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Action ~いま、私たちにできること~

冬の夜に『ムーミンバレーパーク』で語られる特別な物語――そこに込められた思い【後編】

2020.12.26

「Action ~いま、私たちにできること~」では、急速に変わりゆく社会のなかで、ソニーミュージックグループやエンタテインメント業界の新たな試みに注目。どんなときでも人々に寄り添い、心を潤すエンタテインメントの未来を追いかけていく。

連載第16回は、12月より『WINTER WONDERLAND in MOOMINVALLEY PARK』を実施している、埼玉県飯能市の『ムーミンバレーパーク』の担当者たちに迫る。新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、3月以降、臨時休園に突入した『ムーミンバレーパーク』は、5月に安全宣言を発表。感染予防対策の環境作りを行なった上で、6月以降は開園を再開し新たなイベントを実施するなど、意欲的な展開を行なっている。

後編では、12月から始まった『WINTER WONDERLAND in MOOMINVALLEY PARK』と新しいアプリ『Locatone』について話してもらった。

※この取材は11月19日に行なわれたものです。

  • 小栗 了氏

    Oguri Ryo

    株式会社NAC
    ムーミンバレーパーク クリエイティブ・ディレクター

  • 森田和裕氏

    Morita Kazuhiro

    ムーミン物語
    マーケティング企画部

  • 八木 泉氏

    Yagi Izumi

    ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ
    ビジネスプロデューサー

正直「ヤバい」――ギリギリのスケジュールのなかで進む制作作業

――今年の『WINTER WONDERLAND in MOOMINVALLEY PARK』の実施が正式に決まったのが8月末。そこから11月のイベントオープンまで、かなりの急ピッチで準備が進んだのではないでしょうか。

小栗:8月末に正式にやることが決まって、まず最初に八木さんたちに「Sound AR™」の準備が間に合うか確認しましたね。

八木:はい。「Sound AR」はアプリ化の計画が進んでいたというのを先ほど(前編はこちら)もお話ししましたが、『Locatone』というアプリが既に準備できていたので、逆に私たちが気になったのは小栗さんの演出が間に合うのかなということで……。

小栗:はい。あの……ライトアップの演出に関しては、正直「ヤバい」と思ってました。

一同:(笑)

小栗:今年はもうやらないと思っていたので、特に光の演出は何も準備していなくて。急いでいろいろな照明会社にあたり、最終的には昔からお付き合いのある会社に頼み込んで、なんとか実施することができました。

――その時点では、台本はあったのでしょうか?

小栗:なんとなくは考えていましたが、下書き程度のもので。ちゃんと書いたのは9月に入ってからでしたね。

八木:正直、ギリギリでした。締め切りが近づいてきたら、朝5時とか6時くらいまでやり取りしていましたよね。「小栗さん、ここが本当に締め切りです!」って言って(笑)。

森田:八木さんが、すごく厳しかった(笑)。

八木:でも、私は今回、すごく感動したことがあって。『アドベンチャーウォーク』の企画が立ち上がったときの最初のミーティングで、小栗さんから「Sound AR」を使用するスポットをまとめたコースのマップが出てきたんです。最初の『サウンドウォーク』の企画を進めているときは、「僕は『Sound AR』のことがよく分かってないので、音が流れるスポットをどこに配置するかとかは、全部お任せします」って言われてたのに……。あのマップがあったので、こちらの作業もだいぶスムーズになりました。

小栗:確かに一年前はそんなこと言ってましたね。『サウンドウォーク』のときは何もかも初めてだったので当然なんですが、音をエリアに配置するというのがピンとこなかったし、音を流す尺の長さも八木さんたちに主導してもらったんですよね。だから『サウンドウォーク』のときは、枠組みを決めてもらって、そのなかで脚本を書いているという感覚でした。

でも、実際に「Sound AR」を体験したら、これはすごいと思って。体験したことがない人からすると、声と音楽による物語体験と言われるとラジオドラマなどをイメージされると思うんですが、「Sound AR」は“音による拡張現実”と言うだけあって、現実の風景や身体の動作と連動して音声が流れてきて、そこにリアルな世界観が構築されるんです。

今回は“宮沢湖1周でやる”と決めていたので、原作の『ムーミン谷の冬』を読みながら『ムーミンバレーパーク』のコンテンツディレクターで、パークの設立、運営にも尽力されている川﨑(亜利沙)さんとともに、一気に「Sound AR」のマップを作りました。

