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Action ~いま、私たちにできること~

冬の夜に『ムーミンバレーパーク』で語られる特別な物語――そこに込められた思い【前編】

2020.12.26

「Action ~いま、私たちにできること~」では、急速に変わりゆく社会のなかで、ソニーミュージックグループやエンタテインメント業界の新たな試みに注目。どんなときでも人々に寄り添い、心を潤すエンタテインメントの未来を追いかけていく。

連載第15回は、12月より『WINTER WONDERLAND in MOOMINVALLEY PARK』を実施している、埼玉県飯能市の『ムーミンバレーパーク』の担当者たちに迫る。新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、3月以降、臨時休園に突入した『ムーミンバレーパーク』は、5月に“安全宣言”を発表。感染予防対策の環境作りを行なった上で、6月以降は開園を再開し、新たなイベントを実施するなど、意欲的な展開を行なっている。

前編では、この安全宣言を打ち出し、イベント展開に乗り出した背景を聞いた。

※この取材は11月19日に行なわれたものです。

  • 小栗 了氏

    Oguri Ryo

    株式会社NAC
    ムーミンバレーパーク クリエイティブ・ディレクター

  • 森田和裕氏

    Morita Kazuhiro

    ムーミン物語
    マーケティング企画部

  • 八木 泉氏

    Yagi Izumi

    ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ
    ビジネスプロデューサー

先が見えなくなった3月――『ムーミンバレーパーク』の臨時休園

――小栗さんは2020年4月1日に『ムーミンバレーパーク』のクリエイティブ・ディレクターに就任されたと伺いましたが、同時期から新型コロナウイルスの感染が拡大して、エンタテインメント業界も困難なときを迎えました。皆さんはどのように過ごされていましたか。

小栗:僕の仕事は舞台やイベントのショウの演出が多いので、新型コロナウイルスの感染拡大が問題になったころから仕事がほとんど飛んでしまい、来年の夏ぐらいまではどうなるのかわからない状況になっていました。

そのなかで、「エンマの劇場」のショウや今年の1月から期間限定(『ムーミンバレーパーク』の休園に伴い3月1日で終了)のアトラクションとしてオープンした『サウンドウォーク ~ムーミン谷の冬~』(以下、サウンドウォーク)の脚本と演出を手がけさせてもらったご縁で、『ムーミンバレーパーク』のクリエイティブ・ディレクター就任の話をいただいて、とてもありがたかったです。

八木:私は、ソニーで開発した「Sound AR™」というテクノロジーを用いたサービスの担当をしています。「Sound AR」の詳細は、以前にもお話ししているので、そちらにお任せしますが、一言で言うと聴覚によるAR(Augmented Reality・拡張現実)体験を実現する技術です。

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この「Sound AR」は、『サウンドウォーク』をはじめ、屋外でのアトラクションやイベントに採用されていて、ユーザーの方たちの移動を伴うエンタテインメント体験を提供するため、緊急事態宣言後はそれらが軒並み中止や延期になってしまい、今後どうなっていくのか不安を感じていました。

ただ、『サウンドウォーク』については、お客様から「もう一回行きたかった」「3月に行こうと思っていたのに」という声をたくさんいただいていたので、何とか皆さんに再度、楽しんでいただくことはできないかと考えていました。

森田:特に体験していただいた方たちからの評判が本当に良くて。リピーターも増えてきたところでしたね。

ソニーが開発した技術「Sound AR」とは

聴覚によるAR(Augmented Reality・拡張現実)体験を実現するソニーが開発した技術。ユーザーはスマートフォンとイヤホンを使用して、現実世界と仮想世界の音が混ざり合った拡張現実の世界を体験できる。また、「Sound AR」にはスマートフォンのGPS機能を活用した位置連動や加速度センサーを活用した身体連動機能も備えられていて、音による物語体験を提供できる技術としても注目を集めている。立体的な音場空間を実現するソニーの立体音響技術も採用され、全方位からの音響体験を実現する。
 

『Locatone』でコンテンツのツアーを開始すると、写真のようにマップ上にスポットが表示され、そこにユーザーが到着すると音声が聞こえてくる。

「Sound AR」のさらに詳しい情報はこちら

――『ムーミンバレーパーク』は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて3月2日から3月13日までを臨時休園。その後、段階的な休園を経てから、緊急事態宣言もあって3月31日から6月3日まで休園されていました。この状況を『ムーミンバレーパーク』側はどのように受け止めていましたか。

森田:今年の3月で『ムーミンバレーパーク』が1周年を迎えるということもあり、これを記念したイベントやショウを実施する予定だったんです。でも、一時的な再開後すぐにパークが休園することになり、先が見えなくなってしまいました。連日の感染報道で世のなかの緊張感もどんどん高まっていって、何かアクションを起こすと、それが予想できないご指摘につながる事例もあったので、動きようがなかったというのが実情です。しかも、3月、4月は今以上に新型コロナウイルスの感染予防対策がわからない状況だったので、困惑のほうが強かったですね。

