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技術者たち ~エンタメ業界が求めるエンジニアの力~

システムエンジニア:好きと向き合うために転職し、システム開発でエンタメをサポートする喜びを知る

2024.08.23

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さまざまなエンタテインメントビジネスを手がけるソニーミュージックグループで、専門的な知識とスキルを持って働く技術者(エンジニア)に話を聞く連載企画。第8回は、社内で必要とされる業務アプリケーションの開発や保守・運用を行なうシステムエンジニアの野尻葵に話を聞いた。

  • 野尻葵プロフィール画像

    野尻 葵

    Nojiri Aoi

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

さまざまな業務アプリを高効率化させるためのアプリケーション基盤を担当

──野尻さんは、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)のシステムエンジニアとして、どのような業務を行なっているのでしょうか。

私の部署では、ソニーミュージックグループの業務で使用するアプリケーションの開発や保守・運用を行なっています。人事部や総務部が使用するアプリ、経理部が使う会計アプリなどさまざまな業務アプリがありますが、そのなかでも私はアプリケーション基盤 を担当しています。

──アプリケーション基盤とはどういったものなのでしょうか。

アプリを動かすためのツールと言ったらイメージしやすいでしょうか。社内用業務アプリはいろいろありますが、なかには「この機能はAとB、どちらのアプリにも使う」という共通機能があるんですね。そこで、各アプリをつなぐアプリケーション基盤を設けて、より効率良く、便利に使えるようにするためのツールです。

例えば、昨年夏にリリースしたあるアプリでは、ワークフローシステムをアプリケーション基盤で共通化して、日々の業務プロセスで必要なさまざまな承認作業をひとつのアプリで一覧できるようにしました。このようなデータ連携ツール、システム間をつなぐためのツールの開発や保守・運用を担当しています。

手を使って表現しながら話す野尻葵

SIer企業からエンタメ企業に転職! そこで感じたこと

──野尻さんは中途採用での入社ということですが、前職では、どのような仕事をしていたのですか。

約2年半、システム開発全般を請け負うSIer(エスアイヤー:System Integratorの和製英語)の企業に在籍していて。そこでは、実際に手を動かしてプログラミングをする業務に携わっていました。

──現在の業務内容に近いものでしたか。

もちろん近い部分もありますが、前職ではクライアント企業から依頼を請けてシステム開発を行なう側で、今はシステム開発を依頼する立場に変わったので、違いは大きいと感じています。実際に前職ではメインの業務だった、プログラミングをする機会も減りました。

──違うとは言え、システムのことがわかっていなければSIerへの依頼、要件定義もできません。前職での経験もいかされているのではないでしょうか。

そうですね。「こういう機能が欲しいのですが、こうすれば実現できますよね」と具体的に提案できるのは、前職を経験しているからだと思います。

──この連載の前々回では、野尻さんと同じ部署の岩崎さん(システムエンジニア:文系出身、法学部卒、専門スキルゼロから始めたエンジニアの話)にも話を聞いていますが、岩崎さんは自身の業務を「ソニーミュージックグループの各事業会社から業務の自動化やシステムの改修について問い合わせや要望を受け、その解決策を一緒に考えるITコンサルティングのような業務」と話していました。野尻さんも事業会社とSIerをつなぐ役割をしているのでしょうか。

つなぎの役割もありますが、アプリケーション基盤の開発工程はほかとはちょっと違っていて。というのも、先ほどお話ししたワークフローの共通化は、どこかの部署から依頼があって開発したわけではなく、「こういうワークフローを使っている社内アプリがたくさんあるけれど、それぞれを確認するのは大変ですよね。それなら、アプリケーション基盤で共通化して効率を上げましょう」と、自分たち発信で企画しています。

担当する部署や発注元があるわけではなく、社内のシステム的な課題を自分たちで掘り起こして、解決していくというのがミッションなので、SIerの方々とも直接のやり取りになることが多いですね。

白い服を着て手を重ねて話す野尻葵

同じく週5日働くなら、好きなことに携わりたい

──野尻さんは、約1年前にソニーミュージックグループに入社したということですが、転職を希望した理由を教えてください。

新卒で就活をしていたときから、エンタメ業界は選択肢にありました。ただ、倍率が高そうだし、自分には無理かなと臆してしまって……。

そこでほかの業界を検討した際、興味が湧いたのがIT系でした。私が大学で専攻していたのはメディア情報学科で、舞台の歴史、アニメーション研究、映像制作からプログラミングまで、幅広い分野を学ぶことができました。なかでも楽しかったのがプログラミングだったので、将来性も考えてIT業界を目指すことにしたんです。

当時からエンタテインメントは好きでしたが、仕事と趣味はきっちり分けて、終業後や土日に好きなことを楽しもうと決めていたんですね。ただ、実際に働き始めると残業も多くなり、だんだんと趣味に割く時間もなくなっていって……。

そこで、“せっかく週のうち5日も働くなら、好きなことに携わりたい!”と考えるようになって、前職の知見をいかしながら、エンタテインメントに携われる企業を探していたところ、ソニーミュージックグループに出会いました。

──ソニーミュージックグループは、音楽、アニメ、ゲーム、キャラクター、エンタテインメントの領域におけるソリューションなど、さまざまなカテゴリのエンタメビジネスを手がける総合エンタテインメント企業ですが、野尻さんが好きなエンタテインメントはなんですか?

アニメを入り口に、声優さんに興味を持つようになりました。そこから舞台、実写作品の映画なども観るようになって。ジャンルを問わず、幅広くエンタテインメントに触れているほうではないかと思います。

そういう趣味の趣向があったことも、ソニーミュージックグループを選んだ理由ですね。この会社なら、自分の好きなものと向き合って仕事ができるのではないかと思いました。

──実際に働き始めた感想は?

