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連載Cocotame Series

Kids Lab.

藤倉大が監修する『エル・システマ作曲教室』が掲げる理念――子どもたちの作曲に大人のヘルプはいらない【後編】

2023.12.14

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“子どものためになるエンタメ探し”をテーマに、ソニーミュージックグループが携わるエデュケーション×エンタテインメントを紹介する連載企画「Kids Lab.」。

今回は、世界的作曲家・藤倉大が長年取り組んでいる『エル・システマ作曲教室』をフィーチャー。藤倉大は、現代のクラシック音楽界において最も注目される作曲家のひとり。ロンドン在住で、世界中のオーケストラや演奏家から作曲の依頼が絶えない彼が、日本の子どもたちに向けて開催しているのが『エル・システマ作曲教室』である。

「子どもの作曲に、大人たちのヘルプはいらない」と語る藤倉大。一般的な“作曲教室”のイメージとはまるで違う、自由で個性的な教室はどのように生まれているのか――。立ち上げの経緯から、子どもたちへの思い、クリエイティブとは何か? までたっぷり語ってもらった。

後編では、藤倉大が自身の人生や子育てを振り返りながら、作曲という行為の持つ意味について掘り下げていく。

  • 藤倉 大プロフィール画像

    藤倉 大

    Fujikura Dai

    作曲家。大阪生まれ。15歳で単身渡英し、現在もロンドン在住。これまでに数々の作曲賞を受賞、国際的な委嘱を手がける。ソニー・ミュージックジャパンインターナショナルから11枚のアルバムをリリースしている。

“音楽とはこういうもの”という思い込みから解放される

前編からつづく(新しいタブを開く))『エル・システマ作曲教室』には、邦楽奏者も講師としてたびたび登場する。今年10月14日に群馬県中之条町で開催された教室には、笙※演奏家・作曲家の東野珠実が講師として招かれ、藤倉大はロンドンの自宅からオンラインで参加した。Cocotame編集部もオンラインで教室の様子を見学していたところ、不思議な現象が起こった。Web会議ツールを介すと、話し声や電子ピアノの音は問題なく聞こえるのに、笙の音だけが聞こえないのだ。

※笙(しょう)
雅楽で用いられる管楽器で、根元に金属のリード(発音体)のついた竹の管を、丸く束ねた形をしている。

「Web会議ツールは、笙や尺八といった一部の和楽器の音を“ノイズ”と認識して、自動的に音を消去してしまうんです。こんな現象が起きるのは和楽器だけ。それだけ西洋の音や音楽の概念と、日本のそれは正反対ということです。三味線は聞こえるけれど、笙や尺八は“高忠実度音楽モード”にしていてもノイズ扱いになって消されてしまう。これはWeb会議ツールの種類によっても違うのですが。

西洋音楽においては、ノイズというものは現代になるまで登場しません。それに対して邦楽では、箏も尺八も三味線も、伝統的にノイズを出す奏法が存在しています。楽器によっては500~600年、あるいは1,000年前からそういった伝統奏法が受け継がれているんですね。例えば三味線だったら、猿が“キャッキャッ”と鳴く音を歌舞伎でよく出します。

箏だと“すり爪”という弦をこする音があって、それも伝統奏法のひとつ。西洋音楽では特殊奏法とされるものが、邦楽には何百年も前から当たり前にある。だから特殊奏法ばかり紹介する『エル・システマ作曲教室』では、和楽器でのワークショップがしやすいんです」

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2023年10月、群馬県中之条町で開催された作曲教室。講師は笙演奏家・作曲家の東野珠実
©FESJ2023

思わぬところから西洋と日本の音楽の違いを意識することとなった。このように『エル・システマ作曲教室』は、子どもだけでなく大人にとっても、“音楽とはこういうもの”という思い込みから解放される、興味深い発見に満ちている。それと同時に、子どもたちの創造力がいかに豊かであるかを感じられる場所でもある。

