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連載Cocotame Series

音楽ビジネスの未来

『STAND UP! ORCHESTRA』が切り拓くオーケストラの新たな可能性

2020.02.25

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聴き方、届け方の変化から、シーンの多様化、マネタイズの在り方まで、今、音楽ビジネスが世界規模で変革の時を迎えている。その変化をさまざまな視点で考察し、音楽ビジネスの未来に何が待っているのかを探る連載企画「音楽ビジネスの未来」。

今回は、クラシック音楽の伝道にとどまらず、ポップスやアニソン、ゲーム音楽とも融合し、新たな音楽ビジネスの道を開拓する『STAND UP! ORCHESTRA』に注目。総勢200人以上からなる同オーケストラの音楽監督を務める徳澤青弦氏、企画・運営を行なうソニー・ミュージックエンタテインメントの毛谷村伸也と齊藤美帆に、オーケストラ、クラシック音楽の未来を展望してもらう。

  • 徳澤青弦氏

    Tokuzawa Seigen

    音楽監督

    チェリスト、作曲家。チェリストとしてさまざまなアーティストのレコーディングやライブサポートを行なう。ラーメンズ・小林賢太郎の舞台音楽制作、「君の名は。オーケストラコンサート」のオーケストラ編曲なども担当。

  • 齊藤美帆

    Saito Miho

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

  • 毛谷村伸也

    Keyamura Shinya

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

『STAND UP! ORCHESTRA』とは?


 
敷居が高いと思われがちなクラシック音楽の楽しさや新しい可能性を伝えるために、2018年に発足した『STAND UP! CLASSIC』プロジェクト。2度にわたって行なわれたオーディションからは若き音楽家が多数選ばれ、現在関東・関西を中心に約200名が『STAND UP! ORCHESTRA』として活動している。これまでライブやイベント、テレビ出演など、その活動は多岐に渡り、都度違った魅力を発揮。2019年12月に大阪のスタジオパルティッタで初の単独公演を開催している。また、2020年4月には映画【蜜蜂と遠雷】コンサートをサントリーホールほかにて予定。

座っていられないクラシック

「さあ、立ち上がろう!クラシックを、もっとエンターテイメントに。」というコンセプトを掲げ、2018年から活動をスタートした『STAND UP! ORCHESTRA』は、クラシック音楽界の新たな時代を担う若き演奏家らでなるオーケストラ。と言っても「〇〇交響楽団」や「△△フィルハーモニー」といった既存のオーケストラとは、システムもパフォーマンスも大きく異なる。

「“クラシック音楽って敷居が高いよね”“難しそう”“コンサートに行きづらい”といった声を、クラシックに馴染みのない方々からはよく聞きます。ソニーミュージックのグループ内にはクラシック音楽専門のレーベルもありますし、それならもっとポップに、ライトに、わかりやすくその魅力を伝えるプロジェクトがあってもいいのでは? というのが『STAND UP! ORCHESTRA』の立ち上げの動機でした。」(齊藤)

「演奏者もお客さんも、座っていられないほどエキサイティングなパフォーマンスを目指そうというのが、『STAND UP!』という名前の由来です。とは言え、立ち上がらなくては“いけない”ということでは決してなく、堅苦しさを排除した、自由なスタイルで音楽を楽しんでもらいたいというスローガンみたいなものですね。伝統や格式も含めて、確立されている既存のオーケストラと同じことをやっても意味がないと思っているので。」(毛谷村)

「最初にこのコンセプトを聞いたとき、正直言って安直だなと思ったんですけど(笑)。よくよく考えてみると、その安直さというのは、誰にでも何をやりたいのかがすぐに伝わるということだと気付いて、それは決して悪いことではないと考え直しました。このオーケストラは、とにかくあらゆる面において新しいことを模索しているので、可能性がたくさん詰まっていると感じます。」(徳澤)

『STAND UP! ORCHESTRA』の活動は、クラシックの枠を越えて多岐にわたる。2018年から2年連続で横浜・赤レンガパークにて開催された野外フェス「STAND UP! CLASSIC FESTIVAL」に出演することから始まり、2019年には京セラドーム大阪にて開催された乃木坂46のライブにゲスト奏者として出演、今年に入ってからは「PSYCHO-PASS サイコパス IN CONCERT」に5人のメンバーが出演するなど、その一端を挙げるだけでも実にバラエティ豊か。フェス出演からアイドル、アニメとのコラボまで、さまざまなプロジェクトに参加し、その音色を幅広い層に届けている。

