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音楽ビジネスの未来

音楽とテクノロジーが交差するXRライブプロジェクト『ReVers3:x』が描く未来【後編】

2022.05.14

聴き方、届け方の変化から、シーンの多様化、マネタイズの在り方まで、今、音楽ビジネスが世界規模で変革の時を迎えている。その変化をさまざまな視点で考察し、音楽ビジネスの未来に何が待っているのかを探る連載企画「音楽ビジネスの未来」。

今回は、ソニーグループの最先端技術とソニーミュージックがタッグを組み、全世界に向けてXRライブの配信を実施した新たな仮想空間エンタテインメントプロジェクト『ReVers3:x(リバースクロス)』の関係者を迎えて、ソニーグループを横断する取り組みや仮想空間上でエンタテインメントが、今後どのように発展していくのか展望を聞いた。

後編では、『ReVers3:x』の制作ストーリーやこの先の展開について語ってもらう。

  • 伊東孝俊氏

    Ito Takatoshi

    株式会社MomentTokyo
    代表取締役

  • 林亮輔

    Hayashi Ryousuke

    ソニーグループ

  • 増田徹

    Masuda Tooru

    ソニーグループ

  • 齋藤亮太

    Saito Ryota

    ソニー・ミュージックレーベルズ

  • 菊田省吾

    Kikuta Shogo

    ソニー・ミュージックレーベルズ

  • ゲームエンジンを活用して表現域を拡大

    ──(前編からつづく)KEIJUのライブ映像をゲーム制作に用いられる「Unreal Engine」で制作したことで、仮想空間における照明演出の表現の幅も広がったと聞きました。

    伊東:仮想空間のライブに照明の演出が必要なの? と思われるかもしれませんが、ライブを作っていますので、リアルと変わらない照明演出が必要不可欠なんですね。ソフトウェアもいくつか駆使しながら、このフェーダーを上げたらここが光るとか、事前に照明のパターンを作っておくだとか、リアルライブで照明技師の方が考えて、行なう作業と同じことを仮想空間でも実行しています。

    齋藤:実際に映像をご覧いただくとわかりますが、パフォーマンスをするKEIJUに照明が綺麗に違和感なく乗っていて、「Unreal Engine」を使用した恩恵が見て取れます。

    伊東:その上で、『ReVers3:x』でのKEIJUのライブは、彼の要望と楽曲にできるだけ沿った照明演出を心掛けました。ちなみに、ライブにおいて照明の存在感が一番高まる瞬間というのは、実は暗転なんですね。これから、まさにライブが始まるという瞬間は真っ暗になって、期待でドキドキするじゃないですか。僕らはあの瞬間を街全体で表現したいなと話していて、今回は実現できなかったので、次回やりたいことにとってあります(笑)。

    林:リアルのステージだとひとつの特効を仕込むのに、人件費を含めて数十万、数百万という金額がかかってきますが、バーチャルのステージを作ってしまえば、なんでもかんでもとは言わないまでも、かなり自由度高く演出ができる。今後は、クリエイターの方々にそういった視点でも見ていただけると、またいろいろなアイデアが出てくるのではないかと思います。

    ──映像のクオリティがあがればあがるほど、演出のバリエーションも増えてくるわけですね。いっぽうで、今回のKEIJUのライブ映像では、自然で違和感のない演出にも好感を感じました。

    菊田:バーチャルであっても、あの広い空間のなかにKEIJUがひとりで立って暖かみのある光が注ぎ込まれる光景や、彼の後に林立するビル群、道路の水たまりに光が乱反射するシーンはエモーショナルな映像表現になっていると思います。

    さらに、3Dデータでしかできないカメラワークに2Dの映像が絶妙にカットインされていて、映像表現としての新しさを感じつつ、見慣れたシーンでライブパフォーマンスに集中できるのもMomentTokyoの皆さんの腕の見せ所だったと思いますし、やはりさまざまなノウハウを持っていらっしゃるなと感じました。

    伊東:自然に見える光の反射は専用のソフトウェアを使って再現できます。また、「Unreal Engine」のバージョンをアップデートすれば、より自然で温かみのある照明も入れられるので、それも次回に導入できればと思っています。

