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アーティスト・和田永が音楽を媒介に人と人を結び付ける――「鉄工島FES 2018」レポート【特集第4回】

2018.12.26

Report

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和田永

Artist/Talent

文化庁の芸術選奨メディア芸術部門で新人賞を獲得し、オーストリアにあるメディアアートセンター「アルスエレクトロニカ」が主催する世界最大のメディアアート賞、Prix Ars Electronicaと芸術と科学の優れた融合に贈られるStarts Prizeにて栄誉賞をW受賞するなど、新進気鋭のアーティストとして国内外から注目を集める和田永。

彼のさまざまなワークスを追いながら、アーティストの魅力に迫る特集第4回目は、2018年11月4日に開催された「鉄工島FES 2018」の「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」(以下、ニコス)ライブの模様をレポート。和田永のパフォーマンスが、熱狂的な祝祭を生んだ。

作品展示エリアで「バーコーダー」を体験

2018年11月4日。東京・大田区のモノづくりの最前線であり、中小の町工場が林立する人工の島「京浜島」を舞台に、“工場×アーティスト”がテーマの音楽&アートフェス「鉄工島FES 2018 〜IRON ISLAND FES. 2018〜」が行なわれた。

もちろん編集部の目当ては、和田永率いる「ニコス」のパフォーマンスだ。ライブ会場は、「鉄工島FES 2018」メインステージが設けられた須田鉄工所。和田永は「鉄工島FES 2018」当日に向けて、10月初旬より、ここ須田鉄工所に併設された「BUCKLE KÔBÔ」のアトリエに泊まり込み、Nicos Orchest-Labメンバーや鉄工所の人たちとともに試行錯誤を重ねながら、新たな家電楽器の制作を続けてきたのだ。

「鉄工島FES 2018」に向けて和田永が掲げたテーマは「家電楽器バンド」だった。そのアイデアの源泉とNicos Orchest-Labメンバーとの打ち合わせの様子は、「アーティスト・和田永の魅力を解く――「鉄工島FES 2018」ミーティング初日レポート【特集第2回】」で詳細にレポートしているが、はたして和田永がメンバーとともに妄想したビジョンがどこまで実現するかは、打ち合わせ初日の段階では未知数。最も和田永を悩ませていたのは、どういう形で「工場」や「工場作業員」と意義のあるコラボレーションが可能なのか。その点も「ニコス」としてのパフォーマンスで大いに注目したいポイントだった。

フェスの約1カ月前、和田永と「ニコス」のメンバーが顔を揃えて須田鉄工所でミーティング。

フェスの約1カ月前、和田永と「ニコス」のメンバーが顔を揃えて須田鉄工所でミーティング。

そんな期待に胸を膨らませながら、編集部は「鉄工島FES 2018」の会場を訪れたのだが……当日の天候は、あいにくの軽い雨模様。休日ともあって、「鉄工島FES 2018」会場に至るまでの道のりにはほとんどひと気がなかったが、須田鉄工所に近づくと、突如、人の姿が増え、メインゲートに吸い込まれていく。

その年代層もバラエティ豊か。アートファンらしき年配の人から、若いカップルや学生風のグループ、ひとりでゆっくりフェスを楽しもうとしている人まで多種多様だ。なかには、ベビーカーを押すファミリーの姿もある。

路上にはドリンクや軽食を振る舞う屋台が並び、長い行列ができている。その奥にあるグラウンドでは、雨のなか、バンド演奏やダンス、アートのパフォーマンスを行なっているチームもいた。「鉄工島FES 2018」が老若男女、様々な人が自由に楽しみを見つけられる、新しいブロックパーティであることを実感させてくれる。

