『EVO Japan 2024』運営担当者が解説――eスポーツの拡大に欠かせないこと【中編】
2024.06.20
国内最大級の格闘ゲームの祭典『EVO Japan 2024』。今年は3日間すべての入場およびメイントーナメントへのエントリーも有料化するという、賞金つきの一般参加型大会としてはeスポーツ業界初の試みのもとで開催された。
今後、eスポーツ業界がさらなる発展を遂げるために必要不可欠と言われてきた有料大会の運営。その実現のために、社内外を奔走したソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)の担当者と、格闘ゲーム業界ではレジェンドとして知られ、『EVO Japan 2024』では大会運営委員長を務めた松田泰明氏に話を聞いた。後編は、梅田サイファーとのコラボレーションやeスポーツ業界の今後について語る。
松田泰明氏
Matsuda Yasuaki
『EVO Japan 2024』大会運営委員長
ユニバーサルグラビティー代表取締役社長
ゲームセンター「ゲームニュートン」オーナー
格闘ゲームを中心にした老舗ゲームセンター「ゲームニュートン」を2店舗経営しつつ、格闘ゲームのイベントの企画、制作、運営に長年携わっている業界の第一人者。
五十嵐知行
Igarashi Kazuyuki
ソニー・ミュージックエンタテインメント
辻郷孔凡
Tsujigo Yoshitsune
ソニー・ミュージックエンタテインメント
記事の前編はこちら:『EVO Japan 2024』運営担当者が解説――eスポーツの拡大に欠かせないこと【前編】
記事の中編はこちら:『EVO Japan 2024』運営担当者が解説――eスポーツの拡大に欠かせないこと【中編】
──今回の大会では、HIP-HOPグループの梅田サイファーがテーマソングを書き下ろしていました。また、3日目にはオープニングパフォーマンスも披露するという新たな試みもありましたが、彼らを起用した経緯を教えてください。
辻郷:『EVO Japan』には、大袈裟ではなく人生をかけて来ているプレイヤーがいますし、それを見守る人たちも、心底、格闘ゲームやゲームが好きで来場している人たちばかりです。
そういう真剣さがあふれている会場で、SMEが大会運営に関わっているのだから、音楽アーティストとのコラボはわかりやすいよね、というレベルの話はしたくなくて。本当に格闘ゲームが好き、ゲームが好きだというアーティストやクリエイターとコラボレーションしたいと思っていたんです。
そんななか、ゲーム好きとして知られる梅田サイファーの名前が挙がって、話を聞いたところ我々が想像していた以上に彼らも格闘ゲームが大好きで。格闘ゲーム大会の「闘劇」や「獣道」も見ていましたし、『EVO 2004』で梅原大吾さんが伝説の逆転劇を成し遂げたシーンもリアルタイムで見ていたメンバーがいました。そういうご縁があって、テーマソングの書き下ろしに加え、オープニングライブも披露してもらえるというボリュームのあるコラボレーションにつながりました。
五十嵐:これまでにも既存の楽曲をテーマソングにすることはありましたが、一から曲を書き下ろしてもらって、ライブまで行なったのは今回が初めてです。
辻郷:2日目はプライベートで普通に遊びに来ていましたね(笑)。ウォッチパーティーにも出演してもらいましたが、KOPERUさん、pekoさん、KBDさん、KennyDoesさんは会場を回って楽しんでいました。
松田:アーティスト然とするのではなく、一ゲーマーとしてフレンドリーに遊びに来てくれましたよね。
五十嵐:書き下ろし楽曲「CONTINUE」の歌詞も、もろに格ゲーがモチーフになっていて、本当に好きなんだなというのが伝わってきました。
辻郷:テーマソングもパフォーマンスも熱く打ち込んでもらって、良いシナジーが生まれたと感じています。
梅田サイファー - CONTINUE (prod. Cosaqu) [Official Music Video]
──大会を終えて、改めてどのような手応えを感じていますか?
