テクニカルエンジニア:音楽や映像の制作現場を“縁の下”で支える、スタジオメンテナンスという職人技
2026.05.25


さまざまなエンタテインメントビジネスを手がけるソニーミュージックグループで、専門的な知識とスキルを持って働く技術者(エンジニア)に話を聞く連載企画。
第28回は、前職の自動車メーカーから異色の転職をはたし、現在はソニーミュージックグループで使用する業務アプリの開発に携わる嶋崎光佑に話を聞いた。
目次

嶋崎光佑
Shimasaki Kosuke
ソニー・ミュージックエンタテインメント
──嶋崎さんが、現在担当している業務について教えてください。
ソニーミュージックグループ内で利用する業務アプリの開発や運用を担当しています。なかでも、私が所属しているのはローコード開発チームです。
一般的にシステム開発では、専門的なプログラミング言語を用いますが、ローコード開発ではコーディング(プログラミング言語などを用いてアプリの設計図をコンピュータが理解できるコードに記述すること)作業を必要最小限に抑え、ドラッグ&ドロップの操作で直感的にアプリ開発を行なうことができます。もちろん、ある程度の知識やIT技術は必要ですが、スピーディかつ低コストで開発に取り組めるのが特徴です。
──ソニーミュージックグループでは、システム開発を外部に依頼することが多いようですが、嶋崎さんたちのチームでは、自分たちの手で開発を行なっているんですね。
そうですね。外部企業の方々に委託するケースもあるのですが、会議室予約や決裁に関するアプリなど、社内向けのシステムに関しては、内製で開発を行なうことが多いです。特に最近は、高度な専門知識がなくても扱いやすいツールが多くなってきたので、社内スタッフを中心に開発できる体制が整ってきています。
──嶋崎さんは、この部署でどんな役割を担っているのでしょうか。
チームリーダーとして、社員および業務委託スタッフを含めた約15名のチームを統括しています。複数の案件が並行して進むなかで、それぞれの進行状況を把握しながら、全体のマネジメントを行なっています。
──嶋崎さんは2024年に中途採用でソニーミュージックグループに入社したと聞きましたが、前職はどのような業界にいたのでしょうか。
自動車メーカーのIT部門で、社内システムの開発や運用に携わっていました。大学では材料工学を専攻し、金属分野を中心に学んでいたこともあり、その知識をいかした仕事を志望していたのですが、配属されたのはIT部門で……。ITの分野は未経験からのスタートだったため、実務を通じて一からスキルを習得していきました。
──そんな嶋崎さんが、なぜ、まったくの畑違いであるエンタメ業界のソニーミュージックグループを志望したのでしょうか。
自動車メーカーには、約8年間勤務していました。安定した環境でしたが、同じ業務を続けるなかで得られる経験やスキルが限定的になっているなと感じていたんです。そういう心境で30代に突入し、さらに、この先のキャリアを見据えたときに“このまま10年後も変わらないのかな”という漠然とした不安を感じ、転職を考えるようになりました。
より幅広い経験を得るという意味では、SIer(エスアイヤー:依頼を受けて開発を行なうシステムインテグレーター)やコンサルティングファーム(企業の経営課題を専門知識やデータ分析で解決、サポートする)という選択肢もありましたが、私の場合、単発の開発プロジェクトに次々関わるよりも、継続的に関われる社内システムエンジニア(以下、SE)のほうが向いているなと感じました。
そこで、今の環境を変えつつ、社内SEとして強みをいかせる企業を探していたところ、ソニーミュージックグループの求人情報を知り、入社を志望しました。
──自動車業界とエンタメ業界、手がけているものは大きく異なりますが、社内SEという仕事内容にはどんな違いがありましたか。加えて、どんなことを期待してソニーミュージックグループに入社しましたか?
仕事内容そのものは、そこまで大きく変わりません。ただ、製造業におけるシステムは安定稼働が大前提。それは業界の性質として当然のことなのですが、自分の性格的にその環境でモチベーションを維持し続けるのが難しくなってきて、転職を考えるようになりました。
ソニーミュージックグループの面接で、システム部門と社内ユーザーの関係性について質問したところ、“それぞれが専門性を尊重し合い、いいものはいいと評価し合える関係です”という回答をもらい、魅力を感じました。
実際、入社後にアプリの開発や改修を行なったという報告を会議でしたところ、数名のスタッフから拍手をもらって。成果に対してポジティブな反応を得られる環境があることに、うれしいギャップを感じました。多くの人から評価されることは、大きなやりがいにつながっています。
──ソニーミュージックグループに転職してから携わったプロジェクトで、印象的なものを教えてください。
最も印象に残っているのは、社内決裁システムのリニューアルプロジェクトです。
ソニーミュージックグループ全社共通で適用される規程に基づいて、経営や会計にまつわる決裁が必要な際に利用されるシステムが対象であり、従来のシステムは構築から約20年経過しておりました。使われている技術、UIともに古くなっていて。こうした技術を使い続けることによるリスクも踏まえ、刷新に取り組みました。
──開発で、特に苦労したポイントはどこですか?
決裁システムはプロセスが複雑でありながら、案件の内容や金額に応じては柔軟に対応する必要があるため、その承認フローの設計には苦戦しましたね。このときは、実際に使用される現場の実態に合わせた機能を実装しつつ、関連する別のシステムとデータが連携できるようにして、業務の効率化を実現することができました。
