『ジャパニーズ・シングル・コレクション』後編PCバナー
『ジャパニーズ・シングル・コレクション』後編SPバナー
連載Cocotame Series
story

音楽カルチャーを紡ぐ

ビリー・ジョエルらが認めた日本独自の企画盤『ジャパニーズ・シングル・コレクション』制作秘話【後編】

2024.07.23

  • Xでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Facebookでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • LINEでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • はてなブックマークでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Pocketでこのページをシェアする(新しいタブで開く)

ビリー・ジョエル、ブルース・スプリングスティーンらソニーミュージックグループに所属する名だたる洋楽アーティストを特集する日本オリジナル企画盤『ジャパニーズ・シングル・コレクション ‐グレイテスト・ヒッツ‐』。後編では、制作上の苦労や、シンディ・ローパー、ボズ・スキャッグスら、アーティストの実際の反応などを語る。

  • 佐々木洋プロフィール画像

    佐々木 洋

    Sasaki Hiroshi

    ソニー・ミュージックレーベルズ

記事の前編はこちら:ビリー・ジョエルらが認めた日本オリジナル企画盤『ジャパニーズ・シングル・コレクション』【前編】

ビリー・ジョエルには4年かけて何度もアプローチ

──アーティストに許諾をもらうのにも時間がかかりそうですね。

カタログアーティストなので、原盤権を持っているレーベルサイドが自分たちの判断でOKしてくれる場合もあれば、マネージメントに問い合わせるパターンもあります。

やっぱり、そこでいろいろドラマはありますね。2021年12月にビリー・ジョエルの『ジャパニーズ・シングル・コレクション』をリリースしたんですが、実はこの企画が始まってから4年間ぐらい、何度もビリー側に提案していたんです。

アルバム『ニューヨーク52番街』(1978年)のころのビリー・ジョエルの写真

アルバム『ニューヨーク52番街』(1978年)のころのビリー・ジョエル

ただ、もうベスト盤は出したくないっていう本人の意向があって、ずっとNGだったんですよ。それで、ボズ・スキャッグス、アース・ウインド&ファイアーなどを発売したことや、先ほど言ったような説明をしたんです。

その後、16年ぶりの来日公演もありましたし、「今回を逃したら、もう二度とこの商品を出す機会は訪れないですよ」という話をしたらついにOKをもらえたんです。世界的に10年ぐらいベスト盤を作らせてないビリーからOKが出たときは非常にうれしかったですね。

そのあと、2023年10月にブルース・スプリングスティーンのものをデビュー50周年記念としてリリースしたんですが、もともとブルースは日本の独自企画が絶対にNGなアーティストだったんです。だから、申請すら考えていなかった。

そしたら2021年の冬に、ブルース・スプリングスティーンの原盤権と出版権をすべてアメリカのSony Music Groupが買い取ったというニュースが出て、これはもしかして? と思って申請したら通ったんです。とはいえ、ブルースの場合、企画概要に許諾が出さえすればOKというわけではなく、アーティスト側とのコンセンサス、合意が細部まで必要なので、そういった意味でもこの企画を快く認めてくれたことは驚きでもあり、とても光栄に思いました。

シングル「明日なき暴走」(1975年)のころのブルース・スプリングスティーンの写真

シングル「明日なき暴走」(1975年)のころのブルース・スプリングスティーン

──これまでのラインナップを含めて、信用できるシリーズだというのがブルース・スプリングスティーン側にも伝わったんでしょうね。

だと思います。ただのベスト盤じゃなくて、ちゃんと意図がある、信頼を得てるシリーズなんだとわかっていただけたんだと思います。

他レーベルにも“のれん分け”して市場を活性化

──『ジャパニーズ・シングル・コレクション』の制作における条件はなんでしょうか。

今、辿り着いているところで言うと、基本的には7インチシングルバージョンの音源を入れる。日本でリリースされたシングルは全部入れる。それ以外でも、映画のサントラ盤などにのみ収録された人気曲は可能な限りボーナストラックとして収録する。ミュージックビデオはキャリア中に発表したものは全部入れる。あと、ジャケットデザイン上のアーティスト名の記載は必ずファンに馴染みがあるフォントやロゴを使う、というのがベーシックコンセプトですね。もちろん、なるべく手に取りやすい価格設定にするのも重要で、現状、CD+DVDの2枚組の場合は3,000円台としています。

