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アンジェラ・アキが語る、ミュージカル音楽作家になったわけ【後編】

2024.05.15

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10年ぶりに活動を再開し、音楽担当として全楽曲制作を手がけたミュージカル『この世界の片隅に』が幕開け。後編では、ミュージカル音楽作家としての第一歩を踏み出した喜びを語る。

役者の声で曲を聴いたときに感じた自分の選択への思い

記事の前編はこちら:アンジェラ・アキが語る、ミュージカル音楽作家になったわけ【前編】

ミュージカル音楽作家としての第一歩を踏み出し、日本での活動を再開したアンジェラ・アキ。2023年11月に、ミュージカル『この世界の片隅に』の音楽制作と、劇中の楽曲からオープニングナンバーである「この世界のあちこちに」を配信リリースすることを発表。活動停止から約10年ぶりの本格的な始動となり、大きな話題を呼んだ。

ミュージカル『この世界の片隅に』フライヤー画像

「自分が昭和の人間だからなのか、ドラマ『北の国から』や漫画『三丁目の夕日』のように、昭和を題材にした日本のストーリーがすごく好きなんです。ほんのり温かくて、日本人らしい優しさが詰まった、昭和感のある作品。要はコミュニティですよね。核家族のなかだけじゃなくて、そのコミュニティのなかで自分の居場所探しをするっていうもの。

そういう話がもともと好きだったから、原作の漫画『この世界の片隅に』にはドンピシャで共感しました。ただ、ミュージカル化するためには、そこに意味がないといけない。どうしてミュージカルにするのか。その答えが出ないなら、ミュージカルは作っちゃいけないんです。

でも、上田一豪さんの脚本の第1稿を読んだときに、この作品をミュージカル化する意味がはっきりとわかったんですね。しかも、上田さんの脚本には音楽の入る余白があって、『早く音楽をつけたい!』って本当に強く思ったんです」

シンガーソングライターとしての彼女は、連続ドラマ小説『つばさ』の主題歌「愛の季節」をはじめ、ドラマや映画の主題歌、アニメのエンディングテーマやゲームの挿入歌の書き下ろし楽曲などを多数手がけてきたが、ミュージカル音楽作家として曲を書くこととはどんな違いがあるのだろうか。

「自分の曲を作るときは、ひとりで山に入って、“誰も邪魔せんといて”みたいな状態がしばらくつづいて。自分ひとりで悶々と抱え込んで、悩んで生み出していくので、孤独な苦しみだったりするんですよね。自分としかキャッチボールをしていないから、これが果たして良いのか悪いのかもわからないようなバッドスパイラルに入っていくことも多い。“孤独な作業”っていうのが一番わかりやすい表現かもしれない。もちろん、孤独だからこそ、完成したときの充実感や達成感があるんですね。

だから、どっちが良い悪いではないけど、ミュージカルを作る場合は、まずセリフありきなので、セリフと歌のトーンが違いすぎてもいけないし、『この世界の片隅に』でいうと、脚本家の上田さんの活字が私のなかでもう既に音になって歌っていたので、上田さんと共作している感じがあった。

それに、私のフィルターじゃない、登場人物のフィルターを通して生み出すものは、本当の意味での共同作業で。生みの苦しみは同じだけど、一回も孤独だと思ったことはなかったです」

アンジェラ・アキ - この世界のあちこちに / THE FIRST TAKE

ブロードウェイミュージカルの場合は制作に10年くらいかける作品もあるという。『この世界の片隅に』では、彼女が脚本を受け取ったのが2020年9月。そこから約2年半の歳月をかけて約30曲を制作した。

「広島の町の人、呉の村の人、家族の人、男の人、子ども、大人、おじいちゃん、おばあちゃん……。最初のデモテープは全部、私が歌ってたんですよ。だから、最初に役者さんたちの声を通して聴いたときは、もう圧倒されて、泣きそうになって。『自分の選択が正しかったんだ』って思えた瞬間でした。

もちろん、私の声で歌ってたときと違う発見があったから、『よし、これでやり直さないといけない課題がいっぱいできた』って感じだったけど、あの瞬間はすごくインパクトがあったし、私のなかでずっと残る思い出になりました」

稽古中に涙が止まらなかった理由

現在はアメリカ在住だが、稽古期間中は帰国し、毎日のように現場に通い、微調整を繰り返した。

「オリジナルミュージカルだから、前例がない作品を作っているわけです。演じる役者さんたちからも、例えば『この歌詞は心情に対してちょっと強い気がするんですよね』とか、フィードバックをリアルタイムでもらって、その場で変えたりしています。そういうのが、本当に共同作業で、総合芸術を作っているような実感がありました。

この間、『この感覚、どこかで感じたことがあるな? どこだっけ?』って考えてみたら、中学生時代の文化祭だったんですよ(笑)。成功するとか、しないとかじゃなくて、ただ一緒に頑張って作ってる。こんなにがむしゃらにみんなでひとつになれたのは30何年ぶりっていう感じでしたね」

