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連載Cocotame Series

ミュージアム~アートとエンタメが交差する場所

新企画展「しあわせは、みんなの笑顔」もスタートした『スヌーピーミュージアム』の現在地【前編】

2022.02.14

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連載企画「ミュージアム ~アートとエンタメが交差する場所」では、アーティストや作品の魅力を最大限に演出し、観る者の心に何かを訴えかける空間を創り出す人々にスポットを当てる。

今回取り上げるのは、今では国内の『ピーナッツ』ファンの聖地と言われる『スヌーピーミュージアム』。1月15日から新たな企画展「しあわせは、みんなの笑顔」が始まり、スヌーピーやピーナッツ・ギャングが訪れた人々に笑顔の輪を広げている。この企画展の見どころを紹介するとともに、クリエイティブ・ディレクターの草刈大介氏に、企画の狙い、そしてコロナ禍の今、ミュージアムがはたす役割について話を聞いた。

前編では、新企画展の内容をレポートするとともに、企画展に込められた意図を語ってもらった。

スヌーピーミュージアム

『スヌーピーミュージアム』は、アメリカ・カリフォルニア州サンタローザにある『シュルツ美術館』の世界唯一の公式サテライト(分館)。2016年から2018年まで東京・六本木で開館したのち、2019年12月からは南町田グランベリーパークに移転してリニューアルオープン。六本木から約2倍の広さの施設に生まれ変わり、『ピーナッツ』の生みの親であるチャールズ M.シュルツ氏の写真や映像、コミック『ピーナッツ』とその登場人物たちにまつわる、原画やヴィンテージグッズなどが展示される常設展が新設された。さらに、全長約8mの巨大スヌーピーなどと出会える「スヌーピー・ルーム」、昨年11月には画家・今井麗氏の油絵が飾られた大きなドッグハウス、スヌーピーの「ベリー・ハッピー・ホーム」も新たに登場。半年ごとに開催される企画展も好評を博している。ほかにも、館内にはワークショップルームやオリジナルグッズが並ぶショップを併設。隣接する「PEANUTS Cafe」では、『ピーナッツ』にちなんだメニューも提供されている。

【新企画展レポート】テーマは“笑顔”――貴重な原画・複製原画を約60点展示

1月15日から7月10日まで開催中の『スヌーピーミュージアム』の企画展「しあわせは、みんなの笑顔」は、その名の通り“笑顔”がテーマ。一般公開に先んじて行なわれた内覧会では、クリエイティブ・ディレクターの草刈大介氏によるギャラリーツアーが行なわれたので、企画展の写真とともに見どころを紹介しよう。

取材に訪れたプレスに向けて、ギャラリーツアーを行なう草刈氏。

今回の企画展では、笑顔にまつわる『ピーナッツ』の原画・複製原画を約60点展示。そのうち約半数が原画、残る約半数が複製原画だ。

草刈氏によると、“笑顔”というテーマを選んだ理由はふたつあるという。ひとつはコロナ禍の今だからこそ、人に笑顔や笑いを届けるため。もうひとつは、そもそも『ピーナッツ』が笑いをテーマにした作品だからだという。

「シュルツさんは、新聞連載であった『ピーナッツ』という作品を通して、人々の毎日の暮らしのなかに笑いを届けてきました。そのなかには、ストーリーで笑わせるものもあれば、絵や表情で笑いを誘う作品もあります。今回の展示でも、物語と絵、両方で『ピーナッツ』らしい笑いを味わっていただけるよう作品を選びました。展示をご覧いただければ、シュルツさんがいかに笑いを意識していたかがわかると思います」(草刈氏)

【新企画展レポート】微笑みからニヤニヤ笑いまで、笑顔広がる6つのカテゴリを紹介

笑顔あふれる作品の数々を、会場では6つのカテゴリに分けて展示。楽しさいっぱいの大笑いからニヤニヤ笑い、穏やかな微笑みまで、さまざまな笑顔を観ることができる。前半は、笑ったり笑われたりというにぎやかな作品が中心。後半に進むにつれ、しっとりした笑いが広がっていく。それぞれの見どころを紹介していこう。

