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クリエイター・プロファイル

演劇人・藤沢文翁の創作の源泉を探る――「READING HIGH」はこうして生まれた【後編】

2020.12.04

心に残る声と生演奏の音楽、そして光と特殊効果を駆使した演出――2017年12月の『Homunculus ~ホムンクルス~』の上演から始まり、その後、常に特別な舞台を提供してきた音楽朗読劇のブランド「READING HIGH」。この舞台の原作、脚本、演出を手掛けるのが、演劇人・藤沢文翁だ。

朗読劇というジャンルにとらわれず、声と音楽の新しいエンタテインメントを切り開いていく彼は何を目指しているのか。12月6日に朗読劇としては前代未聞の日本武道館で上演される「READING HIGH」の第6弾公演、『ALCHEMIST RENATUS~Homunculus~』の準備で多忙を極まる本人を捕まえ、彼の思考を深掘りするインタビューを敢行。

後編では、彼の制作スタイルと、朗読劇における演出の技術、そして「READING HIGH」の未来についてじっくりと話を聞いた。

  • 藤沢文翁

    Fujisawa Bun-O

    劇作家、舞台演出家、クリエイティブディレクター。英国 ロンドン大学 ゴールドスミス演劇学部卒。能楽・喜多流(公益財団法人 十四世六平太記念財団)理事。英国朗読劇を独自に改良した「藤沢朗読劇」と呼ばれる音楽朗読劇を中心に活動を続けている。

「READING HIGH」とは

 
心に残るストーリーと生演奏の音楽、そしてさまざまな特殊効果を駆使した舞台演出。ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)が、演劇人・藤沢文翁と立ち上げた音楽朗読劇のブランドが「READING HIGH」だ。2017年12月に上演された第1弾公演『Homunculus ~ホムンクルス~』を皮切りに、第2弾公演『HYPNAGOGIA〜ヒプナゴギア〜』、第3弾公演『Chèvre Note~シェーヴルノート~』、第4弾公演『El Galleon~エルガレオン~』、第5弾公演『THANATOS~タナトス~』と上演され、2020年12月6日には、第6弾公演として『ALCHEMIST RENATUS~Homunculus~』の上演を日本武道館で開催する。
 
■第6弾公演『ALCHEMIST RENATUS~Homunculus~』
 

 
会場:日本武道館
公演日時:2020年12月6日(日)
開場:17:00 / 開演:18:30
作曲・音楽監督:村中俊之
出演:諏訪部順一、鈴木達央、豊永利行、花江夏樹、蒼井翔太、津田健次郎、中村悠一
主題歌:Aimer「hollow-mas」
チケット販売(税込):
アリーナ席20,000円(SOLD OUT) / 1階スタンド席18,000円 /
2階スタンド前方席15,000円 / 2階スタンド席後方席12,000円
一般発売受付URL:http://eplus.jp/rh06/
 
【ライブ配信】
配信視聴チケット:4,800円(税込)
※12/8(火)23:59までアーカイブ配信あり
販売期間:11月28日(土)12:00 ~ 12月8日(火)21:00
配信プラットフォーム:Streaming+ http://eplus.jp/rh06/

独特な物語を生み出す、藤沢文翁の頭のなか

藤沢文翁は物語を生み出すとき、どのようなプロセスを経ているのか? 創作活動における彼の頭のなかの動きに迫ってみると、そこにあったのは映像のイメージだった。

「簡単に言うと、僕のなかに“1本の映画”があって、それに限りなく近いものを観てくださっている皆さんの頭のなかでも再生させる……ということをイメージしています。当然、そこにはいくつかのテクニックが必要になってきますが、そのひとつが“落語の話法”。落語はト書き(脚本の状況説明文)がなくても物語が成立するように出来ているんです。例えば『おい、布団出してくれ。いや、寝る布団じゃねーよ、座布団だよ』と言えば、その空間が“裕福ではない長屋の一室で、寝る場所も座る場所も同じ”というイメージが浮かぶ。脚本を執筆するときは、このようにダイレクトにイメージできる表現を頭のなかの30%で考えながら、残りの70%で登場人物のドラマを紡いでいきます。初稿の段階でだいたいできあがっていて、あとは読み合わせなどをしながら何回か直す。そういう流れで脱稿することが多いですね」

“頭のなかの映画”を上映しながら、脚本を書き下ろす藤沢文翁。最初の映像が浮かんだら、あとはラストシーンまで迷いはないという。

「人それぞれやり方はあると思いますが、僕は脚本を書くとき、プロットや箱書きを作りません。シーン1から書き始めたら、ラストまで一気に書き上げてしまいます。自分は起承転結を考えたり、あらすじをまとめるといった文字に起こす作業をする時間がもったいないと感じるタイプで、だったら思い浮かんでいる映像を脚本に書いてしまったほうが早いですね」