シリーズが定着したおかげで、これらは欠かすことができなくなりました。例えですが、せっかく自分で有名ラーメン店にしたのに、手を抜いて急にまずくなって、客が来なくなるなんてダメじゃないですか。なので、味を守りつづけるために、ずっとスープをかき混ぜつづけているみたいな感覚ですね(笑)。

手で表現しながら話す佐々木洋

──(笑)。それを佐々木さんひとりで担当しているんですか?

基本的にはそうです。そしたら、ワーナーミュージックとユニバーサル ミュージックの担当の方から『ジャパニーズ・シングル・コレクション』シリーズに参戦したいと連絡をいただいて、今は“のれん分け”をしております。

ただ、フランチャイズ化してもシリーズのコンセプトはしっかり守りたいので、きちんと連絡を取りあって進めていただいています。逆に私から、「御社のあのアーティストで出してみてはどうでしょう」とご提案することもあります(笑)。そういう形で、シカゴやヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの『ジャパニーズ・シングル・コレクション』は実現しました。

──今ではレコード会社の垣根を越えたシリーズになっているんですね。

『ジャパニーズ・シングル・コレクション』はセールス期間がとても長くて、ラインナップを増やすことで、旧譜もまた売れたりするんです。新しいタイトルが出ると、シリーズのほかの作品も一緒に店頭に並べてもらえるのでまた売れるんですね。

実際に『ジャパニーズ・シングル・コレクション』がタワーレコード店頭にて展開されている写真

レコード店では新作がリリースされると旧作とともに展開される

実店舗でCDが売られていることに涙するアーティストも

──新譜と旧譜の相乗効果がセールスにストレートに反映され、シリーズの認知度もどんどん上がっていくんですね。これまで13作品リリースされていますが、個人的に特に印象深いのはどのアーティストですか?

特に印象的なのはワム!ですね。

シングル「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ」(1984年)のころのワム!の写真

シングル「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ」(1984年)のころのワム!

■関連記事はこちら
ワム!【前編】「アイドル的なイメージに惑わされるけど、実は最初からとんがっていた」
ワム!【後編】「ジョージは、アンドリューを真似することであの立ち位置にいられた」

ワム!の記事のときもお話ししたんですが、自分のなかでワム!というと、マクセル カセットテープのCMのイメージが強くて、なんとかあのCM映像を収録したかったんです。

さすがに難しいかなと思っていたんですが、マクセルの広報にご連絡したところ快く協力してくださって。会社のヒストリーアーカイブ資料の映像をお借りしてパッケージにできたときは感慨もひとしおでした。特典映像でCMの映像が入ったのはこのシリーズで初めてでしたし、ファンの皆さんにも非常に喜んでもらえました。

──ファンに喜んでもらうためにはとことんやるという、執念みたいなものを感じますね。ちなみにシリーズで一番売れたアーティストというと?

ビリー・ジョエルですね。CD2枚+DVDの3枚組のパッケージで、2万枚以上売れています。今年1月の来日でまたすごく伸びましたし、ビリーの場合はコアなファンだけじゃなくて、一般的なポップスファンにも知られている曲が多いということもあると思います。

──ボズ・スキャッグスとシンディ・ローパーに、出来上がった盤を直接渡されたときはどんな反応でしたか?

本商品を手に持ち、もう片方の手を胸に当て微笑むボズ・スキャッグス

ボズ・スキャッグス(2019年5月)

本商品を指さしポーズをとるシンディ・ローパー

シンディ・ローパー(2019年10月)

ボズもシンディもすごく喜んでくれましたね。シンディのときに印象的だったのが、一緒に来日してたツアークルーのひとりが、以前アメリカのレコード会社で制作をやっていた方だったんです。その方が手に取って、「すごいね、これ。ここまでファンが喜ぶパッケージをアメリカでも作っていたら、もうちょっとアメリカのフィジカルマーケットも長くつづいたはずなのに」って本気で感動してくれたんです。その言葉がすごくうれしかったですね。

