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アーティスト・和田永の魅力を解く――「鉄工島FES 2018」ミーティング初日レポート【特集第2回】

2018.11.3

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和田永

Artist/Talent

“祝祭”をキーワードにテクノロジーとアートを独自の視点と手段で融合し、国内外から熱視線を送られるアーティスト・和田永。オープンリール式のテープレコーダーを楽器として演奏するスリーピース・バンド“Open Reel Ensemble”での音楽活動と並行し、近年注目を集めているのが「第68回 芸術選奨メディア芸術部門 文部科学大臣新人賞」を受賞したアートプロジェクト「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」(以下、ニコス)だ。

「ニコス」とは、和田永がさまざまなジャンルの人々を巻き込みながら、“旬を過ぎた”古い電化製品を活用してオリジナルの電子楽器を生み出し、オーケストラを形づくっていこうというプロジェクトだ。

その「ニコス」が、2018年11月4日(日)、東京・大田区のモノづくりの最前線、町工場が集結する人口の島「京浜島」内で開催される、工場×アーティストをテーマにした音楽とアートによる新感覚フェス「鉄工島FES 2018」に初出演を果たす。

特集第2回は、「鉄工島FES 2018」出演に向けて、和田と「ニコス」のコアメンバーが集まり、新たな家電楽器制作をスタートした10月6日(土)の初日ミーティングに密着。当日取材した和田のコメントとともに、「ニコス」×「鉄工島FES 2018」の発想の源を探った。

特集第1回 「Open Reel Ensemble」単独公演レポートの記事はこちら

 

「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」×「鉄工島FES 2018」とは?

和田と「ニコス」の中心メンバーたちのミーティングが行なわれたのは、「鉄工島FES 2018」当日、「ニコス」が演奏するステージが設置される須田鉄工所の一角だ。2階建ての須田鉄工所の空きスペースは、寺田倉庫が運営するBUCKLE KÔBÔと呼ばれる会員制のオープンアクセス型アートファクトリーになっており、アーティスト、クリエイター、ミュージシャンが創作を行なう場となっている。

須田鉄工所の須田眞輝社長は、2017年から行なわれている「鉄工島 FES」の実行委員会のひとりであり、須田氏の父親は、ここ京浜島に最初に入居し、鉄工所を作ったパイオニアでもあるそうだ。

昨年開催された第1回「鉄工島 FES」では、BUCKLE KÔBÔの1階の巨大アトリエで、根本敬が半年間をかけて本フェスでお披露目された巨大絵画「新ゲルニカ」の創作を行なったことでも話題となった。

今回の「ニコス」による家電楽器の制作もこのアトリエで行なわれるため、「どんな楽器を作るのか?」という和田永のイメージを制作スタッフ=Nicos Orchest-Lab(ニコスオーケストラボ)の中核メンバーに伝える初回のミーティングが、ここで行なわれることになった。

ここで少し説明を。そもそも「ニコス」というプロジェクトのスタートは、2015年のこと。和田いわく、「ニコス」は「役割を終えた電化製品を楽器に変え、転生させて音楽をつくっていく」プロジェクトで、和田が東京・墨田区本所を拠点に、役割を終えた電化製品の収集を呼びかけるところから始まった。

同年11月には初コンサート『初合奏遭遇篇』を開催。2016年には、「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭」への参加に際し、家電の街・日立にもチームが発足し、2017年の11月には、電波発信の聖地とも言える東京タワーの麓にあるSTAR RISE TOWERスタジオにて、3日間にわたって「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」〜本祭 I : 家電雷鳴篇〜と銘打ってイベント&コンサートが行なわれ、大盛況を博した。

そんな「ニコス」を支えるのが、プロジェクトの協業チーム・Nicos Orchest-Labだ。参加メンバーは、専業のアーティストではない一般の人々が主。下は小学生から上は70代までに及び、音楽好き、電子工作好き、本職のエンジニア、デザイナーなど、それぞれの得意なスキルを活かしながら、和田とともに「ニコス」の活動を継続している。

メンバーは常に募集中で、「ニコス」に興味があれば誰でも受け入れるスタイル。現在は東京・日立・京都でそれぞれNicos Orchest-Labチームが形成されており、独創的なアイデアを持ち寄り、さまざまな家電楽器を産み落としながら、各チームがワークショップなどの活動を各地で精力的に行なっている。

「Nicos Orchest-Labのラボメンバーは、呼びかけて集まってきたさまざまなバックボーンを持った人達です。エンジニアだったり、デザイナーだったり、ファッション系の人もいるし、親子で参加する方もいる。アーティストではない方々ですが、僕の呼びかけに応えてくれてワイワイ言いながら、面白いことに取り組んでいくんです。だから僕らのプロジェクトは、コラボレーションをして偶発的に出た妄想を形にしていく。人との出会いから、何かが生まれるパターンがすごく多いんですよ」(和田永談)

