人気ボカロPが集結する『VOCALOCK MANIA』が実践する新世代フェスの作り方【前編】
2024.06.05
2024.06.06
今や日本の音楽カルチャーには欠かせない存在となったネット発クリエイター・ボカロP。彼らをフィーチャーした新世代&新感覚の音楽イベントが『VOCALOCK MANIA』。後編では、注目のボカロPや、かいりきベアやすりぃの参加が発表された8月開催の『ver.3』について、そして今後目指すところを聞く。
梅川昂大
Umekawa Kodai
ソニー・ミュージックエンタテインメント
小暮春吹
Kogure Ibuki
ソニー・ミュージックエンタテインメント
八鍬 涼
Yakuwa Ryo
ソニー・ミュージックソリューションズ
記事の前編はこちら:人気ボカロPが集結する『VOCALOCK MANIA』が実践する新世代フェスの作り方【前編】
――「MANIA STAGE」での楽曲解説&対談こそ『VOCALOCK MANIA』ならではのプログラムと言えると思いますが、ここでこだわっていたことは?
八鍬:今回、専用のステージを用意したので、前回以上に出演者が増えました。楽曲制作ツールをリアルタイムで動かしてスクリーンに投影しながらトークするのが大前提なので、裏の配線や機材の準備も普通の音楽フェスとは違って複雑で繊細です。なので、マシンがトラブルなく無事に動いてくれて良かったなと(笑)。
梅川:特に『ver.2』では、初の試みでしたが、一二三さんの「ねむれわたがし」の楽曲解説に、楽曲でコラボされているVTuberの花奏かのんさんにも出演してもらいまして。
ねむれわたがし / 一二三 feat.花奏かのんβ
八鍬:花奏かのんさんは、ステージにモニタを置いてのリモート出演という形だったんですが、そういう企画が実現するのも『VOCALOCK MANIA』だからこそでしたね。
――小暮さんは、もともと『VOCALOCK MANIA』のお客さんだったということですが、ボカロファンのひとりとして、「MANIA STAGE」をどう観ていましたか?
小暮:ファンにとってはすごくうれしい企画です。こうやって曲を作っているんだ! というのがわかるツールの画面が見られるのが楽しいですし、普段は完成した曲しか聴いていないので、実はこんな音を鳴らしていたんだ! とか、裏話を知ることができるのもうれしいですね。自分で音楽制作をやったことがない人も楽しめる企画だと思います。
あと、『VOCALOCK MANIA』はラインナップが豪華なことでも注目されていたんですが、『ver.2』の「MANIA STAGE」のトリが、ボカロPのChinozoさんと絵師のアルセチカさんで。普段Chinozoさんのミュージックビデオを手がけているアルセチカさんが実際にその場で絵を描いてくれたのが、とてもうれしかったです。
梅川:おしゃべりしながら、スラスラとね。
小暮:そうなんです。いつもは自宅で楽しんでいる動画の生配信をリアルで感じられたし、ほかの方の楽曲解説やトークも、皆さんの普段の会話を見ているようで。しかもご本人がそこにいらっしゃるので、クリエイターをすごく身近に感じられる良いプログラムだと思いました。
八鍬:こういった人が大勢集まる場所で通信回線を介して行なう催しは機材的なリスクも大きくて、実際『ver.0』の楽曲解説の際にスクリーンにDAWの画面が映らなくなる瞬間があったんです。その間、MCの方がお客さんから質問を受けつけて、演者とコミュニケーションが図れる場面を作ったりして、そういったことも、リアルならではですよね。
――過去最大規模で実施された『VOCALOCK MANIA ver.2』も大成功でしたが、出演されたボカロPの皆さんはどのような反応でしたか?
梅川:認知度と浸透度の高まりはとても感じています。イベントに賛同してくれるクリエイターの方も増えました。クリエイター同士の横のつながりはとても強くて、過去に出演してくれたボカロPが絵師や動画師などのクリエイター友達を連れてきてくれたりして、より豪華なゲスト陣が実現していますね。やはり、整備された環境で直接会えるというコミュニティの魅力を、参加者の皆さんが感じてくれているのは大きいです。
八鍬:来場者の方も、イベントをとても熱心に見てくださいますしね。自分が『ver.0』のときに驚いたのが、楽曲解説ステージを観ている方のなかに、一生懸命ノートを取っている方がいらっしゃったことです。それがとても素敵な光景で。
小暮さんが、楽曲解説コーナーがとてもうれしいと言ったことにもつながりますが、普通のライブにはない学びの要素もある。クリエイター志望者にも『VOCALOCK MANIA』の需要はあるのだなと実感しています。
梅川:表立ってアーティスト活動をしていないボカロPにとっては、楽曲解説や対談のトークコーナーはお客さんを前にしているのですごく緊張されますが、自分がステージに立てる場所があることには、とてもポジティブ。次回もまた出たいと皆さん言ってくれています。
――『VOCALOCK MANIA』に携わってきた皆さんは、最近のボカロPシーンをどう分析していますか? 変化は感じますか?
