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2023.11.15
2023.05.11
音楽を愛し、音楽を育む人々によって脈々と受け継がれ、“文化”として現代にも価値を残す音楽的財産に焦点を当てる連載「音楽カルチャーを紡ぐ」。
今回は、『山下達郎 TATSURO YAMASHITA RCA/AIR YEARS Vinyl Collection』のリリースにちなんで開催中の『CITY POP UP STORE FOR YOU @ TOWER RECORDS SHIBUYA』をフィーチャー。イベントの開催を主導したタワーレコード渋谷店・店長に、そのこだわりと深い“達郎愛”を聞く。
後編では、店長が山下達郎への愛あふれるエピソードを明かすほか、音楽メディアの現状と未来についても語る。
青木太一氏
Aoki Taichi
タワーレコード渋谷店 店長
タワーレコード渋谷店8F“SpaceHACHIKAI”にて、期間限定で開催中のポップアップストア。『TATSURO YAMASHITA RCA/AIR YEARS Vinyl Collection』より、アルバム『FOR YOU』のアナログ盤、カセットテープの販売や超高音質オーディオシステムによる試聴コーナー、パネルフォトスポット、オリジナルグッズ販売、ガチャコーナー、PIED PIPER HOUSE in『CITY POP UP STORE FOR YOU』、TOWER VINYL SHIBUYA 『OLDIES』SHOPなどを設置。入場無料。5月28日(日)まで開催中。
──(前編からつづく)今回、通常より短い準備期間で『CITY POP UP STORE FOR YOU @ TOWER RECORDS SHIBUYA』を開催することができた裏には、青木さんの“達郎愛”があったそうですね。山下達郎を聴き始めたきっかけを教えてください。
初めて聴いたのは中学3年生のころなので、ちょうど30年くらい前になりますね。まさに『FOR YOU』収録の「SPARKLE」を最初に聴きました。両親がレゲエやブラックミュージックが好きで、その影響もあってそれまではレゲエばかり聴いていたんですが、友人の家で偶然聴いたんですよね。
山下達郎「SPARKLE」Music Video(2023)
初めて聴いた山下達郎はそれまで聴いてきた音楽とはまったく違っていて、歌と演奏のうまさに惹かれて、ほかの音楽とはまた別軸で聴くようになったんです。そこからは達郎さんの作品だけに限らず、達郎さんの音楽のルーツとなったオールディーズだったり、サーフロックやフィリーソウルにまで手を出すようになっていったという感じですかね。
──それでは、多くの山下達郎ファンのように、毎週日曜日は『サンデー・ソングブック』を聴いて、そこでかかった知らない曲をメモしたりとか?
まさにそんなことを繰り返していました。達郎さんの音楽も楽しんでいましたが、その背景にある音楽も知るようになっていって、どんどん自分自身の音楽の知識も広がっていきましたね。達郎さんは自分にとって、まさに先生のような存在でした。
――好きなアルバムを1枚挙げていただくとなると、やはり『FOR YOU』になりますか?
実は、今一番好きなのは『MOONGLOW』(1979年)なんです。1曲目の「夜の翼(NIGHTWING)」でのアカペラがお気に入りで。BSで放送されていた番組で使われていて、改めて聴き直したんです。そうしたらハマっちゃって。タイミングやシチュエーションごとにお気に入りのアルバムは変わりますね。やっぱり夏になったらベタに『BIG WAVE』(1984年)を聴きますし。
あと、“達郎愛”ということだと個人的な話なんですが……息子の名前が“達郎”っていうんです。今小学3年生なんですけど、もちろん、達郎さんにちなんで名付けました。妻も大ファンなので、男の子が産まれたら“達郎”にしようと最初から決めていて。物心つくころから達郎さんの曲を聴かせていたので、今では歌うようになりました。
――“達郎” sings 達郎ですね(笑)。
「SPARKLE」なんかを上手に歌いこなします(笑)。なので、今では親子で達郎さんの音楽を楽しんでいます。
──タワーレコードに入社されても、山下達郎愛はずっと変わらず持ちつづけていらっしゃって。
はい。販売にかかわるようになってからも、山下達郎作品はずっと推してきました。僕以外にも社内にコアな達郎ファンが何人かいるんですけど、あるとき上司から「達郎さんにインタビューできる仕事があるから、青木行ってこい」と指示が出まして。ちょうどベストアルバム『OPUS~ALL TIME BEST 1975-2012』がリリースされるタイミングの、2012年でした。
──実際にお会いになっての印象はいかがでしたか?