    ただし、何もない素のステージでも人々を感動させられるのがアーティストの力であり、そこに演出が感動の情緒を加えるという順番を大事にしているので、アーティストの魅力を過度に演出するのではなく、感動を呼び起こす装置にするという考え方をベースにして作っています。

    ──パフォーマンスを行なったアーティストサイドの反応はいかがでしたか。実際の収録ではグリーンバックでパフォーマンスされているわけで、オーディエンスが目の前にいるわけではなく、それなりの難しさがあったと思うのですが。

    齋藤:その難しさは、収録前に伊東さんからも指摘されていて。MomentTokyoが手掛けた過去の事例からパフォーマンスをするまでのディスカッションと、現場スタッフとアーティストとの意識共有が非常に重要だと教えてもらいました。そのアドバイスがあったからこそ、KEIJUには事前に説明できたんですが、やはり本人もお客さんがいない、グリーンバックのスタジオでライブパフォーマンスをするのは「めっちゃくちゃ難しい」とは言っていましたね。

    ただ、撮影チームの皆さんが積極的にコミュニケーションしてくれて。そこから「これから一緒にライブを作るんだ」という意識が芽生えたようで、「やってやろう」というスイッチが入っていましたね。結果的にはすごくかっこ良いパフォーマンスを披露してくれて、こういう状況にも対応できる稀有なアーティストというか、新しい表現に挑戦しているなと感じました。

    ──今の時点で、そういった体験ができたということは、制作側にとってもアーティスト側にとっても大きな経験だったのではないでしょうか。

    齋藤:自身のミュージックビデオをグリーンバックで撮って、CGまで作るアーティストも出てきているので、次の世代はグリーンバックでライブをやることになんの違和感も抱かない世代が現われてくるでしょうね。今はそんな過渡期ではないかと思います。また、KAYNDYTOWNというシックなHIPHOPクルーの一員でもあり、デジタルへのアプローチのイメージがないKEIJUが、最初に『ReVers3:x』にチャレンジしてくれたことに意義があったなと感じています。

    ただ、彼自身がデジタルに対してアゲインストという感じはまったくなくて、海外のラッパーたちがゲームカルチャーに親和性を抱いていることなどもよく理解しているし、『ReVers3:x』での完成版を見て「やばいっすね」というようにおもしろがってくれたのは良かったですね。

    クリエイティビティがあって、それを支えるテクノロジーがある

    ──そのバーチャルライブですが、現在で55万回の再生を記録しています。視聴者側のリアクションも上々というところでしょうか。

    菊田:配信直後は、単純に「映像がすごい!」「KEIJUのパフォーマンスがカッコ良い!」という声をたくさんいただきましたが、そういう方たちが繰り返し見ているうちに細かいところにまで気付いてくれるようになって。

    ゲームコミュニティの「vaultroom」の看板があると発見してくれる人がいたり、KANDYTOWNのジャケ写やアルバムタイトルの広告に気付いてくれる人がいたり、「ここにも何かあるぞ」というように、SNS上でざわざわするリアクションが起きました。これは本当にうれしかったですね。KEIJUのバーチャルライブという入り口から入って、楽曲とパフォーマンスを楽しむだけでなく、その根底にある世界観にまで目を向けてもらえたことで、皆さんの『ReVers3:x』に対する理解度が高まって、次回以降の配信も展開しやすくなったと思います。さらに、海外のゲームメディアでも取り上げてもらえたので、『ReVers3:x』の世界観が徐々に広がってくれれば良いなと。

    ──いっぽうで、ここはもうちょっと手を加えたかった、また制作したからこそわかったことなどがあれば教えてください。

    齋藤:コンテンツ制作にかける時間制限があるなかで、『ReVers3:x』を動かすこと自体が初めてだったので、そこに工数や時間的なコストがかかってしまいました。でも、今回の制作でいろいろなノウハウを得ることができたので、次はどういうカメラワークを作っておこうかとか、ここの部分はあらかじめ用意できるとか、もっとクリエイティブに時間が割けるとは感じています。