梅川:感じますね。『VOCALOCK MANIA』がスタートしてわずか1年ちょっとの間でも、クリエイターの状況は変わってきていると思います。最近の若手のクリエイターは、積極的にメディアに露出したりパフォーマンスをされる方が増えていますし、割と安価に音楽制作の環境を整えられる時代なので作品を投稿するハードルも低くなり、クリエイターとアーティスト、リスナーの垣根は以前よりも低くなっているように感じます。
――子どものころからボカロPの楽曲を聴き、ボカロカルチャーに親しんできた小暮さんは、どう感じていますか?
小暮:ボカロ曲やボカロPの存在を含めたボカロカルチャーに対する親しみは、以前よりも格段に浸透しているというのは実感としてあります。ボカロP出身のアーティストもたくさん活躍していますし、TikTokや“歌ってみた”、“踊ってみた”動画を一般の方が目にする機会も増えて、すごく身近な存在になってきたといろいろな方が言っていますが……私の感覚では、割と二極化しているのかなと。個人的に熱いファンの方と、ちょっと曲を聴くなら好きだなくらいのライトなリスナーと、2パターンに分かれている気がします。
――年齢層の変化はどうですか?
小暮:スマートフォンで遊べるリズム&アドベンチャーゲームアプリ『プロセカ』(『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』)がスタートしたのが2020年なんですが、若い世代や小学生が音ゲーでボカロに触れることができるようになったので、ファンの若年化は進んでいますね。それこそボカロPになりたい中学生、高校生が今はすごく多いです。
梅川:確かに、ボカロP、クリエイターの若年層化は本当に進んでいますね。ソニー・ミュージックエンタテインメント社内でも、RED所属のクリエイターやSDが育成しているクリエイターにも、中学生、高校生がいます。しかも彼らのなかには、楽曲制作だけではなく、イラストも描けてMVの編集も自分でできるというマルチクリエイターもいます。
そういうマルチな才能が、ボカロシーンで活躍しているだけじゃなく、最近ではメジャーアーティストと同じようにアニメのタイアップを取ったりと、今までならあり得ない状況が、ここ3年くらいで急速に進んでいます。
――それだけニーズがあるということでしょうか。
梅川:そうですね。特にアニメのタイアップのような場合は、視聴者も若いですし、楽曲の新規性も求められているのかなと思います。ボカロPが作る楽曲は、いわゆる商業作家が楽曲提供するものとは、やはりちょっと違うんですね。
彼らのほとんどは音楽理論を勉強して理解してから楽曲制作しているわけではないですし、自分の衝動の赴くままに作ったものが、若い子に聴かれて跳ねている。音楽シーン全体にとっても、まだまだ新しいムーブメントとして、この状況はつづくのではないかと思います。
八鍬:ボカロ曲が身近になっているのは、実感しますね。私自身は『VOCALOCK MANIA』に関わるようになって初めて、ボカロカルチャーにちゃんと触れたのですが、それまで持っていたボカロ曲のイメージと、関わり始めてからのイメージは180度変わりました。
今まで自覚したことはなかったけど、実はあの曲はこのボカロPが作ってたんだ! と気づくことが、この1年本当に多いです。以前は、ボカロ文化はとてもマニアックな印象がありましたが、その印象自体がもう古いんですよね。その意味でも、まさに今がボカロカルチャーやボカロ曲のイメージの変わり目。『VOCALOCK MANIA』にとっては、そういう追い風もあるなと感じています。
――そんな皆さんが今注目しているボカロP、これから『VOCALOCK MANIA』に出演してもらいたいクリエイターを教えてください。
梅川:私はツミキさんですね。「リコレクションエンドロウル」が投稿された当時は、ボカロ特有の早口な電子音のなかに込められたメッセージや、言葉選びのこだわりをすごく感じました。音楽が大好きなのが曲から伝わります。最近では楽曲提供でも爆発的なヒットを作る音楽家でもあり、星街すいせいの「ビビデバ」は記憶に新しい。ボーカルのみきまりあとのユニットNOMELON NOLEMONでは、人間ボーカルならではの音楽表現をJ-POPのフィールドで挑戦していて、「SAYONARA MAYBE」はTikTokでバズを起こしていたりと、今後がますます楽しみなクリエイターです。
