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クリエイター・プロファイル

演劇人・藤沢文翁の創作の源泉を探る――「READING HIGH」はこうして生まれた【前編】

2020.12.03

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心に残る声と生演奏の音楽、そして光と特殊効果を駆使した演出――2017年12月の『Homunculus ~ホムンクルス~』の上演から始まり、その後、常に特別な舞台を提供してきた音楽朗読劇のブランド「READING HIGH」。この舞台の原作、脚本、演出を手掛けるのが、演劇人・藤沢文翁だ。

朗読劇というジャンルにとらわれず、声と音楽の新しいエンタテインメントを切り開いていく彼は何を目指しているのか。12月6日に朗読劇としては前代未聞の日本武道館で上演される「READING HIGH」の第6弾公演、『ALCHEMIST RENATUS~Homunculus~』の準備で多忙を極まる本人を捕まえ、彼の思考を深掘りするインタビューを敢行。

前編では、彼が幼少期に演劇と出会い、そこから成熟するまでの成長過程、演劇人・藤沢文翁ができるまでを振り返ってもらった。

  • 藤沢文翁

    Fujisawa Bun-O

    劇作家、舞台演出家、クリエイティブディレクター。英国 ロンドン大学 ゴールドスミス演劇学部卒。能楽・喜多流(公益財団法人 十四世六平太記念財団)理事。英国朗読劇を独自に改良した「藤沢朗読劇」と呼ばれる音楽朗読劇を中心に活動を続けている。

「READING HIGH」とは

 
心に残るストーリーと生演奏の音楽、そしてさまざまな特殊効果を駆使した舞台演出。ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)が、演劇人・藤沢文翁と立ち上げた音楽朗読劇のブランドが「READING HIGH」だ。2017年12月に上演された第1弾公演『Homunculus ~ホムンクルス~』を皮切りに、第2弾公演『HYPNAGOGIA〜ヒプナゴギア〜』、第3弾公演『Chèvre Note~シェーヴルノート~』、第4弾公演『El Galleon~エルガレオン~』、第5弾公演『THANATOS~タナトス~』と上演され、2020年12月6日には、第6弾公演として『ALCHEMIST RENATUS~Homunculus~』の上演を日本武道館で開催する。
 
■第6弾公演『ALCHEMIST RENATUS~Homunculus~』
 

 
会場:日本武道館
公演日時:2020年12月6日(日)
開場:17:00 / 開演:18:30
作曲・音楽監督:村中俊之
出演:諏訪部順一、鈴木達央、豊永利行、花江夏樹、蒼井翔太、津田健次郎、中村悠一
主題歌:Aimer「hollow-mas」
チケット販売(税込):
アリーナ席20,000円(SOLD OUT) / 1階スタンド席18,000円 /
2階スタンド前方席15,000円 / 2階スタンド席後方席12,000円
一般発売受付URL:http://eplus.jp/rh06/(新しいタブで開く)
 
【ライブ配信】
配信視聴チケット:4,800円(税込)
※12/8(火)23:59までアーカイブ配信あり
販売期間:11月28日(土)12:00 ~ 12月8日(火)21:00
配信プラットフォーム:Streaming+ http://eplus.jp/rh06/

舞台芸術の自由度に魅了された幼少期

光と炎が踊り、管弦楽団の生演奏のなかで、刃物のようなセリフが応酬する――音楽朗読劇「READING HIGH」シリーズを手掛ける演劇人・藤沢文翁は“言葉”で、人々を17世紀のヨーロッパへ連れていく。

彼は「READING HIGH」シリーズだけでなく、数多くの朗読劇を手掛け、今まで体験したことがない舞台を作り上げてきた。2021年には彼が手掛けた朗読劇が原作となり、TVアニメ化も果たすという。今、注目の演出家である藤沢文翁のルーツ。それは幼少期に観た、世界的なミュージカルにあった。

「両親が貿易の仕事をしていたので、幼いころから日本と海外を行き来する生活を送っていました。その環境のなかで、演劇も幼いころからいろいろなものを観せてもらっていたのですが、最も印象に残っているのは、アンドリュー・ロイド・ウェバーの『オペラ座の怪人』の初演です。僕が小学校2~3年のころに観たのですが、サラ・ブライトマンがクリスティーヌの役を務め、マイケル・クロフォードがオペラ座の怪人を演じていました。あのシャンデリアが客席上空から落下してくる演出とか、炎や花火を使い、爆発もするというマジックショウ的な舞台を観て『演劇ってこんなにも自由なんだ』という衝撃があったんですよね。ただのドラマ的な演出だけでなく、いろいろな智慧が詰まっているところが面白いなと。それで舞台のすばらしさに目覚めました」

