、ほかの作品があまり脚光を浴びてないということもあります。個人的には、このころのほかのアルバムもぜひ聴いてほしいという気持ちがありますね。
──そして、5月26日に世界同時リリースされるCD&DVD『ホーム・アゲイン:ライヴ・フロム・セントラル・パーク1973』は1973年にニューヨークのセントラル・パークで行なわれた無料コンサートの模様を収めた作品ですが、これはキャロル・キングのキャリア的にはどういったタイミングだったんでしょうか?
セントラル・パークのライブは1973年5月26日に行なわれたんですが、アルバム『ファンタジー』が出る直前だったんです。ライブの開催は、『つづれおり』のプロデューサーでもあるルー・アドラーの発案らしいんですが、キャロルは既に西海岸に移り住んでいたので、これまで支えてくれていたファンへの感謝を込めて、出身地のニューヨークのセントラル・パークで無料コンサートをやろうということになったんです。
──久々の地元凱旋ライブだったんですね。
そのころキャロルは、ソロデビューからアルバムを4枚出していて、サウンド的にも新しいことに挑戦したいというのがあったんですね。それで、よりジャズっぽい感じ、ソウル、ファンクっぽいサウンドで作っていったのが『ファンタジー』だったんです。
──時代的には公民権運動が盛んで、映画の世界ではブラックエクスプロイテーション、ブラックミュージックの世界では、マーヴィン・ゲイの『ホワッツ・ゴーイン・オン』やダニー・ハサウェイなどのニューソウルのタイミングですね。
彼女にもそうした影響があったんだと思います。バッキングメンバーもガラッと変えて、ギターがデビッド・T・ウォーカーでドラムがハーヴィー・メイソンだったり、ホーンセクションが入っていたり、かなりファンキーなサウンドになっているんです。なのでこのライブの後半でも、レコーディングしたメンバーと『ファンタジー』の収録曲を演奏しています。
──制作された関口さんの個人的な推しポイントというと?
DVD化されるドキュメンタリー映画では、冒頭にキャロルのそれまでの歩みがわかる映像が収録されています。そのあとがライブパートになっています。前半は、大勢のオーディエンスを前に彼女がピアノの弾き語りで「イッツ・トゥー・レイト」などを歌い、後半からバンドが入って『ファンタジー』の楽曲を演奏していくんです。そこがひとつの見どころですね。グルーヴ感のあるサウンドで歌うキャロルがとてもカッコ良いです。
──この映像は、今回が初公開になるんですよね。
そうなんです。もともとはルー・アドラーが資料用に撮っていたもので、50年間未発表のままになっていました。それを今回きちんとドキュメンタリー映画として仕上げて商品化したんです。今回こういうプロダクトが出ることで、改めてキャロルの功績や、アーティストとしての偉大さを多くの人に紹介できたらなと思っています。
Carole King - Home Again (Live From Central Park, New York City, May 26, 1973)
──このライブ後はどうなっていったんでしょうか?
キャロルは1976年にオード・レコーズから『サラブレッド』を出したあと、キャピトル・レコードにレーベルを移籍しています。そのときには2番目の夫のチャールズ・ラーキーと離婚していて、1977年に3番目の夫、リック・エヴァーズと結婚するんです。彼は暴力などの問題のある人だったんですが、翌年の1978年に亡くなってしまうんですね。
キャロルはリック・エヴァーズと結婚したタイミングで、田舎で暮らしたいということでアイダホに移っていて、それ以降、基本的な生活のベースをアイダホに置いて、今もそこから音楽を発信しつづけています。1980年代以降、チャートアクション的にはあまり動きはないですが、コンスタントに良いアルバムを出しつづけていますよ。
──もしかすると、1980年代以降は、ヒットチャートや都会の喧騒を気にせず、自分の本来の想いを発信したいという気持ちがあったのかもしれないですね。
そうかもしれないですね。実際、1980年代以降の彼女は、環境問題に力を入れて活動したり政治活動に関わったりしていますから。彼女としては、セールスを気にせず自分が良いと思う作品を出して、環境問題への取り組みなどをライフワークとしてずっとつづけて、自分のなかではバランスが取れていたんだと思います。4人の子供にも恵まれて、娘のルイーズ・ゴフィンも1980年代にデビューした良いシンガーです。都会から離れて、充実した生活を送っているんだと思います。
──頻繁ではないですが、ライブもコンスタントに行なっていますね。関口さんは実際にキャロル・キングのライブを観たことはありますか?
