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アーティスト・プロファイル

バーチャルライバー・緑仙――クリエイターから活動者へ、新たな挑戦【後編】

2021.02.27

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気鋭のアーティストの実像に迫る連載企画「Artist Profile」。

今回登場するのは、歌動画を中心に投稿し、自身のYouTubeチャンネル「緑仙channel」では40万人以上の登録者数を誇る『にじさんじ』所属のバーチャルライバー(以下、ライバー)・緑仙(りゅーしぇん)。

2018年6月にライバーとして活動を開始して以来、性別不詳の中性的なキャラクター、高い歌唱力、1980年代のアニメシーンへの深い造詣と歯に衣着せないトークで、着実にリスナーを増やしつづけている。デビューから3年近くが経ちライバーたちを取り巻く環境が急速に変わるなかで、緑仙が自身の未来に見据えるものは何か。

後編では、急成長を遂げるライバー業界のなかで緑仙が描く未来と、表現者として求められるスキルについて語っていく。

  • 緑仙

    Ryushen

    2002年4月16日生まれ。バーチャルライバーグループ『にじさんじ』に所属するライバー。2018年6月の活動開始以来、100本以上の歌動画を投稿している。2021年2月14日に1st EP『It'sLie』をデジタルリリース。

激動のなかでもリスナーと自分を信じつづける

ライバー活動をスタートして、今年6月で丸3年を迎える緑仙。今でこそ、VTuberやライバーと呼ばれる存在が一般的に認知されるようになったが、3年前と今ではライバーを取り巻く環境も、ずいぶん変わったと振り返る。

「VTuberという存在が認知されるようになったことは、僕も肌ですごく感じています。『にじさんじ』に加入した当時は自分たちが一番後輩だったし、今ほどライバーという存在がメジャーではなかったので『何かしてやるぞ!』『暴れてやるぞ!』的なスタンスで活動していました。だけど今はたくさん後輩もできて、多分海外で活動しているライバーも含めると『にじさんじ』だけでも所属者は100人をゆうに超えてます。活動が国内だけでなく、海外まで広がってるって、すごいことですよね」

『にじさんじ』は中国、インドネシア、韓国、インドなど海外でも所属ライバーを抱えている。
©2017-2021 Ichikara Inc.

緑仙が活動を始めた2018年あたりから人気に火がつき、今では画面を飛び出して、ライバーが生の観客を前に大きな会場でライブイベントを行なったり、テレビ番組で活躍する機会も格段に増えている。わずか3、4年で大きな市場を形成するようになったVTuber業界を、その渦中にいる緑仙はどう見ているのだろうか。

「3年間活動してきて一番に感じているのは、例えばチャンネル登録者数だとか、目に見える数字だったり、流行るもの、バズるものの傾向は、ちょっとしたことですぐ変わってしまうということですね。自分が良いと思ったものが受け入れてもらえないことがあるし、逆にこれで良いの? という動画の再生数が伸びたり。でもそれは仕方のないことで、狙って人気や数字を伸ばせるものじゃないことは、僕自身が一番わかってます。椎名林檎さんの『人生は夢だらけ』という曲の歌詞に、“きっと違いの分かる人は居ます そう信じて丁寧に拵えて居ましょう”という一節があるんですけど、本当にそうだなと思っていて。自分自身が折れない心を持って、リスナーさんを信じながら、発信しつづけていくことが、本当に大切。そういう意味では、自分との戦いだなとも感じています」

特に、リスナーと直接交流する生配信を行なうライバーには、リスナーの声が動画のコメントやSNSを通じてダイレクトに伝わってくる。そこにあるのは褒め言葉や喜びの声だけではない。ときには心無い言葉、悪意を持った言葉に対応しなければならないからこそ、折れない心を持ちつづけるのは大変なことだ。

「3年間のなかでは、そういう言葉に敏感になっていた時期もありましたが、同期のライバーに言われたんですよ。ネットの言葉は、“見なければ、ないのと一緒”だって。それは心に留めてます。SNSがコミュニケーションの中心である今は、僕らだけじゃなくテレビのタレントさんもネットを通じて同じ体験をしている。なので、身の回りの良いことも悪いこともネタにして、自虐も笑いに変えているお笑い芸人さんの番組を見ると、すごく励まされますね」

