アルファミュージックとダンスを融合したイベント『ALFA DANCE DAY』――シティポップを若者に広める取り組み①
2025.05.28


ソニー・ミュージックパブリッシング(以下、SMP)が、アルファミュージックの音楽的カルチャーを若者世代につなぐ取り組みとして、上智大学の学生たちとともに開催したダンスイベント『ALFA DANCE DAY』。イベントに携わったスタッフたちが、プロジェクトを通じて得た気づきやアルファミュージックのプロパティビジネスの展望を語る。
後編では、イベントを開催したことで見えてきた課題やアルファミュージックの音楽的文化を今後どのように広げていくか、それぞれの考えを聞いた。
目次

萩原希安氏
Hagihara Kian
事務局スタッフリーダー

石毛克利
Ishige Katsutoshi
ソニー・ミュージックパブリッシング

森田聰美
Morita Satomi
ソニー・ミュージックパブリッシング

印藤ゆりえ
Indo Yurie
ソニー・ミュージックパブリッシング

小松﨑杏奈
Komatsuzaki Anna
ソニー・ミュージックパブリッシング

井本泰稀
Imoto Taiki
ソニー・ミュージックパブリッシング
記事の前編はこちら:アルファミュージックとダンスを融合したイベント『ALFA DANCE DAY』――シティポップを若者に広める取り組み①
――SMPの皆さんは、産学連携で開催した『ALFA DANCE DAY』を通じて、どんな成果を得られたと考えていますか?
井本:ダンスバトルイベントに携わるのが初めてだったのですが、我々がよく知るライブやイベントと違って、ステージに立つダンサーが参加費を払うシステムだということに、スキームの違いを感じて新鮮でした。
そのうえで、学生の皆さんと我々では、使っているワードが違ったり、イベントを制作するために気をつけておきたいポイントも違っていたりしたので、そこは試行錯誤しながらの取り組みになりました。
ただ、学生の皆さんの熱意が非常に高く、吸収力もさすがだなと感じたのと、SMPとしてはダンスイベントを制作するための知見と経験が得られたのが成果だったと思います。もっと音楽と結びつけて発展させることができるんじゃないか? もし次があるとしたら、もっと大きなイベントと絡めることもできるんじゃないか? という期待感はすごく感じています。
小松﨑:アルファミュージックの音楽というカタログを、若い世代に聴いてもらうという意味では、草の根ではあるものの、こういうイベントや学生さん主導の企画は有効だなと感じました。今回の使用楽曲のプレイリストも、サブスクの再生数にはきちんと跳ね返っているので、いい試みだったと思います。
学生の皆さんにも、我々SMPの人間がサポートに入ることで、イベント自体のホスピタリティも向上できたのかなと思います。それと自分が主に担当したSNSに関しては、学生チームの皆さんの運営にどこまで入り込んでいいのか逡巡してしまったというのは、個人的な反省点になります。
森田:レーベルとしての視点では、今回、ショーケースの審査員やライブを披露してくれたRYUSENKEIのふたりが、このイベントをすごく楽しんでいたのが印象的でした。「自分たちの曲を、学生さんたちが聴き込んでくれて、そこから得たインスピレーションをダンスで表現してくれるというのは初めての経験で、とてもいいものを見ることができました。今後の展開も楽しみにしています」というコメントもありました。
アーティストにとっていい刺激になったことが、何よりのことだと感じていますし、ほかのアーティストや楽曲での展開も考えられるなと。新たなアプローチでのプロモーション案をひとつかたちにできたと感じているので、学生の皆さんとは、ぜひ、また何かほかの企画でもご一緒できたらうれしいですね。
印藤:『+ALFA CAMP』のときから、学生の皆さんには大学の授業で学んだマーケティング理論を実践する場だと思ってもらうこと、そして必ず何か身になるものを持ち帰ってほしいと思っていました。
なので、今回のイベントで、イベント運営とは? 音楽業界のビジネスとは? に触れてもらって、それが楽しいものであると感じてもらえていたら、それだけでもひとつの成果だなと思っています。
また、今の若者はサブスク世代であるため、昔の曲と最新の曲を並列で楽しんでいるとよく言われますが、ダンサーの方たちがアルファミュージックの音楽を新鮮に感じて踊ってくれているのを現場で体感して、その理論の検証ができました。音楽的な文化も含めて、膨大なレガシーを有するアルファミュージックとしては、その点でも未来の施策に向けた大きな糧を得られたと感じています。
それと、特にエンタテインメントビジネスでは、意外性のあるもの同士をかけ合わせることで新しいものが生まれると言われますが、シティポップの音楽性を考えると“シティポップ×ダンス”がその種になりそうだと感じました。
石毛:SMPとしては、産学連携でダンスバトルイベントを制作するという初物尽くしだったので、どうしても手探りでやらなければいけない部分が多かったのですが、その生みの苦しみを経験し、スタッフ間で共有できたことが最大の成果だったのではないでしょうか。今回のプロジェクトで、アルファミュージックのレーベルとしての経験値も上がったと思っています。
そして、それを実現できたのは、希安さんをはじめとする学生の皆さんの爆発力があったからこそ。正直、一度きりの実験的なイベントのつもりでしたが、型はできたので、今は欲が出てきているところです(笑)。同じかたちではないかもしれませんが、何かまたご一緒できればと、私も考えています。
――荻原さんは、学生、そして事務局スタッフのリーダーという立場から見ていかがでしたか?
萩原:アルファミュージックのプロモーションイベントとしては、今回、シティポップはもちろん、ダンスの可能性を広げられるコンテンツを作ることができたのではないかと思っています。ダンスバトル業界では、王道のヒップホップ、新興のアニソンに勢いがありますが、世の中のシティポップブームの後押しを得て、シティポップダンスバトルという新たなジャンルを作りたいという野望も生まれました。
