連載

甲田まひる――ジャズ・ピアニストとファッショニスタ、ふたつの顔を持つ16歳の実像<後編>【連載第5回】

今後さらなる注目を集めるであろう、気鋭のアーティストの実像に迫る連載企画「Artist Profile(アーティストプロファイル)」。連載第5回では、天才と称されたバド・パウエルをこよなく愛し17歳を迎えたばかりのジャズ・ピアニスト、甲田まひるをクローズアップ。

インタビューの後編では、デビューアルバム『PLANKTON』への想いや制作エピソードを語ってもらった。

瞬間パッケージのようなレコーディング

──クラシック、ジャズときて、今はさらにいろんな音楽に刺激を受けているみたいですね。

甲田:そうなんです。まずジャズの名盤をいっぱい聴く中で、バド・パウエルとセロニアス・モンクに出会いました。ふたりともビバップという演奏スタイルのミュージシャンなんですけど、二人にハマってからは、何年もビバップ一筋でした。

ちょうど1年前ぐらい、自分のアルバム・レコーディングが決まった時期、今度はヒップホップと出会ったんです。それもまた衝撃的でした。もう少し前から好きだったローリン・ヒルのファースト(『The Miseducation of Lauryn Hill』)や、ア・トライブ・コールド・クエストの最新作(『We Got It From Here… Thank You 4 Your Service』)を聴いて、初めて「こういうジャンルをやりたい!」と思って。

甲田まひる

──ローリン・ヒルのファーストはもう20年も前の作品ですけど、そういう音楽はどうやって知るんですか。

甲田:ローリン・ヒルは大ヒット作だから家にアルバムがあったんですけど、あとはSNSですね。ア・トライブ・コールド・クエストは、ビートメイカーの方が「18年ぶりの新譜がやばい」って呟いていて、調べて聴いてみたら衝撃で。こんな音楽があるんだ! って思って、そこからさかのぼって90年代のヒップホップにハマりました。

──なるほど、バンドメンバーのおふたり(ドラムの石若駿、ベースの新井和輝)も、ジャンルを横断する音楽家ですもんね。

甲田:そうなんですよ。それで私もいろんなジャズに挑戦したい、幅を広げたいなと思って。ヒップホップを聴くようになってから、昔聴いてもピンとこなかったものがどんどん入ってくるようになって、何でも受け入れられるようになったし、勉強になるからなんでも聴こうっていう姿勢に変わってきたんです。

ちょうどその頃レコーディングが始まったので、アルバム制作は今まで自分がやってきたビバップと、これから取り入れたいものを同時にまとめる作業でした。

──ビバップという機軸は変わらずに?

甲田:もちろん、私のルーツにはビバップがあります。小さい頃からずっと繰り返してきたものって忘れなくて、何をやるにも自然と出てくるので、それはすごく良かったなと思います。

──ルーツを軸に変わっていく自分を刻む、瞬間パッケージのようなレコーディングだった?

甲田:そうですね。レコーディングしたタイミングがそこだったというだけで、今作ったらまた違うものになる。そういうギリギリのバランスで、今までと新しいものが組み合わさってます。

──きっと石若さんと新井さんとの出会いも大きかったんでしょうね。

甲田:ふたりと出会えたからできたことがいっぱいあります。ビバップをやるうえでも、ただ昔のマネをするだけじゃなくて、自分なりのビバップをやりたいという気持ちがあったんですけど、今回のアルバムは歴史あるジャズをリスペクトしつつ、互いにアイデアをいろいろ出し合って、まさにこの3人でしかできないビバップができたと思います。

ふたりはジャンルにとらわれないミュージシャンなので、私の出したヒップホップっぽいテイストもすぐに察して合わせてくれて、本当に感謝です。

写真左から、甲田まひる(ピアノ)新井和輝(ベース)石若駿(ドラムス)

写真左から、甲田まひる(ピアノ)新井和輝(ベース)石若駿(ドラムス)

──音に3人の空気感が詰まっていると思います。

甲田:出てますよね! 私もプレーバックがすごく楽しくて。あと、レコーディングするにあたって昔の音源を聴き直して音を取っていったんですけど、古い音源なのでベースラインとか聞こえない部分がいっぱいあるんですよ。それを3人で「ここどうしてるんだろう」って考えるのもすごく勉強になったし、その都度「やっぱりすごいよね!」って盛り上がりました。

これまでコピーする時はピアノパートを中心に取っていたので、ドラムやベースのパートをここまで聴き込む機会はなかったんですけど、こういうことをしっかりやるのとやらないのじゃ全然違うなって思いました。

──すごく耳が発達しますよね。

甲田:そうなんですよ。ふたりにはすごく助けられました。私もリーダーとしていろいろお願いする立場なので、譜面を渡す時もできるだけやりやすいようにと思って、がんばりました。

オリジナル曲「My Crush」への想い

──今はジャズを極めたいという感じですか。

甲田:極めたいですね。今回アルバムを作ったおかげでたくさん曲を作るようになったし。ピアノ・トリオ編成ってシンプルですけど、ものすごく可能性があるので、これからもっと研究していきたいです。

それと同時に、今回ビバップのアルバムを作り上げたことで、次に行きたいという気持ちもあって。ジャズを本気で勉強しつつ、ほかにやりたいと思ったことは同時並行でしちゃってもいいかなと思います。

