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連載Cocotame Series

ヒットの裏方

マネージャーが見た! “おっさん芸人”錦鯉の“売れざま”【後編】

2021.03.13

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ヒットした作品、ブレイクするアーティスト。その裏では、さまざまな人がそれぞれのやり方で導き、支えている。この連載では、そんな“裏方”に焦点を当て、どのように作品やアーティストと向き合ってきたのかを浮き彫りにする。

今回は、『M-1グランプリ 2020』で最年長ファイナリストとして注目され、現在、テレビのバラエティ番組を中心に大活躍中のお笑い芸人、錦鯉のマネージャーを担当してきた、ソニー・ミュージックアーティスツ(以下、SMA)の田上洋平に話を聞く。

後編では、錦鯉の『M-1』後の状況と、マネージャーの視点から、芸人が売れるための秘訣を語る。

  • 田上洋平

    Tagami Yohei

    ソニー・ミュージックアーティスツ
    第3マネジメント本部 制作4部

PRイベントで山盛りのレーズンパン

――田上さんが「錦鯉、売れたな」と実感したお仕事などはありましたか?

そうですね……仕事のオファー自体は、『M-1』決勝進出が決まった時点から増えだしたんですけど、ファイナリストとしての注目度の高さを実感したのは、映画『新 感染半島 ファイナル・ステージ』公開記念のPRイベントでしたね。『M-1』の翌週に行なわれたんですけど、会場に「レーズンパンは~見た目で損してる~!」のギャグになぞらえて、クリスマスケーキ代わりに山盛りのレーズンパンが用意されていて。ネタのなかのひとつのギャグをあんなにフィーチャーしてもらえたことに驚きました。本人たちもとても喜んでいましたね。

今年の1月にはバンダイとBEAMS JAPANがコラボした食玩フィギュアの「クーナッツ」のPRメンバーの一員として、オリジナル漫才動画に参加させていただきましたし、仕事の幅も広がりました。

【錦鯉編】バンダイ×BEAMS JAPAN「クーナッツ漫才大賞 supported by 食玩ジャパン」

――テレビのお仕事だと?

元旦に生放送された、中京テレビ発の全国ネットのお笑いバトル番組『フットンダ王決定戦2021』はとても印象的ですね。そこで、札幌吉本時代、(長谷川)雅紀さんが同期として一緒にやっていたタカトシ(タカアンドトシ)さんと『M-1』ファイナリストとして共演できた。すごく良いなぁと思いましたね。前日、大晦日の昼にはテレビ朝日で1月に放送された『10万円でできるかな』のロケがあって、その日の深夜には三四郎さんの『オールナイトニッポン』年越し特番に出て、その足で『フットンダ王決定戦2021』に駆けつけたので、もうヘロヘロでしたけど(笑)。

――まさに売れっ子ならではの過密スケジュールです。

そうですね(笑)。

――テレビ番組と言えば、1月に放送されたテレビ東京の『家、ついて行ってイイですか?』で、銭湯の前でスタッフが声を掛けて家についていった年輩の男性が、渡辺隆さんの実のお父様だったというのも話題になりましたね。

はい、放送後は「本当に偶然だったのか?」と随分いろんな方に聞かれたんですけど、本当に偶然で。最初の撮影は『M-1』決勝前でしたけど、収録後にテレビ東京から、錦鯉の名前を出しても大丈夫かと連絡をいただきました。主役は渡辺さんのお父様なので、ご本人が良ければとお答えしたんですけど、あれには僕らのほうが驚きましたね。やっぱり勢いのある芸人は“持ってる”なあ、と。

ただ普段は、僕らマネージャーとしてはご家族が表に出られるような取材に関しては、とても慎重なんです。通常のネタ番組や普通のバラエティのオファーだったら本人に特に確認をせずにスケジュールに入れてしまうことも多いですが、ご家族に関する話をするとか、ご家族本人に出てもらいたいといった内容のオファーは、必ず芸人本人に確認してからですね。

メディアの皆さんが、まだ掘っていないところを掘りたい気持ちはわかりますが、ご家族は一度表に出てしまうと知られてしまう。心温まる話なら良いですが、快く思わない人がいないとも限らない。芸人本人はもちろん、ご家族の個人情報も守らなければならないですし、そのあたりは慎重なジャッジが必要だと思います。

――SNSやネットが発達している世の中では、マネジメントも昔とは違う気づかいが必要なんですね。

そうですね。錦鯉のように急に露出が増えると、そのあたりの実感はまだ持てていないかもしれないですが、よくおふたりには、芸人も最近は週刊誌に写真を撮られる存在になっているので、いろいろ注意してくださいとは言ってます。口うるさいと思われるかもしれないんですけど、街なかでのマナーなどの細かいところにも気を使ってくださいと。

売れ始めると悠長なことは言っていられない

――ほかに芸人ケアとして気づかっていることはなんですか?

うちは、ひとりのマネージャーが何人も担当していることが多いので、基本的には芸人自身がスケジュールも含めて管理をしています。特別なケアがあるとすれば、売れてからですかね。売れない時代は、事務所ライブ以外に武者修行のためにフリーのライブに出る芸人が多いんですが、それもマネージャーへの報告は強制していなくて、事務所として受けたテレビやラジオ、イベントの仕事に影響がない範囲で出てもらって全然OKです。いわゆるタレントさんの芸能事務所とお笑いとでは、そこが大きく違うところかもしれないですね。

――ブレイク後の錦鯉はとてもお忙しいですが、そこでマネージャーとして気をつけていることは何ですか?