「鉄工島FES 2018」メイン会場・須田鉄工所を見学

我々、編集部が現地に到着したのは13時過ぎ。1階のアトリエには、家電楽器制作に使用される原材料――ブラウン管テレビ、ラジカセ、扇風機、ギターアンプなど、今やその役割を終えてしまった旧型家電や、改造用の電子部品、ケーブル類が続々と運び込まれている最中だった。

陣頭指揮を執るのは、もちろん和田永本人。Nicos Orchest-Labメンバーに指示を出し、搬入された機材類をアトリエ内に整理していく。その和田を取り囲むように、エンジニア職に就いているメンバーが中心となり、テキパキと作業を進行。和やかでユルい雰囲気ながら、息の合ったチームプレイで作業が進行する。

そんなNicos Orchest-Labの面々は、三々五々、現地に到着・合流し、人数が増えていく。機材が整理され、アトリエの中央に机と椅子が並ぶ頃には、20人程度に及ぶメンバーが集合。「そろそろ始めましょうか!」の声で、いよいよミーティングが始まる。

和田の自己紹介、今日集まったラボメンバーの軽い紹介を終え、「鉄工島FES 2018」の概要説明が進むと、作業服姿の須田鉄工所のオーナーである須田社長が挨拶にやって来た。

満面の笑顔で出迎える和田とラボメンバーに、須田社長は「ここ京浜島は、今まで近隣の工場の人たちが仕事で通うだけの街でした。去年、初めて『鉄工島FES』が開催されるまで、この街に外の人たちが集まるイベントは存在しなかった」と話し、今年の「ニコス」への期待感を語る。そして須田社長の案内により、メンバー全員で須田鉄工所見学を行なうことになった。

須田鉄工所は、国内外の工場用に巨大な配管を製造する町工場だ。専門の職人たちが毎日、大きな鉄材を相手に危険と隣り合わせで作業に奮闘している。オープンアトリエのすぐ横の区画でも、土曜日にも関わらず、ベテラン職人が大きな旋盤機械を稼働中。どんどん積み重なっていく鉄材の迫力に、驚かされる。

奥に進むと、別棟がいくつもあり、完成品に近づきつつある大人の背丈よりも大きな配管が、いくつも鎮座している。一般人がめったに見ることができない圧巻の光景を前に、ラボメンバーは興奮気味になかを覗き込んだり、写真や動画を撮影したりと、まるで大人の社会見学にやってきたような雰囲気だ。

 

 

 


和田永も、子どものようにはしゃいでいる。作業棟を移動するたびに「おー! インダストリアル!」「このデカい配管のなかでも演奏してみたいですね」と声を挙げ、職人が作業する派手なノイズに「まるで(アインシュテュルツェンデ)ノイバウテンだ!」と声を挙げる。

須田社長が巨大配管を作る工程を説明すると、瞳を輝かせながら熱心に耳を傾けている。「鉄工島FES 2018」本番では、須田鉄工所の最も広い作業棟に、「ニコス」を筆頭に石野卓球やbrigadoon、yahyel、小袋成彬(DJ)など、気鋭のミュージシャンたちがパフォーマンスを行なうメインステージが設置されることが関係者から説明されると、和田は高い天井から吊り下げられているクレーンを指さしながら、「あのクレーン、何かに使えないかなぁ……」「クレーンに誰かが吊り下がって、歌や演奏をするとか?」と、さっそくアイデアが溢れ出してくる。

見学中のラボメンバーたちからも、和田の言葉に反応して、ああでもない、こうでもないと意見が寄せられるのが面白い。工場のそこかしこに置かれた、工場用の武骨で大きな扇風機にも目を止め、「何かに使えないかな?」と首をひねりながら歩いている。和田が言うように、ワイワイ言いながら面白いことを実現可能な形にしていくのが、「ニコス」の醍醐味であることが、メンバーのやり取りを見ていてよく分かる。


「鉄工島FES 2018」では家電楽器によるバンドパフォーマンスに挑戦!

須田鉄工所の見学が終わると、本格的なミーティングに。とは言え、場の空気はとてもアットホームでフレンドリーだ。大きな机を取り囲んで全員が席に着くと、机の中央に置かれていた「テレレレ」(小さなブラウン管にネックを搭載したウクレレスタイルの家電楽器。画面から出る静電気を、コイルを仕込んだピックでキャッチして、ギターアンプを鳴らす。ネックに付いているスイッチで画像を変化させ、音程を変えることができる)にみんなが注目する。

「僕らは、例えばこういう楽器を作ってるんですよ、今日は改良版ができました」と、「テレレレ」を開発したエンジニアの鷲見氏と和田が、初めてラボに参加する見学者に向けて実演を始める。ノイジーな「テレレレ」サウンドが、工場ノイズと相まって、不思議な音空間を作っている。メンバーの親に連れられて遊びに来た4歳の男の子に、和田が「弾いてみる?」と「テレレレ」を渡すと、オモチャで遊ぶように元気な音を鳴らし、全員が笑顔になる。

