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連載Cocotame Series

THEN & NOW 時を超えるアーティスト

伊藤蘭インタビュー:「キャンディーズは自分の細胞のひとつ。新しい曲と並べても私自身に違和感がないんです」【後編】

2023.12.26

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日本の音楽シーンで存在感を放ち、時代を超えて支持されつづけるレジェンドアーティストをクローズアップ。本人へのインタビューで、過去と現在の活動を辿る連載「THEN&NOW 時を超えるアーティスト」。

今回は、1973年にキャンディーズとしてCBS・ソニーからデビューし、50周年のアニバーサリーイヤーを迎えた伊藤蘭へのインタビュー。2023年は、キャンディーズ50周年記念BOX『The Platinum Collection~50th Anniversary~』や3rdソロアルバム『LEVEL 9.9』のリリース、全国ツアー『伊藤 蘭 50th Anniversary Tour~Started from Candies~』開催と精力的に活動し、大晦日には『第74回NHK紅白歌合戦』への初出場が決定した。今再び注目を浴びるアーティスト・伊藤蘭が、キャンディーズ時代を振り返りながら現在の活動と心境を語る。

後編では、ソロとして再開した音楽制作の裏側を聞く。

  • 伊藤蘭プロフィール画像

    伊藤 蘭

    Ito Ran

    東京都出身。1972年、藤村美樹(ミキ)、田中好子(スー)とともにキャンディーズを結成。1973年9月1日、「あなたに夢中」で歌手デビュー。「年下の男の子」(1975年)「春一番」(1976年)「微笑がえし」(1978年)など多数のヒット曲を残して1978年に解散。2019年、アルバム『My Bouquet』を発表し、ソロとして音楽活動を再開。最新アルバム『LEVEL 9.9』からシングルカットされた「Shibuya Sta. Drivin' Night」が7インチ・ヴァイナルで発売中。

音楽には世界観を共有できる素晴らしさがある

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『伊藤 蘭 50th Anniversary Tour~Started from Candies~』より(撮影:吉原朱美)

――(前編からつづく)キャンディーズ解散後、俳優としての活動を経て、2019年に41年ぶりに歌手活動を再開されました。どういったきっかけがあったんでしょうか。

周りから「歌はやらないの?」と、前々から言っていただいていたんですが、そのころはまだ子育てもありましたし、お芝居のほうに気持ちが向いていたので、なかなかその気にはなれなかったんです。それが2018年ごろに再度そんなお声がけをいただいて、もうそんなこと言ってもらえるのは最後なんじゃないかと思ったんです。自分だけの歌が持てたら素敵だな、とも。常日ごろから、“迷ったらやる”を信条としてきたので、そんな瞬間が来たと思って前に進んだんです。

――音楽との向き合い方に何か変化はありましたか?

もともと歌に関しては実力不足を自覚しているので、そんなに鼻息荒い感じではなく、“音楽が好き”とか“歌っていると楽しい”くらいの感じで取り組もうと思いました。じゃないと、追い詰められて、せっかくの楽しい活動が苦しくなってしまう。この年代になってそれではつまらないので、「声、あまり出ないかもしれないですけど良いですか?」と、ありのままの自分をさらけ出していくことにしたんです。

幸い、それを温かく受け入れてくださったのが、歌手として再度のおつき合いとなるソニーミュージックで。ようやくそこで緊張もほぐれて、よし、やってみようという気持ちになりました。

――蘭さんにとって音楽は、やはり特別なものなんでしょうか。

音楽には、お芝居ともまた違って、ひとつの世界観を皆さんと共有できる素晴らしさがあると思うんです。何より楽しいんですよね。音楽って“音が楽しい”と書きますよね。本当にその通りだなと。

――今年はキャンディーズのデビュー50周年の要素も満載で、コンサートではキャンディーズのナンバーもたくさん歌われました。当時からのファンとの再会はいかがでしたか?