    伊東:個人的な感想になりますが、このプロジェクトに取り組む皆さんの姿勢から気付きを得ることがあって。今、ボリュメトリックキャプチャでライブを撮るなら、圧倒的に1曲ずつ撮ったほうがやりやすいんですね。林さん、増田さんからも、それは最初に言われていたんですが、「ぶつ切りで撮っていくとライブ感が出なくなってしまうので、何とか3曲通しで撮ってもらえませんか」とお願いしていたら、増田さんが「わかりました、やりましょう!」と応えてくださって。エンジニアサイドの方がそんなことを言えるのって、単純にすごいなと思ったんですよ。そのあとの処理がめちゃめちゃ大変になることはよくわかっていましたから。

    それでもライブのカルチャーや僕らがやりたいことを汲んで、技術面でサポートをしてくださる。そこに、技術のソニーとエンタメのソニーミュージックのシナジーを感じました。コンテンツを制作していたころの技術だと、3曲くらいのボリュメトリックの長尺のデータを「Unreal Engine」で扱うのは、まだ厳しかったんです。だけど、それを改善しようとアップデートに取り組まれるし、いろいろな映像技術を見てもやっぱりボリュメトリックキャプチャは可能性があるなと感じて、これからも皆さんとご一緒したいと思いました。

    増田:そう言っていただけると、僕らも報われます(笑)。我々としては、「この技術すごいでしょう」という見え方にはならないように心掛けているんですね。アーティストやクリエイターの方たちがいてこそ、我々の技術がいきる場、いかせるコンテンツが生まれる。この考え方が根底にあるので、伊東さんたちが大事にしたいと言っていることが理解できるようになりました。だから、目新しさでボリュメトリックキャプチャを使おうとしているなとか、このコンテンツには必要ないなと感じたら、「それは2Dで撮ってもらったほうが良いですよ」と指摘させていただきます。そういう考え方も皆さんと通じ合えた部分かなと思いますね。

    林:ネットワーク上のコンテンツ、しかもメタバースになってくると3D上の演出が必要不可欠です。では、その演出の知見をどのように溜めればいいのかというと、やはりコンテンツを生み出すことができるIPホルダーと協業するのが一番の近道だと思います。そのリソースがグループ内にあるというのは、すごく強みになる。そういった意味で、今回は理想のコラボレーションができたので、今後もこれを発展させていきたいです。

    齋藤:これまではだいたいビッグヒットを持つアーティストで、こうした新しい取り組みが行なわれてきましたが、KEIJUというストリートカルチャーにも根ざしていて、音楽のカルチャー以外からも評価の高いラッパーで、この挑戦的な施策に取り組めたことに価値を感じました。プロジェクトチーム以外でも、その点に反応してくれる方たちがいて、「それならこういう技術もありますよ」とご連絡をいただいたり、このプロジェクトだからできる新しい取り組みに関しても、改めて意識するようになりましたね。

    デジタルアートと音楽の融合が進む交差点に

    ──HIPHOPを中心に、クリエイティビティとテクノロジーが交差するひとつのプラットフォームを生み出した『ReVers3:x』ですが、今後、ビジネス面での展望はどのように描いているのでしょうか。

    齋藤:アーティストやクリエイターはもとより、制作に携わっていただいたすべての方々にしっかり利益を還流するエコシステムを構築していきたいと思っています。例えば『ReVers3:x』内では、デジタルアーティストとして活躍するOFBYFOR TOKYOのmidoriさんに、今回は3箇所、デジタルアートを入れてもらったのですが、NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)を使うことで良い循環が作れる可能性もあるので、そういったことは常に考えています。

    いっぽうで、『ReVers3:x』の世界観や技術を活用した、リアルのライブを開催することも想定できます。いずれにしても、バーチャルライブの『ReVers3:x』を起点にして、形態にとらわれず楽しんでもらえるものをメディアやゲーム、ファッション業界などにもお声掛けしながらビジネスを拡張していければと考えています。

    菊田:そのためにも、まずはアーティストにパフォーマンスをしてもらう場をしっかりプロデュースしていくことが大事ですね。ストリートカルチャーやコミュニティがクロスする場所に『ReVers3:x』を成長させて、アーティスト同士のコラボレーションが生まれたり、デジタルアートと音楽の融合が進むように取り組んでいきます。さまざまな可能性を包括したプラットフォームを作らせてもらえたので、長期的にチャレンジしていけたらと考えています。