「それと“次の展開はどうなるか”“この伏線はどこで回収されるのか”といった部分は書き進めていくことで自然と見えてきます。特に伏線回収に関しては、シナプスの電気信号みたいなもので……。最初に漠然と“ここが伏線になりそうだ”と思ったら、あとはストーリーラインを追っていくうちに、どこかの瞬間で電気信号が走って、伏線が回収されるんです。計算して作っているというよりは、本当に電気信号のような感覚。あ、通電したなって(笑)」

幼いころから物語をベースにした芸術を浴びるように見てきた。その分厚い経験が、彼の発想力を支えているのだろう。その才能の片りんは、幼少期からあったという。

「まあ、僕は小さいころからいろいろ問題のある児童だったんですけど(笑)、文章だけは褒められることが多くて。当時の文章を読み返すと、我ながら子どもの書く文章ではないなと感じます。つまり、感動させることを狙って書いているんですね。例えば、祖父が亡くなったときも、親族や会社関係の方から寄せ書きを募って冊子を作ったのですが、そこでもページの半分以上を使って、祖父の失敗談や滑稽なエピソードで笑わせにかかっているんです。でも、最後の1行で『寂しいです。もう二度と会えないなんて』とミスディレクションで泣かせにかかっていて(苦笑)。ほとんど平仮名で書いてるから、まだ、小学校に行くか、行かないかのころでしょうね。それでも、ちゃんとオチを作ってるんですよ」

幼いころから“文章で人を喜ばせる快感”を味わっていた。それは藤沢文翁の原点と言えるのかもしれない。そんな彼には“物語を作る上で、絶対にやらないこと”があるという。

「登場人物がどんなに良い人間でも、物語の流れに反して無理に救うというようなことは絶対にやりません。物語において、僕はあくまで第三者の視点でいて、登場人物たちが起こした出来事は避けられない。『READING HIGH』では、諏訪部(順一)さんに演じてもらうキャラクターがよく死んでしまうので、ファンの方からは“諏訪部キラー”と呼ばれているのですが(笑)、僕自身が助けてあげたいと思っても、その人物は死を選ぶしかない運命にいるのでどうしようもないんです。僕の意思で捻じ曲げてしまうと、物語に不自然さが生まれてしまう。自分の頭のなかに生まれたものは“あるがまま”にしておこうということは、常に意識しているところです」

第6弾公演『ALCHEMIST RENATUS~Homunculus~』で、「READING HIGH」では4度目の出演になる諏訪部順一。写真は、第1弾公演『Homunculus ~ホムンクルス~』より。

自分が生み出した物語を、思い入れや愛情で歪めることはない。クリエイティブに対して誠実であることが、藤沢文翁が手掛ける物語の潔さにつながっていると感じる

「登場人物には“宿命”があって、その人生を脚本にしているのでしょうがないですよね。僕個人というものは、もちろん存在しているけれど、脚本のなかで“僕”が強すぎると、それは青年の主張のようになってしまう。“僕の思いを聞いてほしい”のではなくて、“彼らの物語を観てほしい”と思っています」

キャストとスタッフのアイデアを導く、藤沢文翁の演出術

「READING HIGH」の演出は、朗読の見せ方や聞かせ方だけでなく、照明、音楽、衣装と多岐にわたる。それぞれの要素が組み合わさることによって、観たことも聴いたこともないエンタテインメントが生まれているのだ。藤沢文翁の演出術についても聞いてみた。

「演出をするときは、自分が脚本家であることは一旦忘れます。僕が演出中に一番よく使う言葉は“たぶん”なんですよ。声優さんたちには長年培ってきた技術があるし、彼らの人生のバックグラウンドから出てくる演技のアイデアもある。そういったものを、僕が潰すようなことをしては絶対にいけないと思っています。『このキャラクターはこういうふうに生きて来たから……たぶんセリフはこういうのではないでしょうか』と。“たぶん”をつけて、言うことが多いですね」

観るものを圧倒する舞台演出。第6弾公演『ALCHEMIST RENATUS~Homunculus~』では、どのような演出で観客を魅了するのか。

脚本家のときは、登場人物の運命に絶対的に従っていた藤沢文翁が、演出家になると“たぶん”という曖昧な言葉を使う。その振り幅の大きさこそが、藤沢文翁の演出の妙なのだろう。さらに藤沢文翁は、自分の演出のなかにスタッフのアイデアを積極的に取り込むという。

