アルファミュージックとダンスを融合したイベント『ALFA DANCE DAY』――シティポップを若者に広める取り組み②
2025.05.28


1969年に設立され、近年の世界的なシティポップのムーブメントを生み出した源流のひとつであるレコード会社・アルファミュージック。そんなアルファミュージックの音楽的カルチャーを若者世代につなぐ取り組みとして、アルファミュージックの音楽とZ世代が、“ダンス”によって融合するイベント『ALFA DANCE DAY』を開催。ソニー・ミュージックパブリッシング(以下、SMP)が事務局となり、企画、運営を上智大学の学生チームが担当するという、産学連携の新たな試みに取り組んだ。
アルファミュージックの音楽とZ世代は、どのような融合を果たしたのか? イベントの関係者に集まってもらい、企画立ち上げの経緯から当日の様子、そして本イベントを通じて得た手応えについて聞いた。
目次

萩原希安氏
Hagihara Kian
事務局スタッフリーダー

石毛克利
Ishige Katsutoshi
ソニー・ミュージックパブリッシング

森田聰美
Morita Satomi
ソニー・ミュージックパブリッシング

印藤ゆりえ
Indo Yurie
ソニー・ミュージックパブリッシング

小松﨑杏奈
Komatsuzaki Anna
ソニー・ミュージックパブリッシング

井本泰稀
Imoto Taiki
ソニー・ミュージックパブリッシング
記事の後編はこちら:アルファミュージックとダンスを融合したイベント『ALFA DANCE DAY』――シティポップを若者に広める取り組み②
――『ALFA DANCE DAY』は、シティポップとダンスイベントの融合をコンセプトに、SMPのサポートのもと、企画、運営を上智大学の現役大学生チームが手がけるという取り組みになりました。まずは、開催までの経緯を教えてください。
石毛:そもそもは、2023年春から2024年1月にかけて行なった『+ALFA CAMP』という5つの大学の学生の皆さんに参加してもらった企画コンペティションがきっかけでした。
――『+ALFA CAMP』とはどのようなプロジェクトだったのでしょうか?
石毛:2019年にSMPが全株式を取得し、著作権と著作隣接権をマネジメントしているアルファミュージックは、荒井由実やYMO など1970~1980年代の邦楽音源が豊富で、ここ数年、国内外で生まれている“シティポップムーブメント”においても再評価されています。
さらに2023年からは、アルファミュージックが残してきた数々のレガシーを世界に伝えるべく、レコードレーベルとして再始動し、長年シティポップを届けている音楽ユニット“RYUSENKEI”を第1弾アーティストに迎えました。
そうした背景があったうえで、“Z世代を中心とした若者層にアルファミュージックやシティポップに興味を持ってもらうために有効な施策とは”をテーマに、アルファミュージックのプロモーションアイデアを募るコンペを電通、宣伝会議の皆さんとともに企画。
青山学院大学、上智大学、成蹊大学、中央大学、日本大学のマーケティング系ゼミの皆さんに参加していただいて実施したのが『+ALFA CAMP』でした。学生の皆さんには、さまざまなアプロ―チで、企画の立案から発表まで行なってもらいました。
――その『+ALFA CAMP』に、今回『ALFA DANCE DAY』を企画した上智大学の萩原希安さんたちも参加されたのですね。
萩原:はい。僕は上智大学 経済学部経営学科の新井(範子)教授のゼミに在籍していて、産学連携によるマーケティングゼミやワークショップをいくつか経験してきました。
今回は、ソニーミュージックグループという“エンタテインメントビジネス”を扱う企業との企画。何か面白いことができればと思いつつ、自分がダンスをやっていることもあって“アルファミュージックの楽曲でリミックスコンテストを行ない、その音源でダンスバトルも行なうイベント「TUNE TIME TRAVEL」”というアイデアをゼミの先輩とふたりで立案したんです。
――その「TUNE TIME TRAVEL」のアイデアが、『ALFA DANCE DAY』の企画の原点になったのですね。
萩原:はい。『+ALFA CAMP』が終わってしばらくして、石毛さんから“ダンスイベントを実現しませんか?”というご提案をいただき、僕がイベント運営のリーダーになって新井ゼミ生から有志を募り、SMPの皆さんのサポートのもと、2024年の春から実現に向けて準備を始めました。
