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“それ絶対面白いヤツ!!”「ビッグコミック」編集長が抱く大きな野望と企画【連載第14回】

2018.7.23

Interview

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2018年は、ソニーミュージックグループが生まれて50年という節目の年。本連載「50年の歩み ~meets the 50th Anniversary~」は、同じく50年目を迎える企業、商品、サービスを取り上げ、その歴史を紐解くことで、「時代」を浮き彫りにするという特別企画だ。

シリーズ4で取り上げてきた、小学館が発行する「ビッグコミック」の50年史も今回が最終回。現編集長・由田和人氏が語る、「ビッグコミック」のこれからとは? 編集長が目標としている連載案についても伺った。

株式会社小学館 ビッグコミック編集部 由田和人編集長

株式会社小学館
ビッグコミック編集部
由田和人編集長

「情報力」でより一層、作品の厚みを増す

──前回は、90年代の漫画黄金期についてのお話を伺いしましたが、00年代になると、世の中の景気が減退し、いわゆる「出版不況」が始まります。この当時の「ビッグコミック」は、どのような舵取りを行なっていたのでしょうか?

由田:00年代、読者の雑誌離れが起きました。単行本ビジネスは変わらず好調だったものの、漫画雑誌を読まない方が増えていったんです。私の古巣だった「週刊ヤングサンデー」も2008年に休刊していますし、全体的に苦しい時代でしたね。

この時期のビッグコミックの看板作品は作・大石けんいち先生、鍋島雅治先生、九和かずと先生、画・はしもとみつお先生の『築地魚河岸三代目』(2000年~2013年)や、なかいま強先生の『黄金のラフ~草太のスタンス~』(1999年~2011年)など。それまでと変わらず「プロフェッショナル」を作品作りの軸としていました。

『築地魚河岸三代目』

『築地魚河岸三代目』
作/大石けんいち 作/鍋島雅治 作/九和かずと 画/はしもとみつお ©はしもとみつお、大石けんいち、鍋島雅治、九和かずと

『黄金のラフII~草太の恋~』

『黄金のラフII~草太の恋~』
なかいま強 ©はいさいプロダクション

ただ、この頃から作品の情報力というものを特に重視し始めています。大人の漫画において、作品の肉付けになるのはやっぱり情報なんです。それが、大人漫画の最大の特徴。作・夏緑先生、画・ちくやまきよし先生の『獣医ドリトル』(2001年~2014年)なども、そうした情報力にこだわった作品のひとつです。

『獣医ドリトル』

『獣医ドリトル』
作/夏緑 画/ちくままさよし ©夏緑、ちくやまきよし

──そうした情報力重視の方向性に気付かせてくれた作品を教えてください。

由田:古くは、別の雑誌の作品ですが、「ビッグコミックスピリッツ」の人気作『美味しんぼ』(作・雁屋哲、画・花咲アキラ/1983年~)が有名ですよね。あの作品が、それまで感覚的にしか伝えられなかった「美味い」という味覚を情報量で伝えるというやり方を発明しました。

その上で、「ビッグコミック」に掲載された作品で挙げるなら、星野之宣先生の『宗像教授異考録』(2004年~2010年)。この作品の情報力は本当に凄まじい。こんな難解な内容を描いた作品はそれまでありませんでした。星野先生は、ご本人が主人公の宗方教授のような方。膨大な資料を読み込んで、それを作品に落とし込んでいます。ここまで徹底して情報を集める作家は、他にいないのではないかというくらい。そして、何より画が素晴らしいですよね。研究の成果が物語だけでなく、画の細部にも表われているという……。この作品は、「プロフェッショナル」というテーマをもたらしてくれた『ゴルゴ13』や、文学的な高みに達した『犬を飼う』と同じく、「ビッグコミック」を大きく変えてくれた作品のひとつだと思っています。

なお、星野先生は7月10日発売の「ビッグコミック」14号より新連載『海帝』の連載がスタートしています。600年前、世界の海に乗り出した中国の鄭和を主人公にした海洋冒険ロマンです。力作なので是非読んでみてください。

『宗像教授異考録』

『宗像教授異考録』
星野之宣 ©星野之宣

少年誌のベテラン人気作家に大人向けの漫画を描かせてみたい!!

