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クリエイター・プロファイル

かわいくてちょっとシュールな『のこのこ うちのコ』いじまさおりが辿り着いた「気楽に描く」創作スタイル【前編】

2023.11.16

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注目のクリエイターにスポットを当て、本人のパーソナリティや制作の裏側などを探るインタビュー「クリエイター・プロファイル」。

今回取り上げるのは、気鋭のキャラクターデザイナー・いじまさおり。家主と一緒に暮らすかわいい動物たちの日常を、ちょっぴりシュールに描いた『のこのこ うちのコ』で注目を集めているクリエイターだ。見ているだけで癒される自由気ままな動物たちは、どのようにして生まれたのか。いじまさおりの来歴、創作に懸ける思いとともに紐解いていこう。

前編では、幼少期や会社員時代の経験、『のこのこ うちのコ』誕生秘話を聞いた。

  • いじまさおりプロフィール画像

    いじまさおり

    Ijima Saori

    1991年生まれ。静岡県浜松市出身。関西在住。大阪芸術大学 キャラクター造形学科卒業。ファンシー文具メーカーのデザイナーとして6年勤務後、イラストレータとして活動を始める。SNSにてオリジナルキャラクター「のこのこ うちのコ」の連載、絵本制作、イラスト制作を中心に活動中。

『のこのこ うちのコ』とは

「のこのこ うちのコ」ビジュアル画像

『のこのこ うちのコ』は、勝手に家に住みつき、気ままに暮らす動物たちをテーマに描かれたキャラクターイラスト。現在までに犬のマフィン、モグラのすんちゃん、ビーバーのぽんず、シロクマのととん、子猫のコルクの5体が登場。これでも一応“ふくの神”だが、家主のために働く気はあまりない。現在は、公式SNSで毎週水曜と金曜に新作イラストを公開中。

創作のルーツは父親にあり

手のひらサイズの小さな動物たちが、家主のソファでだらだらテレビを観たり、布団ですやすやお昼寝したり。かわいくてちょっとシュールで、眺めているだけで顔がほころぶ『のこのこ うちのコ』。その生みの親であるいじまさおりは、静岡県に生まれ、物心つく前から絵を描いてきた。創作のルーツは父親。絵を描くのが好きな父のもと、いじまさおりは次第に才能を開花させていった。

コルク、ととん、ぽんずがくつろいでいるイラスト

「父は自衛隊員だったのですが、自分が所属する隊のイメージイラストを描いたり、友達の結婚式で似顔絵を描いたりと、絵を描くのが大好きだったんです。その影響で、私も小さいころから絵をぐりぐり描いていましたね。絵本に紙を重ねてなぞってみたり、小学生になってからは大好きなイラストレーター・カナヘイさんのキャラクターを真似て描いたりと、そんな遊びをしていたのを覚えています」

小学校では、大概、クラスにひとりはいる“絵が上手な子”のポジションだったいじまさおりは、図工や美術の成績も良く、中学、高校では学級旗やクラスTシャツのイラストを任されてきた。とはいえ、あくまでもそれは趣味の範疇で、プロを意識したのは高校卒業を控え、進路を決めるときだった。

「将来を考えたとき、やっぱりキャラクターを描く仕事がしたいと思ったんです。そこでキャラクターについて学べる大学に進学することにしました」

入学したのは、大阪にある芸術大学のキャラクター造形学科。

「学科にはコースが3種類ありましたが、キャラクターを専門に学ぶコースはなかったので、漫画コースを選びました。漫画を描く実習では苦戦しましたが、『優れたキャラクターとは』『敵キャラクターはこういう条件をつけると魅力的になる』といったキャラクター概論も学ぶことができたので、かなり意識が高まりましたね」

卒業後は、大阪のファンシー文具メーカーにデザイナーとして就職。小学生向けの自由帳や文房具にあしらうイラスト制作に従事することになる。

──と聞くと、キャラクターデザイナーへの道を着実に進んでいるようだが、やがていじまさおりの前途には暗雲が垂れこめる。デザイナーを志して入社したものの、オリジナルキャラクターを描く機会は次第に減っていき、仕事に迷いが生じるように。思ったように力を発揮できなくなり、身体やメンタルにまで不調をきたすようになってしまったという。「絵を描くことが初めて嫌になった」と、いじまさおりは当時を振り返る。

「私が入社する前は、自社で開発したオリジナルキャラクターが人気を集めていました。ですが、徐々にブームの潮流が変わっていって、私が入社したころには版権キャラクター(著作物の作者や企業などが出版権を有するキャラクター)を使用するのが主流となり、オリジナルキャラクターが流行らなくなっていたんです。

自分でキャラクターを生み出し、それが文具などになったら最高だなと思って入社しましたが、なかなかそうもいかなくて……。オリジナルキャラをあしらった商品も発売はしましたが、版権キャラほどヒットせず、どんどん下火になっていきました。当時、私も思い悩むところがあり、5年目あたりからは会社に配慮していただいて、イラストを描く仕事から外してもらうことに。ですが、やっぱり会社員生活をつづけるのが難しくて、入社6年目で退職しました」

