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ダフト・パンク後編スマホメイン
連載Cocotame Series

担当者が語る! 洋楽レジェンドのココだけの話

ダフト・パンク【後編】「ちゃんと入ってました!」心から音楽を愛するふたりの素顔

2023.05.17

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世界中で聴かれている音楽に多くの影響を与えてきたソニーミュージック所属の洋楽レジェンドアーティストたち。彼らと間近で向き合ってきた担当者の証言から、その実像に迫る。

今回のレジェンドは、フランスのエレクトロミュージック・デュオ、ダフト・パンク。2013年にリリースしたアルバム『ランダム・アクセス・メモリーズ』が、2014年開催の第56回グラミー賞で「最優秀レコード賞」「最優秀アルバム賞」の主要2部門を含む5部門を受賞。そして今年5月には、未発表音源を追加収録した10周年記念盤『ランダム・アクセス・メモリーズ(10th アニバーサリー・エディション)』がリリースされた。

2021年に解散したのちも大きな存在感を放つダフト・パンクが、次世代の音楽シーンにもたらしたものとは? 当時の担当ディレクターに話を聞いた。

後編では、インタビュー時のエピソードやメンバーの素顔について語ってもらった。

ダフトパンクアー写

ダフト・パンク Daft Punk

フランス出身のトーマ・バンガルテルとギ=マニュエル・ド・オメン=クリストによるふたり組。1993年結成。これまでに『ホームワーク』(1997年)、『ディスカバリー』(2001年)、『Human After All~原点回帰』(2005年)、『ランダム・アクセス・メモリーズ』(2013年)の4枚のオリジナルアルバムを発表。レーベル移籍作品となった『ランダム・アクセス・メモリーズ』は第56回グラミー賞で、「最優秀レコード賞」「最優秀アルバム賞」の主要2部門を含め、ノミネートされた全5部門を受賞するという快挙を成し遂げた。2021年2月22日午後2時22分、「エピローグ」と名付けられた8分間の映像を公開するとともにデュオの解散を発表。

  • 市川陽子写真

    市川陽子

    Ichikawa Yoko

    ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル

撮影時にはロボット係がいた!

──(前編からつづく)『ランダム・アクセス・メモリーズ』のプロモーションでは、ダフト・パンクへのインタビューはどのように行なわれたのでしょうか。

直接インタビューができるということになって、ロサンゼルスに向かいました。そのときに私はメンバーと初めて会うことができたんです。ダフト・パンクはキャラクターを作り込んでいるので、ロボットの姿になったときはひと言もしゃべらないんですよね。グラミー賞の授賞式も別の人がスピーチしたり。ですから、インタビューでどれぐらい話してくれるのかは未知数でしたが、実際に会ってみると素顔の彼らはおしゃべりで、根っからの音楽好き、音楽愛好者なんだなというのがひしひしと伝わってきました。

ダフト・パンクに限らず、海外アーティストのインタビューはだいたい30分からどんなに長くても1時間程度で行なわれるんですが、ダフト・パンクのふたりは時間をあまり気にせず、納得するまで話してくれました。「やるよ」と言ったものに関しては、誠意をもって対応してくれるというか。私たちに与えられたインタビュー時間が終わったあとも、「じゃあ、今、待ってもらっている人たちの取材後に、改めて時間を作るから別の場所でつづきをやろう」とも言ってくれたんです。インタビュアーの方も新作に対する期待値が高くて質問の量が多く、1時間ぐらい話してくれたらラッキーだなと思いながら、30分過ぎたあたりからドキドキしていたんですが、結果として1時間半ぐらいインタビューに応じてくれました。

──プロモーションの文化が異なる海外のアーティストでは、特に珍しいケースですよね。

彼らも新作に対して話したいことがいっぱいあったんだと思います。インタビューの内容も割とマニアックな話になっていたんですが面倒がらずに、インタビュアーの方が自分たちの想いや考えをしっかり理解してくれるまで話してくれました。逆にインタビュアーの方に納得してもらえたのかを、彼ら自身が気にしていましたね。『ランダム・アクセス・メモリーズ』というアルバムが、なぜこういう作品になったのかを、ちゃんとわかってほしいという気持ちの表われだったのかなと。

また、彼らがリスペクトする松本零士先生をはじめ、日本に対しては特別な思いを抱いてくれていたからというのもあったと思います。それにしても、取材のときはいつも終わりの時間ばかり気にしていたのに、なんと贅沢な時間になったことか……。こんなインタビューの立ち合いは初めてでした。

ダフト・パンク写真

──ディレクター冥利に尽きる取材だったんですね。インタビューに加えて、撮影もできたのでしょうか?