椅子に座り、譜面を手に歌だけを歌唱するワークショップを経て、仮のセットが組まれたスタジオでの立ち稽古が始まったとき、アンジェラ・アキは涙が止まらなかったと明かした。

「最初のお稽古のときに、初めてセットを見て、みんながその上で歌うオープニングナンバー『この世界のあちこちに』を見たときに、うれしくて泣いてしまって。終わったとき、主演の大原櫻子さんがハグしにきてくれました。

もちろん、そこからの2週間は、涙を拭いて、やることいっぱいあるよって感じだったけど、その後も泣いてましたね(笑)。原作にもある、義理のお姉さんの径子さんがすずを赦すシーンがあるんですけど、径子役の音月(桂)さんが『自由の色』を歌ってるのを聴いているときに、お衣装の担当の方がこそっとティッシュを置いてくださるくらい泣いてしまって。径子の声で、径子の体で、演技も入れた『自由の色』。自分の曲が、作ったときに思い描いたもののさらに上をいくという体験をしました」

ニューアルバムはこのミュージカルの片隅に自分がいた軌跡

今年2月7日に、ミュージカルの開幕に先立って、リアレンジし、自ら歌唱した「この世界のあちこちに」を配信リリースし、4月24日には、6枚目のアルバム『BLUE』以来12年ぶりとなるニューアルバム『アンジェラ・アキsings「この世界の片隅に」』をパッケージと配信で同時リリースした。

アンジェラ・アキ『アンジェラ・アキsings「この世界の片隅に」』ジャケット画像

『アンジェラ・アキsings「この世界の片隅に」』

「最初は記録するつもりはなかったんですよ。でも、ワークショップでミュージカルのキャストやスタッフに聴いてもらったときも、『作品としてすごく素敵な良いものができ上がった』って言ってもらったし、去年の夏にレコーディングしたんだけど、その時点での作品を形に残したいと思うようになって。

『この世界の片隅に』は、すずという登場人物が、自分の家族と離れて嫁いで行った先で新しい家族ができていくなかで、『自分の居場所ってどこなんだろう?』って常に探しているわけですよ。

“居場所”というのがキーワードになっているんですけど、自分も、『このミュージカルにおける私の居場所はどこなのだろう?』と考えるようになって。このミュージカルの片隅に自分がいたんだという軌跡としても残したいなんて気持ちが少し芽生えたんですよね。このミュージカルに私の曲があったんだっていうことを残したいという気持ちが、自分のなかでもしっくりきたのかなって思います」

アンジェラ・アキ「この世界のあちこちに」Music Video

アンジェラ・アキがミュージカル音楽作家として30曲近くの歌を書いたミュージカル『この世界の片隅に』は、東京・日生劇場で幕を開け、北海道、岩手、新潟、愛知、長野、茨城、大阪を巡り、7月には、物語の舞台になっている広島の呉で上演される。

彼女は「ミュージカルを観たことがない人も、ミュージカルファンの人も絶対に楽しめるから、騙されたと思って来てくださいって言いたいくらいの気持ちでいる」と、胸を張って勧められる作品になっていると言う。

「私の周りには、どっちかというとミュージカルを知らない人のほうが多いんですよ。活動休止前、最後に『ミュージックステーション』に出演したときも、タモリさんに『何でミュージカルのために活動を止めちゃうの?』って聞かれたり(笑)。でも、そういうふうに思われる方にも観てほしいなっていう気持ちです。みんなが思い描いているミュージカルとは違うミュージカルも存在するし、原作漫画や映画やドラマのファンの人も、この舞台ではきっと違った味わい方ができるんじゃないかな。

それに、日本語のオリジナルのミュージカルはあまり多くないから、ミュージカルファンの方にも観ていただきたいんですね。この作品の原作が持っている温かさや人間らしさは、テクノロジーにあふれたこの世界で忘れかけているところとか、とうの昔に忘れたものを押しつけがましくなく、優しく思い出させてくれるし、きっと魂の活力になるんじゃないかなと思いますね」

首を家事毛てポーズをとるアンジェラ・アキ

ミュージカル音楽作家を目指してアメリカの音楽大学に入学し、作曲を学び直してから10年。「この素晴らしい作品に巡り合えたことを心から光栄に思っています」と語るアンジェラ・アキが、未来に望むものとはなんだろうか。

「私の母国語である日本語で、自分のネイティブな言葉で歌詞を作っていきたい。英語のミュージカルの翻訳ではなく、日本語でオリジナルのミュージカルを作ることには今後もこだわっていきたいですね。

それとは別に、大きな夢のひとつとして、いつかブロードウェイミュージカルも作ってみたいし、もっと少人数の演劇っぽいミュージカルもやってみたい。

今回のミュージカルを作った体験を経て、そろそろオリジナルアルバムを作っても良いかなというふうにも思っています。また、私はライブがすごく好きで、ライブが一番、私がリスナーの人たちとつながってた瞬間だったと思うので、どんな規模であれ、必ずまた生で歌いたいです」

文・取材:永堀アツオ

舞台情報

『この世界の片隅に』
上演中
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