──今後、「ビッグコミック」がどうなっていくのかについても聞かせていただけますか?

由田:「ビッグコミック」を創刊号から読んでくださっている読者は、今、70~80歳。しかし、実際の「ビッグコミック」の平均読者層は50代が中心です。それがこの先、これ以上になっていくとも思えません。つまり、これからの「ビッグコミック」は常に新しい読者を獲得していかなければならないのです。

その上で、今、私が考えているのが「ビッグコミック」を「大人の少年誌」という位置づけに強化していくこと。子供の頃に夢中になった少年誌のワクワク感を、成年誌でもう一度味わってもらいたいと考えています。漫画の基本は、やはり少年誌にある。そのために必要なものは「ヒーロー」。これを生み出していくのが当面の目標ですね。

──大人をワクワクさせる「ヒーロー」とはどういうものなのでしょうか?

由田:よく言われるような、読者が「共感できるキャラクター」はいりません。読者が理解はできつつも、「共感できないキャラクター」こそが、ヒーローなのではないかと。少年誌の主人公も同様ですが、共感なんかできないくらいすごいから憧れるんです。これを成年誌という枠組みの中に当てはめてみたいと考えています。

連載中の作品では、石塚真一先生の『BLUE GIANT SUPREME』(2016年~)に登場するサックスプレイヤー・宮本大や、かわぐちかいじ先生の『空母いぶき』(2014年~)の自衛官・秋津竜太などは、まさにそれ。ほぼ無一文でドイツに武者修行に出て、世界一のJAZZプレイヤーを目指したり、この社会情勢下で先制攻撃も辞さないというようなキャラクターに、「分かる、分かる!」と共感するのは難しい。でも、だからこそ強く惹かれる。今後、彼らのようなキャラクターをもっと増やしていきたいですね。

『BLUE GIANT SUPREME』

『BLUE GIANT SUPREME』
石塚真一 ©石塚真一

『空母いぶき』

『空母いぶき』
かわぐちかいじ 協力/惠谷治 ©かわぐちかいじ、惠谷治

──『ゴルゴ13』のデューク東郷もそういうキャラクターですよね。

由田:はい。だから、そういう意味では50年間、「ビッグコミック」は何も変わっていないとも言えます(笑)。「ビッグコミック」は創刊50周年を迎え、「伝統と革新の、業界No.1青年漫画誌!!」なんてフレーズを掲げていますが、その伝統=『ゴルゴ13』なんですよね。この作品が始めたことを、今の時代に即したかたちでやっているのかもしれません。

株式会社小学館 ビッグコミック編集部 由田和人編集長

──「革新」の部分で、今後チャレンジしていきたいことがあったら教えていただけますか?

由田:「ビッグコミック」は、若い才能を発掘して……という雑誌ではないので、そういう意味での「革新」は兄弟誌に任せつつ、今、少年誌で活躍している作家を成年誌に呼び込んで、化学反応を引き起こす……ということをやっていきたいと考えています。

具体例を挙げれば、「週刊少年サンデー」の看板作家である、青山剛昌先生(『名探偵コナン』など)、高橋留美子先生(『うる星やつら』『犬夜叉』など)、あだち充先生(『タッチ』『H2』など)に、本格的な連載作品をお願いしたい。高橋先生には50周年記念号で読み切りを描いていただいたのですが、皆さん、少年誌へのこだわりが強くて、なかなか連載までは引き受けてくださらないんですよね(苦笑)。でも、このクラスの人気少年漫画家が描く、大人漫画、読んでみたくありませんか? それを実現するのが、今後の目標です。

──いち漫画ファンとして、絶対その連載は読んでみたいです! ぜひ、実現してください!!

