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連載Cocotame Series

Action

「テクノロジーは企業のCSR活動も進化させるか?」その可能性をエキスパートたちに聞いた【前編】

2021.07.30

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「Action」では、急速に変わりゆく社会のなかで、ソニーミュージックグループやエンタテインメント業界の新たな試みに注目。どんなときでも人々に寄り添い、心を潤すエンタテインメントの未来を追いかけていく。

現在、多くの企業が取り組むCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)活動。ソニーミュージックグループでは、環境活動への取り組みをはじめ、中高生を対象とした「会社訪問プログラム」と「出張授業」という、独自のCSR活動を行なってきた。

しかし、昨年からつづく新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、どちらの運営も休止せざる得ない状況に。現在は、2019年度から取り組んでいるオンラインツールを用いた「遠隔授業」を実施し、社会の未来に資するべく活動を継続している。

そこで今回は、教育支援活動をオンラインで進化させ、新たなCSR活動につなげるための施策について、スペシャリストを招いて検討していく。

参加者は、ソニー・グローバルエデュケーションでオンライン授業システム『HyperClass®(ハイパークラス)』の開発に携わるプロダクトマネージャーの酒井英佑と、同セールスマネージャーの望月美希、そしてソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)でCSR活動を担当する鳥本綾子の3人。それぞれの視点で、未来のCSR活動を語ってもらった。

前編では、ソニー・グローバルエデュケーションのオンライン授業システム『HyperClass』の開発経緯とその特長、SMEが推進する中高生向けのキャリア教育についてお届けする。

  • 酒井英佑

    Sakai Eisuke

    ソニー・グローバルエデュケーション
    プロダクトマネージャー

  • 望月美希

    Mochizuki Miki

    ソニー・グローバルエデュケーション
    セールスマネージャー

  • 鳥本綾子

    Torimoto Ayako

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

教育に特化し、インタラクティブ性を高めたシステム

──ソニー・グローバルエデュケーションは、“来るべき社会の教育インフラの創造”を企業理念に掲げています。そもそもソニー・グローバルエデュケーションが教育事業に乗り出したのは、なぜでしょうか。そのきっかけを教えてください。

酒井:ソニーコンピュータサイエンス研究所(以下、ソニーCSL)の新規事業プロジェクトとして、EdTech(エドテック:Education×Technology、教育×テクノロジー)事業を立ち上げたのが最初のきっかけです。

はじめに取り組んだのが、国や地域を超えて参加できるオンライン算数大会「世界算数(Global Math Challenge)」。これをきっかけに、本格的に教育事業に参入しようという機運が高まり、2015年にソニー・グローバルエデュケーションとして設立されました。

テクノロジーを教育インフラに活用するソニー・グローバルエデュケーション


 
ソニー・グローバルエデュケーションは、「来たるべき社会の教育インフラを創造する」をミッションに、テクノロジーを活用した教育分野のイノベーションの実現に取り組む企業。2017年2月、ロボット・プログラミング学習キット『KOOV®』を日本と中国で販売し、2018年には英語版の提供も開始した。2021年4月からは、オンライン授業システム『HyperClass』のサービス提供をスタートさせ、5月末には公式サイトもオープンしている。国内の教育関連団体、学校や学習塾はもちろん、世界各国のさまざま企業とも連携しながら、新しい教育サービスプラットフォームの構築に専心している。
 

──2017年にはロボット・プログラミング学習キット『KOOV』をリリースし、国内外で反響を呼びました。そして、2021年4月からは、オンライン授業システム『HyperClass』を提供しています。このシステムは、どのような経緯で開発されたのでしょう。

酒井:『KOOV』の発売後、デモやイベント、商談を通じて学習塾の皆さんとのつながりが生まれました。そこで何度か学習塾が抱える課題をヒアリングさせていただいたのですが、特に重要だと感じたのが教育格差です。東京や大阪といった大都市は教育熱が高いというデータがでますが、地方ではその逆の統計がでてきます。