横浜・赤レンガパークにて開催された野外フェス「STAND UP! CLASSIC FESTIVAL」。

昨年、京セラドーム大阪で開催された乃木坂46のライブにも出演。

今年、1月27日~29日(東京)、1月31日、2月1日(大阪)で開催された「PSYCO-PASS サイコパス IN CONCERT」には、数人のメンバーがオーケストラに加わった。

「ライブやイベントによって楽器編成や人数が変わってくるので、参加メンバーは流動的です。非常にフレキシブルな形態ですね。さすがに200人以上のメンバーが全員揃って演奏したことはありませんが、今後は同じプログラムを東京で演奏する組と、大阪で演奏する組に分けて公演を行なうといった構想もあります。」(齊藤)

「昨年12月に大阪で単独公演を行なったときは、造船所の跡地にあるライブハウスに30人ほどのメンバーで出演しました。通常のオーケストラと比べたら少ないですが、ライブハウスのステージには30人がギリギリで……。フェスやポップスとのコラボでもそうですが、会場はクラシックのコンサートホールではなく、ライブハウスやクラシック以外のホールが多いですね。クラシックのリスナーではない方々に向けて裾野を広げたいという思いが前提としてあるので、会場もおのずとそういう場所をセレクトすることになります。」(毛谷村)

昨年12月に行なわれた、大阪での単独公演。

学びの場でもある登録制のオーケストラに

メンバーはオーディションによって選ばれた個性あふれる精鋭ばかりだが、彼らは『STAND UP! ORCHESTRA』に「所属」しているのではなく、「登録」することによって、個人での活動と『STAND UP! ORCHESTRA』での活動を両立させている。つまりフリーランスの演奏家による登録制のオーケストラであるという点も大きな特徴だ。

「日本には音楽大学がたくさんあって、毎年たくさんの演奏家が生まれている一方で、若くても才能にあふれた演奏家が活躍する場が少ないという現状があります。若い人たちが自由に自己表現できる場を作りたいという思いも、『STAND UP! ORCHESTRA』の立ち上げの動機としてはありました。オーディションという形態も、そういったところから出てきたプロセスだったと言えます。」(毛谷村)

「私は音楽大学でピアノを専攻していたのですが、卒業してすぐに音楽業界に入って仕事を始めたときは、それまでいたクラシックの世界と“こんなにも違うんだ!”と驚きました。きっと今、『STAND UP! ORCHESTRA』で活動しているメンバーたちも、同じように感じているのではないでしょうか。音楽大学を出て、既存のオーケストラに就職するといったコースでは体験できないような刺激を、日々たくさん受けていると思います。2017年の立ち上げから3年目を迎えますが、有り難いことに未だ脱退するメンバーはいません。メンバーそれぞれにとっての学びの場として、いろいろなことを吸収し、成長してもらえたらと考えています。」(齊藤)

グルーヴに任せて身体を大きく動かしながら演奏する『STAND UP! ORCHESTRA』のパフォーマンスからは、若き演奏家たちの迸るようなエネルギーが伝わってくる。一体、彼らはどんなミュージシャンで、どんな野望を持ってこのオーケストラに参加しているのだろう?

「『STAND UP! ORCHESTRA』のオーディションでは、技術が水準に達していることはもちろんですが、パフォーマンス性、エンタテインメント性の強い演奏家が採用される傾向にあるかもしれません。とは言え、実際に入ってから成長すればよい部分もありますし、それが必ずしも必要な要素というわけではありません。SNSで自己発信するのが得意な人もいますし、ひたすらマニアックな曲ばかりやってきた人もいます。本当にいろいろなタイプがいて、正解はひとつではないと思います。」(徳澤)

「けれど」と徳澤は続ける。

「全員に共通しているのは、“何か新しいことをしたい!”という強い気持ちです。“同世代の人たちにわかってもらいたい。自分たちの音楽を届けたい”という思いがあるのでしょうね。クラシックの世界はリスナーの高齢化が著しく進んでいますから、“このままじゃダメだ”という危機感もひしひしと感じます。でも、例えば今売れているバンドだってまったく売れない時代を経ているわけで、“このままじゃダメだ”っていう気持ちは、けっこう大事なことだと思うんですよ。」(徳澤)