『ムーミンバレーパーク』が発表した「安心宣言」――再開への想い

──その後、5月に『ムーミンバレーパーク』は、“ムーミンバレーパーク安心宣言”を発表されました。

森田:はい。埼玉県のガイドラインにそって安心宣言を制定し、ひとつのメッセージとして出すことになりました。

――当時としては、かなり早いアクションだったと思います。

森田:どうしても新型コロナウイルスの話題がつづくなかで、エンタテインメントの施設である『ムーミンバレーパーク』としては、少しでも明るいニュースを早くお届けしたいと考えていました。また、5月ごろからは、マスクを着用するなど対策をしっかりしていれば、屋外での感染リスクが低いことがわかり、さらに公園や広場で外の空気を吸ってリフレッシュすることの重要性も認知されました。

そうした背景から『ムーミンバレーパーク』がある、ここ『メッツァ』には、散歩などにも最適な無料エリアの『メッツァビレッジ』もあり、どちらもしっかりと管理され、感染予防対策もされているということを世間の皆さま知っていただきたいという思いがありました。

また、感染予防対策をお客様だけでなく、自分たちに対しても徹底する意図を含んだ安心宣言だったんです。

――この安心宣言を打ち出すまでに、社内ではどんな議論があったのでしょうか。

森田:そのころはまだ、民間が運営する施設はほとんど開いていませんでした。しかも、新型コロナウイルスの感染拡大が今後どうなっていくのかは誰にもわからない状況。そのなかで、お客様に不安を感じさせてしまったり、実際に感染やクラスターが発生してしまったらどうなるんだろうと。かなり時間を使って議論を重ねましたし、最終的には行政にも相談しながら詰めていきました。

――6月以降もしばらく休園を延長するという選択肢は考えられましたか。

森田:もちろん議題には挙がりましたが、再開しようという意見で一致しました。と言うのも『ムーミンバレーパーク』は、ムーミンの世界観や物語のすばらしさを皆さんにお伝えするために開園したテーマパークです。そして、ご来園された多くのお客様から「『ムーミンバレーパーク』のコンセプトはすばらしい! また来たい!」というお声をいただいてきました。

しかし、パークを維持し、ムーミンの物語の世界観をお伝えするサービスをご提供するには、当然、ここで働く人間の雇用を維持し、施設もメンテナンスしていかなければいけません。そのためには、ビジネスとして一日も早く再開する必要がありました。

――当時の反響はいかがでしたか。

森田:『メッツァビレッジ』を含めて、『ムーミンバレーパーク』には屋外で過ごせる環境が多いことの認知が広がっていて、ネガティブなご指摘は私たちが確認した限りではありませんでした。逆に「緑が多くて、管理が行き届いた、こういう施設がいち早くオープンしてくれるのはありがたい」というお声はたくさんいただいたので、我々の判断、考えをご理解いただけた部分はあったのかなと感じました。

小栗:メチャメチャニュースにもなりましたよね。

森田:はい。取材もたくさん来ていただいて、どのような感染対策を行なっているのか、具体的なものをお見せすることができましたし、お客様の笑顔も取材していただくことができました。

――6月には色とりどりの傘、約2,000本を飾った『メッツァ アンブレラスカイ・デザインプロジェクト2020』を実施されましたね。

森田:昨年の『アンブレラスカイ』のイベントは『メッツァビレッジ』側だけで行なったのですが、今回は『ムーミンバレーパーク』内にもエリアを広げて開催させていただきました。カラフルな傘が並ぶことで、お客様の心も明るくできればと思って実施したんですが、インスタ映えすると、多くのお客様が写真を撮って拡散してくださったので予想以上に話題になりました。

小栗:今年はSNSで『アンブレラスカイ』の写真をたくさん見ましたね。そのころ森田さんともよく話をしていたんですが、やっぱり“つづけることに、意義があるんだ”と改めて感じました。

森田:本当にそうですね。『ムーミンバレーパーク』もそうですが、感染対策などやらなければいけないことをやって、つづけたからこそ今があり、ポジティブに受け入れていただけたんだと思います。

『メッツァ アンブレラスカイ・デザインプロジェクト2020』

次の一歩へ――『サウンドウォーク』の進化に向けて動き出す

――そのなかで、今年は『WINTER WONDERLAND in MOOMINVALLEY PARK』と題してパーク全体の冬のイベントがスタートしました。目玉のアトラクションとして、『サウンドウォーク』がグレードアップした『アドベンチャーウォーク』が体験できますが、こちらはどういった経緯で進んでいったのでしょうか。

小栗:僕は、『サウンドウォーク』をやるときから「宮沢湖を1周するコースをやりたい! このロケーションを利用しない手はないよ」と言っていたんです。でも、そのときは『サウンドウォーク』を体験される方に、スマホの本体ごとお貸し出しするオペレーションになって、1周コースは実現できませんでした。それで、『サウンドウォーク』をもう一回やるチャンスがあるなら「八木さんに、その辺のことも聞いてみてください」と森田さんにお願いしていたんです。

森田:小栗さんの「『サウンドウォーク』は絶対に面白いし、ハード面でもソフト面でもブラッシュアップできることはいっぱいあるからもう一回やろう!」という言葉と熱意に押されて、僕から八木さんにご相談したんですよね。

