連載

アーティストと二人三脚! A&Rに求められる資質を灰野兄妹に聞く【連載第6回】

音楽業界を目指すクリエイターや学生たちにおくる連載企画「音楽業界を目指す君へ――伝えたいことがある!!」。

連載第6回目は、中島美嘉、椎名純平、久保田利伸、Little Glee Monsterなどを担当してきた灰野一平。その実妹で、中島美嘉を約12年、ウクレレ少年“近藤利樹”をデビュー時から手がけてきた灰野愛子。ソニー・ミュージックレーベルズで活躍するふたりのA&Rに、自身が関わってきたアーティストを例にA&Rがどういう仕事なのかを解説してもらいながら、変革期を迎える音楽業界で、今後求められるA&R像について語ってもらった。

音楽業界の変化とともに多岐にわたるA&R(Artists and Repertoire)の仕事とは?

──音楽業界を目指す人にとって、憧れの職業のひとつにレコード会社のA&Rという仕事がありますが、そもそもA&Rとはどういった仕事なのかを教えてください。

灰野一平(以下、一平):A&Rはレコード会社の職務のひとつで、Artists and Repertoire(アーティスト・アンド・レパートリー)の略称になります。本来は、どんなアーティストにどのような曲を歌ってもらえばヒットが生まれるか?の奇跡のマッチングを考える仕事、という意味ですが、実際はアーティストを発掘・育成したり、契約を結ぶこともそうですし、そのアーティストに合った楽曲制作を行なうことも仕事になりますね。

灰野一平

1970年生まれ、大阪府出身。96年ソニーミュージックに入社。
主に制作ディレクター・A&Rとして、椎名純平・中島美嘉・RYTHEM・RSP・遊助・久保田利伸・JUJU・Little Glee Monster・Jewel(J☆Dee’Z)・欅坂46・土屋太鳳など数多くのアーティストに関わる。

灰野愛子(以下、愛子):とはいうものの、同じソニーミュージック内でもレーベルによってやっていることは違っていまして……。

一平:一概に「これがA&Rの仕事です」と言い切ることは難しいんです。ソニーミュージックでもA&Rが職務として確立したのは15年ほど前のこと。それまでは、アーティストの音楽制作に関わる役職は、音楽ディレクターとアーティスト担当に分かれていました。

音楽ディレクターはレコーディングを取り仕切り、作品を通じてアーティストに関わるのが役割でした。そしてアーティスト担当は主にプロモーションのプランニングを含め、アーティストとその作品をどのように売り出していくのかを考える役割がありました。いわゆる宣伝戦略です。

──そこからA&R制が確立して、業務内容にも変化が?

一平:そうですね。ちょうど僕がソニーミュージックに入社した90年代半ばからは、より個性的な音楽を目指して社外の音楽プロデューサーが、音楽制作を手がけるようになりました。そこからA&Rという言葉が社内で使われるようになり、今までのアーティスト担当の仕事をベースにして、より戦略的なプランを立てるのが主な役割になりました。

──それがソニーミュージック内でのA&Rの今に繋がるわけですね。

一平:はい。ただし、一言でA&Rと言っても海外と日本では業務も異なりますし、国内でもレコート会社ごと、現場ごとにA&Rがやっていることが違います。アーティストの種類によって、担当する内容も変わりますし。近年はとくに、自作自演のアーティストもいれば、俳優さんなど歌が専門ではなかった方のアーティスト活動も盛んですし、アイドルグループは運営の方法も異なります。

愛子:バンド系アーティストだと、音楽制作のやり方やプロモーションの仕方も変わりますね。

灰野愛子

2003年中島美嘉の原盤制作ディレクターとしてソニーミュージックに入社。
その後、川畑要(CHEMSTRY)などの原盤ディレクターを経たのち、エデュケーション事業部の立ち上げに参画。2017年近藤利樹を発掘し、マネジメントをスタート。並行して、LDH所属のコーラスグループDEEPなども担当している。