ロンドンのウエスト・エンドで上演されている『オペラ座の怪人』は、30年以上経った現在でも人気の世界屈指のミュージカルだ。そのオリジナルキャストによる初演を、少年時代の藤沢文翁は現地で体感していた。

「『オペラ座の怪人』を観て以来、親にねだっていろいろな舞台を観るようになりました。そこに目を付けたのが祖父だったんです(笑)。私の祖父は演劇とかオペラ、歌舞伎が大好きで、仕事を引退してから、一緒に観劇してくれる相手を探していたんです。そんな折に、孫が演劇が好きだということを知り、しょっちゅう連れて行ってくれるようになりました」

藤沢文翁の祖父は、本田技研工業の創業者のひとりである藤沢武夫。引退後はオペラや歌舞伎を楽しむ趣味人であり、風流人としても知られた。その祖父から多くのものを受け継いだ藤沢文翁は、やがて演劇を学ぶためにロンドン大学へ進学する。

「僕が入学したロンドン大学(University of London)は、日本でいうところの日本大学や東海大学のようなもので、あちこちにいくつものカレッジがあるんです。そのなかでゴールドスミスという、実践的な演劇を扱うカレッジに僕は入学して、演劇団体を作り、劇場で公演をしていました。そのときに上演した演目のひとつが『READING HIGH』でも披露した『HYPNAGOGIA -ヒプナゴギア-』だったんです」

演劇の本場イギリスで暮らした学生時代

イギリスは演劇の本場。日本の演劇産業とは、歴史の厚みも、ビジネスの規模も違う。藤沢文翁はイギリスの演劇は、まさに“文化”だという。

「イギリスと日本の演劇の一番の違いを言うと、イギリスでは“演劇が文化の中心にある”ということです。ブリティッシュ・パントマイムといって子どもと大人が一緒に楽しめる演目もあるし、いわゆるコメディやホラーストーリーもある。アガサ・クリスティーの『ねずみとり(The Mousetrap)』にいたっては約70年間もずっと公演が続いています。イギリスでは子どものころから家族と一緒に舞台を観に行く習慣があるし、デートで映画や喫茶店に行くのと同じように、舞台を観に行くという選択肢がある。イギリスでは、演劇が大衆文化として定着していて敷居も低いんです」

さらにウエスト・エンドには劇場が立ち並ぶエリアがあり、そこにある劇場の数は200軒を超えると言われる。

「イギリスは劇場の数も多いですね。海外の友人が日本に来ると『なんで日本は美容室と目医者、歯医者が多いんだ』とよく聞かれるんですが(笑)、ロンドンではそれと同じくらい大小の劇場がある。パブシアターと言って、お酒を買って裏のステージで観劇するカルチャーもありますし、生活のなかに常に演劇があるんですね。もちろんなかには難解な作品もありますが、英語が得意でなくても楽しめる作品もあったり、本当に幅広く演劇が楽しめる環境なんです」

ロンドン大学在籍中から藤沢文翁は劇団を率い、自分の作品を上演してきた。やがて、藤沢文翁はプロフェッショナルの脚本家、演出家として活動を始める。

「イギリスに行ってから7年くらい経って、コンスタントに脚本の依頼ももらえるようになりました。でも、僕に求められているものが、いわゆるサムライやニンジャが登場するような日本的な作品が多かったんですね。僕がいた演劇学部は、ヨーロッパの歴史を学ぶような一面もあったので、歴史に関してはおそらく現地の一般の方よりも詳しかったと思うんです。だから、自分もヨーロッパの物語を書きたいと思っていたのですが、なかなかそれは叶いませんでした。ならば、日本から作品を生み出していこうと帰国することにしたんです」

アニメの声優と切り開いた、朗読劇の可能性

日本に帰国後、藤沢文翁は劇作家として活動を開始する。テレビなどでその腕を振るうなか、やがて「藤沢朗読劇」という音楽朗読劇プロジェクトを立ち上げた。

「僕が日本に帰ってきたのは2007年ごろ。リーマン・ショックで不況の真っただなかでした。帰国後、僕はテレビのゴールデン番組の作家をしていたのですが、番組からスポンサーが降り始めて、エンタテインメントを作るための資金がなくなっていく時代に直面してしまったのです。『予算がないからできません』といわれることが急激に増えてしまい、とても窮屈な思いを味わいました。僕の生涯の夢は“1本でも多くオリジナル作品を作りたい”というものなんですが、そんなご時世にオリジナル作品を作ることは難しい。どうしたらいいかと考えていくうちに、朗読劇ならば比較的に低コストでも作品が作れると気づきました。そうして朗読劇プロジェクトを立ち上げ、オリジナル作品を舞台に掛けることにしたんです」