Category① 笑わせておくれよ、チャーリー・ブラウン

一生懸命にやった行動や結果が、ときにみんなに笑われる、気の毒な少年チャーリー・ブラウン。そんな彼にまつわる笑顔を、自虐的、被害妄想的なものも含めて展示。

「ボウリングで珍しくハイスコアを出してトロフィーをもらうけれど、名前が間違っていた……なんて、これはちょっと酷いな、と思う笑いもあります(笑)。でも、チャーリー・ブラウンは明日の自分。自分自身にも起こり得る出来事を、彼らのように笑い飛ばしてはいかがでしょうか」(草刈氏)

Category② 笑って笑って吹き飛ばせ!

スヌーピーやピーナッツ・ギャングは、それぞれの性格や境遇で苦労することもある。でも、それらを笑ってやりすごす術も、彼らは知っている。

「おすすめは、シュローダーとルーシーが登場する『天下無敵のポジティブ思考』です。シュローダーに片思いしているけれど、相手にしてもらえないルーシー。せっかくあげた写真も、彼に捨てられてしまいました。でも、めげることなく『ということは、彼は私の写真に触ったのね』と喜んでいる。ルーシーのこの前向きさが良いですよね」(草刈氏)

Category③ ニヤニヤが止まらない

企画展のキービジュアルにもなっている、ニヤニヤ笑いのスヌーピー。実はこれ、『不思議の国のアリス』に登場するチェシャ猫を真似た表情であることが、原作コミックで描かれている。

「ニヤニヤは悪だくみ、意地悪を考えている顔。ここでは、普段あまり見かけないスヌーピーの表情が、たくさん見付かるはずです」(草刈氏)

Category④ ハッピー! ハッピー! ハッピー!

その名の通り、幸せな笑顔で満たされたキャラクターたちが続々登場。スヌーピーがとびっきりの笑顔で踊るお馴染みの「ハッピーダンス」も、ここで見ることができる。

「幸せを感じたとき、彼らはどういう顔をするか。そんな作品を集めてみました」(草刈氏)

Category⑤ ついニコニコしちゃうしあわせ

日常生活のなかでうれしいことがあると、思わず口角が上がるはず。そんな穏やかなスマイルを集めたコーナー。

「おすすめは、壁に大きく描かれた『仕上げに、きみのスマイルを』。ウッドストックの絵を描いていたスヌーピーは、最後ににっこり笑った口を描き加えます。ちょっとした幸せって、もしかしたら見過ごしているかもしれない。そんなことを思い出させてくれる作品が集まったコーナーです」(草刈氏)

Category⑥ スマイルの連鎖

誰かが笑っていたら、ついつられて笑顔になってしまう。そんなスマイルの連鎖を、時に微笑ましく、時には毒をまじえて描いた作品群。

「サリーがサンドイッチをチャーリー・ブラウンに作ってあげると、チャーリー・ブラウンがスヌーピーの真似をして、『こんなおどけた犬がいたよね』とげらげら笑う。いっぽうスヌーピーは、外からその様子を見ている。『ぼくのしあわせを笑うなんて!』という作品では、そんな掛け合いの笑いも楽しめます」(草刈氏)

企画展の開催にあたっては、笑顔、笑いというテーマ、各カテゴリについて、『シュルツ美術館』が解説コメントを寄せている。シュルツ氏が笑いについてどんな思いを抱いていたのか、ぜひ参照しながら作品を楽しんでほしい。

なお、シュルツ氏は2022年11月26日に生誕100周年を迎える。2022年のアニバーサリーイヤーは、日米でさまざまな企画が開催される予定だ。『スヌーピーミュージアム』では、生誕100周年記念の特設サイト(新しいタブで開く)を開設し、シュルツ氏の生い立ちや『ピーナッツ』の歴史について100のエピソードを紹介している。100周年記念グッズも準備が進められているとのことなので、ぜひこちらのサイトもチェックしよう。

また、南町田グランベリーパークでは2月27日まで、スヌーピーたちと一緒にアイススケートが楽しめる「スヌーピーのアイスアリーナ」をオープンしている。さらに、全国を巡回していた巨大スヌーピーを乗せたトラック「SNOOPY HAPPINESS FLOAT 2021」の展示も行なわれているので、『スヌーピーミュージアム』を訪れた際は、こちらに立ち寄ることもお忘れなく。