■小栗氏が『ムーミンバレーパーク』に携わる経緯は? 過去の記事はこちら
ムーミンの物語が伝える普遍性や多様性――そこから見えてくる『ムーミンバレーパーク』の未来【前編】
ムーミンの物語が伝える普遍性や多様性――そこから見えてくる『ムーミンバレーパーク』の未来【後編】

八木:あれをいただいたとき、感動でちょっと泣きそうだったんですよ。『サウンドウォーク』のときにシステムの概念を頑張ってお伝えしたつもりなんですが、どれくらいご理解いただけているのかはわからないじゃないですか。それがこんなに早く成果につながったって。

小栗氏が書いた「Sound AR」の音声スポットの配置を記したマップ。

私たちは「Sound AR」をエンタテインメント体験の可能性を広げるものとして開発しました。でもそれをコンテンツとして具現化できるのは、小栗さんたちのようなクリエイターの方々です。そして、クリエイターの方々の理解度が高まらなければ、「Sound AR」の真価を皆様に体験していただくことができません。

今回の『アドベンチャーウォーク』は、小栗さんたちのクリエイティブティが存分に発揮されたアトラクションになっていると手応えを感じています。

小栗:前回の宮沢湖半周コースが1周になって、収録されている音声も約20分から約40分と倍になっているので、物語としても、「Sound AR」の体験としてもスケールアップしましたからね。

八木:ムーミンの冒険感がより出ていましたね。そういった点にも着目して楽しんでいただきたいと思います。

コロナ禍におけるエンタメ体験をアップグレードするアプリ

──「Sound AR」を楽しめるアプリ『Locatone』についてもお聞きします。先ほどもお話がありましたが、今回の『アドベンチャーウォーク』がオープンする前から、アプリとしては完成していたんですよね。

八木:はい。銀座の街を水樹奈々さんと平原綾香さんのボイスガイドでめぐる『Walk with U』というコンテンツを先行して配信しました。『アドベンチャーウォーク』は『Locatone』としての第2弾となり、今後もコンテンツを拡充させて行く予定です。

「Sound AR」が体験できるアプリ『Locatone』とは?

 
「Sound AR」の技術をアプリケーションに取り込み、コンテンツプラットフォーム化されたものがソニーが開発した『Locatone』。現在は、水樹奈々、平原綾香の音声ガイドで銀座の街を歩く『Walk with U』、ムーミンバレーパークで開催されている『アドベンチャーウォーク ~ムーミン谷の冬~』に加えて、『ウィンターワンダーランド ローカルバス乗車特典ストーリー』と題した新コンテンツも追加されている。なお、技術開発とともに、コンテンツの制作には、ソニー・インタラクティブエンタテインメント、ソニー・ミュージックソリューションズ、ソニー・ミュージックエンタテインメントの各社が携わっている。
 

 
販売元:ソニー・ミュージックソリューションズ


――今回の『アドベンチャーウォーク』は、17時から開催される宮沢湖1周のナイトコースです。アトラクションとしての完成度、手応えはいかがですか。

八木:小栗さんから「ナイトウォークをやりたい」と言われたときに「これは絶対相性が良い!」と思いました。なぜかと言うと、昨年『サウンドウォーク』の検証で何度も夜の『ムーミンバレーパーク』を歩いていて。夜の暗がりで視覚がある程度限定されている方が想像力がより働いて、昼間よりも物語への没入感が高まると感じていたんです。

小栗:音と光で彩られたナイトウォークのイベントは、全国各地で開催されていますよね。僕もそのなかのいくつかに足を運んでいますが、『ムーミンバレーパーク』でやるなら、それらに負けないものにしたかったんです。そして、「Sound AR」ならそれだけのものができるとも思っていました。

――「Sound AR」の特徴がナイトウォークで発揮されたんですね。

小栗:自分たちが使っているからというのを抜きにして、「Sound AR」というシステムは本当にすごいんですよ。使い方によっては、オブジェや建物に莫大な予算をかけなくても見事な世界観が作れるシステムなんです。

お客さんが歩くだけで、その世界の音が聞こえてきて、歩いたりジャンプをしたりすれば身体連動で音が鳴り、その世界にいる感覚を味わえる。とくにムーミンには小説という物語のベースがあって、しかもそこには多くの人がアニメで体験しているムーミンとは、また違った世界観が描かれています。それを伝えるのにも「Sound AR」はぴったりでした。

