羊文学の現在地とこれから――J-POPの中心でオルタナティブロックをかき鳴らす【後編】
2024.03.06
ソニー・ミュージックレーベルズ
気鋭のアーティストの実像に迫る連載企画「アーティスト・プロファイル」。
今回は、塩塚モエカ(Vo&Gt.)、河西ゆりか(Ba.)、フクダヒロア(Dr.)からなるオルタナティブロックバンド、羊文学をフィーチャーする。
2020年にF.C.L.S.レーベル(ソニー・ミュージックレーベルズ)よりメジャーデビュー。アートとポップの両面を兼ね備えた音楽性で注目を浴び、アニメ『平家物語』『呪術廻戦』のテーマ曲で広く知られるように。2024年4月に予定されている横浜アリーナでの単独公演はチケットが即完売という人気ぶりだ。
海外での展開も期待される羊文学の魅力とは何か? 彼らの創作の源を辿りながら掘り下げていく。
前編では、2023年12月にリリースした3rdアルバム『12 hugs (like butterflies)』と、アジアをはじめとする海外での活動について話を聞いた。
羊文学 Hitsujibungaku
(写真左から)フクダヒロア(Dr.)、塩塚モエカ(Vo.&Gt.)、河西ゆりか(Ba.)からなるオルタナティブロックバンド。2017年に現在の編成となり、これまでEP4枚、フルアルバム1枚、シングル「1999 / 人間だった」をリリース。2020年8月19日にF.C.L.S.レーベル(ソニー・ミュージックレーベルズ)より「砂漠のきみへ / Girls」を配信リリースし、メジャーデビュー。2023年12月には、3rdアルバム『12 hugs (like butterflies)』をリリース。2024年4月21日に横浜アリーナワンマンライブ『羊文学 LIVE 2024 “III”』、3月からはアジアツアー『羊文学 Hitsujibungaku ASIA TOUR 2024』を開催する。
2023年12月にアルバム『12 hugs (like butterflies)』をリリースした羊文学。1st『POWERS』(2020年)、2nd『our hope』(2022年)につづく、メジャー3rdとなるアルバムの反響や手応えから聞いてみた。
『12 hugs (like butterflies)』
【収録内容】
<CD>
「今回のアルバムは、聴いてくださった方々の感想で、好きな曲がバラバラだったのがとても印象的でした。家族やメンバーも、それぞれ好きな曲が違って。それが面白いなと」(河西ゆりか)
「昨年末はバタバタしていて、アルバムについて誰かと話す時間があまりなかったんですが、友だちがInstagramのストーリーズに自分が好きな曲を上げて、“この曲に救われた”とコメントを書いてくれたりして、それはうれしかったですね」(塩塚モエカ)
「1stは初期衝動のままに作ったアルバム、2ndはちょっとポップな路線に挑戦したアルバムだとしたら、3rdは原点回帰のような作品で、初期衝動を感じながらプレイしていたところはありますね。ドラムで言うと、前作はけっこう慎重に、細かい部分にまで神経を行き渡らせて叩いた曲もありましたが、今回はゴースト※を入れたり、手癖といったものも感じられる作品になったと思います」(フクダヒロア)
※ゴースト
聞こえるか聞こえないかぐらいの演奏音を「ゴーストノート」という。こういった音を入れることで独特のグルーヴ感を出すことができる。
多くのバンドにとって3枚目は“勝負のアルバム”と言われるが、彼らのなかでは特別な気負いはなかったという。それは、素のままの自分を抱きしめているようなアルバムジャケット、1曲目「Hug.m4a」の素朴な歌からも伝わってくる。
「“なにか新しいことをしよう!”って意気込んだり、“みんな聴いてよ!”って訴えかけたりするのとはちょっと違う、“自分たちのやりたいことを、やっていこうかな”みたいな気持ちでした。今回はスタジオに入る日がスケジュール上に点在していて、そこに間に合うようにデモを作って持って行くような流れだったので、1曲を深く練るというよりは、ひと筆書きっぽく作っていったというか。家でデモを半分くらいまで作って、スタジオでみんなと合わせながら完成させていきました」(塩塚)
今作では特に、サウンドの立体感と響きの豊かさが印象的だが、それはエンジニアとのタッグが実を結んだ結果でもあるようだ。
「インディーズ時代からずっと一緒にやってきたエンジニアさんとのこれまでのサウンドもすごく好きなんですが、今回は奥行きのある音を追求したいと思って、新しいエンジニアの方とご一緒させていただきました。曲自体はシンプルだけど、音の手触りやアレンジで聴かせるのが今のトレンドにも合っていると思ったので、サウンドにはこだわりましたね。
例えば『Flower』のレコーディングのとき、家で作るデモのような宅録っぽい質感のコーラスを入れてみたいと提案したら、エンジニアの方がいろいろ工夫して最後のところに入れてくださったり」(塩塚)
「『Flower』はギターとドラムだけで始まるのですが、ふわっとしたドラムの音像も“あれじゃない、これじゃない”って言っていろいろ試したよね」(フクダ)