八木:私たちも『サウンドウォーク』にはもう一度トライしたいという思いが強かったので、企画のお話しをいただいたときは、すごくうれしかったです。また、開発の方でも『サウンドウォーク』の現場で得た知見や反省点から、「Sound AR」をどのように次のステップに進化させるかは考えていていました。

先ほど小栗さんに挙げていただいた貸し出し端末の件もそのひとつで、スマホを貸し出すオペレーションでは、コストが高くついてしまいますし、ユーザビリティも悪いので、完全アプリ化して皆さんのお手持ちのスマホで楽しめるように開発を進めていたんです。これによって、ソフト面では参加人数の制限の課題を解消できました。

今年の1月から3月まで開催された『サウンドウォーク ~ムーミン谷の冬~』。

森田:1月~3月に実施した『サウンドウォーク』は、参加していただいた方の総数が3,000人ぐらいだったんですよね。でも、「体験してみたい」「またやりたい」という声はもっとありました。

八木:お貸し出しできる端末の数に限りがあり、どうしても人数を絞らなくてはいけない状況でした。1回あたりの参加者を10人ぐらいに絞りましたし、開催期間も短くなってしまったので。でも、今回はスマホとイヤホンを持ってきていただければ、どなたでもお楽しみいただけます。

小栗:僕がクリエイティブ・ディレクターになってからすぐに「宮沢湖1周をやりましょうよ」と改めて提案したんです。もちろんその時点では予算感も見えていないし、僕の気持ちだけだったんですが。ただ、ムーミン物語の取締役の東風さんが「予算のことは考えなくていいから、小栗さんはともかくやりたいことを言ってください」とおっしゃってくれたのが心強かったですね。

――昨年の時点で宮沢湖1周のルートは既に歩行可能だったのでしょうか。

森田:道自体はもともとあって、徒歩で回ることはできるようになっていました。『ムーミンバレーパーク』ができる前の宮沢湖は、地元の方たちや小学校のマラソンコースになっていて、周回ができる場所だったんです。地元のご老人から「昔は回れたのに、今は回れないの?」と言われることもありました。

やるべきか、やらないべきか――迷いのなかひとつの会議がきっかけに動き出す

――新型コロナウイルスの影響が依然つづいているなかで、『アドベンチャーウォーク』の企画は社内ですぐに支持を集めたのでしょうか。

小栗:いえ、そこは結構時間がかかりましたね。正直、「今年はできないな」と思っていた時期もあったんです。

八木:打ち合わせを始めさせていただいてから、いったん白紙に戻ったこともありましたね。

小栗:新型コロナウイルスの影響がやっぱり大きくて、見切り発車でスタートした部分があったんです。また、社内ではイベント自体への反対意見はなかったんですが、このタイミングでの実施に対しては消極的な意見がありました。そのなかで僕も、この状況で強引に進めるよりは、改めて時間をかけて、演出も脚本も練り直した方が良いものができるのかもと思ったんです。なので、一度白紙にさせていただきました。

八木:そうしたら、8月末に「やっぱりやることになりました」と(笑)。

小栗:急転でしたよね(笑)。

――一度は頓挫しかけた企画が、どのような経緯が復活したのでしょうか?

小栗:会社の全員が集まる会議があって。そこに僕がクリエイティブ・ディレクターになってから初めて呼ばれたんです。会議では「気づいたことがあったら言って?」と言われたので、僕も思うところをいろいろと発言していたんですね。そうしたら取締役の東風さんから「小栗さん、あれを一回説明してもらってもいいですか」と言われて、『サウンドウォーク』を進化させた『アドベンチャーウォーク』の企画を説明する機会を設けてくださったんです。

まだ、構想の段階ではあったんですが、そこで初めてみんなに話して。そうしたら、社長の千田さんが「やろうよ、これ!」と言ってくれて。

森田:そのひとことで『アドベンチャーウォーク』を実施することになったんですよね。実は、そのときまで、僕は実施に慎重派だったんですよ。

小栗:あれ? そうでしたっけ?

森田:そうですよ(笑)。新型コロナウイルスの影響がこの先どうなるかわからないですし、もしまた緊急事態宣言が出たりしたら、今度は春のイベントにも影響が出てしまうんじゃないかと考えたんです。この冬はミニマムなイベントにして、徐々に取り戻していけばいいんじゃないかと思っていました。パークとしてもまだ2年目の半ばに入ったばかりだったので、次に勝負をかけるのが良いだろうと。

でも、会議での社長の「やろう!」のひとことでみんなのスイッチが入りました。あのときに、僕らも改めて覚悟が決まりましたね。

 
後編につづく

文・取材:志田英邦
撮影:干川 修

関連サイト

ムーミンバレーパーク・メッツァビレッジ公式サイト
https://metsa-hanno.com/
 
WINTER WONDERLAND in MOOMINVALLEY PARK
https://metsa-hanno.com/lp/winterwonderland2020/
 
ムーミンバレーパーク安心宣言
https://d1m4o4z7q117k1.cloudfront.net/wp-content/uploads/2020/05/6d4a4dc606c4e81584ff11d35b1f0da5.pdf

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