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エンタテインメント・イズム

大竹健のイズム:身軽でいること、相手の懐に飛び込むこと――国内外を渡り歩いて掴んだビジネススタイル

2024.11.08

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音楽、アニメ、ゲーム、キャラクター、ソリューションなど、幅広いエンタテインメントビジネスを手がけるソニーミュージックグループで、各ビジネスを統括するマネジメントクラスが自身の“エンタテインメント・イズム”を語る。

今回は、「ピーナッツ」「きかんしゃトーマス」「ピーターラビット」など、さまざまなキャラクターのプロパティビジネスを展開するソニー・クリエイティブプロダクツ(以下、SCP)代表取締役執行役員社長の大竹健が登場。後編では、現在SCPが注力している事業、仕事をするうえでの自身の信条などを聞いた。

  • 大竹健 プロフィール画像

    大竹 健

    Ohtake Ken

    ソニー・ミュージックエンタテインメント
    コーポレートSVP
     
    ソニー・クリエイティブプロダクツ
    代表取締役執行役員社長

記事の前編はこちら:大竹健のイズム:アーティストに寄り添い、手鏡になる――海外で一流に学んだ仕事の流儀

音楽著作権ビジネスで学んだアセット活用

──大竹さんは、ロンドンで本格的なキャリアをスタートさせ、国内を経て、ニューヨーク、ロサンゼルスで音楽ビジネスに携わり、2001年に帰国。その後、ソニー・ミュージックパブリッシング(以下、SMP)の執行役員に就任します。SMPはソニーミュージックグループで主に楽曲の著作権を保有、管理しながら音楽の出版ビジネスを展開する会社ですが、SMPの経営に携わることになった経緯を教えてください。

ロサンゼルスで小室哲哉さんの海外進出をサポートする際、マイケル・ジャクソンの弁護士を務めていたジョン・ブランカさんと知り合いました。彼は音楽著作権に関する知見が豊富で、マイケル・ジャクソンの『Bad』が大ヒットしたとき、マイケルに音楽著作権に投資するようアドバイスしたんですね。これによって、マイケル・ジャクソンはビートルズの楽曲の著作権を獲得することになりました。

そんな彼からいろいろと話を聞き、会社とも相談した結果、“日本でも音楽著作権のビジネスを立ち上げる”となり、私も携わることになりました。

──SMP設立の時期だったんですね。それまで、ソニーミュージックグループでは音楽著作権をどのように管理していたのでしょうか。

音楽著作権、キャラクター商品化権などを管理、運用するグローバル・ライツというグループ会社がありました。その音楽出版部門を独立させたのがSMPです。キャラクターライセンス部門は、その後ソニー・クリエイティブプロダクツ(以下、SCP)が吸収することになるという過渡期でしたね。

──大竹さん自身も、音楽の著作権ビジネスの領域に興味を持つようになったのでしょうか。

そうですね。原曲とは違う歌手が歌っても、音楽著作権があると作曲家や作詞家、そして音楽出版社にも使用料が支払われますし、テレビCMや映画などで曲が使われた場合も同様です。昔からカバー曲が好きだったこともありますが、音楽出版社の役割を知るにつれ、自分も関わってみたいと思うようになりました。

ソファに腰かける大竹健

それとSMPは、音楽著作権の重要性をソニーグループに広める役割も果たしましたね。例えば、アメリカのSony/ATV Music Publishing(現、Sony Music Publishing)が「Stand By Me」の著作権を持つリーバー・ストーラーという企業を買収することになったと言っても、音楽著作権ビジネスは特殊なので、その買収にどういう意味があるのか理解してもらうのは困難です。そこでSMPが音楽著作権の仕組みやその意義をソニー本社に説明することで、グループ全体で音楽出版ビジネスを促進することができました。

──音楽著作権のビジネスでは“カタログを増やすこと”が重要だと言われますが、具体的な著作権ビジネスの説明をお願いできますか。

音楽の著作権は、3~5年の契約で音楽出版社が管理していることが多いんですが、対象作品の契約期間が残り少なくなったところで、権利元と交渉し、先方も納得すれば、著作権を管理することができる、サブ・パブリッシングという方法をとっていました。

ほかにも、JUJUさんのようにアーティスト育成タイミングからサポートを継続して出版権の留保をしたり、J.Y. Parkさんとは合弁会社を設立してカタログの強化を行ないました。今では積極的にアンテナを立てて、カタログを増やしています。

──現在大竹さんがSCPで携わっている、キャラクタービジネスにも近しい部分がありますね。

そうですね。アセット(資産)をいかに活用して収益を生むかという点では、音楽出版もキャラクターのプロパティビジネスもよく似ていると思います。

特に“エバーグリーンキャラクター”と言われる「ピーナッツ」「きかんしゃトーマス」「ピーターラビット」などのIPは、海外に権利元があります。SCPは彼らとエージェント契約を結び、IPをお預かりしてビジネスを拡大していきますが、大事なことは原作者を尊重したうえで収益の最大化を目指すということ。SCPもSMPも権利元と消費者の間に入り、エンタテインメントアセットをいかに大きくするかを考えながらビジネスを行なっています。