歌を再開するときにまず思ったのは、コンサートをやったところで来てくださる人はいるんだろうか? だったんですね。かなり年月が経っていますし、ファンの方たちだって皆さんそれぞれの人生を歩まれているわけですから。でも、ふたを開けてみたら、「えっ! こんなにたくさんの方が興味を持ってくださっているの?」という状況で、本当に驚きました。キャンディーズの楽曲の強みに助けられていると思うんですけど、いまだにビックリしています。

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『伊藤 蘭 50th Anniversary Tour~Started from Candies~』より(撮影:吉原朱美)

――ソロとしての新しい顔も提示されていました。

皆さんキャンディーズ愛に満ちているので、昔のナンバーを聴きたいという気持ちが圧倒的に強かったと思うんですね。そこはもう重々承知しているので、なんとかその隙間に今の私の世界も割り込ませて(笑)、聴いていただけたらなと思っていました。

――アーティストのなかには昔の楽曲は封印するという方もいらっしゃいます。蘭さんにもそういった時期はありましたか?

俳優業をスタートさせたころは、「もう違うんです」という気持ちはありました。ただ、ここにきて再度キャンディーズの楽曲たちと向き合ったときに、古びてない、錆びてない感じがしたんです。だんだんとそれが染み込んできて、今ではもう、自分の細胞のひとつというところまできました。だから、新しい曲と同列に並べても私自身に違和感がないんです。

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『伊藤 蘭 50th Anniversary Tour~Started from Candies~』より(撮影:近藤みどり)

“十”じゃないというのが粋

――ソロとしては、2023年7月に3rdアルバム『LEVEL 9.9』(レベル・ナイン・ポイント・ナイン)をリリース。奥田民生&トータス松本共作の「春になったら」などを収録し、落ち着きすぎることなく、キラキラとしたメインストリームのポップスを開拓されています。

伊藤 蘭「春になったら」Music Video (Short Ver.)

ソロ1枚目のアルバム『My Bouquet』は、スタッフやファンの方からどう見られているんだろう? 何を提示したら私自身が楽しく、また皆さんに喜んでもらえるものになるんだろう? と、かなり手探りで楽曲選びをしていました。結果的に、年齢を重ねた人の歌ってこんな感じよね、という作品になったと思うんですね。落ち着いたフワッとした一面も、確かに自分は持っているので、それはそれでアリだなと。

それよりちょっとだけエッジの効いた部分を提示してみようと思ったのが2枚目の『Beside you』。結局、私はどちらも好きなんですね。でも、とにかく今はまだまだ体も元気。元気なうちは、楽しくノレちゃう、踊れちゃうくらいのものが良いなと、そこを意識して作ったのが『LEVEL 9.9』です。

伊藤蘭アルバム『LEVEL 9.9』(2023年)ジャケット画像

アルバム『LEVEL 9.9』(2023年)

――このアルバムで目指したところはありましたか?

1曲目に収録されている「Dandy」を作詞してくださった森雪之丞さんとお話ししているときに、偶然“粋”というキーワードが浮上したんです。そもそも“粋”という漢字は、“十”でも“九”でもない、米ひとつぶのさじ加減という意味があって成り立っていると聞いたことがあって、それをお伝えしたら、雪之丞さんが「それ、良いね」と。“めいっぱい”ではなく、ちょっと足りないくらいでちょうど良い、それが素敵だよね、というところで意見が一致しました。そう、決して“十”じゃないというのが粋なんです。

――それが「LEVEL 9.9」というタイトルに繋がっているんですね。

はい。自分自身の年代的にもしっくりくるし、「歌詞でそういう表現をしたい」と雪之丞さんもおっしゃっていました。ただ私は、いくら意味が良くても、“米ひとつぶ”なんて言葉がポップスの歌詞として曲に乗るのかしら? と正直思っていたんです(笑)。「Dandy」の歌詞にそれを見事に入れ込んだ雪之丞さんは、さすがだなと思います。

――アルバム全体のさじ加減も絶妙で、それこそ粋に攻めています。なかでも「Shibuya Sta. Drivin' Night」は、オートチューンを用いたり、非常にコンテンポラリーな仕上がりですね。

それが私らしいのか、らしくないのかは、自分ではよくわからないんですけど、何度も聴きたくなるような素敵な楽曲だったので、とにかく歌ってみたいと思いました。

"Shibuya Sta. Drivin' Night" - Ran Ito

――この曲は7インチ・ヴァイナルでシングルカットされました。

まず、“ヴァイナル”なんてお洒落な言い方があることを知ってビックリしました(笑)。今でもレコードを愛している方が多いというのはうれしいですし、世の中まだまだ捨てたもんじゃないなと思いましたね。

――世界中のシティポップファンを含めた若い世代の方たちも反応しそうですね。

だとうれしいです。この年代になってまだ見ぬ自分と出会えるなんて、そんなにないことだと思うんですね。「Shibuya Sta. Drivin' Night」がその稀有な出会いを運んできてくれました。ぜひ、たくさんの人に聴いていただきたいです。

――キャンディーズのころとはレコーディングの仕方もだいぶ変わりましたか?