森田:そうなんですよね。『ムーミンバレーパーク』は、細部に至るまでトーベ・ヤンソンの原作小説の世界観を大事にしていて、アトラクションでもそこにうまくお客様を導かなくてはいけません。それが『アドベンチャーウォーク』では、「Sound AR」という技術を取り入れることで、お客様の想像力をより掻き立て、印象的なものにすることができました。

八木:物語をそのまま見せるよりも、体験者の想像に任せたほうがリッチな体験になることがありますからね。ムーミンのストーリーを知らないお子さんでも、「Sound AR」の身体連動の音で楽しむところから入ることもできる。初心者からコアなファンまで幅広くカバーできると思っています。

そして、『Locatone』では、一度訪れたスポットの音声を持ち帰ることができるようにもなっていて、何度でも聞きなおすこともできるんです。そうすると、もっと細かく物語を体験したいと感じられると思いますし、「Sound AR」は現場で体験して100%の体験なので、そのときは、もう一度『ムーミンバレーパーク』に来ていただいて、『アドベンチャーウォーク』を体験していただけたらうれしいですね。

小栗:ムーミンが好きな人や出演されている声優さんが好きな人にとっては、持ち帰ったデータを何度も聞きたくなるでしょうね。毎度のことながら、出演者は超豪華なので。

八木:本当に一度でいいので現場で体験していただきたいですね。今回、あるスポットで蜂が自分の周りを飛ぶシーンがあるんですが……あれを現地で聞くと、思わず手で払っちゃうと思います。

小栗:あれこそ「Sound AR」の真骨頂ですよね。自分で効果音を作ってもらったのに、初めて現地で聞いたとき、顔の辺りを「おっ!」と言って払いましたから。俺、何やってんだって思いましたよ(笑)。聴覚というのが、これほど敏感で刺激的なものというのを「Sound AR」で改めて気づかせてもらいました。

――内容ということで言えば『アドベンチャーウォーク』のエピローグのパートは、小栗さんのこだわりの演出が味わえるシーンだそうですね。

小栗:原作通りのシーンなんですが、僕がこだわったのはムーミンが「ねえ、スナフキン?」と言ったあとに、スナフキンが返事をするまでの“間”なんです。あの間で、スナフキンの表情がアップになる、そういうカメラワークをイメージしました。もちろん「Sound AR」なので、皆さんの頭のなかで映像化していただくしかないんですが、これを読んでから体験される方は、ちょっと意識して聞いてもらうと、僕のエゴを体験してもらえると思います(笑)。

――『アドベンチャーウォーク』をこうしてお披露目できて、改めてどんな感想をお持ちですか。

小栗:良い映画を観たときって、どんなに長くてもあっという間に終わったと感じるじゃないですか。『アドベンチャーウォーク』もそう感じてもらいたいと思って作りました。アトラクションとしては、約60分~90分の体験ではありますが、皆さんの心を躍らせることができたら良いなと思っています。

森田:『アドベンチャーウォーク』がなければ、それなりに良い運動になる山道ですからね。でも、そこに物語が加わると、景色が違って見えると思います。ぜひ、そういった点にも注目していただきながら体感していただきたいですね。

また、『WINTER WONDERLAND in MOOMINVALLEY PARK』の会期中は、クリエイター・村松亮太郎氏が率いるNAKEDの作品、「Breath / Bless Project 」の『Dandelion』もご覧いただけます。このような時世ではありますが、『ムーミンバレーパーク』の自然あふれるオープンエアーな空間で、少しでも皆様の日々のストレスが解消されたらと思っています。

八木:繰り返しになりますが、『Locatone』はGPSと連動し屋外をベースに、ご自分のペースでコンテンツを楽しんでいただけるサービスです。個人個人で感染予防対策は当然していただく必要がありますが、屋外で密状態を作らないので、コロナ禍にも負けないエンタテインメントだと考えています。『アドベンチャーウォーク』はそうしたことも実感していただけるコンテンツになっているので、多くの方にお試しいただきたいですね。