もちろん、売れ始めてたくさんスケジュールが入ってきたら、事務所としては悠長なことは言っていられないので、さっきの大晦日から元旦にかけてのように、スケジュールを詰めるだけ詰めないといけないというのもあるんですけど……錦鯉の場合は、こう……あまり無理はさせたくないというのはありますね、年齢も年齢なので(苦笑)。と言っても、雅紀さんも渡辺さんもまだ40代。一般社会で考えたらバリバリ働いている年齢ですから、まだまだ頑張れると思っています。

オファーはひっきりなしにいただくようになってはきているので、最近はさすがに僕ひとりでは手が回らなくなりまして。今は現場のマネージメントに長けた担当者に錦鯉を任せて、スケジュール管理もしてもらうようになりました。

ベテランを温かく見守るSMAだから成り立つ

――うれしい悲鳴ですね。では、錦鯉とともに歩んでこられた田上さんから見て、改めて錦鯉がブレイクした要因はなんだったと感じていますか?

もちろん本人たちの実力があってこそですが、こういう、陽の目を見ずに長年やってきたタイプの芸人って、ほかの事務所だとまず成立しないと思うんですね。目に見える結果がないと、ほとんど途中でクビになってしまう。ここまでキャリアを重ねられないうちに肩たたきにあったり、本人のメンタルも持たないと思うんです。

もしかしたら、錦鯉のふたりくらいキャリアを重ねられたら、賞レースでの目標に到達できる芸人もいるでしょうが、お笑い界は、それが許されない環境であることが多いんです。なので、錦鯉のように売れるパターンというのは、辛酸をなめてきたベテランを温かく見守っているSMAだから成り立つのかな、とは思います。

――SMAにはベテランになってから花開いた芸人が多いですが、そこが事務所カラーなんでしょうね。

そうですね。芸人それぞれの今後についても、定期的に話し合う機会を設けているわけではなくて、賞レースで良い成績を残したりしたときなどに、今後の方向性を話し合うというのが通常のパターンなので、それまでは本人の頑張り次第というところが大きいですね。最近だと、今年の『おもしろ荘2021 新年SP』で注目された野田ちゃんややす子がいますけど、ああいう予想だにしない形で話題になってオファーが急に増えた場合などに、そのタイミングで本人たちと今後の話をするようにしています。

野田ちゃんは芸歴22年

元陸上自衛官で話題のやす子

――錦鯉のおふたりとは『M-1』決勝進出後、どういう話をされましたか?

今の時代は、芸人が売れたあとってすごく難しいんですよね。以前は、『M-1』の決勝に行けたら人生が変わる、バイトしなくてもメシが食えるようになる……というなんとなくのイメージがあったと思うんですが、今は一概にそうは言えなくなっています。特に去年から今年にかけてのコロナ禍では、いわゆる営業の仕事がほぼないので、なかなかお金が入ってこない。なので、あんまり浮ついてはいけないし、良いことばかりを言ってもいけないから、そのあたりの表現に関しては、いろいろな可能性を織り込みながら話をした記憶がありますね。それでなくても、芸能界では10年後どうなっているか誰にもわからない。これで安泰だとは、まず言えないですからね。

――最近は特にその傾向が強まっていますよね。誰もが知る人気者が、一瞬にしてテレビから姿を消すこともあります。

そうなんです。流行のサイクルが本当に速い。上半期に大流行したギャグを連発していた芸人が下半期まで持つのか? と言うと……。半年サイクルより、もっと早くブームが過ぎ去ってしまっている気がします。そういうことがあるので、ネタが一発当たっても、うかうかしてられないんですよ。「芸人の笑像」の連載で(ハリウッド)ザコシショウも言ってましたが、ザコシショウが常にネタを作りつづけて、YouTubeで披露しているのは、それがよくわかっているからだとつくづく思いますね。

■ハリウッドザコシショウへのインタビューはこちら【前編後編

――売れる芸人になるためには、ネタを作りつづけることが近道なんでしょうか。

僕なんかが言うのは本当におこがましいんですが、それはあると思いますね。マネージャーとして近くにいるので特に実感しますが、ザコシショウのように毎日何かを積み重ねている人は、とにかく強い。そういう本当にシンプルなことが大事なんじゃないかと思うんです。

今はザコシショウを中心とした“ハリウッド軍団”という芸人の集いがSMA内にはあって錦鯉もその一員ですが、そういうザコシショウの考えを受け継いでくれれば、これからも何かしらの良い成果が生まれるんじゃないかと期待しています。そして、まだ芸歴2年目のやす子のように、芸能界に入りたての純粋な気持ち、感動する気持ちを持ちつづけられたら、より強くなれるんじゃないかと思うんですね。

――ハリウッドザコシショウさんも、ネタを毎日YouTubeに投稿するのは、自分が楽しいからだとおっしゃっていましたし。常に新鮮な気持ちで自分の芸を楽しいと思えることは大事ですね。

そうですね。その気持ちは、新人だろうがベテランだろうが同じだと思うんですよね。

――田上さん自身が芸人をやられていた経験があるから、芸人さんの気持ちがよくわかるということがありますか?

いやぁ、僕は錦鯉やザコシショウのようなレベルまではたどり着けなかったので、賞レースで決勝に行くようなレベルの人たちの考え方はわからない……という葛藤も最初はありました。でもこうして活躍する皆さんと身近で接していて、僕自身も成長させてもらっている気がします。そして、自分が時間を共有した芸人が売れてくれると、本当にうれしい。これからもひとりでも多くのSMA芸人が、くじけることなく気持ち良く活動できるよう、努力していきたいですね。

 

文・取材:阿部美香

関連サイト

Beach V NEET/HEET Project公式サイト
https://sma-owarai.com/s/beachv/?ima=0700(新しいタブで開く)
 
ソニー・ミュージックアーティスツ
https://www.sma.co.jp/s/sma/?ima=0000#/(新しいタブで開く)

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