リコレクションエンドロウル / recollection endroll - miku [オリジナル]
八鍬:自分はまだボカロPには疎いので、『VOCALOCK MANIA』を通じてボカロPとコラボしてくれたら面白いなと思うのは、トラックメーカー、DJ、ラッパーのVaVaです。彼はDJプレイに『どうぶつの森』の音を盛り込んだり、ゲーム配信をしたりと、この界隈に割と近いマインドを持っているので、DJとして参加してもらえたら、良い化学反応が生まれそうですね。
VaVa - 現実 Feelin' on my mind
小暮:私もちょっと変化球になってしまうんですけど、メルさんです。メル/イズモリョウスケさんの曲はかわいくて、歌詞が切なくて、前作の曲の伏線が次曲にちりばめられていたり、とにかく魅力がいっぱいです。個人的に大好きなボカロPなので『VOCALOCK MANIA』にも出ていただけたらすごくうれしいですね。ちょっと前の曲にはなってしまいますが「夏のメロウ」は、皆さんにもぜひ聴いていただきたいです。
夏のメロウ - 初音ミク(メル)
――そして今年の夏は、『VOCALOCK MANIA』にとってまたまた新しい形のイベントが開催になります。8月に行なわれる『VOCALOCK MANIA ver.3』は、初の大阪、東京2会場での開催。8月17日には大阪・club JOULEにてクリエイターによるDJが楽しめ、8月26日の東京・Zepp Shinjuku (TOKYO)ではボカロPによる対バンライブが実現します。
梅川:『VOCALOCK MANIA』は基本的に年2回、夏と冬開催でつづけていきたくて。1月の『ver.2』が規模の大きなフェスだったので、夏はちょっとタイトに生パフォーマンスが中心のイベントにしようと考えました。
あと、これまではずっと東京開催でしたが、東京以外でもやってほしいという声もあり、DJとライブという違うテイストのステージを大阪、東京でお届けします。大阪には、r-906、水槽、バーバパパ、柊キライ、YASUHIRO(康寛)、yuigotらがDJとして、東京には、かいりきベア、すりぃ、水野あつ、和田たけあきが参加します。追加出演者も今後随時発表していくので、ご期待いただければ。
――毎回、進化している『VOCALOCK MANIA』ですが、今後のビジョンとしてはどんなことを考えていますか?
梅川:我々が一番願っているのは、『VOCALOCK MANIA』を通じてシーンがもっと活性化するよう、盛り上げたいということなんです。もともとボカロシーンは、クリエイターとファンが一体となって自主的に盛り上げていったカルチャーなので、今の『VOCALOCK MANIA』は、とにかく仲間を増やしたいという気持ちでやっています。それが、『VOCALOCK MANIA』のブランディングにもつながると思いますし、当然もっと大きな会場での開催を目標にしていきたいです。
そしてボカロP、クリエイターの方々、これからボカロPを目指す方々に『VOCALOCK MANIA』に出ることが目標だと言ってもらえるようなフェスに成長させたいですね。
文・取材:阿部美香
撮影:古里裕美
『VOCALOCK MANIA ver.3 OSAKA』
日程:2024年8月17日(土) 13:30OPEN/14:00START/20:00CLOSE
会場:club JOULE(大阪市中央区西心斎橋2-11-7 南炭屋町ビル2-4F)
出演者(DJ):r-906、水槽、バーバパパ、柊キライ、YASUHIRO(康寛)、yuigot、DJ'TEKINA//SOMETHING a.k.a ゆよゆっぺ
『VOCALOCK MANIA ver.3 TOKYO』
日程:2024年8月26日(月) 16:30OPEN/17:00START/21:00CLOSE
会場:Zepp Shinjuku (TOKYO)(東京都新宿区歌舞伎町一丁目29番1号 東急歌舞伎町タワーB1F)
出演者(LIVE):かいりきベア、すりぃ、水野あつ、和田たけあき
6月8日(土)正午より一般チケット発売開始
https://l-tike.com/vocalockmaniavol3
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