また、参加したダンサーからは、「自分が知らなかった音楽、新しい音楽で踊るのが新鮮で楽しかった」「次回があれば必ず参加する」と言ってもらえたので、僕たち学生チームの熱量とあわせて、どんどん伝播させていきたいと考えています。
そして、今回のイベントをSMPの皆さんとご一緒できて、本当に勉強になりました。印藤さんが「必ず何か身になるものを持ち帰ってほしい」と言ってくださいましたが、もう、すべてが身になることだらけで、エンタテインメントの仕事の楽しさを、身をもって体験させていただきました。ただ、ひとつだけ大きな反省点になったのは、集客のことです。
印藤:ほかの大型ダンスイベントの開催と被ってしまって、出演者確保の競合が発生していたんですよね。全国大会に通じるようなイベントだったので、ダンサーの参加者が伸び悩みました。この点については、我々SMPもサポートしきれず反省しています。
萩原:大学のサークルイベントではないので、“最低とんとんならいいか”ではビジネスの世界は済まないということを実感しました。リサーチだったり、宣伝だったり、まだまだできたことはたくさんあったはずなので、反省点として次にいかしていきたいと考えています。
――最後に、SMPの皆さんにはアルファミュージックの今後の展望についても聞いていきます。アルファミュージックのアーティスト、音楽、そしてカルチャーを、どのようにして次の世代に伝えていきますか?
井本:今のところアルファミュージックは、現在進行形のアーティストは少ないので、そういう意味では、やはりレーベル全体の色味だったり、歴史だったりをしっかり打ち出していく必要があるのではないかと考えています。
SMPが引き継いだ膨大な資料や情報を整理して、著作権などの壁も丁寧に取り除きながら、今後は、アルファミュージックで生まれた音楽やカルチャーが、若者たちのどこに刺さるのかを考えながら、発信していくことが重要だと思います。
小松﨑:今は、メジャーレーベルに所属しなくてもDIYで音楽活動をやっていけるのが当たり前です。インディーズレーベルもよく知られた存在になっていますが、アルファミュージックはまさにその先駆けのようなレーベルだったというのも周知していけたらと思っています。
また、現在のアルファミュージックはシティポップブームの影響で、その視点で語られることが最も多く、YMOを軸としたテクノポップの文脈が次点としてそれに続きますが、アルファミュージックのカタログは、それだけではありません。本当に音楽の多様性を体現したようなレーベルなので、音楽理念の部分についても伝えられるようにしてきたいですね。
そのなかで、今回のように大学生の皆さんと一緒にイベントを開催したり、広くSNSを活用したりするなどして、多角的な切り口でプロモーションを展開していければと考えています。
森田:海外ではアルファミュージックを支持してくれているZ世代が非常に多く、Instagramのフォロワーも多いんです。その世代からTikTokでミームが生まれたり、Xでつぶやかれたりと、言葉の壁など関係なく人気があるので、その流れを逆輸入して日本の若者に落とし込んでいきたいというのは、アルファミュージックのプロジェクトに携わることになったときから考えていました。
実現がなかなか難しいところではあったのですが、今回の『ALFA DANCE DAY』のようなイベントが立ち上がったことで、若者がアルファミュージックの音楽を聴き込んで、少しでも興味を持ってくれたというのは、その一歩につながったのではないかと感じています。今後も、若者への認知を広めるべく、実現できるプロモーションのかたちを見つけていきたいです。
印藤:新しいことへのチャレンジがしやすいという意味では、海外でのプロモーションはもっと積極的に仕かけていけるのではないかと感じます。国内の若いリスナーが時代を超えて今までに聴いたことのない音楽としての“Something New”をアルファミュージックの楽曲に感じているのと対比して、海外のリスナーは欧米圏の音楽とはまったく異なる“Something Different”のほうをより多く見出しているような感じもあり、それが彼らに支持される理由でもあるのではと。
では、その“ほかとは何かが違う”アルファミュージックの匂い、色、かたち……抽象的ですがレーベルの良さのもとになっているようなものは何か? というのを海外の人たちのリアクションから紐解き、国内ユーザーへの訴求にいかしていけると面白いのではないかと思います。それは、アルファミュージックを単なる懐古趣味に終わらせないことにもつながると思うので。
今回の『ALFA DANCE DAY』についても、これは国内の施策ではありますが、レーベルの良さを浮かび上がらせるひとつのきっかけになるのであればうれしいです。
石毛:今回の『ALFA DANCE DAY』では、シティポップをピックアップした施策になりましたが、アルファミュージックはテクノポップ、ニューウェーブ、環境音楽など音楽ジャンルもさまざま。だからこそ、一括りにレーベル丸ごとのプロモーションというのは、非常に難しいと感じています。しかも、全盛期をリアルタイムで聴いていた世代はシニア層に手が届くので、やはり、若いリスナーへの認知をいかに高めるかが最大のミッションになっています。
逆に言えば、今回のイベントのように、新しい施策へのチャレンジがやりやすい立場なので、あと数年はその土台づくりを多方面で頑張りたいと考えています。それと並行して、RYUSENKEIのように新しい契約アーティストが増えれば、またプロモーションの仕方も、変わってくるのではないかと思いますので、多角的なプロモーションでアルファミュージックの認知を広めていきたいですね。
記事の前編はこちら:アルファミュージックとダンスを融合したイベント『ALFA DANCE DAY』――シティポップを若者に広める取り組み①
文・取材:阿部美香
撮影:冨田 望
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