歌録りに関して言うと、あのころは、通しで録って、全体の雰囲気が良いかとか流れが良いかとかをOKの基準にしていたと思うんです。どこかちょっとはみ出していても、そのときにしかできない声の出し方や歌い回しを“味”としていた時代でした。

今は、小刻みに録って良いところを繋いでいくというやり方が多いので、そういった“はみ出し”があまり生まれないんですね。聴き手の求めているものもありますし、どちらが良いというわけではないんですけど、何を良しとするかの判断がすごく問われる時代だなとは思いましたね。

聴いてくださる皆さんのエネルギーが引力

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『伊藤 蘭 50th Anniversary Tour~Started from Candies~』より(撮影:吉原朱美)

――蘭さんの歌手活動に関して、ご家族である俳優の水谷豊さん、そして趣里さんの反応はいかがですか?

喜んでくれています。趣里は今、朝の連続ドラマに一生懸命なので、50周年のツアーには来られなかったんですけど、主人は「そんなに来る?」っていうくらい来てくれていました(笑)。家族の応援はありがたいです。

――あのときに自由を求めて踏み出したからこそ、今こうして素敵なご家族があり、音楽も楽しまれている。あの決断を、今、どんなふうに思われますか?

振り返ると、“若気の至り”という言葉が当てはまるような行動だったなとは思うんですけど、あの瞬間がなければ、自分の人生をこうして充実したものにすることはできなかったかもしれない。そう思うと、あれはあれで良かったんだなと今は思います。理解してくださった周りのスタッフやファンの方たちには感謝が尽きません。

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『伊藤 蘭 50th Anniversary Tour~Started from Candies~』より(撮影:近藤みどり)

――歌手活動は今後もコンスタントにつづけていきますか?

はい。もし、キャンディーズだけを求められたら無理だったと思うんです。でも、キャンディーズを好きな方たちは、今の私の曲にもちゃんと耳を傾けてくださる。

だから、現在進行形の自分の世界観もちゃんと伝えたいですし、それが“またキャンディーズの楽曲をやろう”というモチベーションにもなっていくんですよね。特にコンサートは、両方あってこそというところが大きいんじゃないかな。ファンの方たちも一緒に年齢を重ねてきているので、いろいろと折り合いはつけつつ(笑)。

そうそう、日比谷野音でのコンサートでは私、ひとしきり立って盛り上がってくださっていたお客さまに、「どうぞ座ってください」と言うのをすっかり忘れちゃったんです。きっと皆さん疲れたに違いない、腰、大丈夫だったかな? と、終演後ずっと気になっていて……。

――皆さん適宜座って自由に楽しんでいらっしゃいましたよ。

じゃあ、その辺はお客さまにお任せして大丈夫ですね。ホッとしました。観てくださる、聴いてくださる皆さんのエネルギーが、引力となって私を引っ張ってくれているので、私もそれに応えていきたいです。2024年もまた、何か喜んでいただけることをやっていけたらなと思っています。

――こうしてお話を伺っていると、蘭さんはキャンディーズのころからの可愛らしさはそのままに、大人の落ち着いた雰囲気をまとっていて、同性として憧れます。そんな女性になるには日々をどうやって過ごしていけば良いんでしょうか。

いやいや、どうしましょう(笑)。私も内側ではけっこう焦ったり右往左往したりすることが多いんですよ。表には出にくいみたいなんですけど。うーん、そうですね……何かあっても「もうしょうがない」と腹をくくること、かな。やるならやる。やらないならやらない。決めたからにはそこに向かう。というそれだけなんですけど。

――蘭さんの凛としたたたずまいは、そういったストイックな姿勢からきているんですね。

そういえば、私、前世が山伏だったらしいんです。それが関係しているんでしょうか(笑)。

文・取材:藤井美保

リリース情報

伊藤蘭「Shibuya Sta. Drivin' Night」ジャケット画像

「Shibuya Sta. Drivin' Night」
7インチ・ヴァイナル
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