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連載Cocotame Series

クリエイター・プロファイル

『HIROBA』で水野良樹という限られた存在を拡張し、創作物という結果を残したい【後編】

2023.02.17

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注目のクリエイターにスポットを当て、本人のパーソナリティや制作の裏側などを探るインタビュー「クリエイター・プロファイル」。

今回、話を聞くのは、いきものがかりのリーダーでもある水野良樹。グループでの活動に加え、ソングライターとして鈴木雅之や上白石萌音、KAT-TUNらへの楽曲提供や、“清志まれ”名義で小説を執筆するなど、マルチな才能を発揮している。その水野が約3年にわたって展開しているのが『HIROBA』。「ソロプロジェクトと呼ぶにはふさわしくない」と水野が言うこの『HIROBA』とは、一体どのようなものなのだろうか。

後編では、『HIROBA』での大塚愛や橋本愛らとの創作の裏側、そして今後のいきものがかりの活動についても語る。

  • 水野良樹プロフィール画像

    水野良樹

    Mizuno Yoshiki

    1982年生まれ、神奈川県出身。1999年、いきものがかりを結成。2006年3月15日、シングル「SAKURA」でメジャーデビュー。ソングライターとして、ジャンルを問わず、さまざまなアーティストに楽曲を提供。エッセイの執筆のほか、“清志まれ”名義で小説も発表している。2019年より、「他者と出会い、ともに語らい、ともにつくり、ともに考えることができる“場”をつくる」をコンセプトにした『HIROBA』を主宰。

橋本愛さんは言葉に対して研ぎ澄まされた感覚を持つ方

前編からつづく)アルバム『HIROBA』には、水野良樹の小説家としてのペンネームである“清志まれ”名義の楽曲が2曲収録されている。1曲は、初小説『幸せのままで、死んでくれ』の発売と同時に配信された、自身がボーカルを務めるミクスチャーロック「幸せのままで、死んでくれ」。もう1曲は、女優の橋本愛を作詞とボーカルに迎えたピアノバラード「ただ いま」だ。

水野良樹、橋本愛2ショット画像

(写真左から)橋本愛と水野良樹

「橋本愛さんが『THE FIRST TAKE』で歌われた『木綿のハンカチーフ』を聴いて、単純にファンになってしまって(笑)。NHKの『言葉にできない、そんな夜。』という言葉を扱う番組にパネラーとして出演したときに、隣に橋本さんがいらっしゃったんですが、そのときの彼女のコメントがすごく鋭くて。言葉に対して研ぎ澄まされた感覚を持っていらっしゃる方なんだなと思いました。それで、『HIROBA』に参加してもらえないかなって考えてて、今回、タイミングがちょうど合ったので、橋本さんにお声掛けしました。

それも、結構無茶なオファーをしたんですよ。ちょうど2作目の小説、『おもいでがまっている』(清志まれ/文藝春秋)に取り掛かっているときで、その小説から曲を生み出したいなと思って、まだ完成していない小説の、プロットの状態のものをお渡ししたんですよね。本来なら、タイアップソングのように小説が完成していて、それを読んでいただくのが一番良いんだけど、その手前くらいから一緒に組んでほしいっていうことも正直に伝えて。それを彼女が面白がってくれて。小説のテーマである“待つ”ということをプロットと参考文献から読み解いて、『ただ いま』という詞を送ってきてくれました」

水野良樹インタビュー画像1

キャッチボールをし、そのたびに的確に返す橋本愛との創作に導かれるように、小説『おもいでがまっている』は完成した。さらに、いきものがかりのアーティスト写真撮影で出会って意気投合し、現在は「アルバムやミュージックビデオ(以下、MV)で頼りっきりになってる」と水野が言う写真家の濱田英明が撮影を担当し、「ただ いま」のMVも制作された。

HIROBA「ただ いま(with 橋本愛)」Music Video

「今のご時世、すぐに電話は繋がるし、わかんないことがあったらすぐに調べられるから、大抵のことは簡単に答えが出るじゃないですか。でも、そのスピード感ってどうなんだろう? って。MVも、最近は、キメのフレーズでシーンが変わって、スピード感があって、すぐにどういうMVかわかるものが多い。でもそうじゃなく、時間を感じるようなもの、“待つ”っていうシーンを繋ぎ合わせていくようなものを、とアイデアを出し合った上で、結果的に林響太朗監督がまとめてくれて、1コーラスの長回しで撮影しました。とても素晴らしいMVになったと思います」