一平:アーティストのスタイル、方向性によって、活動はさまざまです。そのサポート全般がケースバイケースで存在し、包括的なA&Rの仕事ということになりますね。

愛子:そのなかには、アーティストに最大限の実力を発揮してもらうためのモチベーションアップなど、メンタルに関わるサポートも含まれます。

一平:A&Rの役割も、どんどん広がっています。僕や妹の愛子は、音楽ディレクター上がりなので、レコーディング作業を得意としていますが、今はA&Rとして宣伝プランやアーティストの立ち上げにも関わります。宣伝については、アーティストをマネジメントするスタッフとも相談しながら進めていきますから、アーティストを中心にチームで動いているというのが現状です。

ソニーミュージックの場合だと、楽曲のタイアップ獲得を専門にしている部署もあるので、そういう部署との連携の舵取りをするのもA&Rの仕事です。インディーズ的な活動をしているレーベルだと、A&Rがかなりの役割を背負うこともあると思います。どちらにしても、アーティスト活動、作品作りを陰ながらサポートする醍醐味を感じることができるのが、A&Rという仕事ではないかと感じています。

中島美嘉、Little Glee Monster、近藤利樹に見るA&Rの役割

──では、おふたりが今まで関わってきたアーティストワークを具体的に教えていただけますか?

愛子:私のA&Rの出発点は、中島美嘉でした。音楽ディレクター的な立場で、楽曲のセレクト、レコーディング、ボーカルディレクションなど、楽曲にまつわる全てを担当していました。なかでも印象的だったのは、中島美嘉の音楽活動は、大きなタイアップをいただく機会がとても多かったことです。

──大ヒット曲も多数生まれましたね。

愛子:はい、中島美嘉の実力も相まって素晴らしい作品がたくさん生ました。そして素晴らしい作品が生まれていく現場を見ていて感じたことは、アーティストのやりたいことと世のなかの気分が最高のマッチングを迎えたとき、とても大きな結果が出るということです。とくにタイアップ曲は提携先の作品という側面もあるので、両者の想いをいかにマッチングさせて、本人の歌いたい感情、気持ちを楽曲に乗せていくかが重要ですね。

──そういうマッチした楽曲を作り上げるサポートもA&Rがやっていく?

愛子:そうですね。歌詞を作るときも、方向性を考えながら最適な言葉を一緒に考えたり、アーティスト本人の経験や思考を、曲に盛りこむためのサジェスチョンを行なうこともあります。

──一平さんが関わったアーティストでは、どなたが印象的ですか?

一平:まったく新しいプロジェクトを育成から含めて手がけていったという意味では、Little Glee Monster(以下、リトグリ)ですね。リトグリは2012年の“最強歌少女オーディション”で、歌の上手い子を集めるところからスタートしました。アイドルグループはいつの時代も存在しましたが、純粋に歌にスポットを当てた女の子グループは、とても少なかった。ならば、そこで勝負するグループがあっても良いというスタッフの願望から始まったオーディションだったんです。

──新しいマーケットを作ろうじゃないかと。

一平:僕は、そのオーディションが始まってから担当になったのですが、ではいったいどういう楽曲を歌わせるのが良いのか、アカペラにこだわり過ぎずもっとポップなグループにするにはどうすべきかはもちろん、メンバーにグループで素敵なハーモニーを作るにはどういう意識を持ってもらえば良いか……というところから始め、メンバーのマネジメントチームと一緒に、2年ほどの育成期間を経て、チーム一丸となってさまざまなトライアルをしながら彼女たちを育てていきました。

──具体的には、どういう戦略を実行していったのでしょうか?