「ビッグコミック」と言えば似顔絵表紙! その制作秘話に迫る!!

──さて、「ビッグコミック」と言えば、旬の有名人を描き下ろした似顔絵表紙でも有名です。この表紙はいつ頃から、どういった理由で始められたのでしょうか?

由田:創刊当初は、イラストレーターの伊坂芳太良さんにお願いしていたのですが、1970年に伊坂さんがお亡くなりになった後は、現在まで続く、有名人の似顔絵を表紙にしています(編集部注:担当イラストレーターは2011年までは日暮修一さん、それ以降は金子ナンペイさん)。なぜ、始めたのかの明確な理由は残っていないのですが、話題の人物を表紙にすることで、旬なイメージが出しやすかったからだと思います。こうした取り組みは我々だけでなく、雑誌の「ぴあ」(編集部注:1975年の創刊号から2011年の最終号まで、イラストレーターの及川正通さんが担当)など、ほかの媒体でもやられているので、我々だけの専売特許というわけではありません。

──表紙の人物は、どうやって決めているんですか?

由田:発売日の2カ月くらい前に編集会議で候補を出し合って、そのなかから選んでいくという感じですね。あまり早く選びすぎると旬の感じが出せなくなるので、いつもギリギリです。それでも、2018年6月25日号でサッカーの長友佑都選手を表紙にした時は、代表に選ばれるかどうか直前までわからず、結構ひやひやしましたね。でも、長友選手がまさか金髪にしてしまうところまでは対応できませんでした(笑)。

──今までにそういったことはあったのですか?

由田:最近ですと、昨年のWBCの時期に大谷翔平選手の表紙を準備していたのですが、まさかの出場辞退で慌ててユニフォームを日ハムのものに差し替えるということがありました(笑)。そういうトラブルはしょっちゅうありますよ。

──そして、表紙と言えば、ビッグコミック系列誌で使われているナマズのキャラクターも印象的です。これはいつ頃、どのように生まれたのでしょうか?

由田:調べてみたところ、創刊2年目くらいに、50年間ずっと表紙デザインを担当してくださっているデザイナーの串田光弘さんが作ってくださったそうです。なぜナマズなのかは諸説あるのですが、最も有力なのは、当時、社会的に認められていなかった漫画を泥の中に潜むナマズになぞらえ、いつか日の当たるところに出るぞという願いを込めたという説です……きっと後付けだと思います(笑)。

──ちなみに名前はあるんですか?

由田:今までなかったんですが、私が、50周年を期に「なまず吾郎」と名づけました。なんでそんな名前にしたのか……理由はありません(笑)。50周年記念で着ぐるみを作ったので、今後も、いろいろなイベントに登場するはず。ぜひよくしてやってください。インスタもやってます。

株式会社小学館 ビッグコミック編集部 由田和人編集長となまず吾郎

“プロフェッショナル”をテーマに、大人の鑑賞に堪える良質な作品を生み出し続けている「ビッグコミック」。デューク東郷らに続く、新たなヒーローの登場と活躍に、注目して行きたい。

「ビッグコミック50周年展」でその歩みを確認しよう!!

「ビッグコミック」の50周年を記念した展覧会「ビッグコミック50周年展 ‐半世紀のビッグな足跡‐」がこの6月よりスタート。京都府・京都国際マンガミュージアムでの展示(9月2日まで)を皮切りに、神奈川、宮城、新潟の各地を巡回する(入場無料)。会場では、「ビッグコミック」50年間の誌面を飾った約200点の名作原画(複製含む)など、さまざまな歴史的資料が惜しげもなく展示されるほか、ポストカードや複製原画など、ここだけの限定グッズも販売されている。

イベントの詳細

ビッグコミック50周年展

ビッグコミックの公式サイト

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取材/文:山下達也(ジアスワークス)
撮影:増田慶

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