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連載Cocotame Series

ソーシャルメディアでの挑戦

「ヨワネハキ」のヒットで一躍人気物件となった『MAISONdes』の試み【前編】

2022.01.27

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ソーシャルメディアで活躍する人や注目のプロジェクトをフィーチャーする連載「ソーシャルメディアでの挑戦」。

2021年5月に発表した第5弾楽曲「ヨワネハキ feat.和ぬか,asmi」が大ヒットとなり、YouTubeチャンネルの登録者数10万人を突破した『MAISONdes(メゾン・デ)』。今回は、この“架空のアパート”の管理人が『MAISONdes』を解説。誕生の経緯から今後の展望までを語る。

前編では、この音楽プロジェクトの成り立ちについて聞いていく。

  • MAISONdes 管理人

MAISONdes

 
2021年1月に開設したYouTubeチャンネル「MAISONdes ‐メゾン・デ‐」で、開設以降毎月1曲、楽曲を発表している音楽プロジェクト。MAISONdesをアーティスト名とし、楽曲のソングライターとボーカリストは作品ごとに変わる。“MAISONdes”はフランス語で、“~たちの家”の意。6畳半の部屋が並ぶ、どこかにあるアパートで、楽曲の担い手たちはそこの住人という設定。2021年5月にリリースした「ヨワネハキ feat.和ぬか,asmi」が2021年TikTokで最も使われた楽曲となり、SNS上での音楽を代表するヒット曲となった。

ネットミュージックは手段のひとつになった

asmi

――2021年1月のYouTubeチャンネル開設から約1年が経ちました。2021年2月に発表した第1弾「Hello/Hello feat.yama,泣き虫☔」で始まり、以降、毎月楽曲を発表しています。5月に配信した第5弾「ヨワネハキ feat.和ぬか,asmi」が大ヒットとなりましたが、これは想定内でしたか?

「ヨワネハキ」をSNSでたくさん使っていただけるようになったのは、『MAISONdes』を始めてから半年くらい経ってからだったんですよね。私としては、最初から豪華なアーティストの方に参加していただいていたので、意外とうまくいかないものだなという気持ちではありました。

【102】[feat. 和ぬか, asmi] ヨワネハキ / MAISONdes

――改めて『MAISONdes』というプロジェクトの立ち上がりの経緯を教えてください。

実は、私自身もあまり経緯を覚えてなくて。音楽を世に出していくための方法論を模索していたら、いつの間にかこういう形になっていったというのが正直なところです。『MAISONdes』を始める前、なんとなく思っていたのは、コロナ禍になった2020年以降、日本の特徴的なネットカルチャーの消費のされ方や求められるものが変わってきたなという感覚があって。実際に自分の力で音楽を作り出している人たちと、どんな形でも良いので一緒に取り組めないかと思って始めました。

――具体的には、ネットカルチャーがどう変わってきていると感じてましたか。

すべてがそうだというわけではないんですけど、多くのエンタテインメントのコンテンツが“スナックカルチャー化”してきていると思うんですね。ロイヤリティの高いファンビジネスも存在するいっぽうで、消費スピードの早いスナックコンテンツが多くなってきたなと。それともうひとつ、音楽という点で言うと、ボカロや歌い手という文化が“ジャンル”から“フォーマット”になったなと感じています。

これは自戒の念も込めて言うんですけど、最近、音楽の世界でも“ネット系”っていう言葉をよく耳にするんですね。日本特有のインターネットミュージックの形はボカロくらいしかなくて、ボカロや歌い手のカルチャーに基づいて、そういう匂いのするものは全部ネット系とひと括りにされてると思うんですけど、そもそも今の時代、ネットを活用してないアーティストなんて、ほとんどいないと思っていて。

――確かにそうですね。

“ネット系”という言い方がすごく変だなと感じていたんです。今、誰もバンドのことを“バンド系”と言わないじゃないですか。20年前までは、若い子たちが楽器を弾ける人を探し合ってバンドを組んでたと思うんですね。それが今は、「俺、DTM(デスクトップミュージック)を使えるから、歌えるやつを探すわ」「ペンタブを持ってるんだったら絵を描いてよ」みたいになってる。ギターとベースとドラムを探すのではなく、“ビジュアル表現をする人”と“音楽を作る人”と“歌う人”という組み合わせですね。それくらいのフォーマットになってきたなと思っていて。