大塚愛さんには、いつか会いたいなと思ってました

さらに、アルバムには、水野と同じ1982年生まれで、いきものがかりがインディーズデビューした2003年に、『桃ノ花ビラ』でメジャーデビューした大塚愛も参加。いきものがかりがメジャーデビュー曲「SAKURA」をリリースしたのは3年後の2006年。既に「さくらんぼ」を大ヒットさせていた大塚愛とは、音楽番組ですれ違うことはあっても、2022年3月に『対談Q』で対談するまでは、ちゃんと話したことはなかったという。

【対談Q】前半:大塚愛---歩んできた道は修羅の道!?---

「僕はもう二十歳のころからお会いしたかったんです(笑)。僕らが神奈川のライブハウスに出ていたころ、大塚さんは二十歳くらいでデビューして、テレビにもたくさん出ていて。同い年でこんなにポップスとして計算された楽曲を書けて、しかも、こんなふうにポップアイコンとして歌えちゃう人がいるんだ、すげーな! って。自分もキャリアを重ねていって、いつか会いたいなと思ってましたね。ようやく、このタイミングで出会えました。今だからこそ、こっちも16年やってきているので、『いろいろなことを経験してきたよね』っていうのを共有できましたね。すごい、同志のような感覚になれたので、一緒に曲を作ってみたいって思って。もうね、20年越しのラブレターですよ、本当に(笑)。そこから、お互いにアイデアを送り合って、そのアイデア以外は何もない状態で、素手でスタジオにふたりで入って、鍵盤をふたつ並べて、さあやりましょうって感じだったので、すごく緊張感もあって楽しかったですね」

女性視点と男性視点を織り交ぜた「ふたたび」でデュエットした大塚愛につづき、同世代がもうひとり。水野と同じ1982年生まれで、2005年11月にミニアルバム『chatmonchy has come』で、チャットモンチーのドラマーとしてメジャーデビューし、2011年9月にバンドを脱退。その後は作詞家や作家、エッセイストとして活躍している高橋久美子も参加している。

「アルバムを作るなかで、もう1曲新曲がほしいけど、時間がないぞって話になって(笑)。半分冗談半分本気で、曲を作るところからレコーディングするところまで48時間配信するというのはどうだろうって提案したんですよね。『HIROBA』を知ってもらえるきっかけになるし、“物作りの過程自体がひとつの作品だ”っていうところもうまく提示できるんじゃないかって言ったんです。『いや、それ大変でしょう。でもやってみるか』みたいな感じで始まりました。

水野良樹インタビュー画像2

そんな無理なことを頼めるのは、信頼できて距離感が近くて、『HIROBA』のことをわかってくださる方しかいない。それで、何度も対談させてもらっている久美子ちゃんにお願いしました。同い年で同じ時期にデビューした者同士なので、こういうことを面白がってくれるだろうなって。そのアレンジを、亀田誠治さんもまた面白がって引き受けてくれて。本当にその場で作って、亀田さんにアレンジしていただき、レコーディングメンバーに集まってもらって、スタジオセッションをそのまま配信するっていう形で作った曲になってますね」

高橋久美子が作詞、亀田誠治が編曲、水野が作曲と歌唱を担当したアルバムのラストナンバー「星屑のバトン」には、“バトンを繋ぐように この笑顔で 空を渡り虹をかけよう”というフレーズがあるが、水野から小田和正、高橋優へと渡ったバトンは、さまざまなフィールドで活躍するアーティストたちのインスピレーションを得て、再び水野の手に戻り、『HIROBA』のひとつ目の集大成であるアルバムとして、リスナーへと渡ることになる。

Full Album HIROBA 全曲試聴トレーラー | HIROBA 2023.2.15 発売

「自分が旗を振ったことは確かなんですけど、いろんな人が、彩り豊かな曲たちを作ることに関わってくれた。他人事のような言い方になっちゃうんですけど、よく集まってくれたよね、というか、すごい祭りに参加させてもらえたなっていう感覚が強いですね。『HIROBA』はもともと、入ってきやすくて出ていきやすいものを目指していたんです。入ってきた人に、『あれ、面白かったね』って思ってもらえるような“場”でありたいと。その想いがちょっとずつ形になってきているのかなって思いますね」