指を組む大竹健

コロナ禍で実感したキャラクターの力

──2014年には、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)の経営企画グループを皮切りに、ソニーミュージックグループの経営の中枢にも関わっていきます。この時期で、印象深かったことを教えてください。

経営企画業務の一環としてはThe Orchardの合弁会社を立ち上げるサポートしました。しかし、もっとも大きなできごとは、「ピーナッツ」のビジネスを拡大したことです。SCPは、2010年に「ピーナッツ」の国内エージェント権を獲得して以来、「ピーナッツ」の存在感を高めIPを大きく成長させました。

こうした業績が認められ、「ピーナッツ」の遺族団体から日本国内で「スヌーピーミュージアム」を開館することの承諾を得ることができました。当時、六本木にオープンした「スヌーピーミュージアム」は、多くの「ピーナッツ」ファンに支持され、その結果、権利元であるPeanuts Worldwide LLCとの距離も近くなり、ソニーミュージックグループが同社への持分取得による出資を申し出ることになりました。

それまでにも何度か同様のディールは議題に挙がりましたが、実現には至らず。しかし、SCPの10年がかりの努力が認められ、ソニーミュージックグループが「ピーナッツ」という国内でも絶大な人気を誇るIPを運営する法人の持分を取得することができました。その交渉、契約に携われたのは、印象深いできごとでしたね。

──出資は「ピーナッツ」のビジネスに、どのような効果をもたらしたのでしょうか。

まず、SCPとのエージェント契約期間を長期化しました。SCPとしても長期にわたるビジネスプランを立てられますし、グッズ制作などを請け負う企業の皆さんからも信用を得ることができます。また、グローバルの動向もわかりやすくなるので、さまざまな国と地域に歩調を合わせながら「ピーナッツ」のビジネスを拡大しやすくなりました。

──その後、2021年にはSCPの代表に就任しています。キャラクタービジネスは、これまで関わってきた事業とどんな点が違うと感じましたか?

キャラクタービジネスはよりファンとの距離が近いですよね。私はコロナ禍のまっただなかでSCPにきたので、コロナ禍で多くの人が心を傷めているとき、キャラクターが寄り添い、癒しを与えている様子を目の当たりにしました。キャラクターにはアーティストや音楽とは、また違った素晴らしい力があるということを実感しましたね。

──コロナ禍で、キャラクターが果たす役割もより明確になりました。

そうですね。キャラクターが持つフィロソフィーが、より前面に出るようになりました。「スヌーピーに救われた」「このキャラがいてくれたから、心がよみがえった」という声も届き、我々はとても大事な仕事をしているんだと感じています。

手を使って話す大竹健

IPを活用したミュージアムや体験施設を拡大

──SCPでは、先ほど話にあがった「スヌーピーミュージアム」、「六本木ミュージアム」といったミュージアムビジネスも手がけています。2024年11月2日には東京・京橋の「CREATIVE MUSEUM TOKYO」も開業しましたが、どのような戦略でミュージアムビジネスを展開してきたのでしょうか。

SCPは、2016年に六本木で「スヌーピーミュージアム」を開業しました。その後、2019年12月に南町田グランベリーパーク内に移転しましたが、現在も「ピーナッツ」ファンに愛されつづけています。そして六本木の「スヌーピーミュージアム」の跡地は、「六本木ミュージアム」となり、現在に至るまでさまざまな展示会を開催してきました。

このふたつのミュージアムの運営で得た知見をもとに、このたびオープンしたのが「CREATIVE MUSEUM TOKYO」です。戸田建設の立派なビルに大きなスペースをいただき、どうすれば来場する皆さまに楽しんでいただけるか? どうすればキャラクターやIPをもっと好きになっていただけるか? これまで培ったノウハウをつぎ込んで最大限に表現する場を作っています。身近なIPがアートと結びつくことで、新たな魅力を提示できればと考えています。

現在開催中の『アニメ「鬼滅の刃」柱展 -そして、無限城へ-』では、ソニーグループの技術も使って、これまでの展覧会とは異なる新しい魅力を引き出しています。今後の展覧会も、何度も足を運んでいただけるような充実した内容にしていきたいですね。

『柱展』キービジュアル

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

──「六本木ミュージアム」でも引き続き企画展を行なっていますが、「CREATIVE MUSEUM TOKYO」との方向性の違いはどのように打ち出していますか?