前職では、製造業の工場管理システムやレンタル業のシステム開発に携わっていたんですが、システム開発を通してその業界を知ることができ、そこにやりがいや面白さを感じていました。

その部分はソニーミュージックグループに入社後も変わってなくて、さらに現在の仕事では、直接ではないにしても、システム開発を通して自分の好きなエンタテインメントにつながれている実感があるので、やりがいはさらに大きくなりましたね。

──入社前に想像していた業務とのギャップはありましたか?

入社前は、数人の情報システム担当者がサーバー管理やアプリの保守を行なう小規模な体制を想像していましたが、入社してみたら社内業務アプリの数が膨大で、関わっている人数も多くてびっくりしました。実際の業務に関しても、アプリの保守・運用だけに限らず、常に新規開発や刷新プロジェクトが動いていて驚きました。

システム開発を通してエンタテインメントの作り手をサポート

──これまで関わったプロジェクトで、特に苦労した案件、自身の糧になったプロジェクトがあれば教えてください。

ご説明した通り、私が担当するアプリケーション基盤は、誰かに依頼されるものではなく、自分たちがユーザーの視点に立って開発するものです。ですが、承認ワークフローの共通基盤化のように、私自身が普段から使うわけではないアプリの開発、改修に携わることもあり、どうしてもユーザー目線が足りていない部分が出てきてしまいます。その点は、常に苦労していますね。

そのうえで、この承認ワークフローの共通基盤化の開発は、私にとって非常に良い経験にもなりました。承認系のシステムはグループ全社で使うものなので、リリース前に説明会を行なったのですが、会の司会進行や操作手順のデモ映像の作成など、いろいろなことを任せてもらえたので、使う側の視点に立って思考することのトレーニングにもなりましたね。

──仕事において、達成感や喜びを感じるのはどんなときでしょうか。

やはり、システムやアプリのリリース日ですかね。お話しした通り、全社に関わるようなアプリを本番環境に移行させるときは、不具合がないか、トラブルが起きないかドキドキします。ちなみに、承認ワークフローの共通基盤化のときは、操作方法に関する問い合わせはいくつか入りましたが、それも想定より少なく、大きなトラブルもなかったので良かったです(笑)。

にこやかな表情で語る野尻葵

──システムは安定稼働が当たり前と思われがちで、ユーザーから感謝される機会も少ないですよね。仕事をするうえで、何をモチベーションにしていますか?

繰り返しになってしまいますが、やはり自分が好きなものに関わっているということですね。間接的であったとしても、才能のあるアーティストやクリエイターの方々をサポートしたいと思っているので、システムを通して貢献することが私のモチベーションになっています。

また、今のところ私は、自分に与えられたミッションをどこまでうまくこなせるか、仕事の質を高められるかにやりがいを感じています。担当業務に対して、最大限のパフォーマンスを発揮するために創意工夫しながら取り組むことが、仕事の楽しさにつながっていますね。

ITエンジニアに必要なのは、食わず嫌いをしないこと

──エンタメ業界のエンジニアには、どういった資質が必要だと思いますか。向いているのは、どんな人でしょう。

一般的なイメージとは違うと思いますが、システムエンジニアは意外と人と話す機会が多い職業です。「どういう機能が必要ですか?」「どこを改善したいですか?」とヒアリングし、システムに落とし込んでいくので、話すことが苦にならない人、コミュニケーション能力が高い人が向いていると思います。

また、システムやアプリケーションの開発ではカタカナのワードが多く、普段からシステムに触れている人でなければ、専門用語はなかなかわかりません。なので、それをわかりやすい言葉に変換し、説明する力も大切だと思います。

──学生時代にやっておいたほうが良いこと、エンジニアとしての心構えなどはありますか?

この連載でほかの方も言っていましたが、“食わず嫌いをしない”ということでしょうか。前職の会社はプログラミングの未経験者でも採用する方針だったので、実際そういう人も何人かいましたが、ほとんどがプログラミングの研修を軽く受けただけで、自分には向いていないと判断し、営業職などを志望していました。

でも、最初の基礎問題が解けなかったからといって、挫折感を覚える必要はまったくなくて。機械に対して、ひとつずつ的確な指示を与えていけばシステムは必ずちゃんと動くので、“一回試してダメだったから”“私は文系だから”と自分を簡単に見限らないでほしいですね。

微笑みながらインタビュアーの話を聞く野尻葵

──最後に野尻さんが今度取り組みたいこと、エンタテインメント業界のシステムエンジニアとしてやりたいことを教えてください。

ソニーミュージックグループには何十年も前に作られ、いまだに使用されつづけている古い世代のアプリがたくさんあります。まずは、それらをどんどん若返らせていきせたいですね。

アプリもシステム環境も日々アップデートされていますし、それこそAIを取り入れる動きもあります。常に最新動向を追いつづけ、システム環境をリフレッシュさせていければと思います。

それと、せっかくエンタテインメント業界に入ったので、システム開発を通してグループ各社の業務をもっと深く知りたいですね。ITエンジニアで、これだけ幅広いエンタテインメントビジネスに携われるのは、なかなかないことだと思うんです。それこそグループ各社の業務アプリ開発も経験できたらと思っています。

笑顔で楽しそうに話す野尻葵

文・取材:野本由起
撮影:干川 修

関連サイト

ソニーミュージックグループ コーポレートサイト
https://www.sme.co.jp/(新しいタブを開く)

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