創作意欲を取り戻す“リハビリ”の日々

退職後もしばらくは何を描きたいのかわからず、1年近く絵から遠ざかっていたいじまさおり。だが、やはり絵を描きたいという思いがふつふつ湧いてくる。そこから“リハビリ”の日々が始まった。

「自分でキャラクターを作りたいという気持ちは、まだなかったのですが、とにかく絵を描きたい気持ちは大きくて。そのときは思いつく画材を全部買って、日本画、クレパス、色鉛筆、水彩、アクリルなどすべて試してみました。

そのなかで、私に一番合っていたのがデジタルだったんです。例えば日本画だと、一度下塗りをしたら完全に乾いてからでないと次が描けません。私はせっかちなので、乾かす時間が待てないんです(笑)。デジタルは待ち時間もないうえにやり直しもきくし、なんて便利なんだろう、と」

こうして少しずつ絵を描き始めると、今度は人に見てもらいたくなる。そこで2020年春ごろからSNSでぽつぽつとイラストを投稿するようになった。動物やスイーツをモチーフにしたイラストを公開すると、「いいね」やコメントなどで反応があり、いじまさおりの心を勇気づけることになる。そんななかで生まれたのが、ある犬のキャラクターだった。

「自分でも気に入ったキャラクターが描けたので、ポテトという名前をつけました。ですが、ポテトのイラストがバズったときに、あるキャラクターに似ていると言われてしまって……。もちろん、意図的にそのキャラを真似たわけではありませんが、でもポテトはもう描かないでおこうと思いました。

その際、あらためてポテトというキャラを見つめ直したのですが、あまり特徴がないと感じたんですよね。茶色いたれ耳の白い犬のキャラクターでしたが、確かにこれをグッズ化してもビジネスとして大きく展開するのは無理だな、と。それなら、もう一度新しく自分のキャラクターを作ろうと考え始めたときに、ソニー・クリエイティブプロダクツ(以下、SCP)の方からお声がけいただきました」

1日の終わりに寄り添うキャラクター

そのころ、SCPでは新しいIPを生み出すために、担当者たちがさまざまなクリエイターのSNSアカウントをチェックしていた。そんななか、いじまさおりの作品を見た担当者が、ほかにはないオリジナリティを感じ、声をかけたという。そして、SCPとともに作り上げたのが『のこのこ うちのコ』だ。いじまさおりいわく、コンセプトは“1日の終わりに寄り添うキャラクター”だという。

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「会社員だったころ、とてもつらい時期があって。当時はひとり暮らしで、『うまくいかないな』『私はなんでこんなこともできないんだろう』と落ち込んでは、お風呂で泣いていました。当時の私みたいな人は、世の中にたくさんいるはず。そして、そういった人たちが寂しかったり、つらいと感じる夜を過ごすときに、一緒にいてくれるキャラクターを描きたいと思ったんです。

最近は、ちょっと不憫でかわいそうなキャラが流行っていますよね。でも、私はポジティブな方向性でキャラクターを考えていきたくて。そこで、私自身も楽しく描けるようなキャラクターにしようと思いました。『のこのこ うちのコ』は、『ゆっくりしよう』とか『頑張らなくて良いよ』というセリフは言いません。

でも、『うちのコ』が好きなものを食べたり、ゴロゴロしたり、ちょっと変なことをしている姿を見て、『ああ、これくらい気楽で良いのか』と思ってもらえたらと。そんな思いで『うちのコ』を描いてきました」

5体のキャラクターを生み出すにあたり、いじまさおりはまず自分の好きなキャラクターを挙げ、傾向を分析したという。

「ゲームに登場する大好きな動物キャラクター、海外の方のイラストなどをA4用紙にコピーして、『このキャラはこのタイプだな』と私なりにジャンル分けをしました。そのなかから『こういうぽっちゃり体系を入れよう』『私はビーバーが好きだから、ビーバーも入れたいな』と選んでいってキャラクターのビジュアルを考え、そこに性格を紐づけていきました。

ビジュアルを考えるうえで一番大事にしているのは、小さな子どもが描いてもどのキャラかギリギリわかるくらい描きやすいデザインにすること。そのうえで、グッズ化したときにも面白くなるよう個性をつけています。SCPの担当者にも見てもらって、微調整しながらビジュアルを完成させました」

どのキャラクターも小さくて、手のひらに乗るようなサイズ。このミニチュアっぽさも、『のこのこ うちのコ』のかわいらしさの秘訣だ。

「もともと小さいキャラクターを描くのが好きなんです。それに、もし『うちのコ』がぬいぐるみなどになったとき、自分の家に等身大の彼らがちょこんといたら、『あ、うちにも来てくれた』と思っていただけるかな、と。普段の生活でも『ここにあのコたちがいそうだな』と連想できるよう、現実世界に存在してもおかしくない大きさにしました」

