耳で“聴く”から体に“効く”へ。アプリ『life image』が描く未来【後編】
2022.07.01
“0”から生み出された“1”というヒット。その“1”を最大化するための試みを追う連載企画「ヒットの活かし方」。
2000年に第1弾が発売され、多くのファンに愛されてきたリラクゼーションミュージックのコンピレーションCD『image』シリーズ。その名を冠した音楽アプリ『life image』が誕生した。より生活に密着した音楽を提供することで、人々のウェルネスに貢献することを目的としたこのアプリに込められた想いと狙いとは。開発の中核を担ったソニー・ミュージックレーベルズの原賀豪と梶望が語る。
前編では、アプリ開発のきっかけと、特徴を聞く。
原賀 豪
Haraga Go
ソニー・ミュージックレーベルズ
梶 望
Kaji Nozomu
ソニー・ミュージックレーベルズ
2000年に第1弾をリリースし、シリーズ累計350万枚のセールスを記録。長年リラクシングミュージック市場を牽引してきたコンピレーションアルバム『image』から生まれたリラクゼーションアプリ。 “睡眠”“リラックス”“集中”のテーマをユーザーが選び、Apple MusicまたはSpotifyと連動して、 適した楽曲が再生される。ユーザーが各楽曲に“like”“dislike”の評価をすることで好みを学習し、よりユーザー個人に寄り添う選曲がされる仕様となっている。『life image』のリラクゼーション効果をプロモーションする個性的なイベントも定期的に開催中。
――生活に寄り添い、聴く人に合わせた音楽を再生してリラックスに導くことを目的にしたリラクゼーションアプリ、『life image』が5月に誕生しました。まずはおふたりの『life image』への関わり方から教えてください。
原賀:私はソニー・ミュージックジャパンインターナショナル(以下、SMJI)という洋楽のレーベルで長年クラシックとジャズのレコード制作をしています。なかでも現在21作までリリースされている『image』というリラクゼーションミュージックのコンピレーションアルバムを7作目からずっと担当しておりまして。その流れで、今回、『image』シリーズの新しいブランディング施策として、2年ほど前からこの『life image』というリラクゼーションアプリの開発に携わることになりました。
梶:僕は主にエピックレコードジャパンというレーベルで邦楽のマーケティングをやりながら、『life image』のプロジェクトを兼務しています。もともと、この企画が立ち上がる前からユーザーごとにパーソナライズが可能なリラクゼーションアプリの開発を新規事業のアイデアとして会社に提案していたんです。そしたら、実はSMJIでも同じようなことを実現しようとしている、と。そういった経緯で原賀さんと出会い、一緒にここまできたという感じですね。
――梶さんがこういったアプリを発案されたきっかけというのは?
梶:ソニーミュージックに入って5年になるのですが、入社して一番驚いたのが、“One Sony”的なムードと言いますか、グループ会社とのコラボレーションがとても活発なことだったんです。ちょうど僕が入ったタイミングあたりから、そういった動きが活発化しはじめたらしいのですが、そこにとても刺激を受けまして、自分のなかでコラボ企画を考えるのがブームになっていた時期があったんです。「こんなこととこんなことを組み合わせたら超面白いじゃん!」みたいなアイデアがポンポン出てきて、リラクゼーションアプリはそのなかのひとつだったんですよね。
でも、最初のアイデアはもっとカッティングエッジで、ユーザーの脳波を読み取ってそのユーザーに最適なプレイリストを自動生成できる、そんなプログラムが組めないかという企画だったんですよ。ただ、いろんな方とディスカッションしていくなかで、それに関しては「まだ10年早い」と言われてしまいまして(笑)。だったら今の技術で、レコメンデーションエンジンを積んだプレイリストアプリを作ることはできないか、それは今後の音楽マーケットを考える上でもアリだろうということで『life image』に繋がっていったんです。
――アプリを開発することに新しいビジネスの可能性を感じたわけですか。
梶:そうですね。世界でどんな音楽が聴かれているのか、データを見ていくと、インディーズ界隈では就寝時に聴くための音楽とか、いわゆるリラクゼーションミュージックの需要が非常に高いことがわかったんです。アーティスト名や曲名は知らないけど、ただ寝るときにかける音楽というものがあって、寝ている間もずっとかけているからそのぶん再生数が上がるっていう。それって起きて意識があるときに聴かれる音楽以上に、ビジネスとしては成立しやすいんじゃないかと。聴かれれば聴かれるほど利益が生まれる、再生時間をお金に変えていくのがサブスクリプションマーケティングのあり方なので。
もちろん音楽家からすればファンの方にしっかり目的意識を持って聴いてもらうほうがうれしいとは思うんですが、サブスクリプションというサービスが主流になりつつある今、音楽の聴かれ方やシチュエーションにもさまざまな機会があって然るべきだろうな、と。そういう意味では、『image』はブランドとして確立されていますし、原盤もあるので、それをいかしてまったく別のビジネスに転換していったらどうなるんだろう? というところからスタートしたのが、このプロジェクトなんですよね。
――原賀さんに前回、『image』についてお話を聞いた際、「単なるコンピレーションアルバムのシリーズではなく、もっと多角化させたい」と語っていましたが、その時点ではもうアプリ開発は進んでいたんですね。