夕方から始まる「ニコス」のステージまでは、会場を見学。須田鉄工所のメインステージ横の作業棟エリアでは、「ニコス」作品を体験できるコーナーもある。展示されていたのは、バーコードを読み取って電子音を奏でることができる通称「バーコーダー」。バーコードリーダーがスキャンした電気信号を直接スピーカーに繋ぐことで音を鳴らすというもので、レーザーの当て方によって音がさまざまに変化する楽しい楽器だ。大人はもちろん、子どもたちも瞳を輝かせながら、いろいろな音を出してはしゃいでいる。オモチャで遊ぶように、楽器の演奏法や音楽のメソッドを少しも気にせず、誰もがカジュアルにエレクトロなミュージシャンになれる、それが「ニコス」の魂と言える。


鉄工島FES2018© 山田健一

そんなことをツラツラと考えているうちに、“ライブハウス須田鉄工所”から響いていた、映像とクールなサウンドによるyahyelのライブが終演。作業棟入口からあふれ出ていた人並みが、半分締められたシャッターの奥から一斉に吐き出されると、「ニコス」の家電楽器群が、雑然とした工場のなかに続々と運び込まれ、セッティングされていく。

家電を改造したユニークな楽器を自在に演奏

ステージに運び込まれていく楽器達は、すべてが和田のアイデアに基づき、和田永とNicos Orchest-Labメンバーが互いに意見を交換しながら作り上げられた、正真正銘の“オリジナル”。和田自身が須田鉄工所&「BUCKLE KÔBÔ」での滞在製作を続けるなか、週末には、エンジニアやデザイナーなど(一般人でありながら)クリエイティブなアイデアと得意技を持つNicos Orchest-Labメンバーが参加して、約1カ月に渡って創作活動と、まだ誰も手にしたことのない“前代未聞の世界にひとつだけしかない新しい楽器”を演奏する練習を積み重ねてきたという。

さらにそこに今回、本フェスの会場となった鉄工所で働く“鉄を扱うプロ”である鉄工職人とのコラボレーションが追加され、“人”を媒介に増殖していく「ニコス」のものづくりとクリエイティブ魂は、究極まで高まった感がある。

先にも述べたように、本連載の第2回(参考記事:アーティスト・和田永の魅力を解く――「鉄工島FES 2018」ミーティング初日レポート【特集第2回】)でレポートした初回ミーティングで、和田永がラボメンバーに見せていたイメージ図は、バンド編成での家電楽器演奏だった。その未来予想図の通り、ステージに5種類の楽器が居並んだ姿はなんとも圧巻。和田永のアートはすべて、彼の妄想を形にすることから始まるのだが、今回のステージは、今までの「ニコス」ライブ以上に、開演前から楽器自体にもドキドキさせられる。

エアコン本体をキーボード、足元に置かれた室外機をレズリースピーカーに鳴らすエアコン改造楽器。内部の回転ファンに磁石を張りつけ、演奏者の指先につけたコイルで磁気の変化をキャッチして音を奏でる「エアコン琴」。

エアコン琴/多田愛美

エアコン琴/多田愛美

鉄工島FES2018© 菊池良助

小型ブラウン管にネックを担ぎ、テレビ画面が発する静電気をコイルでキャッチ。画面に映る縞模様のパターンによって音色や音程をコントロールする「テレレレ」。

テレレレ/吉田匡

テレレレ/吉田匡

ヴィンテージの扇風機に、電球と穴が空いた円盤を装着し、円盤の回転によって起こる光の明滅を、電気の波に変えて音を鳴らす「扇風琴」と、その「扇風琴」の仕組みを巨大な工場用扇風機に応用した「工場扇ベース」。

扇風琴/和田永

扇風琴/和田永

工場扇ベース/田中啓介

工場扇ベース/田中啓介

和田永の家電楽器創作の原点となった「ブラウン管ガムラン」を発展させた「ブラウン管ドラム」は、ブラウン管テレビが発する電磁波を素手でキャッチし、足に接触させたコイルを通してギターアンプから音を鳴らす。そして、スネアやタムのように並んだブラウン管の足元には、コイルを巻きつけたキックペダルによって重低音を打ち鳴らす大型ブラウン管もバスドラのごとく鎮座し、頭の高さには砂嵐とともに「ガー」という高音を響かせる通称「砂嵐ンバル」のブラウン管もセットされ、生のドラムセット彷彿とさせる配置がされている。