潜在的なクラシック・リスナーは意外と多い

『STAND UP! ORCHESTRA』のライブでは、誰もがどこかで聴いたことのあるクラシックのメロディをノンストップミックスで演奏するプログラムがとくに人気だという。それは、新しい提示の仕方をすることで、新しいリスナー層を開拓する可能性がクラシックにはあるということの証明でもある。

「音だけでなく、照明や演出などの視覚からも、クラシックの新たな体験を提案しています。」(毛谷村)

照明の入れ方など、既存のクラシック音楽のコンサートとは一線を画す演出が多く取り入れられている。

「クラシックをあまり聴いたことのない人に向けての“入門編”に、今は取り組んでいるところです。なるべくコマーシャルに聴かせる方向で。その際、よく知られている曲を使うのが効果的な場合もありますし、そうでない場合もあると思います。クラシック音楽のなかには、有名ではなくても、実はポップに聴ける曲というのはけっこうあって、そういった曲をどんどん発掘して『STAND UP! ORCHESTRA』から発信できればと考えています。例えば“バスクラリネットの曲”と言うと、かなりマニアックじゃないですか。でも、このオーケストラにはバスクラリネットを吹ける人もいるので、それをぱっと聴かせることができる。そういったところが面白いですね。」(徳澤)

「今年1月に大阪で開催され、『STAND UP! ORCHESTRA』のメンバーも出演した『蜜蜂と遠雷 コンサート』でも、クラシックのコンチェルトを織り込んだメドレーは、お客さんにとても好評でしたね。メンバーのほうから “こういう曲をやりたい”という提案をもらうこともあります。“バロック音楽縛りがやりたい”とか、“ダンスミュージックみたいな感じで見せたい”とか。」(齊藤)

大阪で好評を博し、4月に東京、5月に愛知公演を控えている「蜜蜂と遠雷コンサート」にも『STAND UP! ORCHESTRA』のメンバーが出演している。

「そういう声は、アンケートを取るなどしてできるだけ拾うようにしています。自分たちで“これは面白いね”と言っているものは、やっぱりお客さんからの反応もちゃんと返ってきていて、それが彼らの自信にもつながっているようです。」(徳澤)

一方で、既存の曲ではない、オリジナルの曲を演奏するときは、クラシックのオーケストラならではの苦労があると齊藤は語る。

「『STAND UP! ORCHESTRA』の単独公演ではオリジナルの曲をやったりもするのですが、クラシック音楽の勉強をしてきたメンバーたちにとって、“譜面に従って弾く”だけではないものを求められると、仕上がるのにすごく時間がかかることがあります。楽譜から離れるのが怖いのかもしれません。イヤーモニターをつけながら打ち込みのリズムに合わせて演奏するといったことも、音楽大学では習わないので、日頃からライブハウスの演奏などで慣れている人でないと、最初は難しいと思います。」(齊藤)

「普通のオーケストラの倍ぐらいの時間がかかっていると思います。でも新しいことをするのはどうしても手間や時間がかかるものですから、そこはやっていくしかない。それぐらい強い気持ちがなければ、これから先の時代に残っていけないと思います。」(徳澤)

アニソンやゲーム音楽とのコラボも積極的に行なう『STAND UP! ORCHESTRA』だが、そうした活動もまた、クラシックの裾野を広げることにつながっているという。

「アニメやゲームがきっかけで、オーケストラやクラシックに興味を持つ人が多くなっているように感じます。コンサートに行くまではしなくても、実は家でクラシックを聴いてみたりする人も、水面下で増えてきているのではないかと。」(徳澤)

「潜在的なクラシック・リスナーですね。アニメにしてもゲームにしても、やはりファンの熱狂度が違うと思うんです。なんとなく “クラシックに興味がある”のと、“大好きなアニメに使われていたクラシック曲について知りたい”のとでは熱量が桁違いですよね。今はなんでもすぐにインターネットで調べられますし、手軽にサブスクリプションで聴ける時代ですから、アニメやゲームに使われることであらためてクラシック音楽がフィーチャーされるのも当然の流れではないでしょうか。」(毛谷村)

「推し」への共感から音楽への興味に

立ち上げから3年目を迎えた『STAND UP! ORCHESTRA』。これまでにない新しい形態でのオーケストラが目指すもの、描く未来予想図とは?