だから、今やボカロが好きという理由でコンテンツを消費する数は減ってきたように感じます。これまでもさんざん、「ボカロが市民権を得てきた」とか言われてきましたが、どこまで行っても特定の指向性を持った人のものだったというか……乱暴に言ってしまうと、ちょっとオタクっぽいものが好きな人に対してのものだったと思うんですけど、今はもう音楽活動の手段のひとつとして完全に確立されているなと。

yama

――多くの場合は顔出しもしていないですしね。

そうですね。ビジュアルも自分たち自身ではなく、作品にあった世界観を二次元で表現するというのが主流になっている。アナログレコードやCDが、曲を象徴するビジュアルをジャケット1枚で見せていたのが、サムネイルとミュージックビデオ(以下、MV)と、その楽曲にまつわるすべてのビジュアルで世界観を表現する。今は、音楽を“聴く”時代から“見る”時代になっていると感じています。

YouTubeにアップされてるMVの立ち位置が顕著で、映像作品というよりは、その曲のジャケットだと思うんです。そういうものをセットで考えるようになったっていうのが、今、若い人たちや、創作して何かを伝えようとしている人たちには自然なことなんだろうなと。だから、そのフォーマットにのっとって何かを仕掛けようと考えました。

これって、多くの若者が自己表現の方法としてバンドをやり始めてるときに、じゃあ、ライブハウスという場を作ろうと思ったのと同じ感覚だと思います。ライブハウスなのか貸しスタジオなのかはわからないですけど、そういうハブになるような場所を作れたら面白いかなと思って始めた感じです。

泣き虫☔

歌の主人公が、6畳半にひとりで住んでいる人であってほしい

――最初はどうやって動き出したんですか。

実は、最初に作ったのはyamaさんと泣き虫☔さんの曲ではなくて。『MAISONdes』がアパートで、“曲も作らず、歌も歌わないアーティスト”という外形もまだできていないときから、自主活動をしてるアーティストの方々に、「こんなことをしようと思っているんだよね」という話をしていました。そのときに、「面白いですね。ぜひ入らせてください」って言ってくれた方もたくさんいたんですけど、今の『MAISONdes』という名前や形を作る上で最大のヒントをくれたのは、くじらくんの存在ですね。

くじら

くじらくん自身も、ボカロPなんですけど、ボカロPたちのなかでも“くじら以前/くじら以後”って言われてるくらい、彼はボカロPのあり方を変えた存在で。

――何がヒントになったんでしょうか。

当初、ボカロPというのは、初音ミクに代表されるボーカロイドをプロデュースして、楽曲を歌わせていました。おおよそ人間じゃ歌えないようなことをやれるからすごかったわけで、ボカロPの人たちは、初音ミクを使って今までとは違う音楽表現をしていたんだと思います。

でもくじらくんは、「ボカロより優れてる歌い手がいるんだったら人間でもよくない?」と、オリジナル曲を出す前のyamaさんやAdoさんを、言ってしまえば自分専用の歌い手にして作品を出したんですよ。それがバイナルチャートや若者文化を賑わせました。

金木犀 feat.Ado (Official Video)

そのときに、私も個人的にくじらくんに興味を持つようになって。作品性としては、思春期に抱く思いだったり、若者にとってリアリティがあって手の届く範囲の、自分の部屋のなかの話みたいな世界観を描いていたんですよね。ボカロの世界にはあまりそういうものがなかったので、その点でも新鮮でした。

――確かに当時のボカロ楽曲には、壮大なファンタジーや空想世界が多かったです。

そうですね。手が触れられる現実のことだけを歌うというのは、世界観としてもなかったし、戦略としても新しくて。その集大成というか、世の中に一番認められたのが、yamaさんの「春を告げる」だったと思います。

yama - 春を告げる (Official Video)