「スヌーピーのアイスアリーナ」

「スヌーピーのアイスアリーナ」にはフォトスポットも用意されている。

「SNOOPY HAPPINESS FLOAT 2021」

【インタビュー】大衆文化としての『ピーナッツ』も、しっかりと伝えたい

  • 草刈大介氏

    Kusakari Daisuke

    『スヌーピーミュージアム』クリエイティブ・ディレクター

──今回の企画展は、「しあわせは、みんなの笑顔」がテーマです。先ほどギャラリーツアーで草刈さんご自身もお話しされていましたが、このテーマを選んだ理由について詳しく教えてください。

展覧会の企画テーマは、ミュージアムを運営するソニー・クリエイティブプロダクツの皆さんとも意見交換しながら、だいたい2年ぐらい前から考え始めるんですが、『スヌーピーミュージアム』が南町田に移転するときには、オープン前の時点で既に4つのテーマを準備していました。

ただ、新型コロナウイルスの感染が拡大してしまったので、移転後、最初の企画展だった「ビーグル・スカウトがやってきた!」の開期途中で休館せざる得なくなって。結局、見に来られない人が多すぎるという判断と、次の準備がままならない状況もあって、1年以上つづけることになりました。その後のテーマに関しても、社会の情勢が変化していったこともあり、改めて企画を練り直すことになったんです。

そんななか、「コロナ禍で世の中の人ができなくなってしまったことと、必要なことって何だろう」と考え、挙がったのが“旅”と“笑顔”というテーマでした。先の見えない時代に、どうすれば『スヌーピーミュージアム』が皆さんの励ましになれるのか。少しでもプラスになることがしたいという話になって、“笑顔”や“笑い”を軸にした企画展を考えることになったんです。

それともうひとつ、皆さんに伝わってほしいことがあって。それは『ピーナッツ』が特別に高尚な作品ではないということ。もちろん、約半世紀も連載がつづいたマンガで、ピーナッツ・ギャングはいつ見てもかわいいし、素晴らしい作品であることは間違いないんですけど、神格化され過ぎてしまうのは違うなと僕は考えていて。

『ピーナッツ』は、ザラザラの紙に印刷された新聞マンガで、大衆文化のひとつなんですね。それを芸術性が高い、作家性がある、哲学的であると捉える向きがありますが、作者のシュルツさん自身は、それを特別意識して描いていたわけじゃないんです。

彼の一番の目的は、新聞という毎日発行されるメディアを通して、不特定多数の人が「クスッ」と笑える上質な笑いを届けること。だから、企画展のテーマの軸に“笑い”を持ってくれば、「『ピーナッツ』ってこんなに身近なものなんだ、難しく考える必要はないんだ」ということを伝えられる良い機会になると考えました。

──企画展のキービジュアルには、あまり見ることのないスヌーピーの表情が採用されています。数あるスヌーピーの笑顔のなかでも、これを選んだ意図は?

キャッチ―なビジュアルなので広告的な意図もありますし、『スヌーピーミュージアム』のテーマにも関わっています。僕らは、六本木で『スヌーピーミュージアム』がオープンしたとき、世界的なブックデザイナーのチップ・キッドさんに、キービジュアルや『スヌーピーミュージアム』のショップで販売する図録のデザインの一部を依頼しました。

スヌーピーって、日本ではほとんどの人が見たことがあると思います。そして、シュルツさんのキャラクターデザインが素晴らしいので、ポンと置くだけでも良い感じのデザインはいくらでもできるんですね。だから、日本では見たことがあるデザインがあふれているので、それだけじゃないんだよというのを見せたくて、あえて外国人であるチップ・キッドさんにデザインをお願いしたんです。

今回の企画展でも、“笑顔”がテーマなのでニコニコしているスヌーピーを選べば、既視感から来る安心感は提供できると思うんですね。でも、『スヌーピーミュージアム』がやるなら「なんでこの表情なんだろう?」「どんな意図が込められているんだろう?」と想像を膨らませ、期待を抱いてもらえるビジュアルのほうが良い。それが『ピーナッツ』という作品へのリテラシーやエンゲージメントを高められる、ミュージアムとしての役割なんじゃないかと考えたんです。