緊張している自分を落ち着かせてくれるかのように、すごく気さくに話していただきました。自分の質問に対して真摯にお答えいただいて、すごく深みのある方だなって感じましたね。
そのときにお話しされていたことで印象的だったのが、CDはそのうちなくなるからっておっしゃっていたことです。当時はストリーミングサービスがようやく始まったころでしたが、CDはなくなっていく運命にあるから今のうちに大切にしなきゃいけないというようなことを話されていました。
またアーティストとしては、ライブが重要な収益源になっていくだろうから、そこも頑張らないといけないとも語られていましたね。すごく先のことを見据えて音楽と向き合っていらっしゃっるんだなと思いました。
CDを売る立場としては、達郎さんをはじめ、アーティストの方々がCDを出しつづけられるように頑張らないといけないと、改めて思いましたね。「君も頑張れよ」と言われているように感じました。
――でも、そのときはまさかここまでレコードの市場が復活するとは予見していなかったんじゃないでしょうか。
世界の誰も思ってもいなかったことじゃないでしょうか。中古レコードではなく、新譜のレコードが店頭にずらりと並ぶ光景を目にするとは思いもよりませんでした。
――サブスクリプションサービスによって、いつでも手軽に音楽にアクセスできるようになりましたが、いっぽうでパッケージへの愛着が増していったというのは理解できますよね。日本ではまだまだCDもなくならずに頑張っています。
デジタルへの反動というわけではないんでしょうが、音楽を所有する楽しさみたいな感覚が戻ってきている感じがしますね。実際にレコードやCDを再生してみたら音が良かったみたいな。サブスクと、レコードやCDで聴く音って全然違うじゃないですか。そうした再評価が、今後より進んでいくのかな、とちょっと思ったりもします。
――その動きは日本だけでなく世界的にも同調しそうですね。シティポップブームも衰え知らずですし。
シティポップも形を変えた流行り方をしてきていますね。海外のDJが使った曲が流行るとか。彼らが日本のインディーのバンドによる現行のシティポップをプレイすると急に売れ出すんですよ。なので、店としては常にそうした動きをキャッチして、海外のDJやお客様がご来店されたら商品を購入できる状況を作っておく必要があるんですよね。
――海外からの旅行者の増加とともに、タワーレコードに立ち寄る外国人も増えているんじゃないでしょうか。
今回のポップアップショップもまさに海外からのお客様も見込んで企画しています。展開している“SpaceHACHIKAI”は、普段は有料イベントを行なうことが多いんですが、今回は海外のお客様がチケットを購入せず、気軽に訪れることができるように無料にしました。
『FOR YOU』のレコードが並んだここで写真を撮ってSNSにどんどんUPしてもらえたら、その写真を目にした海外の方にもレコードの発売をお知らせすることができる。ですので、今回はフォトスポットもたくさん用意してあります。これからは、“SpaceHACHIKAI”だけでなく、渋谷店全体をそういった場所にしたいという目論見もあります。
――今回の『CITY POP UP STORE FOR YOU @ TOWER RECORDS SHIBUYA』しかり、レコード店が、ただCDやレコードを買いに来るだけの場所にとどまらないものになっていっている印象です。
そうなんです。新型コロナウイルスの影響で、お客様の来店がぱたっと止まってしまい、ここ3年ぐらい本当に厳しい状況がつづきました。ようやく去年の10月ごろから少しずつお客様が戻ってきてくれたんです。それまでは行きたくても行けなかったことへの反動だったり、海外からのお客様も来店いただけるようになり、今、実はコロナ禍以前より売り上げが伸びているという状況があるんですよ。現場からの声としては、CDやレコードのパッケージはまだまだいけるぞと、声を大にして言いたいですね。
文・取材:油納将志
撮影:荻原大志
アナログ盤
『FOR YOU』(1982年作品)
発売中(カセットテープ同時発売)
『TATSURO YAMASHITA RCA/AIR YEARS Vinyl Collection』
予約はこちら
『山下達郎 PERFORMANCE 2023 全国ライブツアー』
詳細はこちら
タワーレコード渋谷店
https://towershibuya.jp/
『TATSURO YAMASHITA RCA/AIR YEARS Vinyl Collection』
特設サイト
https://www.tatsurorcaairyears.com/
Twitter
https://twitter.com/TATSURO_RCA_AIR
YouTube
https://www.youtube.com/@TATSUROYAMASHITA_Official
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