そこで、全国に等しく教育を行き届かせるために、オンライン授業ができたら良いのではないかと考えたんです。そうして2019年11月に『HyperClass』のプロジェクトが立ち上がりました。

オンライン授業システム『HyperClass』


 
学習塾や語学教室などでのオンライン授業の運営全般をサポートする、インタラクティブオンライン授業システム。受講生用黒板、選択式解答、早押しなど豊富な授業用ツールにより、受講生の集中力を維持しつつ授業を進行できる。また、教材の共有から宿題のやりとりまで、オンライン授業に関連したアクティビティの一元管理も実現。UIもシンプルで、小学生でも手軽に扱えるようになっている。
 
なお、受講者の人数に制限はないが、インタラクションできるのは最大12人まで。既に、英会話教室ECCや、一部の学習塾などで導入されている。

──オンライン授業と動画配信型授業は、何が違うのでしょう。

酒井:かつて予備校では、人気講師の授業を全国で受講できるよう「サテライト授業」を導入しましたよね。こうした動画配信型授業は、講師が映像を通じて一方的に授業を展開するものでした。

しかし、小中学生はただ授業動画を見るだけではなかなか集中できず、知識が身につきません。そこで、教室で行なわれているのと同じように、インタラクティブ性、ナマもの感を大事にしたオンライン授業が行なわれるようになりました。

──新型コロナウイルス感染症の拡大により、学校では授業のオンライン化が一気に加速しましたが、『HyperClass』のプロジェクトの発足は、それより前だったんですね。

酒井:2019年11月時点では、まだオンライン授業やオンライン会議はそこまで浸透していませんでした。その後、新型コロナウイルスの感染が世界中で拡大してしまい、需要が急激に高まったため、急ピッチで開発を進めることになったんです。会議用とは異なる、授業に特化したシステムを作り上げていきました。

──オンライン会議システムとは、どのような点が異なるのでしょうか。

酒井:先生と生徒の非対称性ですね。生徒が先生と同じことができてしまうと、あっちを触ったり、こっちが気になったりと、授業に集中できなくなる可能性があるので、生徒側でできることを絞ることにしました。

その反面、生徒の自発性も活かしたかったので、黒板機能は自由に書き込めるようにしています。要するに、授業の進行を妨げないよう先生側がコントロールしつつ、みんなでにぎやかに考えることもしたい。緩急のついたシステムを目指しました。

望月:生徒の自発性を促すために重視したのは、インタラクティブ性です。先生と生徒が双方向で画面共有できたり、黒板に手書きで文字を書いたり。問題を出したときに、挙手や早押しで答えることもできます。

酒井:ただ授業をするだけでなく、授業前後も含めたつながりの体験を設計しているのも『HyperClass』の特長です。生徒が受講する授業を管理できるだけでなく、授業中に何回挙手したのか、どれだけ問題を正解したのかといった統計データを定量的に見られるようにして、理解度の評価につなげています。また、宿題の提出・回収もできるようにしています。

生徒の学習データの管理も手軽にできる。

望月:当然、授業を録画することもできます。この機能は休んだ生徒が録画データを視聴するという使い方を想定していましたが、意外にも先生方の指導、研修にも活用されているようです。

酒井:教材のアクセス制限も好評でしたね。学習塾では、アルバイトの方が講師として指導を行なうこともあります。その際、塾が提供する教材を外部に持ち出されてしまうと、資産流出につながりかねません。そこで「この資料は、ここまでの権限がある人しか見られない」と、アクセスできる教材を指定できるようにしました。

宿題の提出・回収も『HyperClass』でできる上に、講師のレビューを書き込むことが可能。オンライン上だからこそ、生徒とのコミュニケーションを密にする機能が盛り込まれている。