一平:まずは、彼女たちのグループとしての歌唱力を鍛え、認知度を上げるために、YouTubeにカバー曲の歌唱をアップするところから始めて、そのあとにオリジナル曲を作っていきました。

──今では、リトグリの実力も知名度も万人が認めるところになりましたね。

一平:でも、最初は不安もありましたね。そもそも、リトグリのようなグループがいないので、ターゲットとなるマーケットが見えないんですよ。

──バンドなら、大きな音楽フェスを足がかりに、ロックファンにアピールするという階段も見えますが……。

一平:そうなんです。歌が上手いことに価値を感じてくれる音楽ファン層はどこなのか? というところも含めて、アピール先を考えなければなりませんでした。そこで思い付いたのが、楽器を弾くのが好きだったり、音楽教室に通っている層でした。クラシックやジャズといった音楽に親しみながらも、ポップな音楽も聴きたい人たちにリトグリを聴いてもらったら響くのではないか、と。

そこで「月刊Piano」や「月刊エレクトーン」など、マスだけを意識していると見落としがちな専門媒体にもしっかりアピールしていきました。そこから、楽器をやっている子たちのお父さんやお母さんの層にも届けば良いなと。

愛子:ブラスバンド部に入っている学生さんなどもそうですね。

一平:J-POPをメインにしないアプローチも積極的にやっていったんです。そのおかげか、リトグリが初めてテレビに出たのも音楽番組ではなく、TVのワイドショーでした。YouTube動画などがネットでバズったのを、ワイドショーのリサーチャーの方が拾ってくれたんです。さらには、生の歌声が強みのグループなので、インストアイベントも積極的にやりました。すると、ジャズのコーナーに通っていそうなお父さんたちまで、彼女たちの歌声に惹かれて聴きに来てくれた。そのとき、こういう人たちにもリトグリのニーズはあるんだという確かな手応えを感じましたね。

──そういった地道なプロモーションが、今の活躍に繋がったわけですね。愛子さんも現在、育成から手がけられているアーティストがいらっしゃるそうですね。

愛子:近藤利樹というウクレレ少年なんですが、彼は2007年生まれで、今年中学に入学したばかりです。小学5年生のときに契約を交わし、小学6年生でメジャーデビューをしました。今、話にあったリトグリと同じように、ゼロから育成を始め、どこにマーケットがあるのかを探っている最中ですね。

──小学生でウクレレプレイヤーとしてデビューしたというのもすごいですね。

愛子:私は一時、ソニーミュージックが展開する音楽講座SONIC ACADEMYに関わっていたんですが、そこにウクレレ奏者の名渡山遼さんが講師を務めるウクレレ講座があり、大阪から毎月通ってきていた子が近藤利樹なんです。ウクレレの実力もあり、存在に衝撃を受けて、ぜひこの子を育てたいと思ってスカウトしました。今は、ジェイク・シマブクロさんにプロデュースをしていただき、マネジメントも私のほうで担当しています。

──2018年7月のデビューから約1年が経ちますが、手応えはいかがですか?

愛子:ひとつ大きな成果を感じているのが、今年のFUJI ROCK FESTIVALに、最年少アーティストとして出演が決まったことですね。

──現状、A&Rとしてはどのような戦略を考えていらっしゃいますか?

愛子:本人も将来的にはもちろんウクレレプレイヤーとしてやっていきたいと言っていますので、そのためには日本国内だけでなく、世界を視野に入れてやっていきたいなと。最近はアジア、特に台湾などではウクレレシーンが元気ですしね。ウクレレというと、どうしてもフラをイメージしてしまいますし、演奏曲も今はまだカバーも多いのですが、ウクレレはあらゆるジャンルの音楽にマッチさせられる楽器でもあります。ゆくゆくは葉加瀬太郎さんのように、皆さんに愛されるオリジナル曲をヒットに結び付けられば良いなと考えています。

一平:リトグリも近藤利樹も、育成アーティストではあるのですが、僕らも一緒に学ばせてもらっているんです。A&Rもキャリアを重ねると、若年層のマーケットでいま何が求められているのかの感覚が、どうしても鈍ってくる。その部分は、若いアーティスト、若いスタッフに教えてもらいながら、学んでいく。ちゃんと「今、それをやるのは格好悪いです」と言ってくれる人を、いかに身近に置くかというスタッフィングもベテランA&Rに求められる仕事ではありますね。

これからのA&Rに求められるもの

──リスナーの音楽を聴く環境が、「好きなアーティストのCDを買う」から「サブスクリプションサービス(以下、サブスク)でたくさんの音源を聴く」へと変化したように感じますが、そこでのマーケティング、音楽制作をA&Rとしてどう捉えていますか?