「ある日、作曲教室の関係者の大人たちが見学に来てくれたので、彼らにも作曲してもらうことにしました。そのとき、最初に言ったんですよ。『この体験、大人は絶対に落ち込みますよ』って。大人は書けないんです。『仕事ではあんなに偉い人が、あんな音楽を書くんだ。意外と普通だな』なんて思われたらどうしよう、みたいな邪念が入ってしまうから(笑)。目の前の5歳児たちが、もう2曲も3曲も書き終わって遊びに行くなか、大人たちは書けずに固まっているんです」

五線紙を前に困り果て、手を止めてしまう大人たちの顔が目に浮かぶ。しかし『エル・システマ作曲教室』では関係者を含む大人たちから、教室の内容について「こう変えてほしい」と言われたことはないという。

「とは言え、『目の前で書けなくて困ってる子どもたちを手助けできないのは、とてもつらい』と言われたことはあります。『藤倉さんのように、誰から何を言われても気にせずやる子どもはけっこう少ない』と言われたことも。

だからこそ、大人たちの視線から解放される場を提供できないかなと思っています。子どもたちに『大人たちに何を言われても気にしないよう頑張れ』って言うのもヘンだから、僕たちが、あれこれ口出ししてしまう大人を近づけないようにして」

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2018年、福島県相馬市で開催された作曲教室。講師は尺八奏者の黒田鈴尊
©FESJ2018

仕事やお金にならないことをしたって良い

我が子が作曲や楽器演奏に触れるとき、親は何かしらの期待や不安を抱えがちだ。「どうせやるなら音楽家になってほしい」。あるいは「音楽なんてやっても食べていけないのに……」。だが、藤倉大はそういった大人の思惑と、音楽の必要性とを、すっぱりと切り分ける。

「『音楽でどう稼ぐんだ?』って、僕も昔は親によく言われました……。でも、果たして仕事にならないものって、やっちゃいけないんでしょうか? 音楽に限らず、仕事やお金にならないことを、みんなたくさんしてますよね。例えば恋愛をしても、普通はお金にならないですよね。本を読んだからって、仕事になる人は限られていますよね。生きるために、食べることや子孫を残そうとするといったこと以外にも、時間やエネルギーを費やす。それが、人間とそのほかの動物との違いなのではないでしょうか。

『エル・システマ作曲教室』に関しては、これがお稽古だったら話が違ったでしょう。500円でも1,000円でも参加費をいただいていたら、『お金を無駄にしたくない』とか、『これが仕事になるわけでもないのに』みたいに思われてしまうかもしれません」

では15歳で単身渡英し、現地の音楽院で学んだ藤倉大自身は、どのように作曲を学んでいったのだろうか。

「今まで誰ひとりとして、“教える”先生はいなかったかもしれません。ずっと自分の曲を書いて、それを見て、聴いてもらっていただけ。先生はただただ、僕のお客さんたちでした。

中学生のときに初めてついた作曲の先生は、藤原嘉文先生という方でした。でも、藤原先生にも作曲の方法を習ったわけではなくて。レッスン時間は30分しかないのに、毎週すごい数の曲を作って持って行ったので、テープに録音した演奏を聴くだけで20分経ってしまったり。僕の両親が挨拶に行ったときなんて、先生が『いつも楽しませてもらってます』って(笑)。だから、作曲を教える塾みたいなところに、僕自身行ったことがないんです」

誰に言われるでもなく、自分の曲を書き、見て、聴いてもらう。その姿勢は渡英してからも変わらなかったという。毎回のレッスンがちょっとしたコンサートのようだ。

「作曲って、健康に良いと思うんですよ。誰に何を言われようと、どうだって良いじゃないですか。嫌なら人に聴かせなきゃ良いわけです。お金のためではなく、自分のためだけに、作曲をやってみる。『それって自己満足ですよね』って言われても、自己満足してください。それで良いじゃないですか。自分が満足しなくてどうすんだって話ですよね」

人間は皆、生まれつきクリエイティブ

『エル・システマ作曲教室』にしても、藤倉大がアーティスティック・ディレクターを務める『ボンクリ・フェス』※にしても、彼の活動は1本の糸でつながっているように感じる。