『ムーミンバレーパーク』のこれから

――「Sound AR」の進化、こんなことにも使えるというアイデアがあれば教えてください。

八木:「Sound AR」は、『Locatone』としてアプリ化されたことで、コンテンツプラットフォームに進化しました。今回、『Locatone』のなかに「ムーミンバレーパークチャンネル」を作りましたが、今後もこのチャンネルを発展させていくことができればと考えています。

また現在、ソニー側でマップに音を配置できる開発ツールを作っていて。そのツールを使えば、クリエイターの皆さんが直接「Sound AR」を使ってコンテンツを作れるようになります。

小栗:それは面白そうですね。僕は「Sound AR」を使って、いわゆるゲームブック的なことができるんじゃないかと考えていて。例えばAとBのコースを用意しながら、それぞれのコースで分岐が発生して、最終的には体験者ごとにマルチエンディングを楽しんでもらう、というコンテンツを作ってみたい。

八木:そういうゲーム的なものも面白いですよね。位置連動ゲームはいろいろありますが、「Sound AR」ならではのコンテンツが作れそうです。

森田:天気によってストーリーが変わるのも面白いという話が出ましたよね。晴れの日、曇りの日、雨の日、雪の日。それぞれの天候によって体験できるストーリーが違うという。

小栗:でもそれ、台本作るの超大変そう(笑)。

――それでは最後に、『ムーミンバレーパーク』の未来について、それぞれのお立場からお考えを聞かせてください。

森田:もともとムーミンはトーベ・ヤンソンが生み出した小説に登場するキャラクターであり、そこから絵本やコミック、アニメになった作品です。先ほどもお話があったように、「Sound AR」はそれを音で表現して、想像力で楽しませてくれるコンテンツで、お客様に能動的に物語を感じてもらう、『ムーミンバレーパーク』に最適なシステムだと思います。

八木さんたちソニーグループの皆さんの力もお借りしながら、お客様の想像の半歩先をいくコンテンツを提供していって、皆様と一緒に成長していくパークになっていければと考えています。

八木:『ムーミンバレーパーク』での取り組みが良い例ですが、「Sound AR」という技術、『Locatone』というアプリを使って、クリエイターの方、ロケーションオーナーの方、そしてユーザーをつなぐお手伝いができればと考えています。そのためには、「Sound AR」、『Locatone』をソニーミュージックグループやソニー・インタラクティブエンタテインメントとのグループシナジーをいかして、声優さんや楽曲、効果音でより魅力的なものにしていきたいですね。

それとエンタテインメントは、不要不急の環境になると、早々に自粛を求められることが多いです。それは、状況によって仕方のないことなんですが、私たちはテクノロジーでそれを変えていきたいと考えています。

適切な運用を行なえば、コロナ禍でも皆さんを笑顔にするエンタテインメントを提供できる。そのことも、今回の開発のなかで気づいたことでした。そういう意味でも、「Sound AR」、『Locatone』をこれからも進化させていきたいと思います。

小栗:この場をお借りする形で恐縮なんですが、コロナ禍のなかでイベントを起ち上げるにあたって、『ムーミンバレーパーク』のスタッフ、関係者の頑張りを改めて皆さんにお伝えしたいです。僕は4月からクリエイティブ・ディレクターという肩書をもらって、“なかの人”になりましたが、僕自身はあれをやりたい、これをやりたいと、本当に好き勝手を言わせてもらいました。

それがこういう形で実現できたのは、社長の千田さんをはじめ、皆さんの後押しがあったからだし、現場では森田さんたちが手厚くサポートしてくれました。さらには、パークでお客様をお迎えするスタッフさんも感染予防対策を徹底しながら、ムーミンの物語の魅力を皆様にお伝えしようと笑顔で頑張ってくれています。

もちろん、八木さんをはじめとしたソニーグループの皆様にも尽力していただいて、『アドベンチャーウォーク』という素晴らしいコンテンツを作ることもできました。

『ムーミンバレーパーク』は引き続きwithコロナ時代のエンタテインメント施設の在り方を徹底しながら、皆さんにムーミンを通した最高のエンタテインメントを提供できるように、これからも進化をつづけていきたいと考えています。

 

文・取材:志田英邦
撮影:干川 修

関連サイト

ムーミンバレーパーク・メッツァビレッジ公式サイト
https://metsa-hanno.com/
 
WINTER WONDERLAND in MOOMINVALLEY PARK
https://metsa-hanno.com/lp/winterwonderland2020/

©Moomin Characters ™

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