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アーティスト・プロファイル

小松亮太の挑戦――“タンゴを売れる音楽にしたい”デビュー25周年を迎えたバンドネオン奏者【後編】

2023.10.21

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気鋭のアーティストの実像に迫る連載企画「アーティスト・プロファイル」。

今回は、今年デビュー25周年を迎えたバンドネオン奏者・小松亮太をフィーチャーする。タンゴの本場、アルゼンチンでも高く評価される世界的バンドネオン奏者であると同時に、クロスジャンルな企画を通して日本にタンゴの魅力を広く伝えてきた伝道師。

9月には、アニメソングの名曲をタンゴスタイルでアレンジしたアルバム『コラソン・デ・アニソン』と、ベストアルバム『小松ジャパン第弐集』を同時リリースした小松亮太に話を聞いた。

後編では、『コラソン・デ・アニソン』の選曲やコラボレーションした演奏家とのエピソード、そして今後の展望について語ってもらった。

小松亮太プロフィール画像

小松亮太 Komatsu Ryota

1973年生まれのバンドネオン奏者。高校時代より才能を発揮し、伝説的歌手である藤沢嵐子の1991年のラストステージではバンドネオンのソロで伴奏を担当。1998年のメジャーデビュー以降は、ニューヨークのカーネギーホールや、アルゼンチンのブエノスアイレスなどでタンゴ界における記念碑的な公演を実現している。アルバムはソニーミュージックより20枚以上をリリース。『ライヴ・イン・Tokyo2002』が高く評価され、2003年にはアルゼンチン音楽家組合(AADI)とブエノスアイレス市音楽文化管理局から表彰された。2023年7月、デビュー25周年を迎えた。

原曲のイメージを壊さず、タンゴでアレンジ

タンゴの本質を伝え、その存続と発展を願う小松亮太は、同時に異なるジャンルへのリスペクトも欠かさない。新譜『コラソン・デ・アニソン』にも、その姿勢が貫かれている。

「タンゴでアレンジしつつも、原曲を知っている人たちのイメージを壊さないようにしました。『CAT’S EYE』を知っている人には『CAT’S EYE』に、『薔薇は美しく散る』を知っている人には『薔薇は美しく散る』にしっかり聴こえると思います。

タンゴにアレンジするにあたっては、まずリズム、それからリハーモナイズ※が大事です。例えば『薔薇は美しく散る』では、1960~70年代に活躍したセステート・タンゴというタンゴの六重奏団のテイストを取り入れました」

※リハーモナイズ
コードや和声を別のものに変えたり、新たに和音を付け加えたりすること。これによって、同じメロディでもガラリと印象が変わる。

小松亮太画像1

小松亮太のアレンジによって、まったく違う表情を見せるアニメソングの数々。膨大に存在するアニメソングのなかから、『コラソン・デ・アニソン』に収録する曲は極めてシンプルな理由で選ばれていったという。

「最初は単純に、有名な曲と、タンゴにアレンジしやすい曲から選んでいきました。もう、曲はたくさんあるので(笑)。でも一応、自分で見たことがあるアニメから選んでいます。『はいからさんが通る』なんかは初回放送時、僕は幼稚園生だったので、1980年代の再放送で見ていたんですよね。夕方になるとテレビの前に座って、いつも見ていましたよ。

アレンジに関しては、書きやすそうなものから書いていって、1曲につき1日程度のペースで進めていきました。タンゴにアレンジしやすいかどうかは、まず、そのメロディがタンゴのリズムにはまるかどうかで決まります。心を込めて歌える感じのものであれば、だいたいタンゴにアレンジしやすいですね」

とは言え、日本のアニメソングには1990年代以降のヒット曲もたくさんある。今作には2000年代のアニメ『モノノ怪』の主題歌が収録されているが、今後は近年の作品をもっと取り上げていく予定はあるのだろうか?

「そうですね……1990年代あたりで一度、音楽の世界に節目があって、メロディが重要視されなくなったように思います。1980年代までは確実にメロディがあったのですが、2000年代以降の曲をアレンジするのはかなり難しいかも。でも、やってみて面白ければ取り上げていきたいですね」

クラシック演奏家とのコラボレーション

『コラソン・デ・アニソン』は、クラシック演奏家たちとのコラボレーションも聴きどころ。「銀河鉄道999」ではサックス奏者の須川展也、「ひこうき雲」では弦楽四重奏団のクァルテット・エクセルシオをゲストに迎えている。いずれも小松亮太とこれまでに共演したことのある名手たちだ。

「須川さんは、僕にとって世界一のサックス奏者。須川さんの演奏を聴いていると、“サックスってこんな楽器だったのか”って思うんだけど、実は大きな間違いで。普通の人では到底吹けないことを平気な顔して吹いてるんです。本当に何を吹いてもうまいんですよ。

須川さんとコラボレーションした『銀河鉄道999』は、少しタンゴっぽさが薄いかもしれませんが、バンドネオンの扱い方がポイント。あの低音の動きとリハーモナイズは、タンゴ特有のアレンジです」

小松亮太画像2

須川展也(写真左)

小松亮太『銀河鉄道999 feat. 須川展也』MV Full× 360 Reality Audio

クァルテット・エクセルシオとの「ひこうき雲」では、ノスタルジックな響きが印象的。弦楽四重奏だけであの聴き馴染みのあるメロディがひと通り歌われたあと、バンドネオンが満を持して登場する。