外国企業とのパートナーシップで、集中力を高める授業システムを開発

──プロジェクト発足から1年半弱と、かなり早いスピードでサービス提供に至りましたね。開発時に苦心されたことを教えてください。

酒井:すべてを一から開発するのは難しいため、中国のEmpower Education Online Ltd.(以下、EEO)と共同開発しました。EEOは、授業のインタラクティブ性を重視した、世界最大規模のオンライン授業プラットフォーム『ClassIn(クラスイン)』を開発した企業です。我々の目指すところと合致したので、授業システムの一部は『ClassIn』の機能を使っています。

──授業や学習の文化は、国や地域によって違うのではないかと思います。日本と中国の学習環境は、近いものがあるのでしょうか。

望月:やはり似ているところもあるし、違うところもありますね。中国は国土が広いため、日本よりも教育格差が大きいと言われています。北京や上海は教育熱が高いけれど、地方になるとそこまで熱がないというのが実情だそうです。

ただ、中国は人口が桁違いに多い。そのため、学習塾ではひとりの先生が大勢の生徒を受け持つ集団授業が主流になっています。いっぽう、日本は少子化が進み、個別授業に近いスタイルが増えています。先生ひとりにつき生徒2、3人がつき、ひとりは算数、ひとりは国語と違う教科を教えることもあります。

こうした違いがあるとは言え、どちらの国も生徒を集中させるインタラクションの重要性が高いという点は共通しています。学生時代、自分が先生に指されるかもしれないと思うと、一生懸命授業を聞いたり予習したりしましたよね。集中力、緊張感を高める要素を、システムに組み込みたいと考えました。

CSR活動の一環として、キャリア教育を実施

──いっぽう、SMEではCSR活動の一環として教育支援活動「会社訪問プログラム」と「出張授業」を行なってきました。

鳥本:中高生を対象としたキャリア教育の一環として2000年から「会社訪問プログラム」を、2010年から「出張授業」がスタートしました。目的は、音楽やアニメに関わる仕事について知っていただき、将来の進路について考えるきっかけを提供することです。

そして2019年6月からは「遠隔授業」に取り組み始め、今に至ります。現在は新型コロナウイルス感染拡大防止のために「会社訪問プログラム」や「出張授業」は休止していますが、「遠隔授業」は継続させています。

――「会社訪問プログラム」や「出張授業」では、どんなことをするのでしょうか?

鳥本:「会社訪問プログラム」では、ソニーミュージックグループの会社紹介をはじめ、音楽やレコード会社の仕事についてレクチャーを行なっています。音楽やレコード、CDの歴史を紐解きながら、アーティストの活動とそれを支えるスタッフを追うドキュメンタリー映像を見ていただき、「音楽が皆さんの元に届くまでに、実はこんなにたくさんの仕事がある」ことを伝えています。

コロナ禍になる前は、修学旅行生の方々を中心に毎年約150校、約1,500人を受け入れていました。夏休みの自由研究や課外授業として参加してくださる都内近郊の学生の方たちもいらっしゃいましたね。

SMEの会議室を使って行なわれる「会社訪問プログラム」。

「出張授業」のほうは、音楽とアニメの2軸で授業を行なっています。音楽の授業は、「会社訪問プログラム」とほぼ同じ。アニメの授業では、制作の裏側を知ってもらうほか、アニメ作品のアフレコを体験してもらうプログラムを用意しています。今活躍されている声優さんのコメント動画などもあって、生徒の皆さんはとても楽しんで授業に取り組んでくれています。

――なぜ「遠隔授業」を導入したのでしょうか。

鳥本:「出張授業」と言っても、講師を務める広報担当者の人員数やコストの課題があり、出張先は片道2時間以内で行ける関東近郊の学校に絞らせていただいていたんです。そんななか、式根島の学校の先生からご連絡をいただき、「出張授業」を現地で行なってもらえないか、というご依頼をいただきました。