はい、撮影もできました。そしてそこにもエピソードがあって。国内外問わずアーティストの撮影となると、スタイリストやヘアメイクのスタッフがいるのが当たり前のことですが、なんと彼らの場合は「ロボット係」がいたんです!

──ロボット係!?

取材現場で、このスタッフは何を担当しているんだろうと不思議に思っていたら、いざ撮影をするという段になって、ガラガラガラとマスクとスーツが入った巨大なケースを持ってきてびっくりしました。“ロボットをケアしている専門スタッフです”と挨拶してくれたのが印象に残っています(笑)。

彼らはマスクの表面についた指紋を拭き取ったり、確かにロボットをケアするスタッフでした。マスクはキラキラとした鏡面仕上げなので、撮影する際も反射の映り込みを気にしなくてはいけなかったんですよね。ロボットにはロボットなりのケアが必要なんだと、改めて感じた瞬間でした。

──ダフト・パンクのふたりは本当にそのロボットに入っていたんですか? いろいろなスタッフがいるなら、中の人を担当するスタッフもいたりして(笑)。

いえ、ちゃんと入ってました! この目で見たので確かです(笑)。撮影前に“これからセットアップするから”と言われたあと、ふたりがロボットの姿になって出てきてくれました。それぞれの身体にぴったり合うように作られているので、むしろ影武者を立てる方が大変だと思います。マスクで視野が狭くなって、歩くときにちょっとおぼつかなくなると、ロボット係のスタッフがさりげなくフォローしていて、さすが阿吽の呼吸だなと思いました。

音楽のトレンドを一気に変えたアルバム

──メンバーのトーマ・バンガルテルとギ=マニュエル・ド・オメン=クリストはどんな人でしたか?

ふたりとも穏やかで、ギ=マニュエルは天才肌という感じがしましたね。フランス人なので英語はネイティブではありませんから、どう話そうかと少し詰まるような場面で、トーマがすっと入ってフォローしたり、とても良いコンビネーションでした。トーマは受け答えも非常にスマートで、ふたりとも音楽に対してあふれんばりの愛情を持っていることが伝わってきました。

ちなみに、取材の質問のなかに「一番好きなアーティストを教えてください」という項目があったんですが、ギ=マニュエルはすごく悩んで、ひとつ挙げることは難しいなと言いながら、ザ・ビートルズの名前を出したんです。あんなにポップでありながら前衛的で挑戦をしているから、と。ダフト・パンクもポップでありながら、さまざまなことに挑戦してきたアーティストとしての完璧主義者です。そういう意味においては、ザ・ビートルズという答えはありふれているかもしれませんが、とても納得できましたね。

Daft Punk - Lose Yourself to Dance (Official Version)

──まだ2013年の当時では、ブギー/ディスコの再評価というのはアンダーグラウンドな動きだったと思うんですけど、『ランダム・アクセス・メモリーズ』によって爆発的な流行を生み出し、音楽のトレンドを一気に変えた作品となりました。それはまさにザ・ビートルズが作品ごとに新たな音楽を提示したのと同じように感じます。

EDMをはじめとするエレクトロなサウンドが世界中を席巻していたのが、生音に回帰していったというか。ある意味、真逆の方向からダンスミュージックに挑戦したということですよね。ダフト・パンクの作品においても、あれだけ多くのゲストボーカルを迎え入れたのは初めてのことでしたし、結果的にシーンを変えてしまった作品になったと思います。それまでダンスシーンを更新していたダフト・パンクが、『ランダム・アクセス・メモリーズ』のヒットによってポップシーンにまで広がり、新たなシーンを作り出したと言えるのではないでしょうか。

ナイル・ロジャースやジョルジオ・モロダーといった、自分たちが憧れていたミュージシャンが参加してくれて、自分たちが作ってきたアルバムのなかで一番楽しかったし、理想形に近い作品になったと語っていました。だからこそ、1時間半も話してくれたんじゃないかなと、今にして思いますね。

小学校のプールで聴いた忘れられない思い出

──『ランダム・アクセス・メモリーズ』のリリースに先駆け、2013年4月に第1弾シングルとして「ゲット・ラッキー」がリリースされました。日本での反応はどうだったのでしょうか。