緑仙はYouTubeだけでなくTwitterでも多くのフォロワーを抱えている。

より多くのリスナーに知ってもらうために、パフォーマーとして新しい挑戦へ

緑仙は、自分のライバー活動が軌道に乗ってきたと感じているからこその悩みにも直面していると語る。

「これまでは、僕に興味を持ってくれるのは多分こういう人だろうな、という人たちに向けて必死にやってきました。それをやり尽くしてのチャンネルの登録者数。リスナーさんたちも僕が活動すること自体を応援してくれていますけど、それは“僕が伝えてきた好きなものに対しての好き”という気持ちも大きいと思うんです。まさに共感ですよね。でも、僕はライバーとしての目標をずっと“HIKAKIN超え”と言ってきました。それを実現するには、今後は僕が僕自身のことをもっと発信していかないといけない。これまでは動画をベースにしたクリエイターという気持ちが強かったんですが、“自分は活動者なんだ!”という自覚が、去年のRain Dropsのメジャーデビューあたりから、やっと湧いてきました。ここからはパフォーマーとしての力も、もっと磨いていかないといけないなと感じています」

緑仙は、ライバー活動の2本柱としている“本格的な音楽を作るアーティスト”活動と、トークを中心に届ける“生配信のストリーマー”活動の両立も今後の課題だと捉えている。

「最近オリジナル楽曲をリリースしたり、Rain Dropsの活動の比重が大きくなってきて思うのは、音楽と生配信トークの相性の悪さなんです。音楽活動をメインでやっている人が、喋ってみるとイメージが違うことってあるじゃないですか。あまりにお喋りが面白過ぎちゃうと、タレントさんのように見えてきて、アーティスト性が薄れてしまう。でもそういう曖昧な立ち位置にいるのがライバーだったりするので、生配信もしながら楽曲を配信していくための一番良いバランスの取り方が今後の自分の課題です。たまに、活動を辞めたら楽になるかな? なんて考えちゃうこともありますけど、今ライバーをやれていることは幸せだし、まだまだやりたいこともたくさんあるんですよね」

次のステップに向けての過渡期を迎えているVTuber業界と緑仙の活動。人気が上昇してきたことで、「声で気づかれてしまうので、外に出るときも注意しなくちゃいけない」という悩みもあるそうだ。だからこそ、緑仙が言う“これからやりたいこと”がとても気になる。

「こんなことができたら良いよね、という夢はあります。今は自分だけだと部屋からしか配信できないんですけど、最近は背景を3Dで表現することもできるようになっています。3D空間にカメラを付けて配信できるようになったら、もっと見てもらう機会が増えるかもしれないなとか。あと、VTuberは見た目や動きはかなり自由なんですけど、やっぱり制限はあって。我々は外でロケをすることはできないんですが、技術は日々進歩しているので、将来は旅行日記のような配信とか、YouTuberさんのようなバラエティにも挑戦できる時代は来ると思うんです。そうなれば、VTuberたちがまた全然違うパフォーマーになれるだろうし、配信のアイデアももっとたくさん出てくると思う。そうなったら楽しいですよね」

生ライブを観て感じてほしいライバーの“生きた呼吸”

歌うライバーとしての活動も、テクノロジーの進化によって、生ライブのリアリズムが年々増している。緑仙も昨年、『にじさんじ JAPAN TOUR 2020 Shout in the Rainbow!』の札幌LIVEに出演し、Zepp Sapporoのステージに立って、今までにない経験を積んだ。

「YouTubeで投稿する歌動画と、生身のバンドと一緒にステージで歌うことの一番の違いはやっぱりライブ感。普段の歌動画や歌う生配信を見てくれているたくさんのリスナーさんがライブに来てくれたんですけど、感想として一番多かったのは『“推し”が生きてる、ナマで歌ってた!』という声でした。そんなみんなの熱量は、僕らにもすごく伝わってきたんです。だから、ライブが盛り上がれば盛り上がるほど、よりライバー向けの技術が向上して、VTuberにしかできないステージが完成していくはずなんです。そこは、歌を中心に活動している僕らが頑張らなくちゃいけないと思っています」

『にじさんじ JAPAN TOUR 2020 Shout in the Rainbow!』Zepp Sapporoステージの様子。
©2017-2021 Ichikara Inc.

その盛り上がりを実際に体感できるイベントが、オンラインで開催される『にじさんじAnniversary Festival 2021』だ。『にじさんじ』の主要ライバーが、入れ替わり立ち替わりさまざまなプログラムを届ける盛りだくさんなフェスに、緑仙もさまざまな形で参加する。

「個人的には、まさかあのFLOWの皆さんとライブで共演できることになるとは思ってもいませんでした。本当に幸せです! スタジオリハーサルでご一緒したときも、まだ信じられなかったですね(笑)。Rain Dropsのステージでは、パフォーマーとしての自分たちもちゃんと見てほしくて、去年からレッスンを受け始めたダンスもしっかり踊るつもりです。普段の配信で我々はあれだけ生きているのに、ステージに立ったときに呼吸が見えなかったら、来てくれたお客さんも楽しめないと思うんです。ダンスも下手クソなままだったら申し訳ないので、ホントにめちゃくちゃ頑張ります! 体験授業のほうは、まさに今準備中なんですが、このフェスにはいろいろなプログラムに出させてもらうので、ぜひ楽しみにしていてください」

