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連載Cocotame Series

クリエイター・プロファイル

かわいくてちょっとシュールな『のこのこ うちのコ』いじまさおりが辿り着いた「気楽に描く」創作スタイル【後編】

2023.11.17

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注目のクリエイターにスポットを当て、本人のパーソナリティや制作の裏側などを探るインタビュー「クリエイター・プロファイル」。

今回取り上げるのは、気鋭のキャラクターデザイナー・いじまさおり。家主と一緒に暮らすかわいい動物たちの日常を、ちょっぴりシュールに描いた『のこのこ うちのコ』で注目を集めているクリエイターだ。見ているだけで癒される自由気ままな動物たちは、どのようにして生まれたのか。いじまさおりの来歴、創作に懸ける思いとともに紐解いていこう。

後編では、彼女のクリエイティブに向き合う姿勢、クリエイターレーベル「UNI」での活動について迫っていく。

  • いじまさおりプロフィール画像

    いじまさおり

    Ijima Saori

    1991年生まれ。静岡県浜松市出身。関西在住。大阪芸術大学 キャラクター造形学科卒業。ファンシー文具メーカーのデザイナーとして6年勤務後、イラストレータとして活動をはじめる。SNSにてオリジナルキャラクター「のこのこ うちのコ」の連載、絵本制作、イラスト制作を中心に活動中。

癒しを押しつけない、自由気ままなキャラクター

前編からつづく)『のこのこ うちのコ』を描き始めてから、早1年半。初期設定から多少の変更もあり、いじまさおりとともに動物たちも少しずつ成長を遂げている。

「ソニー・クリエイティブプロダクツ(以下、SCP)の担当者から『無表情なキャラクターにしませんか?』という提案があったんです。確かに、無表情のキャラクターは多いですし、表情がないからこそ共感が得やすいこともあります。そこで、最初はできるだけ感情を出さずにキャラクターを描いていたのですが、だんだん目にハイライトを入れたり、感情が伝わるイラストを描いたりすることが増えてきて。もっといきいき描いてみようと思い、今のスタイルになりました」

いじまさおりの話を聞いていると、彼女の優れたバランス感覚に驚かされる。キャラクターを描くうえで、自分の好みを反映することも大事だが、それだけではひとりよがりなキャラクターになってしまうこともあるだろう。かと言って、ウケるキャラクターを狙いすぎると、あざとさやマーケティングの匂いが鼻につく。自分の好みを出しつつ、“より強いキャラクターにするにはどうすべきか”と常に論理的かつ、客観的に考えており、それがいじまさおりの個性にもつながっている。本人は、自分の持ち味についてどのように分析しているのだろうか。

「私は丸みを帯びたキャラクターを描くのが得意で、逆にシュッとしたキャラクターは全然描けないんです。会社員時代にキャラクターをデザインしたときも、『もうちょっと痩せさせて』と言われつづけて、『まだですか?』『もっとですか?』とほっそりさせるのに苦労しました。今はいくらでもぽっちゃりさせられるので(笑)、それが私の強みかもしれません。

あとは、シュールなイラストを描くのが得意なので、ただかわいいだけのイラストは描かないようにしています。ストーリー性があったり、『このコ、今どういう気持ちなのかな』と想像できたりするようなイラストを心がけていますね」

最近描いたなかで、気に入っているのはマフィンが大根の話を聞いてあげているイラストだという。

大根の話を聞くマフィンのイラスト

「一番シュールだな、私らしいなと思ったのは、このイラストですね。個人的には『ちょっと攻めすぎたかな、SNSのフォロワーが減ったらどうしよう』とか考えましたが、喜んでいただけたようでホッとしました」

ほかにも、テニスコートの金網に挟まって試合を眺めるぽんず、結婚式のご祝儀袋の水引の下に挟まれるととんなど、ユニークな着想のイラストを次々発表している。これら一風変わった設定は、どのようにして思いつくのだろうか。

、テニスコートの金網に挟まって試合を眺めるぽんずのイラスト

結婚式のご祝儀袋の水引の下に挟まれるととんのイラスト

「散歩をしているときに『ここにあのコたちがいたら面白いかな』と、想像をめぐらすことが多いですね。大根と話すイラストを描いたときには、ちょうど近所で大根が干してあったんですよね。私は今、田舎に住んでいるので畑も近くにあって、近所の方から二股に分かれた大根をもらったことがあったんです。そのときに『これ、歩きそうだな。マフィンに話を聞いてもらったら面白いかな』と、アイデアが湧いてきました。

