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エンタテインメント・イズム

見上チャールズ一裕のイズム:大切なのは“Fairness”──ビジネスをするうえで公平公正でありたい

2025.02.03

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音楽、アニメ、ゲーム、キャラクター、ソリューションなど、幅広いエンタテインメントビジネスを手がけるソニーミュージックグループで、各ビジネスを統括するマネジメントクラスが自身の“エンタテインメント・イズム”を語る。

今回は、ソニー・ミュージックパブリッシング(以下、SMP)代表取締役執行役員社長の見上チャールズ一裕が登場。

後編では、SMPが現在取り組んでいるビジネスの展望や自身がエンタテインメントビジネスに携わるうえで大切にしていることなどを聞いた。

  • 見上チャールズ一裕プロフィール写真

    見上チャールズ一裕

    Mikami Charles Kazuhiro

    ソニー・ミュージックパブリッシング
    代表取締役執行役員社長

記事の前編はこちら:見上チャールズ一裕のイズム:若かりしころに得た学びと封入特典のアイデアでつながったボブ・ディランとの縁

SMPでアルファレコードのリブランディングに着手

──見上さんが、SMPの代表取締役執行役員社長に就任した2019年に、音楽出版社アルファミュージックがSMPの完全子会社になりました。そして、アルファミュージックの最大の資産である音楽レーベル・アルファレコードには、YMO、荒井由実(現、松任谷由実)、カシオペア、ティン・パン・アレーなど錚々たるアーティストが所属していたことで知られます。アルファミュージックの子会社化は音楽出版ビジネスの枠にとどまらず、アルファレコードに眠るアセット(資産)の数々を後世に伝えていくという重要なミッションも併せて課せられたように感じましたが、見上さんの考えや思いを教えてください。

SMPでは、以前からアルファミュージックの楽曲の著作権管理に携わっていました。そして、偉大なアーティスト、クリエイターが生み出した素晴らしい楽曲の数々と、創設者の村井邦彦さんのカリスマ性から、アルファミュージックそのものにブランド力を感じていたこともあり、子会社化によってアルファミュージックのリブランディングを行ないたいと考えたんです。

また、アルファミュージックは50年以上の長い歴史のなかで、著作権や販売権などの管理が一部不透明になってしまっていたこともあり、SMPが入って、その点をクリアにしていかなければいけないという考えもありました。

そこで、音源の世界配信や専用ホームページ、SNSの開設など、基本的な業務を行ないながら、それぞれの契約なども見直し、時間をかけて丁寧に整理を行なってきました。それは現在進行形で続いています。

身振り手振りで話す見上チャールズ一裕

子会社化したアルファミュージックのさらなる可能性を模索

──数が膨大なので、作業が大変なのではないでしょうか。

そうですね。しかし、アーティストや作家がいてこそ我々はビジネスができるので、これはやり切らなければいけないことだと考えています。実際、未発表音源もたくさんあって、そのなかからリンダ・キャリエールのデビューアルバムになるはずだった『Linda Carriere』を、2024年夏にリリースしました。

このアルバムは、細野晴臣さんが1977年にプロデュースした作品で、作曲陣は、細野さん、山下達郎さん、佐藤博さん、吉田美奈子さん、矢野顕子さんと錚々たる方々なのに47年間もお蔵入りになっていて。このアルバムを今こそ世に出そうと、リンダさんともなんとか連絡がついて、ニューオーリンズまで会いに行き改めて契約をしました。

細野さんもこの音源が世に出ることを喜んでくださいましたが、「でも、あのプロジェクトがうまくいっていたらYMOは生まれなかったね」ともお話しされていました(笑)。人生ってわからないですよね。

──アルファミュージックの音源というアセットを用いた、新たなビジネス展開も考えていますか?