「『頭のなかに“1本の映画”がある』と言いましたが、実はその映画はすごく淡い色合いで、映像としても少しぼやけているんです。でも、この“淡さ”と“ぼけ”が重要で、もしこれがクッキリ、ハッキリしたものだったら、人の意見が入り込む余地がなくなってしまいます。僕の頭のなかの映像が“淡い”からこそ、それをハッキリさせるための作業があり、そこをプロのスタッフの方々がサポートしてくださる。実際、自分のイメージを伝えるときは、『ここはなんとなく赤いイメージで』というふうに言います。そうすると、衣装さんが“赤が印象に残る衣装”を提案してくれて、今度は照明さんがその“赤”を際立たせる灯りを作ってくれる。舞台のセットのイメージも『船の墓場みたいな感じがあって』と言うと、みんなが具体的に考えてくれます。僕はどこかで夢の話をしているような感覚があって、その夢の解像度をスタッフの方々が上げて、現実にしてくれているんだと思っています。音楽を作るときも同じ。それぞれのパートが、各自のアイデアを用いて、明確な設計をしてくださるんです」

■藤沢文翁と音楽監督・村中俊之の対談はこちら
体感する朗読劇「READING HIGH」はこう作る――作・演出家 藤沢文翁×音楽監督 村中俊之対談(前編)

体感する朗読劇「READING HIGH」はこう作る――作・演出家 藤沢文翁×音楽監督 村中俊之対談(後編)

2020年の終わりに――日本武道館を祝祭の場にしたい

来たる12月6日に開催されるのは「READING HIGH」の旗揚げ公演になった『Homunculus ~ホムンクルス~』の再演『ALCHEMIST RENATUS~Homunculus~』。この作品は『ALCHEMIST RENATUS』という長編ストーリーの序章であることが明らかにされている。『ALCHEMIST RENATUS』の構想を聞いた。

「日本にも海外にも呪術的なもの……例えば“魔術”的な概念は存在するのですが、“錬金術”というものはヨーロッパだけの風習なんです。ヨーロッパにおいては“錬金術”とは“科学”の元になったと言われている技術であり、彼らは“科学”だと信じているけれど、“魔術”のようものになっていることもある。その“錬金術”を使って、彼らは“人間”を造ろうとしているところが面白いなと思うんです。キリスト教では『神は自分の姿に似せて人を造った』という説がありますが、その人間が錬金術で、人間を造ろうとする。そのあたりの“人の寂しさ”と“仲間を求める心”がとても興味深いんです。『ALCHEMIST RENATUS』というシリーズでは、なぜ“人間が人間を造りたくなるのか”を突き詰めて、描いていきたいと思っています」

『ALCHEMIST RENATUS~Homunculus~』の舞台は日本武道館となる。「READING HIGH」においても過去最大のステージだ。

「武道館は本来、演劇や朗読劇をやる場所ではないですよね(笑)。僕らはこれまでお客様に、劇場にいることを忘れてもらって、17世紀や19世紀のヨーロッパへ飛び込んでもらいたいと考えて舞台を作ってきました。おそらくそのアプローチが正解だと今も信じているんですが、2020年という大変な1年と日本武道館という場所を合わせて考えたときに、今やるべきはそれじゃないなと。2020年は世界中の人が自粛やステイ・ホームで小さくなって生きるしかなかった。その1年の最後……12月に、武道館という開けた空間でやるなんて、ある意味、馬鹿げたことじゃないですか。みんなが知っているあの場所で朗読劇を行なうという、その事実を皆さんと共有したい。ストレスが多かった1年の最後に『馬鹿なことやったね!』と我々もキャストもお客様も笑って終わらせられたら良いなと思っています。武道館で朗読劇を観に来た稀有なお客様と、打ち上げ花火みたいな催し物にするので、みんなで楽しもうよと。スタッフ、キャスト、お客様一体となって、今年最後の祝祭を演出したいですね」

「READING HIGH」の今後の構想

最後に藤沢文翁が考える「READING HIGH」の未来について聞いた。

「おそらく朗読劇というジャンルはこれからも増えていくと思うんです。そのなかで『READING HIGH』は常に“一番新しいもの”“一番驚くもの”を提供する場でありたい。ただ大きな公演にしていくとか、ド派手にしていくというものではなく、“今度はこう来るか”と皆さんに感じてもらえるものにしていきたいです」

“一番驚くものにしたい”という思いは、藤沢文翁が初めて感銘を受けた舞台アンドリュー・ロイド・ウェバーの『オペラ座の怪人』の驚きにつながるものがある。子どものころの原体験が、彼を突き動かしているのだろう。

「小学生のころに舞台で“驚いた”という経験があるから、舞台を作る側に回ったあとも“驚かせたい”と思いつづけているんでしょうね。思い返せば、うちの祖父が『演出の基本は意外性だ』と良く言っていたんです。その言葉は、ロンドンで『オペラ座の怪人』を観たときから、今日までずっと僕の心に残っているものなんです」

文・取材:志田英邦
撮影:増田 慶(インタビュー)

関連サイト

READING HIGH公式サイト
https://readinghigh.com/alchemistrenatus/
 
藤沢文翁オフィシャルサイト
http://www.bun-o.com/
 
藤沢文翁Twitter
https://twitter.com/FujisawaBun_O
 
藤沢文翁Instagram
https://www.instagram.com/fujisawabun_o/

©READING HIGH

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