「ピアノがいないアンサンブルって、本当に大変なことで。ピアノだったらひとりでできることを、弦楽器奏者4人が息を合わせてやるわけです。一人ひとりの主張がちゃんと出ていて、なおかつアンサンブルとしてぴたりと合ってる。そういう世界がまずあって、そこに僕がちゃんと乗っていかなくちゃいけないので、なかなか難曲でしたね」

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クァルテット・エクセルシオの面々

タンゴは今、正念場

デビュー20周年にリリースした『小松ジャパン~ザ・グレイテスト・ヒッツ』では坂本龍馬、今回の25周年にリリースした『小松ジャパン第弐集』では土方歳三と、節目ごとのベストアルバムで幕末の志士のコスチュームを着てジャケットに写っている小松亮太。そこには、さまざまなジャンルの音楽と交流し、タンゴという文化を世界に向けて発信しながら、強靭な一本筋を通す彼の生きざまが反映されているように見える。

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『小松ジャパン~ザ・グレイテスト・ヒッツ』

「タンゴの世界でこういうことまで突き詰めて考える人は残念ながらいないし、いまだに“タンゴと言えばピアソラ”と思い込んでいる人が多い。これはもう、いくら口で説明してもどうしようもないことで、とにかくまずは、ピアソラに頼らずに売れるタンゴを作ることが大事なんです。

例えば、“ジャズだってマイナーな音楽だよ”と言う人もいますが、ジャズはリスナーの人口がずっと多いじゃないですか。それにジャズミュージシャンには若い人が年々出てくるし、いろんな大学に演奏サークルもある。なぜそうなるかと言うと、ピアノ、ドラム、サックス、ギターなど、身近な楽器で演奏できるからなんですね。

でもタンゴは、バンドネオンという楽器がどうしてもネックで……。そもそも楽器の製造が追いついていないし、演奏する人の数はもっと少ない。本来のタンゴを知っているミュージシャンは若くても75歳とか、そういう世界になってしまってるんです。今、ここが正念場ですよね」

小松亮太画像5

タンゴ音楽がポピュラー音楽として広く売れて、やがてはピアソラ以前を含めた本来のタンゴに人々が行き着くこと。そして、タンゴやバンドネオンの演奏家が増え、そのレベルがもっと高まることが、小松のゴールだ。

「繰り返しになりますが、タンゴは芸術音楽じゃなくて、ポピュラー音楽なんです。こんなにマイナーなのに、どこがポピュラー音楽なんだって感じなんだけど(笑)。僕はやっぱり、タンゴをポピュラー音楽に引き戻したいんです。

とにかく一番良い方法は、売れることですよ。“なんかカッコ良いんだよな”“今まで知らなかったけど、どうもこれはすごいぞ”っていう話が出てくること。売れれば、未来も明るいものになりますから」

一過性のブームやステレオタイプなイメージの向こうに

現在の小松亮太の活躍を見てタンゴ、そしてバンドネオンを志す若者もいる。コンサート終演後に彼の楽屋を訪ねる人、テレビを見て手紙を送ってくる人……小松にバンドネオンを習う生徒は、日本だけでなく韓国や台湾、インドからもやって来るという。

「ただね、本当にタンゴを広めるためには、実はそれでは全然足りないんです。一番良いのは、とにかく不特定多数の子どもたちが演奏できるような環境を整えること。まず分母を大きくしないと、天才はなかなか現われません。

アルゼンチンのタンゴ全盛期を作ったミュージシャンは、みんなそういう環境から出てきた人たちなんですね。1930~40年代生まれの人たちは、タンゴファンの両親になかば無理矢理習わされて、いつの間にかうまくなって、プロになった。そういう人たちが、全盛期を作ったんです。

そういう意味で僕は、タンゴミュージシャンの両親から生まれたタンゴミュージシャンっていう、日本では唯一の人間かもしれない。だからちょっと意識が違うのかもしれませんね」

小松亮太画像6

デビュー25周年を迎え、今後について何を思うのか。最後に改めて聞くと、小松亮太はやはり「タンゴを売っていくことを目指す」と繰り返した。

「“普及させよう”とか“芸術性が”とかじゃない。タンゴは売れるポテンシャルのある音楽なんです。ピアソラに頼った一過性のブームだったり、“情熱”とか“官能”といった印象が先立ってしまうと、音楽の深い内容まで聴いてもらえなくなってしまう。そうじゃなくて、ただ“タンゴって良い音楽だから聴いてみて”というところから始めないといけないと思います。タイアップやアニメソングとのコラボレーションも、その一環なんですね」

日本のタンゴを牽引する小松亮太の今後に注目したい。

文・取材:加藤綾子
撮影:干川 修

リリース情報

小松亮太『コラソン・デ・アニソン』ジャケット画像
 
『コラソン・デ・アニソン』
発売日:2023年9月27日(水)
価格:3,300円
収録曲はこちら(新しいタブで開く)
 
小松亮太『小松ジャパン第弐集』ジャケット画像
『小松ジャパン第弐集』
 
発売日:2023年9月27日(水)
価格:3,300円
収録曲はこちら(新しいタブで開く)

関連サイト

小松亮太 ソニーミュージックオフィシャルサイト
https://www.sonymusic.co.jp/artist/RyotaKomatsu/(新しいタブで開く)
 
小松亮太 オフィシャルサイト
https://ryotakomatsu.net/(新しいタブで開く)

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