ダフト・パンク前編PCメイン
ダフト・パンクSPバナー
連載Cocotame Series

担当者が語る! 洋楽レジェンドのココだけの話

ダフト・パンク【前編】10年前、『ランダム・アクセス・メモリーズ』が与えた衝撃

2023.05.16

  • Twitterでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Facebookでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • LINEでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • はてなブックマークでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Pocketでこのページをシェアする(新しいタブで開く)

世界中で聴かれている音楽に多くの影響を与えてきたソニーミュージック所属の洋楽レジェンドアーティストたち。彼らと間近で向き合ってきた担当者の証言から、その実像に迫る。

今回のレジェンドは、フランスのエレクトロミュージック・デュオ、ダフト・パンク。2013年にリリースしたアルバム『ランダム・アクセス・メモリーズ』が、2014年開催の第56回グラミー賞で「最優秀レコード賞」「最優秀アルバム賞」の主要2部門を含む5部門を受賞。そして今年5月には、未発表音源を追加収録した10周年記念盤『ランダム・アクセス・メモリーズ(10th アニバーサリー・エディション)』がリリースされた。

2021年に解散したのちも大きな存在感を放つダフト・パンクが、次世代の音楽シーンにもたらしたものとは? 当時の担当ディレクターに話を聞いた。

前編では、『ランダム・アクセス・メモリーズ』リリース時の洋楽シーン全体を振り返りながら、日本でのプロモーション戦略について語ってもらった。

ダフトパンクアー写

ダフト・パンク Daft Punk

フランス出身のトーマ・バンガルテルとギ=マニュエル・ド・オメン=クリストによるふたり組。1993年結成。これまでに『ホームワーク』(1997年)、『ディスカバリー』(2001年)、『Human After All~原点回帰』(2005年)、『ランダム・アクセス・メモリーズ』(2013年)の4枚のオリジナルアルバムを発表。レーベル移籍作品となった『ランダム・アクセス・メモリーズ』は第56回グラミー賞で、「最優秀レコード賞」「最優秀アルバム賞」の主要2部門を含め、ノミネートされた全5部門を受賞するという快挙を成し遂げた。2021年2月22日午後2時22分、「エピローグ」と名付けられた8分間の映像を公開するとともにデュオの解散を発表。

  • 市川陽子写真

    市川陽子

    Ichikawa Yoko

    ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル

グラミー賞5部門受賞という快挙

──『ランダム・アクセス・メモリーズ』はダフト・パンクにとって4枚目のオリジナルアルバムですが、アメリカのソニー・ミュージックエンタテインメントの音楽レーベルであるコロムビア・レコード移籍第1弾としてリリースされ、結果としてこれが最後のアルバムとなりました。

『ランダム・アクセス・メモリーズ』の前にリリースされた3枚のアルバムは、私もいちリスナーとして聴いていました。それまではダフト・パンクと言うと、ヒット曲「ワン・モア・タイム」(2001年のアルバム『ディスカバリー』収録)のポップな印象が強く、私もそこから入ったんですが、次のアルバム『Human After All~原点回帰』(2005年)では結構ゴリゴリのエレクトロサウンドになって。

さらに『ランダム・アクセス・メモリーズ』ではまったく違う方向に行きました。よりディープになったとも言える内容なのに、たくさんの方々に支持していただいたのがうれしい驚きでしたね。そして2014年1月に授賞式が行なわれた第56回グラミー賞で「最優秀レコード賞」「最優秀アルバム賞」を含む、ノミネートされた5部門ですべて受賞するという快挙を成し遂げました。この作品を担当できて、本当に光栄だと感じた瞬間でもありましたね。

ダフト・パンクジャケ写

『ランダム・アクセス・メモリーズ』

──市川さんがこれまで手掛けてこられた数ある作品のなかでも、特別な1枚になったんですね。

ずっと洋楽の仕事をしてきましたが、自分が担当したなかでも最も印象深い作品です。関わったアルバムから何枚か挙げなさいと言われたら、真っ先に選ぶ1枚だと思います。

──ダフト・パンクの『ランダム・アクセス・メモリーズ』はレーベル移籍第1弾としてリリースされました。ダフト・パンクがソニーミュージックにやってくることを知ったとき、どんな思いを抱きましたか?

