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アニメづくりへの情熱

〈物語〉シリーズが5年ぶりに再始動――制作チームで引き継ぐ作品への熱量【前編】

2024.07.05

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西尾維新の小説を原作にしたアニメ「〈物語〉シリーズ」。独特な世界観やキャラクター、シリアスとコメディが織り交ぜられたストーリー構成が魅力で根強い人気を博し、アニメシリーズは、劇場版を含めこれまでに全9シリーズを展開している。

7月6日(土)より放送が開始される『オフ&モンスターシーズン』は、『愚物語』『業物語』『撫物語』『結物語』までの4作品群「オフシーズン」と、『忍物語』『宵物語』『余物語』『扇物語』『死物語』までの5作品群「モンスターシーズン」を原作とする新シリーズ。

5年ぶりとなるアニメ再始動にかける想いと作品の見どころを、プロデューサーを務める、アニプレックス(以下、ANX)の石川達也に聞いた。

  • 石川達也プロフィール画像

    石川達也

    Ishikawa Tatsuya

    アニプレックス

アニメ『〈物語〉シリーズ』とは?

〈物語〉シリーズ『オフシーズン』キービジュアル
 
「映像化は不可能」と語っていた小説家・西尾維新による怪異譚シリーズ。「西尾維新アニメプロジェクト」の一環として、2009年に『化物語』が新房昭之監督とアニメ制作スタジオ・シャフトのスタッフによりTVアニメ化され、西尾維新の世界観をアバンギャルドな演出で表現したことにより、大きな話題となった。ファーストシーズン『化物語』『偽物語』『猫物語(白)』、セカンドシーズン『猫物語(黒)』『傾物語』『花物語』『囮物語』『鬼物語』『恋物語』、ファイナルシーズン『憑物語』『暦物語』『終物語』『続・終物語』がTVアニメとして放送され、物語の原点となる『傷物語』は〈I 鉄血篇〉〈II 熱血篇〉〈III 冷血篇〉の三部作で劇場版作品として公開された。原作小説は現在も描きつづけられており、作品の世界観はまだまだ広がっている。

記事の後編はこちら:〈物語〉シリーズが5年ぶりに再始動――制作チームで引き継ぐ作品への熱量【後編】

シャフト作品が好きないちアニメファンとしてアニプレックスへ入社

――石川さんは、アニメ「〈物語〉シリーズ」を担当するようになって8年近く経つと聞きましたが、そもそも「〈物語〉シリーズ」を制作しているアニメ制作スタジオ・シャフトのファンだったことがきっかけでANXに入社したそうですね。

入社前はシャフトのアニメ……特に『魔法少女まどか☆マギカ』(以下、まどか)が好きな、いちアニメファンでした。最初に買ったアニメのDVDは『化物語』で、その次に買ったのが『まどか』でしたね。

そんなとき、2011年にANXが新聞広告で『まどか』と『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない。』(以下、あの花)の2タイトルを使って求人募集をしていたんです。この2作品を手がけている会社だったらきっと面白いことができるんじゃないかと思い、業界に飛び込むことを決意しました。

真剣な表情で話す石川達也

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――ANXに入社してから、シャフト作品に関わるようになるのはどんなタイミングだったのでしょうか。

入社してから2年くらいは、『あの花』などを手がけた清水博之(ANX 執行役員常務)のもとでいろいろな作品のアシスタントをしていました。そのなかに、劇場版作品で『魔法少女リリカルなのは』という作品があって、そのアシスタントプロデューサーを務めたんです。

その後、劇場版に関わった経験があるということで、制作中だった『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語』の現場に合流しました。そこで、シャフトやメインスタッフの皆さんとご一緒しまして、シャフト作品の『ニセコイ』や『メカクシティアクターズ』といった作品にも関わることになりました。2016年ごろからは「〈物語〉シリーズ」にも参加し、劇場作品の『傷物語』の3部作をご一緒させていただいています。

――『傷物語』は2016年から〈I 鉄血篇〉〈II 熱血篇〉〈III 冷血篇〉の3篇で公開。そして今年はその3部作を編集した『傷物語-こよみヴァンプ-』(2024年)が公開されました。

そうですね。今年の1月に3部作を再編集して一本化したものを劇場で公開することができました。尾石達也監督が3部作の公開後から約6年間かけて、ご自身の手でコツコツとブラッシュアップを重ねてきた作品で、非常に完成度が高いものになっています。長いプロジェクトをご一緒できて本当に良かったなと思っています。

『傷物語 -こよみヴァンプ-』本豫告|1月12日劇場公開

作家・西尾維新と二人三脚で作るアニメ「〈物語〉シリーズ」

――「〈物語〉シリーズ」の原作者は小説家の西尾維新先生です。西尾先生とも長いお付き合いになっていると思いますが、どんな方なのでしょうか。

エンタテインメントが大好きな方だという印象があります。ANXでは「〈物語〉シリーズ」だけでなく、西尾先生のデビュー作である『〈戯言〉シリーズ』のアニメ化や『美少年探偵団』といった作品のアニメ化も担当しているのですが、どの作品においても先生ご自身が映像化に非常に協力的で、映像チームと前向きに取り組んでくださっています。

アニメ制作スタジオと原作者が、小説を映像化するという切磋琢磨をとてもポジティブに交わされているなと思いますし、何より西尾先生ご自身が小説のファン、映像のファンに作品を楽しんでいただきたいと真摯に考えていらっしゃるのだと思います。