今、ハイ・ファイ・セットや日向敏文さんの楽曲が、海外アーティストのサンプリングソースとしても非常に注目されていますよね。当時から世界を意識していたアルファミュージックの音源は録音環境がしっかりしているので、そこをいかせればと思っています。実際にアメリカでは、既にサンプリングセッションも始まっていて、サンプリングの需要が多くあることが伺えます。

また、アルファミュージックの音源についても、アーティストと作家の許諾を得たうえで“この曲はサンプリングしていいですよ。どんどん新しい曲に取り入れてください”ということもできるはずなので、そういった提案もしていきたいです。

ライブラリーミュージックで世界に打って出る

──2020年には、国内外のプロユースを視野に入れたライブラリーミュージックカタログ「CHASSAY PRODUCTION MUSIC」なども展開しています。こちらはどのような取り組みですか。

ライブラリーミュージックとは、テレビやラジオ、映画などのBGMとして使用するプロユース用音源のことです。例えば「深海を探る」みたいな番組ではBGMにヒットソングはいりません。そんなとき、色んなシーンで使える市販されていない音源が使われたりします。

SMPでは、以前からこのジャンルで世界のトップブランドであるEMI Production Music、EXTREME MUSIC、Q-Factoryのライブラリーミュージックカタログを国内へ展開していたんです。

そんななか、“世界に通用するライブラリーミュージックを日本からも生み出していきたい”という声が社内で上がり、SMPが独自に制作したライブラリーミュージックを国内および海外に提供することになりました。それが「CHASSAY PRODUCTION MUSIC」です。いわゆるポップな楽曲を書かない作家さんや、アニメやゲームの劇伴を書かない作家さんにとっても、別の形で世界市場に出る機会を提供することができました。

この取り組みについても、少しずつではありますが成長曲線が見えてきたので、日本やアジアのオーセンティックな音源を提供する「ASIAM(アジアム)」という新レーベルなども増やして、さらに盛り上げていければと考えています。

身振り手振り、笑顔で話す見上チャールズ一裕

NODA・MAP製作『Q:A Night At The Kabuki』の起源は音楽出版ビジネス

──先ほども少し話が出ましたが、NODA・MAPの第23回、第25回公演で演じられた『Q:A Night At The Kabuki』は、クイーンの名盤『オペラ座の夜』からインスパイアを受け、劇作家の野田秀樹さんが作り上げた舞台です。このプロジェクトの発案者が見上さんだと聞いていますが、どういった経緯だったのでしょうか。

音楽出版社は、楽曲の権利を獲得して終わりではないんです。いつまでも愛され続ける楽曲の権利を取得したら、安定した収益を得るという側面もありますが、エバーグリーンと言われる楽曲であっても水を与えないといつかは枯れてしまう。楽曲は色んな人に聴いてもらったり、使ってもらったり、歌ってもらったりして、その価値がまた高まっていくものだと考えています。

SMPも権利獲得に力を入れ、ほかのアーティストにカバーしてもらったり、アニメやゲーム、CMや映画などに使ってもらったり、カラオケに入れてもらったりと、さまざまな形で利用開発しています。そのうえで、そういった基本のビジネスモデルだけでなく、管理楽曲を舞台に転用できないかという考えは前からあったんです。

ニューヨークに赴任していたころ、ブロードウェイではヒット曲やアーティストにインスパイアされて作られたミュージカルが盛んに上演されていました。こうした舞台を日本でも作りたいと考えたときに、最初に思い浮かんだのがザ・ビートルズです。実際に何回かトライしてみたものの、面白いストーリーを書ける人が見つからず、こちらは断念しました。

次に、Sony Corporation of Americaが買収したEMI Music Publishingのカタログのなかにクイーンがあることを思いつきました。そして日本に帰任後のあるとき、アルバム『オペラ座の夜』のジャケットを見ていて、“このオペラはどんなオペラだったんだろう”、もし日本でやるなら“オペラじゃなくて歌舞伎がいいな”というアイデアが浮かび、それがクイーン側に伝わります。

そんなことをすっかり忘れたころ、クイーンがそのアイデアを気に入り、プロジェクトを進めてほしいと言われるのですが、ストーリーを書く人が大事になることはザ・ビートルズのときの経験からわかっていたので、どうしたものかと悩んでいたんですね。