    伊東:個人的にはメタバースにおけるビジネスの在り方というのは、できるだけシンプルに考えるようにしているんですが、自分としては成功の条件は3つだと考えていて。それが、めちゃくちゃ人が集まる場所か、今までにないおもしろさを提供する、もしくは独自性のあるサークルです。

    その上で、人が集まるところは既に大きな集客力を持つプラットフォーマーがやればいいのではとも思っていて。『ReVers3:x』が、残り2つのどちらに舵を切るかは今後次第だと思いますが、独自性は絶対にありだと思います。会社として『ReVers3:x』を運用していくには調整だったり、結果を出しつづける大変さはあると思いますが、日本のHIPHOPシーンという独自性のあるコミュニティを拡張していくツールとして、長期的に機能させることで、「『ReVers3:x』だったらカッコ良いしアリだね」と言ってもらえるような、そんな空間になっていくことがより良い未来につながっていくのではないでしょうか。

    ──そうなると、その独自性のあるクリエイティビティを支えるテクノロジーというのが、今後ますます重要になると思いますが、ボリュメトリックキャプチャをビジネスとして捉えた場合、ソニー側としては今後どういう考え方ができるのでしょうか。

    増田:XRテクノロジーの進化に紐付けられるボリュメトリックキャプチャは、『ReVers3:x』での取り組みも含めて、今まさにビジネス検証を行ないながら、今後取り組んでいくべきことを精査しているところです。

    その上で思い付くこととしては、コンテンツを制作するスタジオの機能を拡充させて、ボリュメトリックキャプチャスタジオとして使っていただくだったり、画像のデータを処理するクラウドサービスのアルゴリズムを提供することも考えられます。あとは、撮影した3Dデータをアセットとして販売していくことも挙げられますね。その3Dデータを使ってアプリを開発したり、新しいコンテンツを作ったりすることで、ビジネスチャンスにつなげていければと考えています。

    林:VRヘッドセットに代表される、3Dの視聴環境が整備されるのはまだもう少し先のことになりますが、実際に環境が整ったときにどれだけ対応コンテンツの価値を高めて、提供スピードを上げられるかということも重要ですね。だからこそ、今は時間をかけて地道に知見を溜めていくべきだと思っています。テレビも含めた、2Dの今ある放送への応用をつづけながら、3Dのコンテンツを発展、普及させていきたいですね。

    ──『ReVers3:x』はHIPHOPを中心に展開していくことを明示していますが、例えばアイドルやアニソンなど、ほかのジャンルのアーティストが登場する可能性は考えられるのでしょうか。

    菊田:『ReVers3:x』のネーミングの話になりますが、“リバース”には時代の流れに逆行してもカッコ良いものはカッコ良いという意味が込められていて、“クロス”にはさまざまなカルチャーを掛け合わせる象徴という意味を込めているので、ストリート、ゲーム、サイバーパンクという『ReVers3:x』と親和性の高いイメージを持つアーティストやIPであれば可能性は十分にあると思います。

    齋藤:最初にお話しした通り『ReVers3:x』は、HIPHOPのフィールドを拡大させることを目的に立ち上げていますが、菊田が言った通りジャンルを限定するわけではなく、異なるカルチャー同士が交わって新しいものができれば良いという考え方をしています。バーチャルライブにおけるアーティストのパフォーマンスと、デジタル領域のアート表現、さらにそこにバーチャルならではの演出の要素をかけ合わせた新しいコンテンツを、『ReVers3:x』から生み出していきたいですね。気鋭のデジタルアーティストに関わってもらったりとか、街の中も景色が変わったり、世界観をどんどん発展させるチャレンジはつづけていきたい。次回も驚きと感動を提供するライブを届けられるように精力的に活動していきます。

    文・取材:油納将志
    撮影:増田慶

    関連サイト

    ReVers3:x | リバースクロス YouTube公式チャンネル
    https://www.youtube.com/channel/UCIhFxvd6YkutchugsFqpbzA

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