「僕がやっているプロジェクトは、なぜか子どもが反応するんですね。音と動きが結びついている表現だからか、直感的なリアクションが得られます。「ニコス」自体の概念や、楽器の制作過程では小難しいことを話し合っていたりはするんですが(笑)、表現として表出する際は、直感的に伝えたい。それに反応するアンテナの感度が高いのは、じつはお子さんなんです。“Open Reel Ensemble”の音楽やパフォーマンスも、子どもが面白がってくれることが多いですからね」(和田談)

ひとしきり、「テレレレ」を弾き終えたところで、まずは和田から、今回の「鉄工島FES 2018」でのパフォーマンスに使いたい家電楽器のイメージが提示される。「ここに来る途中のバスのなかで描いてみたんですけど……」と言って、彼が取り出したのは1枚のスケッチ画だ。

そこに描かれていたのは、家電楽器によるバンドの演奏風景だった。須田鉄工所の職人の協力を得て鉄骨で骨格を組んで複数のブラウン管テレビを配置し、ブラウン管に“砂嵐”の動画を流したり、静電気を利用して音を鳴らすドラムセット。エアコンをキーボード、そこから繋がる室外機にアンプを仕込んでレスリースピーカー風に見立て、回転磁石によって音色が変わる楽器。さらには扇風機を利用したウッドベース風楽器やギター風楽器もフィーチャーされた、5人編成のバンドセットが描かれていた。

「あくまでスケッチなので、どこまで実現できるかは作ってみないと分かりませんが、今回はバンドをやりたいんです」と和田が言うと、ラボメンバーから「おお~」という声がもれる。「まずはこのイメージで楽器を作ることがタスク。そして演奏するオリジナル曲も作る。カバーしたい曲、バンド名も募集します」と宣言し、さらに具体的なアイデアを出し合うブレインストーミングが始まる。

ミーティング中には、8月に東京で開催された「Maker Faire Tokyo 2018」にも出展され、「ニコス」を代表する家電楽器とも言える「バーコーダー」(バーコードリーダーを改造して、読み取った電気信号を直接、音として鳴らす)の活用法なども議論。

「鉄工島FES 2018」のクラウドファンディングでのリターン(バーコーダーで音を鳴らせる、バーコード柄のTシャツ)についても、熱心に話し合われた。さらに、「鉄工島FES 2018」は現地の工場職人とのコラボレーションもミッションのひとつとしてあるため、須田鉄工所の人々に当日もゲスト参加してもらえないか? など、和田のフラッシュアイデアをもとに、全員が自由な発想で活発な意見が飛び交っていた。

「ニコスはみんなで作ったオリジナル楽器を演奏するプロジェクトなので、作り手もパフォーマンスも誰もプロじゃないから面白い。初めて世界にお披露目する、まったくのオリジナル。とくに今回は、須田鉄工所さんとのコラボもタスクのひとつ。インダストリアルミュージックが好きな僕としては、とてもテンションが上がります(笑)。鉄を叩いて音を出す表現は、今までもたくさんありました。ニコスでは工業製品を使って楽器をつくり、演奏する僕らが、“鉄を叩く”のではない手法で、インダストリアル・ミュージックをアップデートしたい。そういう気概で、本番に臨みたいと思います」(和田談)

和田が妄想した家電楽器バンドが、11月4日のライブ当日、どのような形で我々の前に姿を見せ、どんな個性的な演奏を繰り広げるのか。「ニコス」の他にも、ユニークなアートやライブ、イベントが目白押しの「鉄工島FES 2018」に、ぜひ足を運び、その目で確かめてほしい。

そして、Cocotameではフェス当日の模様もレポート予定。“Open Reel Ensemble”の音楽表現とは異なる、和田永の魅力の一面をお伝えする。

文・取材/阿部美香
撮影/増田 慶

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鉄工島FES 2018

開催日時:2018年11月4日(日)11:00〜20:00(予定)
会場:大田区・京浜島内 4会場(須田鉄工所 / 酒井ステンレス第二工場 / 北嶋絞製作所/ BUCKLE KÔBÔ ほか)
入場料: 前売り 5400円・当日 5900円
 ※ 小学生以下は保護者同伴に限り入場無料。
 ※ 中学生以上有料。
 ※ お1人様1公演につき4枚まで。

〈LIVE / 出演アーティスト〉
石野卓球 / ∈Y∋ / PBC / 七尾旅人 / Kan Sano / KAKATO(環ROY×鎮座DOPENESS) / Brigadoon / 小袋成彬 (DJ) / yahyel / 土岐麻子 / VIDEOTAPEMUSIC / INDUSTRIAL JP / HIPHOP戦隊B-BOYGER

〈ARTWORKS / 参加アーティスト〉
SIDE CORE / コムアイ(水曜日のカンパネラ) / 和田永「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」/ NEWPARADISE / 花坊 / 山本修路 / 市川平 / 松村宗亮(SHUHALLY) / VISCUM FLOWER STUDIO / 足立喜一朗 / 平田尚也 / ARIKA X BIEN / Keeenue / BIRDMAN シュエジリン / TUFA / HIROKOHASEGAWA / POKONA / CARt(飯島浩二 / 岡本光博) / ケケノコ族 / 鯰

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