大竹健のイズム:アーティストに寄り添い、手鏡になる――海外で一流に学んだ仕事の流儀
2024.11.08


音楽、アニメ、ゲーム、キャラクター、ソリューションなど、幅広いエンタテインメントビジネスを手がけるソニーミュージックグループで、各ビジネスを統括するマネジメントクラスが自身の“エンタテインメント・イズム”を語る。
今回は、1990年にCBS・ソニーグループ(現、ソニー・ミュージックエンタテインメント)に入社し、2023年からソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)の代表取締役執行役員社長として、エンタテインメントソリューション・ビジネスを統括する大谷英彦が登場。後編では、ソリューションビジネスの現在と未来の展望、そしてエンタテインメントビジネスに携わる者として、自身の信条を聞いた。
目次

大谷英彦
Otani Hidehiko
ソニー・ミュージックエンタテインメント
取締役執行役員
ソニー・ミュージックソリューションズ
代表取締役執行役員社長
記事の前編はこちら:大谷英彦のイズム:人との出会いが自分を成長させる
──2023年4月、大谷さんはソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)の代表取締役に就任します。SMSでは、CDやDVD、Blu-rayなどのパッケージ制作、製造、物流、ライブやイベントの企画、制作、ファンクラブの運営、グッズの企画、制作、音楽スタジオの運営など多岐にわたるソリューションビジネスを手がけています。改めてエンタテインメントのソリューションビジネスとは、どういった事業なのでしょうか。
多種多様なビジネスが混在している会社ですけど、アーティスト、クリエイターが必死の思いで作った音楽やIPを、あらゆる領域に届けるのがSMSのソリューション事業です。各事業もお届けするファンの方々は同じなので、事業の壁を作らず、エンタテインメントビジネスの“ワンストップソリューション(1社ですべての課題を解決する)”をテーマに仕事しています。
──大谷さんが、エンタテインメントのソリューションビジネスで大切だと考えていることを教えてください。
IPを深く知って、IPを創ったアーティストやクリエイター、一番近くで支えるクライアントの方々の情熱を理解し、ファンの方に新しい感動を提供することが我々のビジネスの基本です。
SMSは、日ごろからアーティストやIPと近い距離で仕事をしているソニーミュージックグループのIPサイドのカルチャーをよく知っていて、コンテンツやクリエイターへの理解力や愛情は自然と高くなる環境ですので、そのうえでクライアントの皆様との信頼関係を構築して、より強固にできるような仕事を徹底することが一番大切だと思っています。
──SMSの多岐にわたる事業のなかで、現在特に力を入れている領域、成長領域はどこになりますか。
ジャンルでいうと、アニメIPはとてもパワーのある領域です。グローバルにおいても存在感、影響力はどんどん増していて、我々の事業領域のなかでも非常に大きなポジションを占めています。また、ここ数年ではVTuber領域における事業がとても伸びてきています。
海外はまだこれからですが、大きな可能性を感じています。コンテンツがデジタル化した今は、ボーダレスにIPがファンを獲得できますから、ソリューション事業で海外のファンをさらに熱狂的にするアイデアを考えて積極的にチャンレンジしたいと思っています。
ライブ&イベント事業、マーチャンダイジング事業、ファンクラブ事業、イーコマース事業などのファンダム系事業は、マーケットの規模、成長率ともに大きいですね。
今は、アーティストとファンがSNSで直接つながれるようになり、アーティストや作品について情報を網羅的に知ることができるようになったため、ファンはアーティストやクリエイターにもっと近づき、より新鮮で深い情報を知りたいと思うようになったと思います。ライブやイベントにさらに人が集まるようになって、ファンダムをベースにしたビジネスが大きな軸となってきました。
アーティストやIPの価値を高めていくためにも、ライブ&イベント事業と、これに密接に関わるマーチャンダイジング事業、ファンクラブ事業は、特に力を入れています。
ただし、ビジネスには"攻め"と"守り"どちらも必要なので、成長領域だけに比重を置いているわけではありません。SMSが長年携わってきたコンテンツ系事業のなかでは、音楽配信市場は引きつづき伸びていますし、フィジカルビジネスも日本においてはまだ堅実、堅調な事業領域です。しっかり守りも固め、バランス良くビジネスを展開していきたいと考えています。
──SMSで働く皆さんは、こうした潮流を捉え、ビジネスに換えていくことも求められそうですね。
“環境変化を敏感に察知し、ビジネスチャンスをものにする”ことは、とても大事なテーマだと思います。SMSでは先ほど挙げていただいた通り、幅広い事業を展開しており、エンタテインメントのワンストップソリューションを提供しています。マーケットはリンクする部分もあるので、そこをつないで大きなニーズに向き合って、ビジネスチャンスを逃さないようにしなくてはいけない。
そのため情報共有の会議も頻繁にやっていたり、社内懇親会も不定期で開催していたり、自分ごと以外のビジネスについての進捗や目標、課題を知ることができる環境づくりを心がけています。それぞれの事業がどう回っていて、どう動いているのか。自分なりに状況を知ることで全体を俯瞰できる勘所の良いビジネスプロデューサーが、どんどん育っていってくれるんじゃないかと思います。
──SMSのビジネスプロデューサーには、どのような視点が必要だと思いますか?