作りたいと思ってくださる方との出会いを待つ

そして、ふたつ目の集大成として、3月18日、LINE CUBE SHIBUYAで初のライブイベントが開催される。伊藤沙莉、大塚愛、亀田誠治、崎山蒼志、長谷川白紙、世武裕子、吉澤嘉代子など、アルバムに参加したアーティストに加えて、水野が「君に届くまで」などを提供したLittle Glee Monsterや、「さよならだよ、ミスター」を提供した横山だいすけの出演も決定している。

「普段は一緒にならないようなアーティストの方が集まってくださいます。亀田さんなんて、“この人にも会えるんだ、あの人にも会えるんだ。楽しみだよ!”って言ってくれて、それがすごくうれしいですね。3年間やってきて、こうやってアルバムにまとまると、『HIROBA』らしさみたいなものを皆さんが汲み取ってくれて、しゃべってくれたりする。その空気感を作れるライブになると良いなと思います。そのあとは……これをもう一周やるのは大変だなって思ってますけど(笑)、生きていれば出会いがあるし、作りたいと思ってくださる方もいるだろうし。そういう方との出会いを大事にしたいですね。“こういうジャンルの人を引っ張ってきて、こんな座組でやれば……”みたいな考えだと、『HIROBA』はつづかない気がしていて。結果、自然に出会いを待つっていうところかなと思いますね」

水野良樹インタビュー画像3

インタビューの最後にもう一度、最初と同じ質問を投げかけてみた。水野さんが思う『HIROBA』とは何ですか?

「今、こうやって『結局、水野って何やってたっけ?』って整理していただくと、いろんなことをやってるじゃないですか。でも、誰も気付いてないと思うんですよ(笑)。でも、それで良いと思ってて。アルバム『HIROBA』も、全曲の作曲には関わってるんだけど、僕っていう人間が前面に出るよりは、参加してくださった方や作品が注目されてほしい。究極的に言うと、自分自身が“場”になれるようにしたいんですね。それは、いきものがかりでもそう。前は『いきものがかりの曲は器です』みたいな言い方をしてたけど、その考え方も少し洗練されていって、『誰かが想いを持って訪れたときに、なんとなく気持ちが前向きになったり、自分の悲しいことを癒せるような場になりたい』って言えるようになりました。結果、全部をまとめると、“自分が場になってる”っていうことに繋がっていくんじゃないかと思います」

水野良樹ロゴ

物を作る現場であり、人が集まる『HIROBA』には、“B”と“A”というふたつの椅子が置かれている。“B”の椅子には水野が座り、“A”の椅子は空いていて、“音楽と言葉にまつわる人たち”が座るのを待っている。そんなイメージだ。

いっぽうで、いきものがかりのふたつの椅子には、既に水野とボーカルの吉岡聖恵が座っている。ちょうどこのインタビューを行なった日に、いきものがかりの新曲「STAR」が映画『銀河鉄道の父』の主題歌に起用されることに加え、新曲「ときめき」が、『プリキュア』20周年記念ソングに決定したというニュースが飛び込んできた。

「いきものがかりは、皆さんにはまだ伝わってないんですけど、結構前からしっかり動いてるんですよ(笑)。今日、たまたまニュースが出て、ファンの皆さんが『やっと帰ってきてくれた!』みたいなコメントをすごいくださって。もちろんうれしいんですけど、『いや、結構前から動いてたから!』って(笑)。吉岡もやる気で、歌に対してすごく前向きになってるし、ムンムンしてるというか、『どんどんいくわ!』みたいな感じになってます(笑)。いきものがかりはいきものがかりで、今後もどんどん動いていきたいなって思いますね。頑張ります!」

彼の人生は創作とともにある。いきものがかりとして、水野良樹として、清志まれとして。これからもその活動は止まることなくつづいていく。“場”に集まった人たちを自然と和ませる、穏やかで温かい空気感をまといながら。

文・取材:永堀アツオ
撮影:下田直樹

リリース情報

『HIROBA』ジャケット写真
 
『HIROBA』
発売中
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『おもいでがまっている』画像
 
清志まれ『おもいでがまっている』(文藝春秋)
2023年3月22日(水)発売

ライブ情報

『HIROBA FES 2022×2023 –FINALE! UTAI×BA』
 
2023年3月18日(土)LINE CUBE SHIBUYA
出演者:伊藤沙莉/大塚愛/亀田誠治/崎山蒼志/世武裕子/長谷川白紙/水野良樹(HIROBA)/横山だいすけ/吉澤嘉代子/Little Glee Monster(50音順)

詳細はこちら(新しいタブで開く)

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