そうしたら、“野田秀樹さんが適任では”と当時、ソニー・ミュージックアーティスツに在籍していた同僚がアイデアを出してくれて、さらに、その翌週にはアポも取って引き合わせてくれました。野田さんにお会いしてこちらの思いをお伝えしたところ、『Q:A Night At The Kabuki』を作っていただけることになったんです。

結果、クイーンの楽曲が物語のなかで効果的に使われているのはもとより、花火の音をバスドラで表現したり、カモメの鳴き声をブライアン・メイのギターで表現したり……原盤もふんだんに使い、舞台ならではの演出がたくさんちりばめられた、素晴らしい作品を上演できました。クイーンのマネージャー夫妻も観賞して大変喜んでいましたね。

1975年に発表された『オペラ座の夜』は、これからもずっと聴かれる名盤です。こうした作品に改めてスポットを当て、新しい形でより多くの人に届けることも音楽出版社がやるべきことのひとつだと考えています。

音楽出版ビジネスについて真剣な表情話す見上チャールズ一裕

Noと言われてから始まる交渉術──マライア・キャリーをいかにして説得したのか?

──見上さんが、これまでソニーミュージックグループの先輩や同僚、後輩から言われて気づいたこと、アーティストやクリエイターから学んだことを教えてください。

海外渉外管理課にいたころには、“Noと言われてからが渉外”という姿勢を叩き込まれました。当時、日本で洋楽が下火になっているなか、“雑誌の取材時間を設けてほしい”という要望は通りづらい状況でしたが、国内でも宣伝プランを立てているので“No”と言われてそのまま引き下がるわけにはいきません。いかにして“Yes”に近いところまで持っていくか、戦略を考えなければなりませんでした。

でも、一度断られたものを“いやいや、Yesと言ってください”というのは難しい。そこで“Noなのはわかりました。でも、こちらとしてはこういうプランを考えていて、この部分だけでもYesが欲しいんです”と、相手の言い分を受け入れながら、こちらの要望も改めて押し出す交渉術を学びました。このスキルはその後も役に立ちましたね。

──そういった交渉術が、成功した例はありますか?

マライア・キャリーがミリオンヒットを連発していたころ、プロモーションのために来日することになりました。そしてこの来日中に、しっかり歌えるテレビ番組への出演をオーダーされました。そこで僕らは、国内で歴史のある音楽番組をブッキングし、番組側も1本丸ごとマライア・キャリーの特集を組んでくれることになったんです。

制作を進めていくなかで、アーティスト側から“観客がいないところでは歌いたくない”という新たなリクエストが入り、テレビ局にお願いして、Zepp Tokyo(2022年閉館)に観客を入れてスタジオライブを収録。ほかにもいろいろと注文がありましたが、なんとか無事に収録を終え、お疲れ様もかねてマライアとマネージャー、担当A&Rと私の4人で食事をすることになりました。

料理を食べ始めてしばらくすると、突然マライアが「今日の収録はオンエアしてほしくないわ」と言い出したのです。もう、それを聞いたときは、青天の霹靂……頭が真っ白になり、その直後から料理の味がまったく感じられなくなったのを今でも覚えています……。海外のセレブからも絶賛される超一流の日本料理店だったんですけどね(苦笑)。

この収録を実現させるまでに、現場のスタッフはほうぼう駆けずり回って頑張りましたし、テレビ局もアーティストサイドの無茶な要望を受け入れつつ、特別編成で番組枠を用意してくださって、既に放送日も告知されている。今さら放送中止だなんて言えわけがないし、何より番組を楽しみにしているファンに申し訳が立ちません。

なんとか丸く収めようと、まずは動揺を隠しながら「へぇ、そうなの。なぜそう思うの?」「あの曲なんかは素晴らしいパフォーマンスだったと思うけど」と言って、本人の考えを否定せずに、なぜオンエアしたくないと思っているのか、その本質を探っていきました。