五十嵐:今まで関わってきた『EVO Japan』のなかでは、最も手応えがありました。お客さんやプロゲーマーの反応を見ても、肯定的な意見が多かったです。プロゲーマーの梅原大吾さんが、Xで「今回のエボjは対戦環境とてもよかった。遅延もないし音もちゃんと聞こえてストレスなくプレイできた。可能なら大会運営側でモニターやゲーム内設定の情報共有をして今後も良い環境で大会を開いてほしいと思いました」とポストされていて、プレイヤーファーストの準備が役に立ったかなと。
ウィナーズでもけルーザーズでえびはらに負けて終了。
2人とも強かった。
ちなみに今回のエボjは対戦環境とてもよかった。
遅延もないし音もちゃんと聞こえてストレスなくプレイできた。
可能なら大会運営側でモニターやゲーム内設定の情報共有をして今後も良い環境で大会を開いてほしいと思いました。— 梅原大吾 (@daigothebeastJP) April 28, 2024
松田:それと、ゲームメーカーの方々にも良い刺激になったようです。僕も会場でたくさんメーカーの人と話しましたが、皆さん一様に「俺たちも頑張らなきゃ」と語っていました。
さらに今回は、競技タイトルに採用されなかったゲームメーカーの方たちも「『EVO Japan』に選んでもらえるゲームにしなきゃダメだ」とおっしゃっていて、すごくうれしかったですね。
──ゲームメーカーはeスポーツ大会に対し、肯定的な意見なのでしょうか。
五十嵐:基本的にはウェルカムですが、それぞれお考えがありますし、それこそタイトルごとにスタンスも異なるので、すべて同様の対応というカルチャーではありません。
辻郷:この界隈では、有志が集うゲームコミュニティの声が強い影響力を持つというのも特徴で。その声と真摯に向き合えば、後押しの力になりますし、逆にむげな対応をすると強い逆風になってしまうことがあります。
何十年も前のゲームのコミュニティもたくさんあって、『EVO Japan』はサイドイベントを含め、そういう方たちが盛り上げてくださっています。その熱量はメーカーの皆さんも理解されているので、ルールに則りつつ、より門戸が広がっていくと良いなと思います。
──今回の開催を経て、今後の課題はどこにあると思いましたか?
松田:自分としては、すべてのプレイヤーが平等かつ最高の環境で腕を競い合える場を提供することがすべてだと思っています。今回に関して言えば、先ほどトラブルの話でも出た照明のことと、もうひとつスペースに課題がありました。
特にサイドイベントは、人数が多いコミュニティでも狭いスペースになってしまったので、プレイ中に選手と通行中の人が接触してしまうケースも散見されました。大会の盛り上がりに対して、会場のサイズが合っていなかったとも言えるかもしれませんが、次回があれば絶対直します。
辻郷:自分は、チケットの購入システムに課題を感じました。『EVO Japan』の特殊なところは、トーナメントへの参加希望者が入場チケットを買ったあとに、ご自身でエントリーも行なってもらう点です。
当たり前なんですが、国内のチケット販売サイトでは、チケット購入後に、トーナメント管理までできるようなサービスはありません。今回は海外のサイトと連携しましたが、トーナメント参加者側からすると馴染みがないものでした。次回があるなら、皆さんが簡単にエントリーできる、わかりやすいシステムにしたいと思っています。
そもそも『EVO』は、格闘ゲームコミュニティ発祥の大会です。そこに企業が参画しているのだから、快適なチケット販売システムの構築や、法的なハードルのクリアなど、企業だからこそできる部分を請け負い、コミュニティの皆さんに楽しく遊んでいただく。そういう場づくりのサポートも我々の役割だと考えています。
──ウォッチパーティーと呼ばれる配信もあるなか、会場に足を運んで観戦する楽しさを改めて教えてください。
辻郷:会場に来ると、プレイヤーのいろいろな表情が見られるんです。緊張している顔もあれば、勝利を喜ぶ顔もある。そういった感情をみんなで分かち合い、一体感を味わえるのが魅力だと思います。
松田:音楽ライブだって、映像で見るのと実際に会場に足を運んで観るのとではまったく違いますよね。それと同じで、会場でしか味わえない空気があります。その空気をみんなで一緒に吸うって、すごい体験だなと思いますよ。
辻郷:コロナ禍を挟み、しかもゲームというメディアですから、リアル大会の楽しさが想像できない方も多いと思います。それもあってか、今回は初参戦、初来場の方もすごく多かったんですね。“ストリーマーも来るし、ノリはよくわからないけど行ってみるか”と気軽に足を運んでくれた方があの空間を体験したら、今までにない感動を味わえると思っていて。