一平:サブスクは、楽曲が何回聴かれるかが勝負です。今までは、そんなに聴き込まなくてもCDを買ってくださる方がいましたが、サブスクは繰り返し聴いてもらわないとマネタイズに繋がらない。ですから、今後生き残れるアーティストは、決して数は多くなくても、何回も聴きたい曲を持っていることが必須条件。加えて、生で見たときに感動させられる実力があるかどうか。この2点に集約されると思います。

愛子:まさに米津玄師のようなアーティストですよね。

一平:そうですね。米津玄師は10年にひとりの才能、もしくはそれ以上と言われますが、世の中が求めているアーティストの供給量としては、10年にひとりでは足りない。米津玄師のように全能ではなくても、スタッフのサポートによって世の中に必要とされるアーティストはまだまだいます。そのためには、コンサルティング的な能力もA&Rは高めていくべきかなと。

──より純粋に、質の高い音楽を作る力が必要とされているということですね。

一平:そうですね、音楽に対して純粋なアプローチが求められている時代なのかもしれないです。ただ、いろいろなアーティストの楽曲制作に関わって思うのは、素晴らしい1曲を生むためには、たくさんの曲を作り続けなければならないんです。僕の尊敬する小林武史さんは「作曲は筋肉運動だ」とおっしゃったことがあると身近なスタッフの方から聞いたことがありましたが、アーティストはコンスタントに曲を発表し続けることが重要です。多作であることも、ヒットアーティストには必要な要素かと思います。それと同時に、大ヒットを作るために1曲に集中する姿勢は、今まで以上に必要かもしれないですね。

愛子:業界が変化するとともに、アーティスト自身もSNSを発信するなどセルフプロデュース能力が求められる時代にもなっていますし、それに伴ってA&Rの在り方、音楽制作、マーケティングの考え方も、柔軟にしていかなければならない時代だと思います。

一平:ただ嬉しいことに、最近は若いスタッフに音楽をやっていたり、よりマニアックに音楽を好きな人がますます増えている感じがするんですよ。ミリオンセラーが続出していたころのビジネス的なイケイケ感に引き寄せられたのではなく、音楽に寄り添って生きていきたい人が集まって、音楽の本質的な部分を見直す良い機会にはなっている。より音楽に強い想いを抱いている方は、ぜひ力を発揮してほしいと願っています。

──今後ますます、音楽制作やアーティスト活動をサポートするA&Rの意義が高まっていきそうですね。では最後に、これから音楽業界を志す人、A&Rを目指す人にメッセージをいただけますか?

一平:A&Rを目指す人にまずお伝えしたいのは、アーティストに「この人の意見を聞いてみよう」と思わせるための武器を持ってほしいということですね。すぐには難しいかもしれないですが、武器を持たねばならないという意識はしておいてほしい。音楽は、さまざまなジャンルと結びつくものなので、音楽そのものでなくても広告に詳しい、ファッションに詳しい、映画、小説など何か軸となる武器をベースに持っていると、アーティストからの信頼を勝ち取ることができる気がしますね。個人的には、その上でより音にこだわりが強い人に、業界を盛り上げてほしいとも思います。

愛子:A&Rという意味だと、私は気づかいのある人になってほしいですね。アーティストが良いパフォーマンスをできる、できないも、心が大事ですから、モチベーションを上げられる気づかいは大切だと思います。アーティストをいろいろなジャンル、人と繋げていける潤滑油のようなA&Rが求められているように思います。

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