「これからはもっと“個”にフィーチャーしていけたらと考えています。『STAND UP! ORCHESTRA』のメンバー一人ひとりの音楽性やパーソナリティに共感してファンが集まるといった構図を作りたい。いわゆる“推し”ですよね。そこからクラシックに興味を持ったり、今まで知らなかった楽器に触れるきっかけができたら理想的だと思います。」(齊藤)

「既存のクラシック業界にはないスター・プレイヤーの生み出し方ですよね。それはひとりとは限らず、数人のアンサンブル単位でフィーチャーすることもできるでしょうし、50人とかの単位になってくれれば最高です。」(毛谷村)

「それから、今後はエデュケーション活動にも力を入れていけたらと思っています。先日、小学校の吹奏楽部の子どもたちをメンバーが指導するという活動をしたのですが、日頃から音楽講師をしているメンバーも多いので、とても向いているなと。子どもたちも、年齢が近いせいかメンバーをアイドル的に捉えていて、キャーキャー言ってくれました(笑)。」(齋藤)

最後に、このプロジェクトへの抱負を語ってもらった。

「簡単に世界に向けて音楽を発信できる今、潜在的なリスナーが多いクラシックというフィールドは、マーケティング的に言えばチャンスだと思うんです。まったくゼロからのスタートではないわけで、潜在的にあるものをもう一回掘り起こして、新たな角度から光を当てることができれば、いろいろなものに応用できます。僕自身はもともとクラシック畑の人間ではありませんが、このプロジェクトの担当になってから改めて見渡してみると、ポップスなどあらゆるところにクラシック音楽の要素や演奏形態が根付いていることに気付きました。活躍の場はこんなにもあるのだと。」(毛谷村)

「ポップスやアイドル、アニメなど、ソニーミュージックグループのなかだけでも、クラシック音楽、オーケストラの需要がこんなにあるんだと驚きます。求められるところには、どんどん彼らに行ってもらって、さまざまな活動を通して経験値を上げ、オリジナリティをもっと出していけたらと思います。」(齋藤)

「世界では今、クラシックを次の世代へと継ぐさまざまな動きが出てきています。オーケストラやコンサートのシステムといったハード面から、音楽の内容といったソフト面まで、あらためて考え直そうとしている。日本はその流れにちょっと乗り遅れている感じもしますが、『STAND UP! ORCHESTRA』は、上手く乗っかれれば先が開けると思います。それができるグループだとも思っているので、頑張っていきたいです。」(徳澤)

オーケストラの新たな可能性を追求し、フロントラインに立って活躍する『STAND UP! ORCHESTRA』の今後から、ますます目が離せない。

文・取材:原 典子
撮影:篠田麦也

『蜜蜂と遠雷 コンサート』

【東京公演】
日時:2020年4月26日(日)開場13:00/開演13:30
会場:サントリーホール
指揮:松沼俊彦
ピアノ:小井土文哉/宮野志織/務川慧悟
管弦楽:STAND UP! ORCHESTRA
ナビゲーター:佐賀龍彦[LE VELVETS]

【チケット料金】
全席指定6,000(税込)
【チケット発売日】
イープラスプレオーダー先行:2月12日(水)から2月24日(月)
イープラスプレオーダー先着先行:3月2日(月)から3月6日(金)
一般発売:3月8日から

【お問い合わせ先】
Zeppライブ:03-5575-5170 (平日 13:00〜17:00))

【愛知公演】
日時:2020年5月6日(水祝)開場15:30/開演16:00
会場:春日井市民会館
指揮:松沼俊彦
ピアノ:角野隼斗/宮野志織/他
管弦楽:STAND UP! ORCHESTRA
ナビゲーター:佐賀龍彦[LE VELVETS]

【チケット料金】
一般:5,000 円(財団友の会PiPi4,800 円)
U-25:2,500 円
小~高校生:500 円(※青少年鑑賞サポートプログラム対象)
※全席指定、当日券同額
【チケット発売日】
財団友の会先行予約:2月9日(日)から2月12日(水)
一般Web 会員先行予約: 2 月13 日(木)から2月15 日(土)
イープラス先行:2月9日(日)から2月15日(土)
一般発売:2月16日(日)から

【お問い合わせ先】
かすがい市民文化財団 0568-85-6868

STAND UP! ORCHESTRA公式サイトはこちら(新しいタブで開く)

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