『機動戦士ガンダムSEED』がなかったらアーティスト・玉置成実は生まれてなかったかもしれない【前編】
2024.03.14
ソニー・ミュージックレーベルズ
気鋭のアーティストの実像に迫る連載企画「アーティスト・プロファイル」。
今回は、塩塚モエカ(Vo&Gt.)、河西ゆりか(Ba.)、フクダヒロア(Dr.)からなるオルタナティブロックバンド、羊文学をフィーチャーする。
2020年にF.C.L.S.レーベル(ソニー・ミュージックレーベルズ)よりメジャーデビュー。アートとポップの両面を兼ね備えた音楽性で注目を浴び、アニメ『平家物語』『呪術廻戦』のテーマ曲で広く知られるように。2024年4月に予定されている横浜アリーナでの単独公演はチケットが即完売という人気ぶりだ。
海外での展開も期待される羊文学の魅力とは何か? 彼らの創作の源を辿りながら掘り下げていく。
後編では、バンドの核となる音楽性と独特な歌詞の魅力について、そして今後の展望を語ってもらった。
羊文学 Hitsujibungaku
(写真左から)フクダヒロア(Dr.)、塩塚モエカ(Vo.&Gt.)、河西ゆりか(Ba.)からなるオルタナティブロックバンド。2017年に現在の編成となり、これまでEP4枚、フルアルバム1枚、シングル「1999 / 人間だった」をリリース。2020年8月19日にF.C.L.S.レーベル(ソニー・ミュージックレーベルズ)より「砂漠のきみへ / Girls」を配信リリースし、メジャーデビュー。2023年12月には、3rdアルバム『12 hugs (like butterflies)』をリリース。2024年4月21日に横浜アリーナワンマンライブ『羊文学 LIVE 2024 “III”』、3月からはアジアツアー『羊文学 Hitsujibungaku ASIA TOUR 2024』を開催する。
(前編からつづく)ここで、改めて羊文学というバンドの歩みや音楽性について振り返ってみたい。2012年に結成、2017年より現在のメンバーで活動しており、2020年のメジャーデビューから今年で4年目を迎える。「バンドとしてのターニングポイントはいつだったと思う?」という質問に、塩塚モエカからはこんな答えが返ってきた。
「私はこのバンドを10年以上やっているわけですが、うーん……もうずっと、そのとき、そのときがターニングポイントだったなと思います。例えば、『1999』のミュージックビデオの再生回数が伸びたのは最初のターニングポイントだったのかもしれないけれど、ライブハウスでやっていた当時は、そんなにたくさんの方に聴いてもらっているっていう実感はなかったですし。その後も、初めてのタイアップが決まったり、アニメのテーマ曲をやらせていただいたり、たくさんの出来事があって。これまで1年として同じ年はありませんでした」(塩塚)
羊文学 "1999" (Official Music Video)
これを横で聞いていた、インディーズ時代から羊文学をよく知る担当A&Rの古川友理(ソニー・ミュージックレーベルズ)は次のように語る。
「2017年に今の体制になってから、急にカッコ良くなって、最強になったんですよ。ターニングポイントは間違いなくそこですね」(古川)
メンバー3人それぞれが好きな音楽も、似ているようで、実は少しずつ異なるのだという。
「先ほども言ったように、僕はシューゲイザーやドリームポップ、あとは日本のインディーズとかをよく聴きます」(フクダ)
「私はもうちょっと王道のロックっていう感じの音楽が好きです」(河西)
「私は、自分でも何が好きなのかよくわからないかも。フクダと重なる部分もあるし、J-POPもよく聴くし、最近はテクノや電子音楽みたいなものも聴きます」(塩塚)
洋邦問わず、幅広い音楽を聴いて、吸収してきた羊文学。例えば1990年代にポストロックを聴いていた人は、彼らのサウンドを聴いて懐かしさを覚えることもあるだろう。しかし、それは単なるコピーやリバイバルではない。歪んだギターをかき鳴らし、エッジのきいた音楽性を前面に出しながらも、決してポップさを失わない。そのアートとポップの絶妙なバランスこそが、羊文学の魅力だと言える。
「アートとポップ……そうですね、バンド結成当初から、どっちもやっていけたらなと思っていました。明るい曲を作れば、暗い曲を演奏しても許してもらえるかなって、自分のなかでバランスをとっていたのかもしれません。この暗い曲をみんなに聴いてもらいたい。そのために、明るい曲で補助線を引いてみよう。そしてキャッチーな曲で羊文学を知ってくれた人を、地引網のように暗い世界に引きずり込もうと(笑)。
そうは言っても、自分でもいろいろな音楽を聴くとき、やっぱり歌詞があって、メッセージが伝わる曲のほうが、意味が全然わからない曲より聴きやすいし、長く聴いていられます。作るときも、ポップな曲のほうが作りやすい。でもちょっと、アーティストぶりたい部分もあったりして。そんなバランスで成り立っているのかなと思います」(塩塚)
ソニー・ミュージックレーベルズで、長年、洋楽を担当してきた古川友理は、そんな彼らの音楽の良き理解者だ。
「今の日本の音楽シーンの真ん中からちょっとズレているところが羊文学の魅力。“そこじゃない”っていうところを真ん中に据えて活動しているのが面白いですよね。
ちょっとズレているというのは、つまりJ-POPのメインストリームのように、曲の長さが厳格に決まっていたり、ABC構成で曲を書かなければいけなかったり、サビはこうでなければならない、ギターの音は小さくしなきゃいけない……といった暗黙のルールのようなものに縛られていないこと。私なんかは、ギターはもっと歪ませろ、もっと音量上げろと思うタイプだから(笑)。