「『Addiction』もけっこう研究しました。ギターとベースが同じフレーズを弾くところで、重ならないようにほど良い歪みを入れたり」(河西)
TVアニメ『呪術廻戦』第2期「渋谷事変」のエンディングテーマとして書き下ろした「more than words」ではリズムの斬新さが際立った。
「あの四つ打ちのビートは、塩塚からデモが上がってきたときから入っていましたが、これまでの羊文学ではあまりやってこなかったアプローチなので、新しい挑戦でしたね」(フクダ)
滅びゆくものの美しさを柔らかな筆致で描いたアニメ『平家物語』のオープニングテーマ「光るとき」も素晴らしかったが、アニメとのタイアップには今後も取り組んでいきたいかと尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「はい、取り組んでいきたいとは思います。ただ、アニメのテーマ曲は“89秒”という尺が決まっているので、その枠内で書くのがものすごく難しいんですよね。私はのんびりしちゃって、AメロもBメロもサビも長くなってしまう。短い尺でテンションをビュンッて上げなきゃいけないような曲は、自分がこれまで聴いてきた音楽にはあまりなくて。でも、やってみると面白くて、勉強になります。私にとって、アニメはいつも89秒との戦いです」(塩塚)
「more than words」は国内でのヒットはもちろんのこと、海外からも多くの反響があったという。
「YouTubeやTikTokに公開されたミュージックビデオに海外の方からたくさんのコメントをいただきました。英語圏だけでなく、スペイン語や韓国語とかもあって。ああ、世界の人たちが聴いてくれたんだと実感が湧いてうれしかったです」(河西)
「以前も、アニメ好きのフランス人TikTokerのおふたりと一緒に撮影したりして。かわいかったよね」(塩塚)
羊文学 - more than words (Official Music Video) [TVアニメ『呪術廻戦』「渋谷事変」エンディングテーマ]
2022年に台湾のアーティスト、LÜCYとのコラボレーション楽曲「OH HEY」をリリース、2023年にはバンド初となる海外ワンマンライブを台北と上海で開催し、両公演ともにチケットは即完売。香港、仁川、温州の野外音楽フェスにも出演するなど、アジアを中心に海外での活動も広がってきた。さらに2024年3月より初のアジアツアーとなる『羊文学 Hitsujibungaku ASIA TOUR 2024』の開催も決定し、ソウル、北京、上海、台北、バンコクなどをめぐる全7公演が発表されたところだ。
「旅行が好きなので、世界のいろいろなところに行ってみたいという気持ちはあります。訪れた土地でいろいろな人に会って、一緒に仕事をすると、さらに楽しいですね」(塩塚)
「海外に行くと、自分たちの知らなかった音楽やカルチャーとの出会いが面白いです。こんなのがあるんだ! っていう発見があって」(河西)
「365日、顔も名前も性格も、毎日同じ“自分”として過ごしている日々のなかで、言葉も文化もまったく違う国の人たちと会うと刺激をもらえますよね。台湾でのライブは、日本とは盛り上がる箇所が違うので新鮮でした。『hopi』の最初のリフが鳴った瞬間にワーッとなったり。
羊文学の音楽は、オルタナティブロック、ドリームポップ、シューゲイザー、ポストロックと呼ばれるようなジャンルとの親和性を意識していたりするので、そういったコアな音楽ファンがいる海外との相性も良いのかなと感じています」(フクダ)
海外での活動となると、歌詞をどう伝えていったら良いのかという課題もある。例えば英語で歌うことも視野に入れているのだろうか?
「自分で英語詞も書けたらやりたいなとは思うのですが、全部はとても書けません。やっぱり詩的表現はネイティブの言葉じゃないとなかなか難しくて……。大学の友人に翻訳ができる子がいるので、その子に力を借りて、『1999』と『more than words』の英語バージョンを作ったりはしました」(塩塚)
確かに繊細で柔らかな羊文学の歌詞は、塩塚モエカの日本語へのこだわりから生まれる部分も大きいが、最近は海外に向けた活動のなかで少しずつ考えが変わってきたと語る。
「以前までは歌詞は全部日本語じゃなきゃイヤだっていうこだわりがあって、英語の単語もあえてカタカナで表記していました。何となくカッコイイから英語を使うっていうのが苦手だったんです。でも、ミュージシャンの先輩に“海外でライブするなら、ひと言でも英語が入っていたほうが会場のみんなで歌えて良いよ”と言われて。
確かにそうだなと思って、英語をワンフレーズ入れてみたりするようになりました。ちゃんと届けたい場所があって、届く言葉を使うと、歌詞の幅も広がるし、それがフックになって広がっていくと思うので」(塩塚)
文・取材:原 典子
撮影:干川 修
『12 hugs (like butterflies)』
発売日:2023年12月6日(水)
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