朗読劇を始めると、たちまちさまざまなメディアや同業者から注目を集めることになる。そして藤沢文翁は制作会社とともに朗読劇ブランドを設立。朗読劇の新しい可能性を切り開いていく。

「実際に朗読劇を始めると、この表現方法が日本人に向いていると感じることがたくさんありました。そもそも日本では落語や講談、義太夫といった、語りだけで物語を創造する文化が根付いている。説明がなくても話術を使い分けることで、複数の登場人物の会話を成り立たせる文化が古くから定着しているんですね。さらに、声に馴染みのあるアニメの声優さんに演じてもらえれば、敷居の低い、多くの人に楽しんでもらえる朗読劇ができるんじゃないかと思ったんです。加えて朗読劇だったら演者が動かないので、ストレートプレイよりも面白い照明の使い方ができるし、特効(特殊効果)も使える。台本の書き方や演出も独自に考えていくことで、楽しそうなものができそうだと感じたんです」

朗読劇を行なう上で藤沢文翁が注目したのは、アニメで活躍する声優たち。山寺宏一、大塚明夫、諏訪部順一、梅原裕一郎など、ベテランから若手実力派まで、今では数多くの有名声優が藤沢文翁の朗読劇の舞台に立っている。さらには、脚本が書かれるたびに出番を心待ちにする者も多くなり、声優陣との信頼関係も強固になった。しかし、藤沢文翁自身は朗読劇を始める前、それほどアニメには詳しくなかったという。

「有名なアニメ作品はもちろん見ていましたが、正直に言うと朗読劇を始めて声優の皆さんとお仕事をさせていただくまでは、詳しいというほどではなかったんです。でも海外にいると、日本のアニメや声優さんの評価がものすごく高いことに気づかされます。実際、海外の友人たちからは『日本人なのに、このアニメと声優さんを知らないのか!』と責められることも一度や二度ではなくて(苦笑)。彼らから勧められて見たアニメもたくさんありました。先日も友人から連絡が来て、『君は、ハヤシバラメグミと舞台をやっているのか! ファンタスティックだ!』と驚かれましたしね(笑)。日本ではアニメ好き=オタクととらえられがちですが、ヨーロッパの人々はそういったセグメントはしない。アニメを映像作品のひとつとして、純粋に作品が面白いか面白くないかだけで判断しています。おかげで自分も一切の先入観なくアニメを見られるようになりました」

第2弾公演『HYPNAGOGIA〜ヒプナゴギア〜』の出演者。左から大塚明夫、林原めぐみ、山寺宏一。

■声優・山寺宏一が藤沢文翁との出会いと作品を語るインタビューはこちら
山寺宏一は、なぜ『HYPNAGOGIA~ヒプナゴギア~』の虜になったのか? その理由を語る

そうして声優陣とともに朗読劇の舞台を作ってみて、何より藤沢文翁を惹きつけたのは、彼らの演者としての力量だった。

「声優さんはアフレコをするときに、テスト収録を一度やったら、次には本番収録を行なって芝居を完成させてしまう、ものすごい集中力と瞬発力をお持ちなんですね。朗読劇でも台本を渡したら、翌日にはほとんど仕上がった状態で現場に入ってくださるんです。しかも、『こういうパターンも見てみたいんですが』とリクエストすると、全く違う芝居を提案してくれる。本当に声優さんたちはものすごい能力を持っている人たちなんですよ。しかも、それぞれの方が強い個性をお持ちで、魅力的でもある。このすごい人たちと舞台を作れるのは楽しい! という印象でしたね」

第3弾公演『Chèvre Note~シェーヴルノート~』の一幕。壮大な生演奏と舞台の特殊効果は「READING HIGH」の特徴である。

藤沢文翁と声優陣。さまざまな物語が紡がれていく『藤沢朗読劇』というステージは、両者にとってとても刺激的なものだった。相思相愛の関係が、また新たなエンタテインメントへ発展していく。

「声優さんにとって、パク(キャラクターの口パク)を気にせず芝居ができるのは、新しい翼を得たような感覚で楽しいのだろうと思います。爆音が流れているなかで演じるという経験も刺激なのではないでしょうか。演者の皆さんからの良いリアクションをいただけると、『ああ、みんなも楽しんでくれていたんだ』と思えて、もっともっとオリジナル作品を作っていきたいと思いました」