──なるほど。挙げていただいた通り、広告としてのキャッチーさもありますし、迎合しすぎても外しすぎてもダメという線引きは、まさにクリエイティブ・ディレクターの手腕が問われるポイントだと思いますが、草刈さんなりの見極め方を教えてください。

キービジュアルについては、僕だけじゃなく祖父江(慎/『スヌーピーミュージアム』のアート・ディレクター)さんが選ばれることもありますし、ほかのスタッフが選ぶこともあります。その上で、挙がった候補のなかから、長期スパンで見たときに、どれがビジネスとしてのボリュームを一番上げてくれるのかを考えていきますね。

今回の企画展で言えば、このビジュアルを選んだのは祖父江さんです。最初は笑顔をいくつも並べて多彩な色を付けたグラフィックを作ろうと相談していたんですけど、実際作ってみたら祖父江さんが「面白いんだけど、なんかねぇ……」と納得いかない様子で。

それで、代わりに提案してくださったのが、このビジュアルだったんです。このイラスト、スヌーピーのビジュアルとしては、なんかおかしいですよね? どこか心地悪いし、安心感がありません。でも、文字の置き方、書体の組み合わせを考えても、こっちのほうが圧倒的に良いなと思いました。

これは『ピーナッツ』に限ったことではありませんが、僕は作り手側は、もっとファンや世間の人々を信用しても良いんじゃないかと。作品やクリエイターに対するリスペクトや愛情があった上での外した見せ方なら、ファンの方たちはわかってくださると思うんです。

それに世の中には、見たことがあるものがあふれていると感じていて。「こうしておけば良いだろう」「よくある感じに作っておけば安心」という考えでは、どんどんクリエイティブが縮小されていくし、そこに携わる人間として義務を果たせていない気がします。

こちらの意見がすべて通るとか、僕らが作ったクリエイティブがすべての人に認められるなんてことはあるわけがないんです。でも、だからと言って、妥協するのも違う。やっぱり挑戦しないと広がっていかないと、僕は考えています。

後編につづく
 

文・取材:野本由起
撮影:篠田麦也

©Peanuts Worldwide LLC

『スヌーピーミュージアム』(町田)

所在地:東京都町田市鶴間3-1-1
アクセス:東急田園都市線・南町田グランベリーパーク駅より徒歩4分
東名高速道路・横浜町田ICより約1km
 
休館日:2月15日(火)
開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
 
【入館料】
一般・大学生:1,800円(前売券)/2,000円(当日券)
中学・高校生:800円(前売券)/1,000円(当日券)
4歳~小学生:400円(前売券)/600円(当日券)
 
スヌーピーミュージアムでは、日時指定の前売券を販売
当日券は、前売券の販売状況に余裕のある場合にミュージアムの窓口にて販売
 
チケットは、イープラスにて販売中(先着順)
https://eplus.jp/sf/word/0000136396(新しいタブで開く)
ワークショップのチケットは、パスマーケットにて販売中
https://snoopymuseum.tokyo/s/smt/group/list?ima=0000&cd=workshop(新しいタブで開く)
 
PEANUTS Cafe スヌーピーミュージアム
営業時間:10:00~19:00(ラストオーダーは18:00)
席数:90席

関連サイト

『スヌーピーミュージアム』公式サイト
https://www.snoopymuseum.tokyo/(新しいタブで開く)
 
『スヌーピーミュージアム』公式Instagram
https://www.instagram.com/snoopymuseumtokyo/(新しいタブで開く)
 
シュルツ100公式サイト
https://snoopymuseum.tokyo/s/smt/page/schulz100_1(新しいタブで開く)
 
日本のスヌーピー公式サイト
https://www.snoopy.co.jp/(新しいタブで開く)
 
日本のスヌーピー公式Facebookページ「Snoopy Japan」
https://www.facebook.com/SnoopyJapan(新しいタブで開く)
 
日本のスヌーピー公式Twitterアカウント「Snoopy Japan」
https://twitter.com/snoopyjapan(新しいタブで開く)

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