ブラウン管ドラム/安宅晃

ブラウン管ドラム/安宅晃

それら楽器群がステージ上に並ぶ姿は、まるで、廃品回収場に捨て置かれたガラクタのようにも見える。通電され、今回の演奏メンバー――多田愛美(エアコン琴 / 歌)、和田永(テレレレ/扇風琴)、安宅晃(ブラウン管ドラム)、吉田匡(扇風琴/テレレレ)、田中啓介(工場扇ベース)が、音の様子を見ながらサウンドチェックを始めると、工場内に「ブーン」「ボーン」「ビーッ」「ブーッ」と野太いノイズが響き渡る。

セッティング中は、まばらだったフロアに、どんどん人が増えていく。面白いことに、ライブ開始前から最前列に陣取ったのは、数人の小学生くらいの男の子たちだ。和田たちが謎の楽器を振り回すたび、ステージに身を乗り出して、食い入るように見つめていた。

16時40分を過ぎ、場内が暗転。ステージに颯爽と和田永が駆け込んできて、「ブラウン管ドラム」の後ろに陣取ると、リズミカルにブラウン管を叩き出す。1曲目は和田による「TV Drums Solo」だ。

緩急自在なリズムに混ざる「ジジジッ」と響く電磁音と、腹に響くこもった重低音。和田の頭の上から放たれるレーザー光線が、稲光のように客席を照らす。工場で演奏されている電磁のノイズと頭は理解しているのに、その体感は、南国の鬱蒼としたジャングルの奥深くから、雷のようにドロドロと響いてくる未開の部族の太鼓のようだ。


Photo by Mao Yamamoto

大歓声のなか、和田永が挨拶。「電磁波、大好きです! 今日は電磁のグルーヴ、楽しんでください!」と声を張る。その和田がステージから姿を消すと、ステージ後方の壁に、さまざまなバーコードが敷き詰められたテーブルと、バーコードリーダーを持つ手が映し出され、「バーコーダー」楽曲「Barcoder#1」の演奏がスタート。

この演奏は、工場入り口横に設置された特設エリアで行なわれ、敷き詰められたバーコードは、さまざまな太さと間隔が四角く並んだものから、放射線状に並んだものまで、いろいろなパターンが用意されている。どこにどうバーコードリーダーを当てるかによって、音程やノイズの波形が変化。バーコードリーダーから発射される赤い光線が、モノクロのバーコード群の上を踊りながら華麗に舞う。


Photo by Mao Yamamoto

「Barcoder#1」が終わると、引き続き「Barcoder#2」へと演奏は続いていく。今度の「バーコーダー」の読み取り相手は人間だ。「鉄工島FES 2018」クラウドファンディングで「ニコス」の作品サポートコースを支援してくれた人たちが参加。リターンとして配布されたバーコードTシャツを着て並び、そのシマシマを和田たちが、リーダーで読み取り、音へと変換させていく。読み取ると様々な言葉を発するバーコードも登場。生身の人間とのコラボレーションに、会場も大いに沸く。和田が「ゲストとして参加くださいました、“鉄工島バーコーダーズ”の皆さんでした!」と紹介すると大きな拍手が贈られた。

観客全員参加の「通電の儀」にフロアが熱狂!

そして再び、パフォーマンスの舞台はステージへ。ここからいよいよバンド演奏がスタートだ。曲は「鉄工島GROOVE」。規則的で静かなリズムに合わせ、ノイジーでゆったりしたメロディーらしからぬメロディーが刻まれると、ステージにスモークが流れ込み、幻想的な空間を創り出す。

「ついに、電化製品だけでバンドを組んじゃいました! 今日が初披露なんですけど、まだバンド名が決まってない。僕が良い50なと思ったのは、アース・プラス・マイナス&ファイアー。メンバーのなかで人気だったのは、電磁グルーヴですね(笑)」。

和田のコミカルなMCに笑いが起きる。メンバー紹介と楽器の解説に続き演奏された「扇風楽」は、童謡を思わせるような弾んだリズムと、「扇風琴」や「テレレレ」の明るく甲高い電磁の音色が交錯し、牧歌的な雰囲気を醸し出していた。

次の曲は一転、マイナーコードのクールなサウンドが工場にこだまする。ループするリズムパターンとバッキングの繰り返されるフレーズには、とても聴き覚えがある……これは、ニュー・オーダーの「Blue Monday」じゃないか! そういえば、この曲がリリースされていたレーベルは、ファクトリー(=工場)・レコード!