今、コンサートホールと同じように、都内のミュージアムも数が不足しています。六本木ミュージアムも「CREATIVE MUSEUM TOKYO」もポップアートを展示するミュージアムですが、コンセプトが重なっても特に問題ないと考えています。

ただ、明確な違いとして立地が挙げられます。「CREATIVE MUSEUM TOKYO」のある京橋は街ぐるみでアートに取り組んでいて、すぐ隣にはブリヂストンによるファインアートミュージアム「アーティゾン美術館」もあります。東京駅、日本橋、銀座の3地点の中心に位置する京橋をアートの街にする。「CREATIVE MUSEUM TOKYO」は、こうした街のコンセプトを体現する機能も果たしています。

──近年は、ソニーミュージックグループでも「アンディ・ウォーホル・キョウト」などのアート展を運営しています。エキシビションビジネス、ミュージアムビジネスも含めて、SCPでは今後ロケーションベースエンタテインメント(LBE)事業にますます力を入れていくのでしょうか。

インドア、アウトドア、都市型、郊外型など、あらゆるロケーションでのIP活用は、今後のSCPにとってもっとも重要なテーマのひとつです。

2024年3月には、池袋のサンシャインシティに屋内型テーマパーク「トーマスステーション池袋」がオープンしましたし、今後は軽井沢のゴルフ場に「ピーナッツ」のテーマを取り入れてもらうコラボの実施が決まっていて、スヌーピーがデザインされたホールも登場する予定です。今後も、IP、キャラクターと同じ時間を過ごす場を増やしていきたいと考えています。

クオリティマネジメントとチャレンジの両輪でビジネスを展開

──SCPの今後の展望についても教えてください。

エージェントとしてのライセンスビジネスが、SCPの中核を成すことは今後も変わりません。そこに、今お話したLBEビジネスを加え、二本柱で事業を展開していきます。

また、新たなキャラクター、IPの創出にも力を入れていきます。コロナ禍の反動で、SNSでバズるキャラクター、デジタルでリアクションが大きいキャラクターが共感を得ていますよね。SCPでもこうした動向をキャッチアップしつつ、新たなキャラクターを生み出していかなければなりません。最近の若い方は好きになる速度が速いので、そのペースに追いつけるように新しいIPを提供していきたいですね。そのためにも現在、日本市場、アジア市場双方を視野に入れて積極的にそれぞれのテリトリーに最適な開発に取り組んでいます。

真剣な眼差しを向ける大竹健

──ソニーミュージックグループでは全社的に新規IPの創出に取り組んでいますが、IPをゼロから生み出し、ヒットに結びつけるのはとても難しいことです。どのようなビジョンを持ってIP開発に取り組んでいますか?

新しいIPの創出には、大なり小なりパートナーの存在が欠かせません。SCP単独でゼロイチを完結させるというこだわりはなく、他社との協業も視野に入れて、短期間でより多くの人気や共感を得ることも必要だと思っています。

SCPとして、大切にしているのはエバーグリーンキャラクターの“クオリティマネジメント”と“チャレンジ”のバランスです。これまでと同じようにエバーグリーンのキャラクターを大切にしつつ、ゼロから生み出すキャラクター、キッズ・エンタテインメントIP、コラボレーションキャラクター、韓国生まれの「パンパンくんの日常」などアジア全域で共感を得るキャラクターを開発していきたいですね。

大事しているのは、身軽でいること、懐に飛び込むこと

──ソニーミュージックグループで国内外のビジネスに携わってきた大竹さんですが、エンタテイメントビジネスを展開するうえでの信条、哲学を教えてください。

私自身の信条は、いつも身軽でいることですね。フットワーク軽くどこにでも行けるように、常に軽装を心がけています。

あとは、相手の懐に飛び込むことも大事にしています。これに関しては、“飛び込んだから成功した”というより、“あのとき、懐に飛び込んでいれば失敗を避けられたかもしれない”という後悔の経験があったからですね。

──逆に、懐に飛び込んだことでうまくいった例はありますか?

ビジネスの場で出会いながら、ビジネスを抜きにいつでも連絡を取り合って話ができる友人がいます。自分という人間を見せて、相手も自分を受け入れてくれたから、何十年もつき合いが続いているのでしょうね。

そういう方々のおかげで、今もいくつもの案件が解決することがあります。こうした関係になれたのも、やっぱり懐に飛び込んだからではないかと思いますし、エンタテインメントは属人性の高いビジネスなので、やっぱり人との関係性が大事です。人脈がどうこうという話ではなく、深い関係を築くことが大切だと思います。

──最後に、エンタテインメント業界を志す方々に向けてメッセージをお願いします。

ソニーミュージックグループは、一度入ってしまえば何でも教えてもらえる場です。逆に言えば、聞かなきゃ損です。もしソニーミュージックグループに入社したなら、周りの人たちに遠慮なく何でも聞いてどんどん成長してほしいですね。

足を組みポーズを決める大竹健

記事の前編はこちら:大竹健のイズム:アーティストに寄り添い、手鏡になる――海外で一流に学んだ仕事の流儀

文・取材:野本由起
撮影:干川 修

展示会『アニメ「鬼滅の刃」 柱展ーそして無限城へー』

『柱展』キービジュアル

©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

    • 会期:2024年11月2日(土)~2025年3月2日(日)
    • 会場:Creative Museum Tokyo(東京・京橋)

 

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