アニプレックスの海外戦略――世界を熱狂させるファンマーケティングの探求①
2024.09.15
日本のアニメ作品やクリエイターに高い評価が集まるなか、ANXは海外に対してどのようなアプローチを行なっているのか。累計10年以上にわたって海外戦略を担ってきたANXの本間久美子に、海外展開の歩み、海外のアニメ事情について話を聞いた。後編では、9月16日(月・祝)に控えた『Aniplex Online Fest』の開催意義、海外への情報発信、今後の海外戦略について語る。
本間久美子
Honma Kumiko
アニプレックス
記事の前編はこちら:アニプレックスの海外戦略――世界を熱狂させるファンマーケティングの探求①
──前編でもアニメイベントについて話を聞きましたが、そもそも海外イベントへの出展に力を入れ始めたのはどういう経緯だったのでしょうか。
アニメファンにアプローチするには、作品自体の配信、SNSを使ったマーケティング、グッズ販売などさまざまな手段があります。イベントもそのひとつとして、以前から重視してきました。
ANXは、2005年に北南米でアニメーションビジネスを展開する現地法人・Aniplex of America(以下、AOA)を設立しました。アメリカに拠点を置けば、現地のアニメファンに寄り添う施策を打てるようになるからです。AOAの設立に伴い、精力的に海外でもイベント出展を行ない、その結果アメリカでのANXのプレゼンスを高めることができました。2019年にはANX上海も設立し、中国でのイベント出展にも力を入れています。
ほかにも、シンガポールをはじめとして東南アジアの複数地域で開催されるアニメイベント『Anime Festival Asia』(現『C3 AFA』)にも以前から参加していますし、最近ではソニー・ミュージックエンタテインメントが韓国のアニメ放送局アニプラスと共同で『Anime X Game Festival』を開催し、こちらにも出展しています。
最近ではフランスの『Japan EXPO』でも、ANXとして『鬼滅の刃』のブースを出展し、予想以上の反響を得ることができました。
イベントは作品に興味を持ってもらったり、作品愛を深めてもらったりする機会として極めて重要な施策だと考えています。ファン同士、また、ファンと作り手との間で共有される熱が、その後の話題や盛り上がりに繋がります。
──海外におけるアニメイベントの変遷、時代による変化についても教えてください。
かつては、アメリカでも中国でも著作権侵害の非公式グッズ、非公式展示が多く、同じ会場で公式と区別なく非公式グッズが堂々と販売されていました。その後、各企業による公式出展が増え、来場者の方々も「あ、こっちが本物なんだ」「これは偽物なんだ」と区別がつくようになりました。
『Anime EXPO』でも、アマチュアやセミプロによるいわゆる同人作品は、クリエイター自らがブースを出展し、作品の展示、販売を行なう「Artist Alley」として区画を分けて扱っています。
やはりアンオフィシャルをなくしていく一番の方法は、本物を流通させること。アニメの配信もそうですが、グッズも本物が手軽に手に入るようになれば、ファンの方々もついてきてくれて、健全なマーケットになるのだと思います。
──アニメビジネスにおいては、グッズも重要な位置を占めています。海外でのグッズに対する熱量はいかがでしょう。地域によって売れ筋の違いはありますか?