印藤:『+ALFA CAMP』では、各大学にSMPのスタッフがメンターとしてついていたのですが、私はそのときに上智大学生のメンターを担当していた縁もあって、『ALFA DANCE DAY』の運営チームのコーディネートと企画全体の取りまとめをサポートさせてもらいました。
そして企画前のコンペを実施した当初から、希安さんはじめ、学生の皆さんの熱量がとても高かったのを鮮明に覚えています。企画で扱う音楽テーマが“シティポップ”だったので、シティポップの定義からしっかりと考えてくれていましたね。
萩原:「フライディ・チャイナタウン」(泰葉)とか、「真夜中のドア~stay with me」(松原みき)など、音楽ジャンルとして僕もシティポップは聴いていましたし、僕の周りでも何人か聴いている人がいます。
また、竹内まりやさんの「プラスティック・ラヴ」は海外でもリミックスやカバーもされていて、そういったシティポップのムーブメントの軌跡がすごいなと思っていました。
もちろんアルファミュージックにも好きな曲がいくつかあって……ただ、正直なことを言うと『+ALFA CAMP』と『ALFA DANCE DAY』を通じて、この曲もあの曲もアルファミュージックだということを知ったのですが(苦笑)……自分たちがまだ生まれていない時代にリリースされた名曲の数々を、今また若い人に聴いてもらう後押しになるようなイベントを開催したいと思いました。
――ダンスバトルを盛り込むというアイデアはどこからきたのでしょうか?
萩原:僕はダンスサークルに入っていたのですが、ダンサーや振り付けをしている人は、ダンスのアイデア探しや曲からインスピレーションを受けるために、音楽に接する時間がとても長いんですね。
しかも、『+ALFA CAMP』では1曲をフィーチャーするのではなく、アルファミュージックやシティポップといったかたまり、ジャンルをプロモーションするというのがテーマだったので、それであればダンス界隈に広げるのが、伝播速度が速まっていいのではないかと考えました。
また、最近はアニメソングで踊るダンスバトルなども流行っていますが、やはりダンスバトルと言えば王道はヒップホップ。そんななかで、シティポップや邦楽ポップのダンスバトル大会は珍しいので、ダンス好きだけでなく音楽好きな人にも興味を持ってもらえるのではないかと思ったんです。
石毛:『+ALFA CAMP』に関して言うと、私たちの最大の目的は学生のリアルを知ることで、実際にビジネスモデルを生み出すというより、Z世代の関心ごとを知り、のちのプロモーションアイデアにいかせたら、というのが正直なところで、あくまで実験的な取り組みでした。
でも、学生の皆さんからは、私たち社内にいる人間からは出てこないような斬新で自由な発想のアイデアがたくさん提案されて、非常に勉強になりましたね。
印藤:『+ALFA CAMP』では10組に最終プレゼンを行なってもらったのですが、ビジネスベースで考えた場合、アイデアは非常に良かったものの権利問題やバジェット面などの現実的なハードルが出てくるものもあって。希安さんたちのアイデアは、その点のハードルが相対的に低かったのもポイントでした。
森田:私はアルファミュージックのブランディングを担当していて、『ALFA DANCE DAY』についても、その点をサポートすることが多かったのですが、希安さんたちの企画は、ターゲット層も明確でしたし、アルファミュージックの音楽をストレートに訴求するという意味でも、私たちが一番実現してみたいと思えたものでした。
――『ALFA DANCE DAY』準備段階では、学生チームの皆さんはどのような体制でしたか?
萩原:イベント当日は30人ほどのスタッフが集まりましたが、準備段階では10人ほどのメインスタッフと、ダンス参加者やゲストダンサーのブッキング、会場の準備や装飾、SNSプロモーションなど大きく3つの担当分けをして、イベント内容をブラッシュアップしていきました。
石毛:基本的に内容は学生チームの皆さんに考えてもらったので、それを僕らがサポートするかたちでしたね。
小松﨑:会場や骨子が固まり、具体的に内容を詰める段階になったのは、昨年の10月あたり。SNSや会場の設営といった現場のサポートは、主に私と井本さんで担当しました。