最初はレーベル上層部の限られた人しか知らなくて、上司からダフト・パンクを担当してほしいと言われたときは、“私ですか!?”って正直思いましたね(笑)。選んでいただいたのはうれしかったんですけど、「ワン・モア・タイム」から入った自分としては、彼らをどうやって国内で売っていこうかとあれこれ悩みました。

ライブがすごく盛り上がるとは聞いていて、2006年のSUMMER SONICに出演した際、私も仕事で会場にはいたんですが、自社アーティストのステージと重なって観られず……。ダフト・パンクは入場規制がかかるほど人気でした。とは言え、担当することになった『ランダム・アクセス・メモリーズ』は8年ぶりの新作ということもあり、知名度はあるけれど、はたしてCDを購入してくれる方は、国内にどれぐらいいるんだろう? と未知数でした。日本でのこれまでの人気を、どうセールスにつなげていくかということが私のなかでミッションとなりました。

Daft Punk - One More Time (Official Video)

──改めてファンの掘り起こしが必要だったんですね。

そうなんです。加えて当時のソニーミュージックには、ダフト・パンクに通じるようなエレクトロミュージックのアーティストが少なく、自分も含めてそうしたアーティストと仕事として関わった経験もあまりなくて、何をお手本にしたら良いのか悩みました。でも、ダフト・パンクは彼ら自身がすごく面白いキャラクターでしたし、コアな音楽をやりながらも、「ワン・モア・タイム」のような誰もが知っていると言っても過言ではない音楽も生み出していて、そうした作品に携われるのは自分にとってチャレンジングな経験ができると思いました。

海外と日本の現場をつなぐ洋楽ディレクターの仕事

──2013年の5月に『ランダム・アクセス・メモリーズ』はリリースされていますが、発売当時のことを振り返ってもらえますか。

私は当時、ソニー・ミュージックレーベルズの洋楽部門、ソニー・ミュージックインターナショナルで、UKロックバンドのオアシス解散後にメンバーのリアム・ギャラガーたちが結成したビーディ・アイも担当していました。そして彼らのセカンドアルバム『ビー』が2013年の6月にリリースされるということで、ほぼ同じタイミングだったため、もうとんでもなく忙しかったことを今でも覚えています。さらに、翌年春にはファレル・ウィリアムスが『ガール』をリリースといった具合に重要作が立てつづけにリリースされた時期で、多忙ながら充実した毎日でした。

常に複数のアーティストが同時進行で動いていますので、それぞれの進捗具合を見ながら、海外の動きを考慮して仕事を進めていくことが重要になってきます。けれど海外のスタッフが仕事を始める時間は、日本では夜だったり。時差があるのは洋楽の現場ならではだと思います。

──確かに、時差の影響は大きいですよね。

日本時間の20時にロンドンが11時で、日本時間の25時ごろになるとニューヨーク、28時ごろにロサンゼルスやサンフランシスコが動き始めるという感じですから、思いっきり昼夜逆転です。海外がギリギリのスケジュールで進んでいると、日本もそれに合わせて動かざるをえないので、昼間は日本の仕事をして、夜になると海外と交渉したり……なかなかハードでした。

それと、海外とはやはりカルチャーが違うので、制作やプロモーションにおいて日本では当たり前のことを、ゼロベースから説明しなくてはならないことも出てきます。日本における洋楽シーンの事情をわかってもらえていればスムーズなんですが、理解してもらえない場合もありますね。

ダフト・パンクアー写真02

──プロモーションにおける具体的な日本と海外のカルチャーの違いというのは?

よく言われるのはボーナストラックですね。小売価格の面では輸入盤にかなわないので、付加価値を付けるために日本盤用のボーナストラックを収録したいとリクエストしていました。あとはメディアからの取材対応も違います。海外だとオフィシャルインタビューを行なって、それを複数のメディアに掲載することが多いようですが、日本では各メディアの媒体特性に合わせて個別にインタビューを受けてほしいとお願いしていました。アーティスト写真も決められたカットだけでなく、いろいろな表情を見せていきたいということで、追加のカットをリクエストしていましたね。

アーティストの稼働時間も含めて、求めるものが日本だけだんとつに多かったので、「どうして日本だけそんなに細々と言ってくるんだ」と、海外のスタッフは思っていたかもしれません。でも、日本ではそれが海外アーティストを売り出していく戦略の第一歩なんだよねっていうことを伝えきれるかどうかが重要で。多くの海外スタッフたちが日本のマーケットを理解し、サポートしてもらえることが多かったですが、なかには話さえ聞いてもらえないということもありました(笑)。

マネージャーが世界を巡って行なわれた試聴会

──『ランダム・アクセス・メモリーズ』がリリースされた2013年ごろというと、SNSを使ったプロモーションも本格化していたのではないでしょうか。

はい、ちょうど本格的な運用が始まったころでしたね。あとは、音楽のサブスクリプションサービスも既に始まっていましたが、音楽好きのアーリーアダプター向けのサービスであり、現在のように主流の聴かれ方ではありませんでした。