やっぱりファンの動向をしっかり知ることですかね。なぜなら我々のソリューションビジネスはファンに一番近いところでビジネスを展開しているからです。ファンの皆さんが新たに求めているのは何か? 新たな感動を提供できているか? 満足してくれているか? アーティスへの愛情を高めることができているか? それから、結果をしっかり分析して、ヒントを見つけ、IPサイドにフィードバックすることですね。その意識を常に持ってビジネスに取り組んでいきながら、絶えず変わる環境に敏感でいることが重要です。
マーケットで「何かが起きている」という事象の最前線には熱狂的なファンが必ずいると思います。
──大谷さんがエンタテイメントビジネスに携わるうえでの信条、大事にしている考え方も教えてください。
物ごとの正解はひとつとは限らないということは、いつも肝に銘じています。自分のやり方や考え方だけが正解じゃなくて、同じような目標に辿り着く正解はいくつもあると思っていると、素直に人の意見が面白いなと思えたり、参考になるなと感じることが増えてきて、それが糧になっていたりします。
そして何よりも、“信じる=誰よりも好きになる”ということですね。アーティストにしてもIPにしても、一緒に働く仲間にしても、自分が「これだ!」と思ったものは、とことん信じて取り組んでみる。取り組んだ結果がどうあれ、そこから学ぶことはきっと多いと思います。
それと、変化を怖がらないということも大事ですね。エンタテインメントビジネスはサイクルも早いですし、取り扱う作品も毎回違います。環境も変わりつづけていきますし、常に変化を受け止め、新しいことに挑戦する意識を持っている人のほうが、より大きなヒットを生み出しているように感じます。
また、私自身は勘というものも大事だと思います。エンタテインメントビジネスは、ロジカルな手法があてはまりづらいビジネスだと思っていて。自分の仕事を振り返ってみると、誰かに相談したりしてもなかなか決断がつかず、最後は勘で決めなきゃいけないことは多々ありました。でも、その勘をどこまで信じられるかで結果が大きく変わると思っています。
──ヒットの法則に当てはめず、あえて違うやり方を試すというのは面白い考え方ですね。エンタテインメントビジネスはマーケティングが通用しにくく、過去のヒットの事例を踏襲するより、新しい発想でものづくりをしたほうが面白いものが生まれるのかもしれません。
そう思いますね。なかなか難しいですけど、自分としてはできるだけ過去の成功を踏襲せず、毎回リセットして柔軟に新しい感覚で情報を収集したり、分析もしっかりして学ぶところは学び、新たなマインドセットで仕事に向き合って、面白いことをたくさんやりたいと思っています。
──最後に、エンタテインメント業界を志す方々に向けて、メッセージをお願いします。
エンタテインメントは「奇跡」を生み出す素晴らしい仕事ですよ!
クリエイティブな仕事も、ソリューション的な仕事も、エンタテインメントがとことん好きなことであれば楽しめると思いますから、ぜひ、皆さんソニーミュージックグループを志していただければうれしいです。
記事の前編はこちら:大谷英彦のイズム:人との出会いが自分を成長させる
文・取材:野本由起
撮影:干川 修
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