緑仙が考えるVTuberになるために必要なスキル

近年ではライバーやVTuberは、YouTuber同様に子どもや若者の憧れの職業になりつつある。『にじさんじ』の所属ライバーが急増しているように、今後もVTuberを目指す人は増えていくだろう。ではVTuberになるには、何が必要なのか? 緑仙はどう考えているのだろう。

「おそらく、VTuberになるために必要な特別なものは、今はないと思うんですね。VTuberとして見せるシステムもたくさんありますし、実際、スマホ1台あれば機械に強くなくても、誰でもすぐにできるんですよ。それこそインターネットを検索すれば必要な知識もすぐに出てきます。以前より、スタートのハードルはものすごく低くなっているので、始めること自体は簡単にできます。あとは、やる、やらないの決断だけですよね」

とは言え「必要なスキルがあるのではないか?」と聞くと、長考してからこんな答えが返ってきた。

「発信者であること、それを長くつづけるためには、自分の良いところ、悪いところ、直さなきゃいけないところと、良くはないけど人によっては良いなと思ってもらえるところ……と、自分の長所と短所を把握して、整理しておくことだと思います。僕なら“歌うのが好き”“昔の漫画とアニメに関する知識が深い”というのは長所。“音楽以外は流行りものに対して詳しくない”とか“みんなが知っている趣味じゃないから、王道と呼ばれるものには弱い”というのが短所。そこをちゃんと理解していれば、どんなパフォーマンスをすべきかも、おのずとわかってくると思うんですね」

【#歌謡曲リレー】これが高校生の選曲ですか…【にじさんじ/緑仙】

そう語りながら緑仙がもうひとつ、表現者として大切なスキルとして挙げてくれた。それは“自分を好きになること”だという。

「僕は昔から、自分のことを好きになれない人間でした。でも、仲間が欲しくてライバーを始めて、活動しているうちに、リスナーのみんなが『緑仙のこんなところが好き』『ここがすごく良い』『歌が好き』とか3年間、根気強くメッセージを残してくれたおかげで、最初のころよりずいぶん自分に自信が持てたし、ちょっとは自分のことが好きになれて、成長できたと実感してます」

長所と短所を知れば、適した表現活動のアイデアも湧くし、自分を好きになれれば、活動者の一番の悩みどころである“メンタルを強く保つこと”にも繋がるという。

「VTuberに限らずですけど、活動者になること、表現活動をすることでやっぱり大切なのは“つづけること”。そのためには、メンタルを強く持っていないとつづかない。他人の評価軸で測りすぎないことは、大事なことだと思います」

緑仙は、VTuberとして必要なスキルについてさまざまな角度から話をしてくれたが、最終的に問わているのは“人間力”だと言う。

「これは自分の経験から言えることなんですけど、VTuberは生身のYouTuberさんよりもずっと、人間が出ちゃうんですね。主な活動が生配信なので、どんなに自分を繕っても、絶対に素が出る。嘘はつけないですし、ついたらバレちゃう。だからこそ、人間力が問われるなと感じています。VTuberは、生身の人にはできない新しい創作ができるので、クリエイターという視点で見てもめちゃめちゃ楽しい。だから年齢、性別関係なく、興味のある人は、ぜひチャレンジしてほしいなと思います。今度の『にじさんじAnniversary Festival 2021』には、そういう個性的なライバーがたくさん出演するので、いろんな人がいるんだなというのを、ぜひその目で確かめていただきたいです!」

 
文・取材:阿部美香

にじさんじ Anniversary Festival 2021

海外ライバーを含む総勢100名以上の『にじさんじ』所属ライバーが参加し、全編オンラインで開催される『にじさんじ』の3周年を記念した大型フェス。2月26日(金)の前夜祭ではロックバンドのFLOWも参加する『にじさんじ Anniversary Festival 2021 前夜祭 feat.FLOW』も行なわれる。
 
今回、取材に応えてくれた緑仙は26日の前夜祭から参加。最終日28日にはRain Dropsとして出演するライブ『にじFes2021 月ノ美兎&樋口楓&Rain Dropsステージ』でパフォーマンスを行なうだけでなく、「面接やオーディション、恋愛での成功率を20%確実に上げる方法」と題した、自身がMCとなってトークを繰り広げるユニークな体験授業の配信も行なわれる。
 
本イベントには、ソニー・ミュージックソリューションズが実行委員会に参加している。

 

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