ボンクリ・フェス(Born Creative Festival)
“人間は皆、生まれつきクリエイティブだ”というコンセプトのもと、東京芸術劇場で2017年からスタートした音楽フェスティバル。子どもから大人までが新しい音楽に触れ、楽しめるイベントとして毎年話題を呼んでいる。

「僕自身に子どもができてから作曲教室を頼まれたということも大きかったのかもしれません。昔の僕はほとんど子どもに興味がなかったのですが、実際に子どもが生まれてからすごく考え方が変わりました。そういう意味で、10年前に相馬市でスタートした『エル・システマ作曲教室』で得た“人間は皆、生まれつきクリエイティブだ”という気づきは、7年前に『ボンクリ・フェス』を立ち上げる原動力にもなりました。

作曲家としてのアイデンティティはまったく関係なくて、ただ単に、『僕だったらそうする』と思うことをしているだけなんです。僕にとって、選択肢はいつもひとつしかないんですよね。以前、学校の音楽の先生を退職したという方が作曲教室に来て、『現役の教師のときにこれを体験したかった』と言ってくださったことがありました。でも僕には、周囲と比べて何がそんなに変わっているのか、よくわからないんです」

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2015年、福島県相馬市で開催された作曲教室。講師はギタリストの笹久保伸
©FESJ2023

終始、あふれる思考を語り尽くしてくれた藤倉大。最後に、彼にとってクリエイティブとは何かを聞いてみた。

「計画外のことや、想像以上のことが起こるっていうことでしょうか。例えば誰かに何かを頼まれたとき、相手の想像を超えるものや、まったく違うものを作る。あるいは人から頼まれなくても、自分がやりたくてやることもすばらしい創造ですよね。

クリエイティブって、温泉みたいに湧き出てくるものだと思います。頼んでもいないのに、勝手に出てくる。それを楽しんで、こぼさないようにして、集めていくみたいな感じかな。どうにか絞り出して、ようやく一滴たらすような感じじゃないんですよね、僕は」

そう言って屈託なく笑う藤倉大の姿は、苦悩しながらアイデアを生み落とし、髪を振り乱しながら五線譜に書きつけるような、古典的な作曲家像とはかけ離れているかもしれない。

「もうちょっとこう、悩める芸術家みたいな発言をするべきなんでしょうね(笑)。“命を削って書いてます”みたいな。でも、そんなに悩むならやらなきゃ良いのにって思っちゃうんです。どんな人だって、仕事をしていれば嫌なことも良いこともあると思うんですけど……あまりにも嫌なことばかりという人を見ていると、『仕事を変えたほうが良いんじゃない?』って思っちゃう。

プロの音楽家でも、すばらしい演奏をするのに、ものを作り出せない人っていますよね。それってなぜなんでしょう? 子どものときはみんなクリエイティブだと思うんだけど、忘れていっちゃうのかな」

作曲家には、決められた時間のなかでのみ作曲する人も多い。しかし藤倉大は、委嘱された仕事でなくても、自ら曲を作っていく。それこそが、彼の言うクリエイティブなのだろう。

「パンデミックのときは大変でしたよ。部屋に閉じ込められたら、もうダメですね。頼まれてもいないのにどんどん曲を作っちゃって。結果的に、そこから2枚のアルバムが生まれましたが。仕事だけではない喜びが人生にはある。そういうことを知るのは、とても良いことだと思いますよ」

文・取材:加藤綾子

リリース情報

藤倉大『ウェイファインダー』ジャケット画像
藤倉大『ウェイファインダー』
発売日:2023年6月28日
価格:3,300円
収録曲はこちら(新しいタブを開く)

関連サイト

エル・システマジャパン オフィシャルサイト
https://www.elsistemajapan.org(新しいタブを開く)
 
藤倉大 オフィシャルサイト
https://www.daifujikura.com(新しいタブを開く)
 
藤倉大 ソニーミュージックオフィシャルサイト
https://www.sonymusic.co.jp/artist/daifujikura/(新しいタブを開く)

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