──リリース前の新譜音源の扱いも、当時と今とではだいぶ違いますよね。メディア側が新譜を先行試聴する場合、現在はウォーターマーク処理(著作権管理のために画像や動画に写し込まれる文字やアイコンなど)が施された音源をストリーミングで聴くことが多いですが、当時はよくレコード会社の会議室で試聴会が行なわれていました。

そうですね。もしくはウォーターマーク処理がされたCD-Rで聴いてもらったり。以前は、業界で「お弁当箱」と呼ばれたU-maticのマスターテープに入って新譜音源が空輸で届けられていましたが、デジタルデータで送られることが多くなってきたころでした。

『ランダム・アクセス・メモリーズ』のときは、ダフト・パンクのマネージャーが新譜音源を肌身離さず持ち歩き、1カ国あたり1泊3日くらいの強行軍で各国のレーベルを巡り、試聴会を行なっていましたね。音源を手渡してしまうとコピーされてネットにリークされるリスクを恐れて、マネージャーが見ている前でしか再生できなかったんです。それぐらい厳重に管理されていました。

──それはすごいですね。近年はリリースのニュースが出てから発売日までの期間が短くなってきていますが、当時はそのようにプロモーションに時間がかかるので、準備期間には余裕があったということでしょうか。

その試聴会がいつ行なわれたかを調べてみたら、2013年の1月でした。リリースの4カ月前にマネージャーが日本に来て試聴会を開いてくれたので、プロモーション施策を考える時間は今と比べればあったと思います。移籍第1弾で、しかも8年ぶりというアルバムをリリースするにあたって、いろいろと作戦を練る必要がありましたから。

Give Life Back to Music

──市川さんもその試聴会のタイミングで『ランダム・アクセス・メモリーズ』を初めて聴いたんですか?

そうです。私はもちろん、当時の社長や上司も含めた日本のスタッフ全員が、マネージャーが日本に音源を持ってきたタイミングで初めて聴きました。“コロムビア・レコードに移籍しました”という事実だけが先に伝えられて、新譜に関する情報はマネージャーが日本にやってくるまで一切知らされていなかったんです。全員でドキドキしながらマネージャーの到着を待って、スピーカーの前で釘付けになって聴いた覚えがあります。

ダフト・パンクの新譜はどんな音楽なんだろう? とワクワクもしましたし、同時に少し不安もありしました。「ワン・モア・タイム」のようなキャッチーな曲があるのか、それとも前作のようなEDM路線がつづいているのか、もしくはまったく新しい路線なのか。彼らのことだから、ちょっとは新しいことをやっているだろうなとは思っていたんですが、最初に聴いたときの率直な感想は“衝撃”でしたね。

──どのような衝撃でしたか?

まず初めに、これは玄人受けするアルバムだろうと思いました。どんなにハードコアになっても、キャッチーな部分が残っているのがそれまでのダフト・パンクだったんですが、このアルバムは1回聴いただけではわかりづらいと正直思いました。一緒に歌える曲は「ゲット・ラッキー」ぐらいかなあというのが最初の印象です。これをどうやって売っていけば良いか、非常に悩みました。

また、「ゲット・ラッキー」はすごくキャッチーな曲だったんですが、この1曲だけでアルバムが売れるとは確信できなかったんです。でも、この曲で勝負するしかないな、と。フィーチャリングされているファレル・ウィリアムスも有名なアーティストではありましたが、翌年に「ハッピー」で大ブレイクする前でしたので、現在のような知名度ではありませんでした。

Daft Punk - Get Lucky (Official Audio) ft. Pharrell Williams, Nile Rodgers

──その「ハッピー」も、「ゲット・ラッキー」があったからこそ、あそこまでヒットしたとも言えます。

まさに起爆剤になりましたよね。でも、そのときは何としても『ランダム・アクセス・メモリーズ』を日本でも売らなきゃいけないという使命感があったので、もう少し日本でも知名度のあるアーティストに参加してほしかったなと思ってしまいました(苦笑)。「ゲット・ラッキー」がアルバムからのファーストシングルになることも決まっていたので、どういう風に日本のファンの方たちに伝えていけば良いかなと。

加えて、それまでのダフト・パンクのジャケットは、漫画家の松本零士先生が描かれた『ディスカバリー』の日本盤を別にして、ずっとロゴだけでデザインされていたのですが、『ランダム・アクセス・メモリーズ』のジャケットにはロボットのビジュアルがデザインされた、わかりやすいアイキャッチになりました。そのジャケットをどう前面に打ち出してプロモーションしていくか、その手段も考えていましたね。