人気の高い作品は、やっぱりグッズも人気です。“この地域ならこれ”という法則はありませんが、アメリカではTシャツなどのアパレル系やアクセサリーが強い印象ですね。アジア圏は、どちらかというと雑貨や文具、アクリルスタンドやアクリルキーホルダーといった日本でも流行っているアイテムが人気です。
ただ、日本の商品をそのまま輸出すると、輸送費や関税がかかるため高額になってしまいます。日本でしか手に入らないアイテムを求めるコアなファンの方もいますし、フィギュアのような高価格帯の商品は、日本のものを輸出するのが効率的で良いと思いますが、より広い層にアプローチするには現地で製造したり、現地企業にライセンスアウトしてグッズを作ってもらったりすることが重要です。
それに、例えばアメリカではアメリカのグッズメーカーが企画したほうが、現地のファンのニーズを捉えた商品が生まれます。商品化のライセンス契約をして、現地での商品化、現地発の商品企画をすることが大事だと思います。
──ANXではリアルイベントのほかに、海外に向けたイベント配信にも力を入れています。そして、コロナ禍の2020年夏にスタートした『Aniplex Online Fest』(以下、『AOF』)は、本間さんが立ち上げた企画です。昨年はリアルとオンラインのハイブリッド開催でしたが、今年はどのような形式になるのでしょうか。『AOF』の意義、オンラインイベントの今後についても考えを聞かせてください。
『AOF』は、コロナ禍で海外でのイベントが軒並み中止になったため、代替的に情報発信の場として始めた配信フェスです。ですが、蓋を開けてみると日本からの視聴数のほうが多いイベントとなりました。
そこからは日本国内チームと連携しながら、グローバル向けのイベントと銘打って1年に1回開催しています。リアルとオンラインのハイブリッド開催にも挑戦し、2022年にはパシフィコ横浜、2023年はZepp DiverCity (TOKYO)で大がかりに開催しました。ですが、リアルとオンラインの両立に課題を感じたため、2024年の『AOF』は9月16日にオンラインのみで開催する予定です。
というのも、コロナ禍が収束した現在は、イベント全般がリアルに回帰しつつあります。そのいっぽうで、『AOF』はひとつの作品ではなく複数の作品を紹介するオムニバスイベントなので、熱量が分散してしまうという課題がありました。
そこで原点に立ち戻り、もう一度このイベントの意義を考えることにしたんです。そもそも『AOF』で行なうべきは、作品のプロモーションです。海外を含めてより多くの方に、しかも効果的かつ効率的にご覧いただくにはどうすれば良いかと考え、オンラインに立ち返ることにしました。
オンラインイベントと言っても、位置づけとしては配信番組に近いイメージです。最新情報を解禁する番組でありつつ、“フェス”ならではのお祭り感も演出したくて。いろいろなコンテンツを織り交ぜつつANXが手がける作品の情報発信を行なう場として、ひとつの軸にしていきたいと考えています。
日本で言うと、春は『Anime Japan』、秋は『AOF』といった形で、「このタイミングでANXの新情報が出るんだな」とファンの皆さんに注目していただけたらと思います。自社メディアのひとつと捉え、今後も盛り上げていきたいですね。
──対応言語は、日本語と英語でしょうか。
はい。MCは、今年もデジタル声優アイドル・22/7の天城サリーさんとニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さん。天城サリーさんはバイリンガルですので、どちらの言語にも対応してもらっています。また、ソニー・ミュージックソリューションズによる協力のもと、リアルタイム字幕も表示する予定です。
──リアルタイム字幕は、どのような仕組みなのでしょうか。
毎年ブラッシュアップしているのですが、今年はリスピーカーを起用することにしました。まず、声優さんやクリエイターさんが話した言葉を、翻訳しやすいようリスピーカーが日本語で言い直します。それを音声入力し、機械翻訳、その上で正しい英語に修正し、整形した文章を字幕に表示しています。
機械翻訳をする上では、事前にアニメの専門用語、作品やキャラクター名など、大量の対訳表をインプットしました。以前は、通訳の方に同時翻訳してもらう方法も試しましたが、より良い手法を模索して今年はこうした形を取ることになりました。
──『AOF』は日本のファンの反応が大きかったということですが、ほかに海外に特化した施策は考えていますか?
海外向けの発信として、今年5月から『Aniplex After Hours』という配信番組も始めています。こちらは最新情報の発信ではなく、配信中のANX作品から話題作を掘り下げて紹介する番組です。プロデューサーに話を聞いたり、イベントレポートをお届けしたりと、海外限定で数カ月に一度のペースで配信を行なっていく予定です。
──第1回は、どんな作品を扱いましたか?