その曲のなかに “深夜東京の6畳半”という歌詞があって、あ、みんなは6畳半の部屋の歌を聴きたがってるんだな、と。そこで、「誰がやってるとか、誰が歌ってる以上に、“あなたの6畳半”というコンセプトのポップスがたくさん出てくるものを、ネットカルチャーが生み出したフォーマットでやっていくと面白いと思うんだよね」という話を最初にくじらくんとしました。

――“深夜東京の6畳半”から、『MAISONdes』のコンセプトである“6畳半ポップス”が生まれたんですね。

昔からある“4畳半フォーク”の世界観とも近いとは思うんですけど、都市部で単身暮らしを始めたばかりの若者の寂しさや孤独感に寄り添う音楽は、どんな時代でも求められているんだなと思って。ただ、4畳半の部屋は今あまりないですし、フォークというジャンルも、現代で青春を謳歌している人にとってはあまり響かないと思ったので、現代版に変換して、“6畳半ポップス”という言葉にしました。

――“ワンルームミュージック”や“ベッドルームミュージック”とは違うニュアンスですよね。

“ベッドルームミュージック”は日本で生まれた言葉ではないと思うんですけど、特徴はサウンドのミニマムさですよね。自分の部屋でひとりで作ったんだろうなという音のことだと思うんですけど、“6畳半ポップス”は、どっちかと言うと、曲のテーマや歌詞のことですね。サウンドは、オーケストラでもギターロックでもなんでも良い。ただ、歌の主人公が、6畳半の部屋にひとりで住んでいる人であってほしいというのがコンセプトになってます。

『MAISONdes』の中身は空っぽ。誰でも入れる部屋だけがある

和ぬか

――MAISONdesは、クリエイター集団でもレーベルでもなく、アーティストなんですよね。

アーティストという体をとらせてもらってます。理由としては、レーベルとして始めると、世間に認識してもらうまでに時間がかかりますし、一般ユーザーにとっては、そもそもレーベルというのがよくわからないので、どうせわからないんだったら、アーティスト名にしちゃおうと。中身が空っぽのアーティスト名を作って、そこの箱に楽曲を溜めていったほうが、Apple MusicにもSpotifyにも、『MAISONdes』としてのページができるので、認知してもらいやすいと考えました。

――レーベルだったら、アーティストごとにバラバラになってしまうところが、アーティスト名にすることで一覧として見られる。ちょっと目からウロコの発想ですね。

本来の機能でいうと、“レーベル”で良いんだと思います。かつて音楽ファンの間で“レーベル買い”が行なわれていたときと同じことをやりたかったんです。例えば、ニルヴァーナが契約していたときのSUB POPとか。このレーベルから出てるものは自分の嗜好性に合うとユーザーが認知できるというのが、本来のレーベルの役割だったと思うんです。でも今は、レーベルと言っても多くの若い人に言葉の意味を理解してもらえないので、わかりやすくしているという感じです。

――そこが新しいですよね。シンガーソングライター集団のGoose house(新しいタブで開く)ぷらそにか(新しいタブで開く)とも違うシステムですね。

そうですね。Goose houseもぷらそにかも、“そのなかに誰がいるか”が重要ですけど、『MAISONdes』の中身は空っぽです。誰でも入れる部屋だけがある。聴いてくれるあなたの部屋でもあるというのがポイントになっています。

――アパート名である『MAISONdes』はどうやって決めたんですか?

最初はすごくのんびりしていて。こういうことをやろうという概要ができたのが2020年の夏くらいだったんですが、名前を決めるのは怖いし、めちゃめちゃ後回しにしてたんです。それが、たまたまyamaさんと泣き虫☔さんの曲でタイアップのお話をいただけて。これも、先にライブが決まったバンドと同じようなことですけど、すぐに出さざるを得なくなっちゃって。やべぇ、名前決めてないぞって(笑)。それもくじらくんにアドバイスをもらいながら決めた気がします。

 
後編につづく

文・取材:永堀アツオ

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