SNSで展開した「日本ダフト・パンク化計画」

──その上で、どういったアプローチで新作のプロモーションをスタートさせたのでしょうか。

これは彼ら自身も語っていることですが、ダフト・パンクはコントロールフリークで、他国でのプロモーションに関しても、こういうことをやってほしいというリクエストがあったり、こちらのアイデアに対してアーティスト自身のチェックが入ったりするんですね。『ランダム・アクセス・メモリーズ』のときは、新作に関して一番最初に全世界で発表するものはジャケット写真を使ったポスター掲示であることが伝えられ、加えて、ジャケットのアートワークを使ったお面を作っても良いと言われたんです。

そこでまず、日本でのポスター掲示場所選定と、お面をどうやって使おうかというところから日本でのプロモーションがスタートしました。また、同じタイミングでバンダイのS.H.Figuartsシリーズからダフト・パンクのフィギュアが発売されるということを知って。それであれば発表のタイミングを合わせていきましょうと、バンダイのご担当者の方々と協力しながら進めていきました。

──お面のアイデアは面白いですね。あのマスクはすごくインパクトがありますし。

あのマスクのお面を付けると注目されますよね。ビジュアルショック的でわかりやすく、ダフト・パンクとしてもキャラとしてひとり歩きさせているところがありましたので、そちらの部分でははっちゃけようと思って、「日本ダフト・パンク化計画」っていう独自のキャンペーンを展開していきました(笑)。

──「日本ダフト・パンク化計画」とは、どんな内容だったのでしょうか。

まずは社内のスタッフや知り合い、メディアの方たちも巻き込んで、例えば仕事をしているときなどにお面を付けた写真を撮って、Facebookに投稿していきました。また、ファンやレコード店の皆さんにもお面を付けた写真を撮って送っていただき、それもFacebookに投稿していったんですが、このとき一番反響があったのが、京都の舞妓さんの姿で撮られた写真でした。和装という日本のカルチャーとダフト・パンクのマスクのビジュアルが融合したインパクトの強い写真でしたが、この他にも面白い写真が集まって認知度をじわじわと上げていくことができました。

「日本ダフト・パンク化計画」写真一覧(ソニー・ミュージック洋楽Facebookアルバムより)(新しいタブで開く)
ダフト・パンク Facebook写真

──SNS上でシェアされることを想定したバイラル映像も制作されたそうですね。

はい、タイトルの「ゲット・ラッキー」に掛けて、“ゲッツ!”でおなじみのダンディ坂野さんと、振付師のラッキィ池田さんにご出演いただいて。さらに映像のオープニングには、“いつやるか? 今でしょ!”のフレーズでお馴染みの林修先生にも登場していただきました。ダンディ坂野さん、ラッキィ池田さんはダフト・パンクのファンで、林修先生は音楽系の映像に初出演ということもあり、話題性の高い映像を公開することができましたね。

──音楽業界におけるSNSマーケティングが今ほど確立されていなかった当時、面白そうなアイデアだったらやってみようよ! というチャレンジがうまくいった好例と言えそうですね。

試行錯誤しましたが、おかげさまで面白がっていただけました。いっぽう、バンダイのフィギュアの発売とコラボした取り組みでは、バンダイのフィギュアのコアなファン層や、その分野のメディア、ファンの方々にダフト・パンクというアーティストとアルバムの発売を広めていただくことができました。我々でもフィギュアの情報を発信し、バンダイからもアルバムの情報を出していただいたりと、ウィンウィンの関係でプロモーションを行なうことができましたね。

──その段階では、アルバムをまず手に取るのは、コアな音楽ファンだと想定されていたのでしょうか。

そうですね。そのいっぽうで、ダフト・パンクは既に国内でも知名度がありましたから、ご存じの方は8年ぶりの新作という情報に触れたら、自分からチェックしてくださるだろうなとも考えました。そういった方たち以外の層に対して、プロモーションとして何をしていくべきかに知恵を絞りましたね。

その施策としてSNSを使ったり、リリースパーティを各国でやってほしいというリクエストがあったので、ボーリング場の笹塚ボウルを貸し切って記念のパーティを開催した際に先述のバイラル映像に参加していただける機会を設けたりもしました。このときは、入場規制がかかるほどの大盛況だったんですよ。

後編につづく

文・取材:油納将志

リリース情報

ランダム・アクセス・メモリーズ 10thジャケ写

『ランダム・アクセス・メモリーズ(10th アニバーサリー・エディション)』
2023年5月12日発売
詳細はこちら(新しいタブで開く)

関連サイト

公式サイト
https://www.sonymusic.co.jp/artist/daftpunk/(新しいタブで開く)

連載担当者が語る! 洋楽レジェンドのココだけの話

  • Sony Music | Tech Blogバナー

公式SNSをフォロー

ソニーミュージック公式SNSをフォローして
Cocotameの最新情報をチェック!