黒ジャケットを着てインタビューに答える石川達也

――「〈物語〉シリーズ」における、西尾先生の関わり方はどのようなものなのでしょうか。

ホン読み(脚本打ち合わせ)や、アフレコの立ち会いをはじめ、作品制作の節目ごとに現場を見ていただいています。直接お話をさせていただく機会も多いなと思いますね。

それと「〈物語〉シリーズ」では、パッケージ版(Blu-ray/DVD)に特典として副音声を収録していまして、その副音声は、映像を見ながら登場キャラクターたちがお喋りするという内容になっているんです。

いわゆるキャラクターコメンタリーと呼ばれているもので、ファンの方々から非常に好評なコンテンツなのですが、映像の尺に合わせて、シーンやカットに合わせたセリフを書くという手の込んだもので、それを西尾先生に『化物語』のころからずっと書き下ろしていただいています。

ちなみに、キャラクターコメンタリーはいろいろな作品で特典にされていますが、結構、どこも長つづきしないそうなんですね。やはりキャラ感の出し方や、そもそもファンが楽しめるコンテンツに仕上げるというのが大変なんだと思います。その点、「〈物語〉シリーズ」は西尾先生ご自身が書いてくださるので心強いんですよね。

「〈物語〉シリーズ」では、最初から現在に至るまで、原作者の西尾先生とともに作品を作っているという感覚があって、とても幸せな作品だと感じています。

身振り手振りで話す石川達也

――石川さんは原作がある作品のアニメ化を手がけることも多いと思いますが、制作するうえで大事にしているのはどんなことですか?

「〈物語〉シリーズ」に限らずの話ですが、原作ものは基本的に原作元や作家の先生とアニメ制作スタジオが二人三脚、三人四脚で息を合わせてやっていくことが大切なのではないかと思っています。

そのうえで、お伝えした通り西尾先生は映像化をとてもポジティブに捉えてくださっていて、例えば『傷物語』では尾石監督の個性や映像の美学を尊重してくださいました。西尾先生のそうしたスタンスに対して、我々もしっかりお返しがしたいという思いで取り組んでいます。

――そういう意味では、アニメ「〈物語〉シリーズ」は、原作小説のセリフを一言一句変えずにアフレコ収録しているのも特徴ですね。

はい、私が担当する前から、そのスタイルですね。西尾先生の小説の面白さを深掘りしていくと、やはり“セリフの魅力”に行きつくんです。その“セリフの魅力”を最大限にいかすには、“原作のセリフを一言一句変えずにアニメに入れ込む”ということが大事になるのかなと。

「〈物語〉シリーズ」に参加していただいている声優の方々は、皆さんそれを理解してくださっていて、阿良々木暦役の神谷浩史さんは収録現場に原作小説を持ち込んで、原作と台本を照らし合わせて収録に臨まれるんです。それで台本のセリフの“てにをは”が違うと、それを収録前に指摘してくださって。「小説のセリフに合わせて良いですか?」とご自身から提案してくださる。とてもプロフェッショナルな現場だと感じています。

斧乃木余接 場面写真

「〈物語〉シリーズ」の楽しみ方と魅力

――「〈物語〉シリーズ」は2019年に「ファイナルシーズン」として『終物語』や『続・終物語』のアニメ化が行なわれました。この段階でシリーズは一段落という予定だったんでしょうか。

「〈物語〉シリーズ」は早い段階で全シリーズをアニメ化すると発表していたんですね(西尾維新アニメプロジェクト「全物語」アニメ化決定/2012年4月)。自分が「〈物語〉シリーズ」の制作に参加したときには、既に「ファイナルシーズン」の制作が始まっていて、ホン読みが進んでいたところだったんです。そのときから、ここで「〈物語〉シリーズ」を中締めするという大きなラインは既にあったと思います。

ただ、その後も西尾先生の筆が止まることはなく、シリーズはつづいているので、アニメシリーズも追いかけていくことになるのではないかと思います。

――「〈物語〉シリーズ」はこれまでに9シリーズが制作されていますが、作品の時間軸と放送順は異なります。どのような順番で見るのが良いのでしょうか。

「〈物語〉シリーズ」の話数の数え方は諸説ありますが、『化物語』の第1話「ひたぎクラブ 其ノ壹」から、「ファイナルシーズン」『続・終物語』の第6話「こよみリバース 其ノ陸」で一応、全100話あると言われています。自分としては基本的にはどのエピソードから見ても楽しめると思っています。

7月から放送がスタートする『オフシーズン&モンスターシーズン』は、時系列的にも内容的にも『続・終物語』のつづきのシリーズがスタートするのですが、各話の冒頭に“これまでの〈物語〉シリーズ”みたいなダイジェスト映像を差し込むようなことは考えませんでした。

やっぱり「〈物語〉シリーズ」の最大の魅力である、西尾先生のセリフやストーリーの面白さ、キャラクターの魅力に加え、シャフトの皆さんが生み出す映像の素晴らしさはどこから見ても味わえると思います。

多くの方に肩ひじを張らずに見ていただきたいですし、今回の新作がきっかけとなってこれまでのシリーズを見てみたいと思ってもらえたらうれしいですね。新作をきっかけに原作小説や、これまでのアニメ「〈物語〉シリーズ」と出会っていただければ、ますます楽しさが広がると思います。

ポーズをとる石川達也

後編では、7月6日(土)より放送が開始される新シリーズ『オフ&モンスターシーズン』の始動のきっかけやABEMAとの取り組み、海外展開について語る。

後編につづく

文・取材:志田英邦
撮影:増田 慶

©西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト

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