すると、どうしても歌唱に納得できない部分があるからだとわかったので、「気になる部分を歌い直すことができたら、大丈夫かな?」という話に持って行き、滞在中にスタジオでその部分だけ録り直し、なんとかオンエアに漕ぎつけることができました。

こんな話をすると、「マライア・キャリーはワガママなんだ」と思う人がいるかもしれませんが、それだけ本人のアーティストとしての意識が高いということでもあるんですよね。自分が納得していないものをファンには見せられない、聴かせてはいけないという確固たる思いがあるからこそ、ベストを目指さなければ気が済まない。すごいプロフェッショナリズムだと思います。

まあ、でも……振り回されるほうは大変ですけどね(笑)。

ジョン・カビラ先輩の家で得た5つの教訓

──聞くだけで胃が痛くなるエピソードですね……。話は戻りますが、ほかに周囲から言われたことで印象に残っている言葉はありますか?

社員研修で“相手の良い点と悪い点をそれぞれ5つ挙げてください”という課題があり、複数の人から「チャーリー(見上)は、自分が良いと思ったことは、みんなに共有して実行したほうがいい。もったいないよ」と言われたんです。これまで、この言葉には何度も背中を押されてきましたね。

あとは、CBS・ソニー時代の先輩である、ジョン・カビラさんのお宅に遊びに行った際にも、印象的な言葉に出会いました。玄関に“ハイという素直な心”“すみませんという反省の心”“おかげさまという謙虚な心”“私がしますという奉仕の心”“ありがとうという感謝の心”という“5つの心”が川平家の家訓として飾られていて。

非常にベーシックな教訓であるからこそ、これがずっと僕の心に残っています。実践するのは言うほど簡単ではないのですが、世界中の人がこの5つを実践できれば、相当、素敵な社会になりそうですよね。

腕を組んで微笑みながら語る見上チャールズ一裕

見上チャールズ一裕の最大のイズムは“Fairness”

──今の話につながるかもしれませんが、見上さんの仕事の流儀、ポリシーとすることを教えてください。

“Fairness”(公正、公平)ですね。音楽出版社は、楽曲の権利者と使用者の間に立つ仕事。片方に肩入れすることなく、相手の立場を考えながらそれぞれにとってフェアなビジネスになるように取り持つことをモットーにすべきだと考えています。

ただし、もしその均衡が何らかの理由で崩れる場合、我々は作家側に針を振るべきだとも思っています。なぜなら、僕らの仕事は、楽曲の作り手がいなければ成立しないから。そのリスペクトは絶対に忘れてはいけないと心にとどめています。

あとは、カッコつけた言い方かもしれませんが、できるだけ人として正しいことをしたいと思っています。目先の利益ばかりを追うのではなく、アーティストや作家の立場、音楽業界全体をより良くしたいという気持ちを軸とすれば、ブレないビジョンを持ってこのビジネスを展開できるはずだと考えています。

──最後に、今後エンタテインメント業界を目指す人たちに向けてメッセージをお願いします。

優れたアイデアを形にするには、リスクを考えることも必要です。リスクを察知できるのは才能のひとつ。それをどうすれば回避できるのかまで考えられると実現性が高くなるのではないでしょうか。

チャレンジすること、変化することには困難がつきまといます。失敗することもたくさんあるでしょうが、チャレンジすることでしか見えない景色がありますし、そこでは大きな経験値も得られるはず。そしてエンタメ業界を志望するなら、ぜひ自分自身も楽しみながら仕事に臨んでください。

記事の前編はこちら:見上チャールズ一裕のイズム:若かりしころに得た学びと封入特典のアイデアでつながったボブ・ディランとの縁

文・取材:野本由起
撮影:干川 修

関連サイト

ソニー・ミュージックパブリッシング
https://www.smpj.jp/(新しいタブを開く)
 
ソニーミュージックグループ コーポレートサイト
https://www.sme.co.jp/business/(新しいタブを開く)
 
ソニーミュージックグループ採用情報
https://www.sme.co.jp/recruit/(新しいタブを開く)

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