工場で演奏されるカバーナンバーにふさわしい選曲に、思わずニヤリとしてしまう。浮遊感を漂わせた多田愛美のボーカルが、須田鉄工所をスタティックでトランシーなダンスフロアに変えた。

そしてライブのクライマックスとなったのが、ラストに行なわれた“通電の儀”だ。これは「ニコス」恒例の儀式で、ブラウン管テレビが発する電磁波を観客のカラダに通すことで通電させ、全員が楽器の電気回路の一部となって演奏に加わるというセレモニーだ。

さらに今回は、「鉄工島FES 2018」に関わる工場の職人がスペシャルゲストとしてブラウン管の太鼓を叩き、音頭を思わせるラストナンバー「通電節」の演奏に参加。

工場の巨大なクレーンにぶら下げられてゆっくりと登場した、ブラウン管テレビに繋がった大きなパラボラアンテナ型金属の先端を有限会社清新工業所の江澤勤さんが持って、オーディエンス全員と手を繋ぐと、大きな電子音が流れる。

「わー、すごい!」と、口々に大声を挙げて盛り上がる観客。さらに和田の掛け声に合わせて、繋いだ手同士でタッチを繰り返す(=通電のON/OFF)とリズムが生まれ、バンド演奏と融合。「通電の儀、成功です!」の和田の言葉に、場内は興奮の坩堝と化した。


鉄工島FES2018© 行本正志

約50分におよんだ「ニコス」のライブは、じつにトランシーな体験だった。和田のクリエイティブを形作る上でのキーワードは“土着”や“祝祭”といったプリミティブさだが、「ニコス」のパフォーマンスは、電気創作楽器を使いながらも常に“人力”であることが、最も重要なのだ。

そのマインドは、「鉄工島FES 2018」でのアクティブなパフォーマンスにも、彼が主宰する「Open Reel Ensemble」でのパフォーマンスにも常にありありと表われている。彼のクリエイティブは、誰もが参加できる音楽を媒介に、アイデアフルに人と人とを結び付ける。だからこそ、そこに“祝祭”が成立する。

古い家電を楽器に改造するという行為しかり、現代カルチャーの最先端が見過ごしてきたアイデアを数々提供する和田永の精神は、シンセサイザーという電子楽器をアイデアフルに使いこなし、新しいカルチャーを生み出した往年のテクノポップ/ニューウェイブムーブメントにも通じるかも知れない。

テクノポップ/ニューウェイブが、音楽と新たなアートの架け橋としてカルチャーシーンを一歩推し進めたように、「ニコス」が生み出す音楽の未来像を、(ニューウェイブシーンに多大な影響を与えた)ブライアン・イーノの「コンピュータにはアフリカが足りない」という言葉を引用しながら、語ったこともある和田永。既成概念に囚われず、我が道を征く和田永のこれからの挑戦を、私たちはけっして見逃すことはできない。

文・取材/阿部美香

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和田永の公式サイト
和田永の公式Twitter
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Open Reel Ensembleの公式サイト
Open Reel Ensembleの公式Twitter
Open Reel Ensembleの公式Instagram
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エレクトロニコス・ファンタスティコス!の公式サイト
エレクトロニコス・ファンタスティコス!の公式Twitter
エレクトロニコス・ファンタスティコス!の公式Facebook

和田永「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」in「鉄工島FES 2018」 セットリスト

01. TV Drums Solo
02. Barcoders#1
03. Barcoders#2
04. 鉄工島GROOVE
05. 扇風楽
06. Blue Monday
07. 通電節

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