おかしな話ですが、ソニーミュージックがあまりやらないような音楽を手がけているのが、F.C.L.S.というレーベルなんですよね。Suchmosにしても、CVLTEにしても。メインストリームじゃない音楽を、メインストリームにするのが楽しいんです」(古川)
その言葉を聞いて、塩塚がつづける。
「やっぱり、ちょっとだけヘンなところがあったほうが面白いですよね。それがきっかけで、少しずつ道が逸れていって、やがて時代が変化していく。私はすぐにズレていってしまいます。全部が一緒だと、飽きちゃうから」(塩塚)
サウンドとともに、聴き手を強く惹きつけるのは、羊文学の歌詞である。悲しいニュースにあふれ、人と人とが傷つけ合う世界で、自分はどうしたら良いのだろう――。そんな自問自答を抱えながら日々を過ごす私たちを、柔らかな言葉で包み込み、心の居場所を与えてくれる。
「私がけっこう大変な性格でして……いつでも自分について考えてしまうんです。戦争のニュースを見て、もっと世界の歴史を学ばなくちゃと思いますし、環境破壊についての本を読んで、“やばい、このままじゃ地球が!”と危機感を抱いたりもします。
けれど、実際の自分は部屋でうずくまって、“今日は誰々を傷つけてしまった。今後誰も傷つけず、自分も傷つかずに生きていくには”みたいなことばかり考えている。昔の自分と今の自分を比べて、“今の自分がこう思うのは、昔の自分のどこに原因があるのか?”とか。そうやってぐるぐる考えた答えが歌詞になっているんです。
でも、世の中にはそういうことを考える時間や余裕がない人もいるから、私たちの音楽を聴いて“あっ”って何かに気づくきっかけになったりするのかなって。それに、そうやって自分と、自分のまわりのことを考えることが、ひいては平和につながっていくのかもしれないと思うし」(塩塚)
そんな塩塚の書く歌詞を、メンバーふたりはどのように受け止めているのだろう?
「新しい歌詞を読んだら、感想は伝えていますね。これまでの歌詞は、イヤだったことを比喩にして表現したり、自問自答を繰り返すような内容が多かったですが、今回のニューアルバムは自分で自分を肯定していくというか、悩んでしまう自分も全部含めて“いいよ”って言ってくれるように変化していると感じました」(河西)
「『12 hugs (like butterflies)』というアルバムタイトルにも表われているように、自分で自分を抱きしめる“バタフライハグ”というひとつのイメージがあって。自分を肯定することによって、周りも背中を押してくれることってありますよね。1曲目の『Hug.m4a』にも端的な言葉で非常に強い思いが込められていて、すごく好きです」(フクダ)
2024年の羊文学は、前半からキャリア初となる挑戦がつづく。そのひとつが、3月29日のソウル公演から始まるアジアツアー。東南アジアはもともと、ポストロックやシューゲイザーといった音響系のバンドのファン層が厚く、これまでにも羊文学はワンマンライブを成功させてきた。さらに今年は大ヒットアニメのテーマ曲を引っ提げてのツアーとなるだけに、いっそうのファン層の広がりと盛り上がりが予想される。
そうした経験を経て、こちらもキャリア初となる4月21日の横浜アリーナ公演に臨むことになる。きっとひとまわりもふたまわりも大きくなって帰ってくるであろう彼らに、アリーナ公演に向けての抱負を聞いた。
「先日会場を見に行って、わああ大きい! って改めて思いました。巨大なステージにポツン、ポツン、ポツンと3人が立って演奏するのでしょうけど、ちゃんとステージ映えできるように頑張りたいです。無理して盛り上げるとかじゃなくて、小さいままで、光を放っているようなイメージ。そういうのが私たちらしいと思うから」(塩塚)
「サウンド面でも全然違う環境だと思うんですが、いつも通り演奏しようという感じです。本当に大きな舞台、私たちにとってのターニングポイントになる公演だからこそ、いつも通りの羊文学を見せないとなって」(河西)
最後に、今後挑戦したいこと、野望を聞かせてくださいと言ったところ、「うーん、なんだろう……」と考え込む3人。
「やっぱり羊文学を世界に紹介したいですね。世界中どこにでも行って、いろいろなフェスに出て、いろいろなアーティストとコラボレーションして。ソニーミュージックグループのネットワークも最大限いかしながら、日本の枠のなかだけに収まらないバンドにしていけたらと思います。ほらあなたたちも、こういう質問には本当のことを言ったほうが良いよ。きっと実現するから」(古川)
そう古川に促されて、未来へのイメージを言葉にしてくれた。
「自分の作品を、自分たちだけで作っていたら、いつも同じになっていってしまうから、いろいろな人と会って、話しながら作っていくのは面白いですよね。アニメの仕事も大変でしたが、ひとつのコラボレーションなわけで。LÜCYとのコラボレーションもすごく勉強になりましたし、これからもこういった取り組みはつづけていきたいです」(塩塚)
「僕は自分が影響を受けてきた音楽が海外のものなので、海外のアーティストと作品を作ることに興味があります」(フクダ)
「海外のフェスにも出ていきたいですね!」(河西)
限りない可能性を秘めた羊文学の活躍が、ますます楽しみだ。
文・取材:原 典子
撮影:干川 修
『12 hugs (like butterflies)』
発売日:2023年12月6日(水)
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