その素晴らしさを、自分は伝えていきたいんです。実際、来場した方からは「モニタ越しに見ていたトッププレイヤーの試合を、ほんの数メートルの距離で観られるなんて」「その場にいる人たちと一体になって、固唾を飲んで観戦するのは、本当に貴重な体験だった」というような意見をたくさんいただいています。
松田:今回初めて来た人にとっては、すごく良い大会だったと思います。会場が盛り上がっていたし、白熱した良い試合もたくさんあったので。「こんな楽しいこと、毎年やってるのか」と感じてもらえていたらうれしいですね。
──現状、次回の開催は未定とのことですが、開催するとしたら先ほど松田さんがお話されていたように、より大きな会場になるのでしょうか。
五十嵐:会場は広げるべきだと思っています。予選エリアはとても混雑していたので、さらに来場者が増えると安全な大会運営に支障をきたす可能性もあるので。また、今回の盛況ぶりを見て出展を検討されている企業も多いと聞いてますので、会場規模を大きくできたら良いですね。
──会場のあちこちで、プレイヤー同士が対戦していて、観戦者からどよめきや熱狂の声が上がる。今回、初めて会場を取材させてもらったんですが『EVO Japan』は、大きなゲームセンターのようだと感じました。
松田:僕自身は、ゲームセンターで10人、20人規模の大会をつづけていたら、いつの間にか知名度が上がり、100人、500人、1,000人のイベントを手がけるようになっていきました。
そんな自分にとって、ゲームセンターはすべてのきっかけが生まれた場所。かつては“コミュニティ”なんて言葉はなく、特定のゲームばかり好んでプレイする人たちを“スト2勢”とかのように“〇〇勢”と呼んでいたんですが、今では“ファイティングゲームコミュニティ”という言葉も浸透しています。
そして『EVO Japan』は、今では廃れつつあるゲームセンターカルチャーが大輪を咲かせる場。それこそ往年のゲームセンターのように、年代も趣味趣向も異なる不特定多数の人たち、これまで話したこともない人たちが、対戦や観戦を通してコミュニケーションできる場だと思っているので、ぜひ、今後も独自のスタイルを貫きながら継続していってほしいと思います。
──SMEでは、eスポーツ推進室を設置してeスポーツの拡大に努めています。『EVO Japan 2024』では、有料化によってビジネスとしての可能性も広がりましたが、今後eスポーツをカルチャーとして、ビジネスとして広げていくために、どんなことを考えていますか?
五十嵐:先ほども言いましたが、まずは今回の有料化が、eスポーツ業界の発展につながってくれたらと思っています。また、我々が今回の大会運営で得たノウハウ自体をビジネスにつなげることもできると思うので、業界の活性化につながるよう取り組んでいきたいです。
また、根源的に国内eスポーツの市場規模をさらに拡大させるための施策も考える必要があるので、この点については協力企業やソニーグループも巻き込みながら道を作っていけたらと考えています。
記事の前編はこちら:『EVO Japan 2024』運営担当者が解説――eスポーツの拡大に欠かせないこと【前編】
記事の中編はこちら:『EVO Japan 2024』運営担当者が解説――eスポーツの拡大に欠かせないこと【中編】
文・取材:野本由起
撮影:干川 修
©EVO Japan 2024
© Cygames, Inc. Developed by ARC SYSTEM WORKS
© ARC SYSTEM WORKS
©SNK CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED.
©CAPCOM
TEKKEN™8 & ©Bandai Namco Entertainment Inc.
© FRENCH-BREAD / ARC SYSTEM WORKS
"PlayStation"は株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの登録商標または商標です。
2024.09.25
2024.09.15
2024.09.12
2024.09.09
2024.08.28
2024.08.23
ソニーミュージック公式SNSをフォローして
Cocotameの最新情報をチェック!