キャラクター誕生秘話①:マフィン編

ここからは、『のこのこ うちのコ』のキャラクターについて、いじまさおりに1体ずつ創作の裏側を語ってもらう。まずは、最初に生まれた犬のマフィン。

マフィン プロフィール画像

「以前にもポテトという犬のキャラクターを描いたように、私は犬が好きなんですね。そこでメインキャラとして、ドジなわんこを描きました。最初は首の風呂敷がなかったのですが、そのままだとちょっと裸感が強くて(笑)。特徴を出すためにも風呂敷をつけました。

そこから風呂敷のなかに何を入れようか考えたのですが、ふと『お腹が痛いときにスッと薬を出してくれる人って優しいよな』と思いついて。そういう人に憧れがありましたし、マフィンは忠実な犬なので家主の役に立ちたいと思っているだろうな、と。それで風呂敷のなかには、薬が入っていることにしました。

こだわったのは、顔ですね。真顔でも面白いキャラクターにしたくて。あと、かわいく見せたいとも思っていたので、パーツが絶妙な場所になるよう毎回気をつけて描いています。

名前もいろいろな候補がありました。『響きがかわいいし、マフィンにしようかな』と考えながらインスタントの紅茶をいれようとして、ふとパッケージを見たんです。そうしたら『ブルーベリーマフィン』というフレーバーだったので、運命を感じてマフィンと名づけました」

キャラクター誕生秘話②:すんちゃん編

つづいては、モグラのすんちゃん。数ある動物のなかでも、モグラを選んでいるのが渋いように感じるが……?

すんちゃん プロフィール画像

「すんちゃんは、眼鏡のキャラクターにしたかったんです。眼鏡を絶対外さない人っているじゃないですか。私は三姉妹なのですが、一番下の妹も外出先で眼鏡を外さないんですよね。そういう意味では、妹がモチーフになっています。そこから『眼鏡が似合う動物ってなんだろう』と考え、内気で静かな印象があるモグラが合うのではないかと思いました。感情を表に出せないのが悩みという設定があり、すんとした雰囲気なので、名前もすんちゃんに。

ただ、すんちゃんは最初孤独を愛するモグラだったのですが、描いているうちに『みんなといるのが結構好きなんだな』と思うようになってきました。最初はみんながうるさくしているとプンプンしてどこかに行っちゃうような、ひとりの空間を愛する性格のキャラクターのつもりでしたが、みんながワイワイやっているのを横目でチラッと見ながら、自分もその輪に入りたいと思っているように感じられて。シャイで自己表現は苦手ですけど、みんなと一緒にいるとうれしいのかなと思い、そこからだんだん雰囲気が柔らかくなっていきましたね」

キャラクター誕生秘話③:ぽんず編

ビーバーのぽんずは、いじまさおり本人と重なるところの多いキャラだという。

ぽんず プロフィール画像

「私、小学生のころから笑うと前歯だけ出るんですけど(笑)、そんな自分に似ていることもあって、ビーバーはもともと好きでした。丁寧な暮らしに憧れているけれど、片付けられないという設定も、私に似ています。私もきれいにしたいけれど片付けが苦手で、いつも散らかしてしまうんですよね。名前に関しては、ポトフなどの候補がありましたが、ちょっとどんくさい雰囲気がぽんずという響きに合っているなと思いました」

キャラクター誕生秘話④:ととん編

シロクマのととんには、意外なモデルが……?

ととん プロフィール画像

「完全に私の父がモデルです(笑)。昔から家族の似顔絵をよく描いてたのですが、私の父は眉毛が太いので、いつも黒くグルグル塗りつぶした眉毛にしていました。そのイメージを、ととんに盛り込んでいます。先日『うちのコ』のLINEスタンプが発売されたのですが、父にプレゼントしたところ、父が友達から『これって君じゃない?』と指摘されたそうです(笑)。やっぱり似ているんだなと思いました。

デザインのポイントは、やっぱり眉毛ですね。また、ととんは一番表情が少ないのですが、普通にしていても笑えるという得な顔をしています。名前の候補は、ぱぱん、おとさん、とろろなどいろいろありましたが、ととんという響きが一番かわいいかな、と。自分のお父さんを描けばいいだけなので、性格もスルッと決まりましたね」

キャラクター誕生秘話⑤:コルク編

最後のコルクは、子猫のキャラクター。5匹のなかでも、特に小柄でかわいらしい。

コルク プロフィール画像

「コルクは最後にできたキャラクターです。ほかの4体を最初に考えたのですが、全体のバランスがもっちゃりしていましたし、色合いも含めて地味に感じられて。明るさ、若々しさをプラスするために、コルクを追加しました。末っ子感があるので、ここでも一番下の妹をイメージして、ちょっと甘えた感じにしています。

最初の設定で、誰かに挟まれたり、物と物の間にいると安心するという設定があって。コルクも瓶の狭いところに入っているので、コルクという名前にしました」

後編につづく

文・取材:野本由起

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ソニー・クリエイティブプロダクツ公式サイト
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