海外でも盛り上がりを見せている『俺だけレベルアップな件』と『マッシュル-MASHLE-』のプロデューサーに、制作の舞台裏を語ってもらいました。良い反響をいただいているので、内容をどんどんブラッシュアップし、アーティスト情報なども番組内で扱っていけたらと思っています。
──ANXの今後の海外戦略には、どのような課題がありますか? 話せる範囲で中長期的なビジョンを教えてください。
それぞれの国や地域によって、ローカライズが必要であることが前提ではありますが、昨今は、特にマーケティングにおいては、国内と海外を分けて考える時代ではなくなってきているように感じます。
これまでは日本発のアニメだから、日本ありきとして、国内先行で情報解禁を準備し、海外は日本を後追いする形で情報をお伝えするケースが多々ありました。商品化も日本をメインに考えていましたが、今では海外市場も拡大しています。収益性、ファンの盛り上がり、どちらも無視できない規模になっているので、情報解禁ひとつとってもグローバルで行なうべきではないかと考えています。
こうして国内外を問わずグローバルで作品を展開することで、盛り上がりも最大化できます。今年6月末に、「劇場版『鬼滅の刃』無限城編」の情報を公開しましたが、こちらに関してはCrunchyrollやソニー・ピクチャーズ エンタテインメントとも連動し、グローバルで同時に情報解禁しました。Crunchyrollやソニー・ピクチャーズ エンタテインメントを含む映画関連企業のアカウントで、各国語にローカライズしたプロモーションビデオや情報を日本と同時に公開したところ、反響がいつにも増して大きく、海外のアニメファンにもとても喜ばれました。
これまでは、日本で情報解禁を行なったあと、「こういう情報が日本で出たらしいよ」とじわじわ口コミで広まることが多かったのですが、それとはまったくインパクトが違います。情報解禁の足並みを揃えることも、海外戦略においてはとても重要だと思います。
また、作品づくりにおいても、これまで以上に海外を意識すべきだと思っています。各言語の吹替版をグローバルで同時に配信するには、早期に映像素材を納品し、連携していく必要があります。こうした取り組みも、Crunchyrollと一緒に積極的に推進しているところです。
さらに、Crunchyrollとの共同製作も増えています。海外市場ではどういった作品が受けるのか、どういう作品に挑戦したいのかというディスカッションを行なう場があり、そこでは日本では出てこないような企画が提案されることもあります。こうした作品が実れば、日本発とはまた違った盛り上がりを作れるのではないかと思います。
──これまで開拓が不十分だったエリアに、ANXのアニメを広めることも考えていますか?
もちろんです。インドや中東、中南米など、まだまだ可能性を感じるエリアはたくさんあります。東南アジアにももっと配信を広げていきたいですし、欧州でもこれから商品化ライセンスに本腰を入れていきたいという状況です。
──さまざまな施策において、海外市場の重要度が増していきそうですね。
そうですね。昨今は原作元や製作委員会も、海外でどれだけ作品が盛り上がるのかを注視しています。今後は、日本が行なったプロモーション施策に海外が追随するのではなく、海外から「こういう取り組みをしたら面白いんじゃないか」と挙がったアイデアを、日本を含めたグローバルで展開することも考えられます。
劇場版アニメをできるだけ日本と同じタイミングで公開したり、商品化についてまだ開拓できていない市場に対して、作品の勢いが最高潮のうちにグッズ展開できるよう、早めにライセンス契約を結ぶなどの対応も必要です。一歩ずつではありますが、取り組みの規模感、スピード感はどんどん高めていきたいと考えています。
記事の前編はこちら:アニプレックスの海外戦略――世界を熱狂させるファンマーケティングの探求①
文・取材:野本由起
撮影:干川 修
「Aniplex Online Fest 2024」オフィシャルサイト
https://aniplex-online-fest.com/
アニプレックス公式サイト
https://www.aniplex.co.jp/
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