熱心なご要望だったのと、私たちももっとこの活動を広げていきたいという思いがあり、せっかく行くなら隣の新島でも授業をさせてもらえないか式根島の先生にご相談し、結果的に2日間にわたって「出張授業」を現地で開催させていただきました。先生方も歓迎してくださいましたし、生徒の皆さんにとっても企業の担当者と話す機会はめったにないということで、とても充実した授業を実施することができました。しかし、これを全国各地で展開できるかと言ったら、やはり先ほどの人員とコストの壁があって難しいんですよね。

SMEの広報スタッフが関東近郊の学校を中心に訪問して、授業を行なう「出張授業」。

また、先ほど酒井さんがお話されていた通り、私自身も教育格差を感じていて。私は福井県の出身なのですが、福井に比べると都心は子どもの教育環境が整っていますし、情報や選択肢もたくさんあります。地方にも何か届けられる方法がないかと考えていたときに、ソニーのグループ会社が「一般社団法人 プロフェッショナルをすべての学校に」の方たちとともに「遠隔授業」を行なっていると聞いて、SMEでも取り入れることにしました。

望月:「出張授業」と「遠隔授業」は、カリキュラムの内容は同じなんですか?

鳥本:こちらはまた違うプログラムを用意しました。まず私たちのほうから、授業のベースとなるカリキュラムを作成し、学校の先生方に事前に生徒に向けて授業を行なってもらいます。この授業を通じて、生徒たちは課題を制作。完成した課題作品を、オンラインで私たちに発表していただくという流れです。

授業は「アーティストをプロデュースしよう」という内容で、課題としてアーティストのプロデュース案をポスターにまとめてもらいます。その発表を見せていただいて、私たちから良かった点や改善点などをお伝えし、生徒たちからの質問に答える時間も設けています。

『遠隔授業』で自分たちのアイデアをプレゼンテーションする生徒たち。自由な発想力で、参加するソニーミュージックのスタッフも驚くようなアイデアが出てくる。

もうひとつ「遠隔授業」で実現したかったのが、ソニーミュージックグループの現場で働くスタッフにも参加してもらうことでした。現場のスタッフはそれぞれ忙しく、なかなか学校まで行って授業を行なうことはできません。

でも、オンラインの「遠隔授業」なら、東京のオフィスを離れることなく生徒たちに仕事の内容を伝えることができますし、質問に答えることもできます。現場のナマの声を伝えれば、生徒たちはさらにその仕事を身近に感じてくれますし、子どもたちとのやり取りは現場スタッフにとってもプラスになるのではないかと思いました。

望月:今後は「遠隔授業」にも、力を入れていかれるんですか?

鳥本:正直なことを言うと、個人的にはやはり生徒の皆さんと対面で接したい気持ちが大きいんです。子どもたちのリアクションを直に見ることができますし、生徒や先生との会話を通じてリアルな声を聞くことができるので。

実際「出張授業」では、授業後に子どもたちから話しかけてもらうことも多く、それが楽しみのひとつでもあったりするんですよね。とは言え、地方や島しょ部に頻繁にお邪魔するのは難しい事実もあるので、対面だけ、オンラインだけと、どちらか片方に絞らず、両軸でプログラムを展開したいと考えています。

後編につづく

文・取材:野本由起
撮影:干川 修

関連サイト

ソニー・グローバルエデュケーション
https://www.sonyged.com/ja/(新しいタブで開く)

『HyperClass』公式サイト
https://hyperclass.sonyged.com/(新しいタブで開く)

ソニー・ミュージックエンタテインメント CSR活動
https://www.sme.co.jp/csr/(新しいタブで開く)

一般社団法人 プロフェッショナルをすべての学校に
https://progaku.com/

ソニー・ミュージックエンタテインメントが実施する「遠隔授業」に関する詳細
https://progaku.com/sme-jissen/
※2021年4月~2022年2月分までの遠隔授業については、ご好評につき既に申し込みが終了しております。

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