音響、照明環境が整った「TOKYO FM ホール」でできたのは、学生である僕らにとって新鮮でした。音楽と所縁のある会場で、参加したダンサーさんたちも面白がってくれましたし、ヒップホップでストリートなダンスイベントではなく、シティポップで踊るというコンセプトに似合う落ち着いたレトロな雰囲気もありました(萩原)
――今回のダンスイベントのテーマは、アルファミュージックのレガシーや楽曲の認知を高めること。そのうえでイベントのメインプログラムであるダンスバトルは、プロDJのDJ RINAさんが用意されたアルファミュージックの楽曲のなかからランダムに選曲し、ダンサーの方たちが即興で踊るというルール。膨大な数があるアルファミュージックのカタログのなかから、踊れる楽曲をピックアップするのは、なかなか大変だったのではないですか。
印藤:テーマが認知向上であるがゆえに、使用する楽曲はすべて学生チームの皆さんに選んでもらいました。
今回、会場でライブも行なったアルファミュージック所属のアーティスト・RYUSENKEIの原曲とリミックスを含む30曲に加え、アルファミュージックが権利を持つカタログで配信されている楽曲のなかから1,500曲を学生チームの皆さんにお預けしてすべて聴いてもらい、そのなかからダンスにマッチする楽曲をセレクト。最終的に絞り込んだ70曲くらいのプレイリストを2バージョン作ってもらいました。
萩原:プレイリストの作成は本当に大変でした(苦笑)。僕とダンスサークルの仲間3人で担当したのですが、ひとり500曲聴いて全曲をリスト化して、この曲は踊れるか踊れないかをチェックしていきました。当日は、DJ RINAさんのDJタイムとショーケース、ダンスバトルなどで、繰り返し再生された分も含めて、のべ340曲が会場で流れたと思います。
――初開催ということで『ALFA DANCE DAY』に関する情報発信も重要だったかと思います。SMPからは井本さん、小松﨑さんがSNS周りのサポートを行なったということでしたが、いかがでしたか。
井本:我々も日ごろ、アーティストやレーベルのSNSを運用しているので、公式SNSの動かし方のノウハウを伝えて、投稿内容はこちらでもチェックしつつ、X、Instagram、TikTokのアカウントを学生チームの皆さんで運用してもらいました。
小松﨑:今の大学生はインスタもTikTokも普段からガンガン使っているだろうと思っていたのですが、話を聞くと意外と使われていなくて。そこで映像制作のノウハウを持っている井本さんに、RYUSENKEIの楽曲で実際に学生チームに踊ってもらう動画の作り方や投稿の仕方をレクチャーしてもらいました。
井本:そこも含めて、SNSはコンテンツを見る側の人は多くても、みんながみんな自分から発信する側になっているわけではないんだというのは、自分のなかで気づきになりましたね。
――ホワイエの装飾など、ステージのほかにも会場内を楽しむ要素がありました。
萩原:装飾チームには、当日の会場ロビーの飾り付けをお願いしました。
井本:当日、ホワイエにシティポップのイメージに合わせてネオンの飾りやバーカウンター風のインテリアを置いたりするというのは、学生チームの皆さんから出たアイデアです。そのなかで、アルファミュージックのアーティスト写真の用意やポスターデザインなどは僕がお手伝いさせてもらいました。
――イベント当日を振り返っての感想はいかがですか。
萩原:結果的に、ダンスバトルに出場してくれた皆さんのなかには、有名な振り付けコンテストで1位を獲得した経験のある方や、ダンスの全国大会で優勝、準優勝した有名ダンサーの方もいらして、とにかくレベルが高かったんです。しかも皆さんに、「シティポップでのダンスバトルはとても新鮮で面白かった!」と言っていただけたので、それは本当にうれしかったですね。
――ほかのダンスイベントにはない新しさも提供できたということでしょうか。
萩原:はい。『ALFA DANCE DAY』は使用楽曲の新しさもあったのか、“バトル相手同士も勝敗はともかくお互い楽しくやろうよ!”という雰囲気が全面に出ていて、みんなで盛り上げたイベントになりました。それは、僕たち学生やダンスをやっている人間からしても、ダンスイベントとしての新しいかたちになったなと感じています。
後編では、イベントを開催して見えてきた課題点や今後の展望について語る。
文・取材:阿部美香
撮影:冨田 望
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