そういうアイデアをスマホのメモ機能でストックしておいて、忘れないうちにスケッチブックにラフだけ描いておきます。そのアイデアだけだとあまり面白くならないときは、少し寝かせておいて『これとかけ合わせたら面白くなるかも』というプラスアルファの何かが浮かんだときに描くようにしています」

日常からインスピレーションを得て、できあがる『のこのこ うちのコ』の世界。さらに、いじまさおりが大切にしていることがふたつある。ひとつは「誰かを傷つけることはないか」。

「捉え方によっては、そのイラストで傷つく人がいるかもしれないので、そうならないように入念に考えていますね」

もうひとつは「押しつけがましくないか」。

「あえて『頑張らなくて良いんだよ』『みんなもゆっくり寝よう』と直接的に訴えかけるようなメッセージは、描かないようにしています。それよりも、見てくれた人それぞれが、キャラクターから汲み取ったものを自由に楽しんでほしいんです。

犬や猫がゴローンとしているだけで、見ている私たちも癒されますよね。私が目指しているのも、そういうキャラクターです。だからこそ、できるだけ『うちのコ』には自由に振る舞ってもらうよう意識しています」

寝転がっているととんのイラスト

気負わず、人目を気にしすぎず、楽に描く

SNSに新作イラストをアップするのは、毎週水曜日と金曜日。コンスタントに新作を発表しつづけるだけでも大変なうえ、1枚のイラストを仕上げるのに8~12時間はかかるため、スケジュールはなかなかハードだ。

「背景を描くのが苦手で、毎回ひーひー言いながら描いています(笑)。ただ、絵を描くのが嫌になるのは避けたいので、無理はせず、自分の機嫌を取るようにしています。今もドキドキしながら描いてはいますが、前よりは楽しく描けるようになった気がします」

創作をするうえで、心がけているのは楽しむ姿勢。

「イラストは自己表現という意識が強く、どうしても力んでしまうところがあるんです。完璧を求めすぎて、歯止めがきかずにずっと描きつづけてしまうタイプなので、『ダメだ、無理しちゃいけない』と自分で自分をコントロールできるように訓練しているところですね。

人の目を気にしすぎないというのも、課題のひとつです。メーカーでデザイナーをしていたころは、人の目を気にして描いていて、それも自分がしんどくなってしまった要因のひとつでした。でも、あまり他人を気にしすぎるとつまらないイラストになってしまうんですよね。『自分の心に刺さるものは、きっと誰かの心にも刺さるはず』と考え、気持ちを緩めるようにしています。

今のテーマは“楽に描く”。今年の元日に書き初めをしたのですが、そのときも“楽に描く”と書き、今も部屋に飾っています。そもそも『のこのこ うちのコ』で、“もっと緩く生きて良いんだよ”と伝えているのに、自分がゴリゴリにやっていたら意味がありませんから(笑)」

『のこのこ うちのコ』に込められたメッセージは、いじまさおり自身に向けたものでもあるのかもしれない。

「確かにそうですね。『過去の自分に言いたいんだろうな』と思いながら描くこともあります」

心身ともに疲れきってしまうことは、日常的に誰にでも起こりうることだ。そんな人たちが、寝る前のひとときに癒しを求めて、SNSでイラストやマンガをチェックする。いじまさおりのイラストは、その心にそっと寄り添うコンテンツになっているようだ。

「『つわり中でしんどい日が多いけど、投稿を見るのが生きがいになっています』『仕事でしんどいとき、隣にマフィンがいると思って乗り越えています』という声をいただいたこともあります。持病の頭痛に悩んでいる方からは、『横になってスマホを見ていたら、マフィンが目に入りました。風呂敷に薬を入れているという紹介文を読んで、ここで出会えたのも何かの縁だと思いました』といううれしい声も。

セリフがない分、一枚のイラストに情報を詰め込んでいるのですが、細かいところまで見てくださっている方も多いんですよね。例えば、イラストのなかに本を描いたとき、背表紙にちょっとしたメッセージを入れたんです。『気づいて!』と思いながら描いたところ、見つけてくださった方からコメントやダイレクトメッセージをいただいてうれしかったですね。毎回感想をくださる方、キャラクターの些細なしぐさから性格を読み取ってくださる方もいて、本当にありがたいです」