まず海外各国、各地域のチャートで1位になったのが日本でも追い風になりました。話題に上りやすかったですし、ラジオなどでもオンエアされやすかったということがありましたね。もちろん日本のプロモーションチームもすごく頑張ってくれて、たくさんのラジオ局でチャートの1位になり、日本でも「ゲット・ラッキー」がダフト・パンクの代表曲のひとつになったと思います。

何よりも楽曲が持つパワーですよね。鼻歌で歌えたり、口ずさめたりするところが「ワン・モア・タイム」と共通していますし、万人に受け入れてもらえるツボを見事に突いた、バランスの良い曲だと思います。まったく洋楽を聴かない私の友人から、「ゲット・ラッキー」は聴いたことがあると言われたときは、“やった!”という気分になりました。そこまで浸透したんだなって、とてもうれしかったですね。

──まさにコンビニからカフェ、街のあらゆるところで「ゲット・ラッキー」が流れていたんじゃないでしょうか。その勢いに乗って、アルバムも大ヒットしました。

アルバムもオリコンチャートで洋楽1位、総合でも3位という大健闘の結果になりました。そのころもいろいろとほかのアーティストのリリースが重なって忙しい日々だったのですが、上司からリリース日の朝に既にバックオーダーが5千枚を超えているとメールをもらったとき、ああ苦労が報われたなと感じました。

あと、個人的にすごくうれしかったエピソードがあるんです。地元の小学校の室内プールが休日に一般開放されていて、たまに泳ぎに行っていたんですが、いつもは有線放送が流れているのに、あるとき『ランダム・アクセス・メモリーズ』が1曲目から最後の曲までかかったんですよ。年配の方がいたり、家族連れで子どもたちも遊び回っている小学校のプールという、ある意味ダンスとは一番かけ離れた場所で、誰かがわざわざ選んでCDをかけてくれたんだなと思ったときは感極まって、泳ぎながら泣いてしまいました。収録時間が75分ぐらいあるので泳ぎ疲れましたが(笑)、忘れられない思い出です。

Daft Punk - Instant Crush (Video) ft. Julian Casablancas

日本への愛情を再確認した10周年記念盤

――このたび『ランダム・アクセス・メモリーズ(10th アニバーサリー・エディション)』がリリースされるにあたって、再びこのアルバムと向き合う機会があったと思いますが、何か新たな発見などはありましたか?

Daft Punk - 10 Years Of Random Access Memories

Daft Punk - Infinity Repeating (2013 Demo) [ft. Julian Casablancas + The Voidz]

ここに収められたアウトテイクやデモ音源を聴いてみて、いろんなことを試してるなあ、これだけ作り込んでいたんだなあ、と改めて感じました。ふたりが曲のアイデアについて話しているところを収めた音源が入っているのですが、すごく楽しそうに会話しているんですよね。その雰囲気だけでも、音楽が大好きで、情熱を持って制作していることが伝わってきます。音楽を心から愛しているダフト・パンクの作品なんだなと。

ディープでもあり、メインストリームでもあるという、音楽を絶妙なバランスで作っていることも再認識しました。こうしたレア音源を収録した記念盤というのは、いろいろな作品でリリースされていますが、『ランダム・アクセス・メモリーズ』だからこそ興味深い、ある意味ドキュメンタリーとも言うべき2枚組になっています。

──日本のためにオリジナルのリリース時に彼らが提供してくれたボーナストラック「ホライズン」も改めて収録されましたね。

今回の『ランダム・アクセス・メモリーズ(10th アニバーサリー・エディション)』に収録された、(同曲の序章トラックとともに)唯一完成している楽曲になります。ということは当時、ボーナストラックとして提供してくれた「ホライズン」しか、完成曲が残っていなかったということになります。それがわかって改めて彼らに感謝しましたし、またリスペクトし直しました。ぜひ、この記念盤を聴いて、ダフト・パンクからの日本への深い愛情を感じてほしいですね。

文・取材:油納将志

リリース情報

ランダム・アクセス・メモリーズ 10thジャケ写

『ランダム・アクセス・メモリーズ(10th アニバーサリー・エディション)』
2023年5月12日発売
詳細はこちら(新しいタブで開く)

関連サイト

公式サイト
https://www.sonymusic.co.jp/artist/daftpunk/(新しいタブで開く)

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