はい。2010年のジェイムス・テイラーとの日本武道館公演を、2日間とも観に行きました。このツアーが行なわれたきっかけが、2007年にロサンゼルスの老舗ライブハウス、トルバドールでジェイムス・テイラーと40年ぶりに共演したライブなんです。そのライブがすごく良いんですよ。『トルバドール・リユニオン』というCD&DVDで発売もされています。キャロルはデビュー当時、ジェイムス・テイラーのトルバドールでのライブに、急に引っ張り出されるような形でステージにあがったらしいんです。でも、そのステージに立ったことで「私もライブをやっていけるのね」と本人のやる気が出たということが自伝にも書いてありましたね。
『トルバドール・リユニオン』でのライブが反響を呼んで、ジェイムスとふたりでのツアーが行なわれたことで来日が実現したんですが、そのときのバンドメンバーも、ダニー・コーチマー、リー・スカラー、ラス・カンケルという、1970年代からの旧知のメンツで、感動的なライブでした。
──関口さんが制作を担当された、2016年のハイド・パークの映像『つづれおり:ライヴ・イン・ハイド・パーク』も素晴らしいライブですね。
これも現地に行って観ましたね。
──実際にご覧になったときはどうでしたか?
その時点では、ソニーミュージックから映像作品として出すのか決まってなかったんですが、アルバム『つづれおり』再現ライブということで、絶対観ておかなきゃと思ってプライベートで行ったんです。あのライブは、毎年7月に2週間にわたってロンドンのハイド・パークでやっている“ブリティッシュ・サマー・タイム・フェスティバル”内のスペシャルなステージでした。
そのフェスは、若手が出演する日とベテランが出演する日が分かれていて、キャロルがトリで出た日は、その前がイーグルスのドン・ヘンリーだったんです。彼が最後に「ホテル・カリフォルニア」を歌って、そのあと、7万5,000人の観客の前にキャロル・キングが出てくるという流れでした。
Carole King - Tapestry: Live in Hyde Park (trailer)
──それは観客としてはワクワク感がありますね。
ほんとにワクワクでした(笑)。当時キャロルは74歳だったんですけど、やっぱりライブでのキャロルも本当にカッコ良かったですね。ボーカルもすごく沁みました。昔はやんちゃな女の子って感じだったのが、年齢とともに渋みが増して、良い雰囲気のシンガーになったっていう感じがありましたね。この日に限らずライブで『つづれおり』の収録曲を披露することは多いんですが、このときは曲順通りにやってくれたのがすごく良かったです。レコードでいうところのA面の最後の曲「ウェイ・オーヴァー・ヨンダー」が終わったあとに、後ろのスクリーンにレコードをひっくり返してB面になるという映像が出て、「君の友だち」が始まるという演出もありました。
それで、最後の最後にミュージカル『ビューティフル』のロンドンキャストがステージにあがって、キャロルと「アイ・フィール・ジ・アース・ムーヴ」を大合唱したんです。イギリスの7月は日が長いんで、ライブが終わったのが夜10時前ぐらいだったんですけど、ちょうど空が茜色に染まるくらいのときで、本当に感動的なコンサートでしたね。
──改めて、キャロル・キングが音楽シーンに与えた影響やどんなに大きな存在であるかを最後に総括していただけますか。
これまでの話にも出ましたが、本当にアメリカのポップスの礎を築いたような人だと思います。1950年代後半から1960年代に職業作家として、1970年代はソロのシンガーソングライターとして大成功して、のちのポップスシーンに多大なる影響を与えた稀有なメロディメイカーです。
本人もすごくパワフルな人生を歩んでいますし、そうした彼女の力強い生き方は、多くの人や後世のアーティストにかなり影響を与えたと思います。とにかく、キャロル・キングを聴いたことのない人は、『つづれおり』を聴いてみてください。猫が写ってるジャケットです(笑)。
──カメラ目線の猫ですね(笑)。
ちなみにあの猫は、当時彼女が飼っていた猫です。本当に、『つづれおり』は一家に1枚、絶対に聴いて良かったと思えるアルバム。まずはそこから入っていただいて、ライブ音源や映像での彼女の力強いパフォーマンスを見ていただきたいですね。
文・取材:土屋恵介
『ホーム・アゲイン:ライヴ・フロム・セントラル・パーク1973』
2023年5月26日(金)世界同時発売
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