──きっとそれが自然ですよね。そんな甲田さんの今が、「My Crush」というオリジナル曲に詰まっているなと感じました。

甲田:そう! この曲は2日目のレコーディングの前日に書いていったもので、その場でアイディアを出し合ってセッションしながら録った、インストゥルメンタルヒップホップです。今回私がいちばんやりたかったことをやっていて、3人の楽しさが伝わると思います。

甲田まひる

──「My Crush」というタイトルにはどんな想いを込めたんですか。

甲田:このトリオは音楽以外でも波長が合って、私はこのメンバーと一緒にいるとすごく楽しくて。ピットイン(新宿のジャズ倶楽部)のライブを観に来てくれた友だちが「愛があふれてたよ」って言ってくれたことがあって、そこから“らぶとりお”って呼んでるんです。そんならぶとりおのテーマをアルバムに入れたくて、でも“Love”っていう言葉は今回の曲の感じにはちょっとイメージが大きすぎるから、もうちょっと身近な感じの言葉はないかなと思って。

──恋のときめきとか、そういうイメージ?

甲田:そうそう、それに近いです。“好きな人”とか“気になってる人”っていうイメージでつけました。

『PLANKTON』ジャケットデザインのこだわり

『PLANKTON』ジャケット

──ジャケットは何がアイデアの基になったのですか。

甲田:ジャケットに関しては、最初から全部自分でやりたいって決めていました。自分の中で100%納得のいくものを作りたかったから。

最初は「顔が出てないと」ってスタッフさんから言われたんですけど、写真のイメージが湧かなくて。それにジャケット用に撮影するとしたら、みんなの力を合わせて、セットを組んで……となり、途中でちょっと違うなと思っても、簡単には変えられなくなる。それは普段の(ファッション系の)撮影を通してわかっていたので、それなら絵のジャケットがかっこいいのではないかと。味が出るし、あえてこの時代にアナログ志向で行こうと。

──甲田さんってどこかパンクっぽいところがありますよね。

甲田:自分でもすごくそう思います。精神的にずっとそういうものを持っていますね。常に自分がおもしろいと思うことをやりたいし、周りから期待されていることとは違うことをやりたくなっちゃう性格なんですよ。

──今回はアートワークを完全セルフプロデュースするために、誰かと密に作るプロセスが必要だった。

甲田:今はそっちのほうが自分を表現しやすいかなと思って。それでいつもインスタで私の似顔絵を描いてくれる子がいたので、DMで「描いてくれませんか」って直接お願いしました。19歳の美大生です。

──DMが来てびっくりしたでしょうね。

甲田:だと思います。2回ぐらい会って打ち合わせして、あとはLINEで写真を送り合って、何度も修正を重ねて、ギリギリまでやりとりして描いてもらいました。

──絵のテイストはどう伝えたんですか。

甲田:最初は私のアーティスト写真を渡して、それに沿って描いてもらった後に、「違うのも見たいな」ってお願いして自由に描いてもらいました。フリーダ・カーロ(メキシコの画家)みたいな、味のあるタッチや渋い色合いがほしくて提案したり、服の柄もこういう雰囲気にして欲しいって素材を見せたり。

──「クレオパトラの夢」のミュージックビデオもくすんだ色合いで、雰囲気ある仕上がりですね。

甲田まひる a.k.a. Mappy 『クレオパトラの夢』

甲田:撮った音を流しながら、がんばって思い出しながら弾いてます。実際のレコーディング現場もまさにあんな感じで、全パート一発録りなんですよ。昔の音を再現したくて。

甲田まひる

──3人の表情がすっごく楽しそうなんですよね。

甲田:本当に大事です、この3人のチームワークが。

──甲田さんのインスタを見ていると、ティーンの女の子を中心に「初めてジャズを聴きました」という書き込みも多いですね。

甲田:それはすっごくうれしいですね。私がファッション系の仕事をやっていたからジャズにも興味を持ってくれるわけじゃないですか。ファッションの仕事をやってて良かったなって思うし、それが私のやりたいことでもあります。だから先日出したスタイルブック(マッピー パーソナル・スタイルブック『HARLEM』)にもジャズの聴き方をまとめてみたりしたんですよ。

マッピー パーソナル・スタイルブック『HARLEM』

──この本に載ってる写真は、ニューヨークで撮ったもの?

甲田:半分ぐらいニューヨークですね。ニューヨークは、小学生の頃ジャズに出会った時から、ずっと住みたい街。なかでもハーレムがいちばん好き。この写真を撮った時もハーレムに2カ月滞在して、クラブにジャズを聴きに行ったりセッションに参加したりしたんです。

──近いうちにニューヨークに行っちゃうかもしれませんね。

甲田:行きたい。いますぐ行きたい! そのために英語の勉強がんばってます。

──今の夢はなんですか。

甲田:自分の音楽を作ること。アコースティックのピアノはもちろん、打ち込みで曲を作るのも興味あるし、次やりたいのは歌です。パフォーマンスがしたい。やりたいことがいっぱいあって、未来がどうなるのか、自分でもまだまだ未知数って感じです。

連載4回目の甲田まひる『PLANKTON』ふたつの顔を持つ16歳の実像<前編>はこちら

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『PLANKTON』

2018年5月23日リリース

01. ウン・ポコ・ローコ
02. クレオパトラの夢
03. インディアナ(テイク1)
04. インディアナ(テイク3
05. ルビー、マイ・ディア
06. プランクトン
07. セリア
08. テンパス・フュージット
09. レディ・バード
10. ラメント
11. アスク・ミー・ナウ
12. マイ・クラッシュ

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