エージェント契約により、仕事の幅が拡大

もともとSNSでイラストを発表していたが、2020年ごろからSCPと契約し、現在はクリエイターレーベル「UNI」に所属するいじまさおり。そもそもクリエイターにとって、エージェントはどのような存在なのか聞いてみた。

「私が企業でデザイナーをしていたころは、流行りを分析して、時流に合ったデザインをすることが大事だと言われてきました。となると、自分が得意なタッチだけではやっていけません。でもSCPのようなエージェントは、クリエイターの個性を評価し、そのタッチをいかした仕事を持ちかけてくれます。自分らしく活躍できるチャンスを与えてくれるので、クリエイターにとってはすごくありがたい存在ですよね」

いじまさおり自身は、どこに魅力を感じてエージェント契約をしたのだろうか。

「私は自分で自分を売り出すようなことをしたくなくて。個人のクリエイターがSNSで仕事の依頼を受けても、トラブルに巻き込まれたり、嫌な思いをしたりというケースが多いですよね。その点、SCPの皆さんが会社として間に入ってくれるなら安心だなと思いました。私はSNSで発信するくらいしかできませんが、SCP経由で私と接点がない企業からお仕事をいただくチャンスが生まれるかもしれません。ちょうどオリジナルキャラクターを作りたいと思っていたタイミングだったので、ご縁を感じて契約させていただきました」

契約後には、同じグループ会社であるソニー・ミュージックアーティスツ所属の俳優・土屋太鳳のキャラクターを描くなど仕事の幅も増えたそう。制作に集中できる環境も、クリエイターにとって魅力のひとつだという。

俳優・土屋太鳳のキャラクター

俳優・土屋太鳳のキャラクター

「『UNI』のサイトに私のページを作っていただいたので、自分でサイトを作らなくても活動を見ていただけるようになりました。また、SNSのフォロー&リポスト(リツイート)キャンペーンのように、フォロワー数を増やす施策も提案していただきました。ほかにも、LINEスタンプの発売、ポップアップイベントへの参加なども行なっています」

今後は「UNI」公式ファンアートオンラインストア「MashRoom Cafe」で、グッズを販売する予定だ。さらに、来年初頭には『のこのこ うちのコ』のガチャガチャが発売されることも決まっている。人気の上昇とともに、活動が活発化しているいじまさおり。ズバリ、今後の夢は?

「ショップで、私が描いたキャラクターがコーナー化されることです。グッズでは、いつか等身大のぬいぐるみを作りたくて。まだまだSNS数のフォロワーも少ないので、これからの自分の活動次第だと思いますが、いつか叶うよう頑張っていきたいと思います」

SCPと進める案件だけでなく、個人の活動もつづけていく。現在は、絵本を制作中だという。

「出版社からお声がけいただいて、『のこのこ うちのコ』とは違う動物が登場する絵本を描いています。柴犬などいろいろな動物が出てくる予定なので、こちらも楽しみにしていただけたらうれしいです」

最後に、いつも応援してくれるファンに向けてメッセージをもらった。

「私は人目を気にしてしまうところがあるので、『いいね』が少ないときはテンションが下がってしまうこともありますが、そんなとき、皆さんからいただいたコメントを見直すと、もう一度頑張ろうという気持ちになります。『いいね』をしていただけるのはとてもありがたいですし、『ととん推しです』といったキャラクターたちに対するコメントもすごくうれしいです。本当にいつもありがとうございます。これからも、皆さんの心に寄り添う『うちのコ』たちを描いていきたいと思いますので、よろしくお願いします」

文・取材:野本由起

関連サイト

いじまさおり Instagram
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いじまさおり X(旧Twitter)
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のこのこ うちのコ Instagram
https://www.instagram.com/nokonoko_uchinoko/(新しいタブで開く)
 
のこのこ うちのコ X(旧Twitter)
https://twitter.com/nknk_uchinoko(新しいタブで開く)
 
クリエイターレーベル「UNI」公式サイト
https://www.uni-creator.jp/(新しいタブで開く)
 
ソニー・クリエイティブプロダクツ公式サイト
https://www.scp.co.jp/(新しいタブで開く)

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