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原賀:はい、実は開発中でした(笑)。本当はあのときも言いたかったんですけど、まだ開発の過程で未確定なことばかりだったので匂わす程度になってしまって。以前から『image』の新たなブランディングは絶対に取り組まなければいけないことと考えていたところにアプリ開発という企画が立ち上がり、梶さんに教えを請いながらまさに開発を進めていたところだったんです。
ただ、当初、僕自身は『image』をアプリ化するというのは想像もしていなくて。ほんと目から鱗の連続でしたね。アプリの開発って、それこそCDを1枚、企画して、作って、宣伝して、販売するという流れとは、ビジネスのスキームが根本から違うんですよ。扱うものが音楽だという点では同じなんですけど。
梶:原賀さんはクラシック畑の、しかも『image』の原盤ディレクターとしてブランドをしっかりと守りつづけてきた大ベテランなので、ある意味、こういったカッティングエッジなものとはあまり縁がないところで音楽制作をされていたと思うんですよ。逆に、僕はわりといろんなアイデアをポンポン、思い付くままに出しているような人間で。だから、ふたり合わせてちょうど良かったのかもしれない(笑)。
――アプリ開発にあたって、特に重視したことはなんでしたか。
梶:やっぱり、いかに個人の嗜好に添ってレコメンドできるエンジンを作っていくか、それは本当に苦労しました。今のトレンドとして重要なのって“自分事(じぶんごと)化”じゃないかと思うんですよ。例えば眠るときに聴く音楽が欲しいけど、好みじゃない曲は聴きたくない、みたいな。
今のサービスの捉えられ方って、ユーザーにとって心地良いものが提供されるのが当たり前、みたいになってきていると思うんですよね。個人情報の対価として自分にとって快適なサービスを受けられる、そこで相殺されていると思うんです。なので、そこをしっかり設計しないと、コンピレーションCDと変わらないものになってしまう。
――最初の企画段階から掲げていた“パーソナライズ”ですね。それはどういった形で進めたのでしょう。
梶:一番最初はアルゴリズムを決めることですね。脳波はまだ難しいとして、ほかに何かバイタルセンシングを使えないかといろいろ考えました。結局シンプルに“好き”“嫌い”でユーザーにジャッジしてもらって、それを元にパーソナライズしていくのが一番早いという方向で落ち着いたんですけど、そのディスカッションにはだいぶ時間をかけました。
でもアルゴリズムができてくると、今度は曲数の問題が出てきまして。『image』シリーズは21作リリースされているとはいえ、全部で200曲強で、それだとパーソナライズするにはちょっと数が少ない。もっと曲数を増やすためにはどうすれば良いかを考えるのに、またすごく時間がかかりましたね。
――結果、作曲支援プログラム“AMADEUS CODE AI”を用いて『life image』での再生を念頭にした楽曲を新たに500曲も作ったんですね。
梶:もしかしたら、一番大変だったのは“AMADEUS CODE AI”が作曲支援したその500曲に1曲ずつタイトルを付けていく作業だったかもしれないですね(笑)。原賀さんが1曲1曲チェックして、全部にタイトルを付けて。
原賀:確かになかなかの作業でした。タイトルを考えるのはAIも支援してくれないですから(笑)。でも、物量にまつわるものは、やっていけばいつか終わります。この開発で何が大変だったかというと、やっぱり今まで誰もやったことのないものをどう解釈し、どう組み立てて開発していくかっていうことに尽きますね。道のないところにいかにして道を作っていくか。それを考えれば、僕が2年かけて500曲にタイトルを付けたなんていうのは大したことじゃない。
梶:いやいやいや(笑)。でも実際、現時点でこれだけちゃんとした原盤を使ったリラクゼーションアプリはほかにないと思います。いわゆるフリー音源だけを使ったり、自然の音を使ってるものは多いんですけど。
――『life image』は、楽曲が“sleep”“relax”“focus”“nature”といったカテゴリーに分けられています。700曲以上もの楽曲をどのように振り分けていったのでしょうか。
原賀:最初に梶さんがおっしゃっていたように、眠れる音楽=“sleep”というのは絶対必要だと考えました。また、『image』はリラクゼーションをコンセプトにした作品なので、“relax”も当然入ってくる。それから最近はYouTubeなんかでも作業用BGMといって、作業に集中するための音楽がすごく再生回数が多いんですね。なので集中=“focus”も必要だろう、と。
その上で、アルバム『image』収録の楽曲から主要となる20曲に関して、300人のモニター調査を実施したんです。1曲1曲を聴いてもらって、それぞれどんな印象を抱くのか、スコア化していただいて。それぞれの曲にsleep何点、relax何点、focus何点とスコアがつくので、それをもとに“AMADEUS CODE AI”が作曲支援する500曲をチューニングしていくという、とても地道な作業でした。
文・取材:本間夕子
撮影:下田直樹
リラクゼーションアプリ『life image』
iOS
https://apps.apple.com/us/app/life-image/id1616089512
 
Android
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.sonymusic.artist.lifeimage
CDアルバム『image22』
発売日:8月3日(水)
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