また、この決裁システムを我々のチームで開発できたことで、“ローコード開発でもここまで実現できる”ということを実証できたのは、大きな収穫になりました。
──リリース後の反響はどうでしたか?
システム改修後というのは、ユーザーとなる社内スタッフから使い方についての問い合わせが殺到することも珍しくないのですが、このときはほとんど問い合わせがなかったんです。事前にマニュアルの整備や説明会を実施していたこともあり、“使い方がわからない”という声はほぼなく、直感的に使えるシステムを実現できたのではないかと思います。
──現在の仕事で、やりがいや喜びを感じるのはどんなときですか?
やはり、担当した案件に対して社内からいい反応をもらえたときに、一番やりがいを感じますね。
また、日々さまざまな相談ごとが寄せられ、たくさんの開発案件に取り組めるのも、この仕事ならではだと思います。ソニーミュージックグループは、システム化や効率化の余地がまだまだ多く残されています。“やるべきことがたくさんある”という状況が、自分のなかでは前向きなモチベーションになっています。
──転職して、エンジニアとしての伸びしろを感じることはありましたか?
前職とは異なる環境で動いているアプリも多いので、新しい領域に挑戦できている実感があります。
また、前職では年上の方が多い環境だったんですが、現在のチームは20代前半のメンバーがほとんどです。若手メンバーの成長を間近で見られることに、これまでにない面白さを感じています。
──どんな人が、この仕事に向いていると思いますか?
事業や組織の変化を前向きに捉えられる人が向いていると思います。ソニーミュージックグループは事業領域が幅広い分、業務アプリも多岐に渡ります。さらに、新しい事業に挑戦することも多いので、システムへの要望や新規案件も次々生まれています。
さまざまな領域に関わりながら、変化を楽しめる人にとっては、非常にやりがいのある環境だと思います。
──アプリの改善や、業務のDX化など、社内からの要望は次々と出てくるということですね。
はい。2026年度も、新しく4~5件ほどのアプリ開発を行なう予定です。
前職では、既に業務の多くがシステム化されており、新規で開発する機会はほとんどありませんでしたが、ソニーミュージックグループでは、まだアナログで行なわれている業務もあり、それらを今後デジタル化していくケースも多く、新規開発の経験が得られるのもメリットだと感じています。
──ITエンジニアとして、ソニーミュージックグループへの入社を検討している方が事前に学んでおくべきことはありますか?
未経験でもまったく問題ありませんが、個人的には、簡単な基礎からで構わないので、少しずつでも学び始めておくといいと思います。
前職では、オンプレミス環境(サーバやネットワーク機器などを自社で保有、運用する形態)でしたが、ソニーミュージックグループはクラウド環境が前提という違いがあったので、私自身も入社前にクラウドに関する基礎知識を学び、AWS(Amazon Web Services)認定ソリューションアーキテクト資格を取得しました。体系的に知識を学ぶことができ、入社後も学んでおいて良かったなと思う場面はあったのでおすすめです。
──嶋崎さんが使用しているローコード開発ツールでは、比較的簡単にアプリを開発できるとのことですが、エンジニアはITスキルを高めることもやりがいのひとつだと思います。スキルアップする喜び、新しいテクノロジーを追いかける楽しさは、どのような点にありますか?
ローコード開発ツールは、見た目や機能がシンプルだと思われがちですが、実際には非常に多機能で日々アップデートも重ねられています。その分、まだ使いこなせていない機能も多いので、ツールを深く理解し、自分の引き出しを増やしていくことにやりがいを感じています。
──今後どのようなキャリアを描いていきたいですか?
業務部門側の知識を身につけていくことが重要だと感じています。AIが急速に発達している現在、将来的にIT部門の役割が縮小していく可能性もゼロではありません。
ですが、そもそも人が使うシステムの開発は、その業務への理解がなければ成り立ちません。これまで関わってきたプロジェクトを通じて、業務の流れや意思決定のプロセスについての知識は自然と蓄積されてきています。
今後はそうした経験をいかし、業務、システム両面の知識をもとにAIを使う側になれればいいなと思います。
──今後、チームとして実現していきたいことを教えてください。
最近は、自分自身のスキルアップ以上に、若手メンバーの成長を見ることにやりがいを感じています。チーム全体としてできることを広げていくためには、チームスタッフの一人ひとりに機会を提供し、経験を積んでもらうことが重要です。若手メンバーに積極的に仕事を任せながら、チームとしての開発力や作業スピードを高めていきたいと考えています。
現在のチームには前向きなメンバーが多く、学ぶ意欲もみんな高くて、私自身の若いころと比べると雲泥の差です(笑)。それは、“デジタルイノベーショングループ全体でポジティブな雰囲気を大切にしよう”という考えが、マネジメントレイヤーから共有されているからだと思います。そんな環境のなかで、周りの刺激を受けながら自分自身も成長していきたいです。
文・取材:野本由起
撮影:冨田 望

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