このシリーズに限らずなんですが、海外ではベテランアーティストでもCDの企画ってそんなにないんですよ。そもそもCDを売ってるお店もないので。だから、来日したアーティストが日本独自企画のパッケージを見て、若いころの自分や昔のビジュアルを見て喜んでくれるんです。

それに、海外アーティストは、彼らのCDがリアルにショップで展開されていることに感動してくれるんですよ。去年TOTOが来日したとき、実際に店舗には行けなかったんですが、スティーヴ・ルカサーに彼のソロアルバム『ブリッジズ』のCDが店舗で展開されてる写真と映像を見せたらちょっと泣いてました。

まだタワーレコードの実店舗があって、自分たちの過去の作品がバーっと並んでて、それを今のレコード会社の人たちが一生懸命セールスしてくれてるということに感動したみたいです。

──ストリーミング全盛の時代だからこそ、CDのありがたみがより明確になった感じがありますね。では、『ジャパニーズ・シングル・コレクション』の今後の展望を聞かせてください。

各CDのジャケットを見ながら話す佐々木洋

まだソニーミュージックでは、ダリル・ホール&ジョン・オーツやジャーニー、ELOなど、出したくても出せてないアーティストがいっぱいいるんです。TOTOも一度断られたんですが、先ほど話したように、スティーヴ・ルカサーがソロアルバムの日本での展開に感動していたので、もう一度聞いてみたら今度はいけるんじゃないかな? と期待してます。

自分の血肉になった、夢を与えてくれたアーティストのコンピレーションは、できれば全部作りたい。ソニーミュージックにないものは、ぜひ他社で作っていただきたいと思っています(笑)。

──『ジャパニーズ・シングル・コレクション』は、佐々木さんのライフワークと言える作品なんですね。

ほんとそうですね。すごく手をかけて作っているので、レビューに「この音源、映像をよく入れてくれた。これだけでも買い!」とか書いていただけてるとテンションが上がります。このシリーズに関してはかなりエゴサーチもします(笑)。いろんなご意見をいただいて、毎回それを反映させるべく頑張っております。

本当に慎重に調べて作っているので、シングルバージョンじゃなくてアルバムバージョンが入っているようなときは、もう本国に7インチ盤のマスターが残ってないとか、どうしても入れられない理由があってのことだったりします。そういうときもありますが、理想に近い形にできるように取り組んでいます。

──資料性の高さももちろんですが、『ジャパニーズ・シングル・コレクション』の良いところは、いつでも思い出と再会できることだと思います。

音源だけを聴くよりも、ブックレットを見てもらうとさらに懐かしい気持ちになれるし、いろんな思い出を喚起してくれると思います。音源も映像もジャケットもブックレットも、どれもこだわって作っているので、『ジャパニーズ・シングル・コレクション』を手に取っていただいた際は、ぜひブックレットをパラパラめくりながら聴いてほしいですね。

記事の前編はこちら:ビリー・ジョエルらが認めた日本オリジナル企画盤『ジャパニーズ・シングル・コレクション』【前編】

文・取材:土屋恵介
撮影:荻原大志

リリース情報

バングルス『ジャパニーズ・シングル・コレクション -グレイテスト・ヒッツ-』ジャケット画像

バングルス『ジャパニーズ・シングル・コレクション -グレイテスト・ヒッツ-』
デビュー40周年を記念するベストアルバム。1984年~1991年に日本でリリースされた、スザンナ・ホフスのソロ名義曲も含む全シングル曲と、全14曲のMV(うち世界初DVD化3曲/日本初DVD化2曲)を収録するCD+DVDの2枚組。

試聴・購入(新しいタブを開く)

ノーランズ『ジャパニーズ・シングル・コレクション -グレイテスト・ヒッツ-』ジャケット画像

ノーランズ『ジャパニーズ・シングル・コレクション -グレイテスト・ヒッツ-』
デビュー50周年を記念するベストアルバム。1980年~1982年に日本でリリースされた全シングル曲と、全9曲のMV(うち世界初DVD化2曲/日本初DVD化1曲)を収録するCD+DVDの2枚組。

試聴・購入(新しいタブを開く)

連載音楽カルチャーを紡ぐ