音楽朗読劇ブランド「READING HIGH」の立ち上げ

2017年、藤沢文翁は新たな音楽朗読劇ブランド「READING HIGH」をSMEとともに立ち上げる。それは彼の朗読劇にほれ込んだSMEの千葉悦子プロデューサーとの出会いがきっかけだった。

■藤沢文翁とプロデューサー・千葉悦子(SME)との対談はこちら
藤沢朗読劇&ソニー・ミュージックエンタテインメントによる新感覚・音楽朗読劇「READING HIGH」シリーズが誕生

■プロデューサー・千葉悦子(SME)が藤沢文翁との出会いを語るインタビュー
新感覚・音楽朗読劇「READING HIGH」誕生のきっかけは? 語り・山寺宏一の新作PVも解禁

「『Homunculus~ホムンクルス~』を上演してみて、『READING HIGH』ならここまでやらせてくれるんだと思いましたね。『READING HIGH』のネーミングは、プロデューサーの千葉さんと一緒に考えたものなんです。“HIGH”には“テンション上げていく”という意味に加えて、“より高みを目指す”という意味も込めていたんですが、『Homunculus~ホムンクルス~』では、まさに“HIGH”な舞台を作ることができました。火薬も使いましたし、炎も出した。その上、生演奏も行なって、劇場スタッフが『これが朗読劇なんですか?』と驚いてくださった。手始めでありながら、そのときにできるフルスイングをさせてもらったんです。それが見事に受け入れられたので、次につながった。これからも新しいことに挑むことができる、マイルストーンになった作品でしたね」

「READING HIGH」が設立されて約3年。これまでに5回の公演が行なわれているが、藤沢文翁は「READING HIGH」の特徴はスタッフィングにもあると語る。

「『READING HIGH』が面白いのは、さまざまなジャンルのプロが関わっていることなんです、演劇界だけじゃなく、舞台チームも音楽ライブを手掛けてきた人だったり、僕よりも経験豊かな年配の方ばかり。これまでの日本のエンタテインメントを背負って立ってきた人たちですね。日本にお金があった華やかな時代を知っている方々が『面白い!』と言ってくれて、子どものように目をキラキラさせながら作品に向かい合ってくださる。言ってしまえば、自分も含めて“大人になりきれない、エンタメが大好きな大人”が集まって、ワイワイガヤガヤやりながら作っているのが面白いんです。みんなムチャを言いますし、本番前には荒くれ者のようになっていますが、その現場こそが魅力的なんです」

「READING HIGH」の音楽監督の村中俊之や舞台監督の諌山喜由(ISA)、照明の久保良明(エヂソンライトハウス)、衣装の大戸美貴(東宝衣装)といったチームワークも回を重ねるごとに発揮されているという。

「『READING HIGH』はまさにチームで作っている舞台であり、携わっていただいている方は全員、表に立っていただくようにしています。音楽はもとより、セットも衣装も照明デザインもそれぞれがアーティストの仕事であって、各担当者がプライドと責任をもって臨んでいる。音楽も、朗読劇ではBGMと呼ばれてしまいがちですが、僕は“バックグラウンドじゃなくてフロントグラウンドミュージック”だと思っていて、物語と対等であり対をなすものだと思っています。僕が『こういう方向性の作品にしたい』と言えば、スタッフの皆さんは後押ししてくれますが、同時に『こうしたほうがもっと面白い』とアイデアをバンバン出してくれる。『READING HIGH』の制作チームは、能力者集団じゃないかと思えるときがあるほどなんですよ」

音楽監督の村中俊之を中心に、それぞれのパートにその道のプロフェッショナルが加わっている。

はたして能力者集団「READING HIGH」が次に創り出すものはどんなエンタテインメントなのか。藤沢文翁は「READING HIGH」の新作ができるまでを語り始めた――。

後編につづく

文・取材:志田英邦
撮影:増田 慶(インタビュー)

関連サイト

READING HIGH公式サイト
https://readinghigh.com/alchemistrenatus/(新しいタブで開く)
 
藤沢文翁オフィシャルサイト
http://www.bun-o.com/(新しいタブで開く)
 
藤沢文翁Twitter
https://twitter.com/FujisawaBun_O(新しいタブで開く)
 
藤沢文翁Instagram
https://www.instagram.com/fujisawabun_o/(新しいタブで開く)

©READING HIGH

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