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連載Cocotame Series

技術者たち ~エンタメ業界が求めるエンジニアの力~

開発エンジニア:新卒1年目から企画を立案――現場で体感したエンタメ×テックの奥深さ

2023.05.29

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専門的な知識とスキルを持つ技術者=エンジニア。さまざまなエンタテインメントビジネスを手掛けるソニーミュージックグループにも、それぞれの分野で力を発揮するエンジニアが多数在籍している。

連載企画「技術者たち~エンタメ業界が求めるエンジニアの力~」では、そんなソニーミュージックグループのエンジニアに話を聞きながら、今、エンタメ業界で求められているスキルやこの業界で働くことの意義、悦びについて語ってもらう。

第4回は、入社2年目にして成長を実感する若手エンジニアをフィーチャー。音楽ライブの自動撮影システム、メタバースライブプラットフォームの開発に携わる森山結衣に話を聞いた。

  • 森山結衣プロフィール画像

    森山結衣

    Moriyama Yui

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

新卒入社2年目でメタバースプロジェクトに挑戦

──森山さんは、新卒でソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)に入社し、現在は2年目の年ということですが、1年目はどのような仕事に携わっていましたか?

私は、ソニーグループなどで開発されているさまざまな最先端テクノロジーを活用して、新しいエンタテインメントビジネスを生み出していく、SMEのEdgeTechプロジェクト本部という部門に所属しています。

そのなかで、1年目は次世代ライブソリューションの技術開発に携わり、音楽ライブの自動撮影システムの開発をサポートさせてもらいながら、業務の流れやシステム開発全般について実地で幅広く学びました。

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──現在は、どのような仕事をされているのでしょう。

今期からはメタバースのプロジェクトチームに参加することになりました。エンタテインメント領域でのメタバースの活用は、ソニーミュージックグループ内でも研究が進められてきましたが、5年後、10年後を見据えて、メタバース上でのライブ事業などの開発で今から種を撒いていこうというプロジェクトです。

ソニーグループのエンジニアやソニーミュージックグループ所属のアーティスト、VTuberなども加わって、メタバース×音楽ライブでどのようなビジネスモデルが成立するか価値検証を進める予定です。

──なるほど。エンタテインメント業界の未来を担う重要なソリューション開発に携わることになったんですね。入社2年目からそのようなプロジェクトに抜擢されるのは、やりがいも感じられると思いますが、EdgeTechプロジェクト本部では若手もどんどん重要なプロジェクトに起用していくという方針なのでしょうか。

やらなければいけないことに対して単純に人手が足りていないという切実な実情もあると思いますが(笑)、そうだと思います。EdgeTechプロジェクト本部ではメインとなるプロジェクト以外に、自分で企画を立案して最終的に価値検証まで行なうというミッションもあって、キャリアや年齢に関係なくやりたいこと、面白いと思うことはどんどんチャレンジしなさいと、後押ししてくれる環境があります。

実際に私も昨年入社してすぐに、エンタメとテクノロジーを融合させた企画を提案するように言われて、アイデアを企画書に起こし実地検証まで手掛けました。

──具体的にどのような企画だったのでしょうか。

私はアイドルグループが好きなので、アイドルを軸にした企画をいくつか考えたんですが、実地検証まで進んだのは、ソニーセミコンダクタソリューションズと共同で開発しているカメラロボットを使った企画です。ファンの方には共感していただけると思うのですが、自分の好きなアーティストが楽屋や本番直前のステージ裏で見せる表情ってすごく興味がありますよね。

私が考えたのは、そのニーズに応えるもので、カメラロボットを通じてバックステージでのアーティストの様子が見れたり、アーティストとの会話が楽しめるという企画でした。

──確かにそれはファンに喜ばれそうな企画ですね。

はい。さらに、カメラロボットで撮った写真の一部は、日付と場所を合成した上でQRコードで提供してライブグッズとして扱えるようにするなど、ライブとファンミーティングを融合したような企画にしたいと考えて、これを実証実験することになったんです。実験には上長のサポートがあって、アイドルグループの皆さんにも協力してもらえることになりました。

──それは実用化を前提に行なわれたのでしょうか。それとも研修プログラムのようなものだったのでしょうか。

部門内で企画が承認されたら、自分でプロトタイプを作り、それが承認されれば実用化される可能性もあります。

ただ、この企画については、実証実験のところまで形にしたものの、改善すべき点がいくつか見付かって、結果的に「今すぐ実用化するものではない」と自分の判断で開発を中断しました。でも、実証実験に至るまでにはたくさんの方に協力いただいて、エンタテインメントが生まれる現場でどういったコミュニケーションがされているかも見ることができましたし、とても良い経験になりました。

──技術の検証段階からアーティストの協力を仰げるというのは、大きなアドバンテージになりますね。

そうですね。アイドルグループの方々が協力してくださったので、実験の現場では私から企画を説明したり、メンバーの皆さんをお待たせしないよう段取りを組んだりといったことまで、不慣れながらも担当させてもらいました。EdgeTechプロジェクト本部には、エンジニアと現場の方々をつなぐ担当者もいますが、このミッションではそういった業務もひとりで行ないます。1年目から、とても貴重な体験ができたと感じています。

エンタメ業界でも最前線の開発エンジニアになれる

──そもそも森山さんは、学生時代にどんな勉強をしていたのでしょうか。

私は中学のころからずっと吹奏楽をつづけていて、J-POPやアイドルの音楽を聴くのも好きでした。なので、音楽に関わる仕事に就きたいという希望と、もともと文系より理系の教科が好きだったという理由で、高校時代に音楽や音声を扱う研究室がある大学を探して受験をしたんですね。無事に希望の大学に入学することができて、大学の4年間は情報系の学部で、プログラミングなどの勉強をしていました。

その後、大学院に進み、そもそもの志望動機だった研究室で、AIで声を分析し、誰が話しているのかを判定する“話者認識”を研究することにしました。スマートフォンやPCなどの顔認証と同じように、声によって話者照合を行なう研究ですね。そしてどうにかこの研究を音楽に結び付けたくて、歌声による話者照合を研究テーマにしました。

──将来を見据えて学生時代を過ごしたんですね。ちなみに、この連載でよく聞くのですが、大学入学前から独学でプログラミングを学んでいたんですか。

いえ、私は大学に入ってから勉強を始めました。

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──具体的には、どういうプログラミング言語を勉強されたのでしょう。

大学ではC言語やJavaを学び、話者照合の研究ではAIの分野でよく使われているPython(パイソン)を学びました。こちらはC言語の知識をもとにしながらの独学でしたね。

──大学院を卒業後、SMEを志望したのはなぜですか。

就職先として楽器メーカーも検討したんですが、都内に拠点を置く企業があまりなくて。ほかに音楽に関われて情報系のスキルをいかせるのはどういう職種だろうと考え、エンタメ業界が浮かびました。

ただ、エンタメ業界のエンジニアというと、社内の業務システムを支えるシステムエンジニアや、ネットワークシステムを構築したり、トラブルを解決するネットワークエンジニアの職種しかイメージがわかなくて。ソニーミュージックグループに入社が決まったときも、自分が学んできたこと、培ってきたことで役に立てるのか、少し心配だったんです。

──それが蓋を開けてみたら、開発エンジニアだったというわけですね。

はい。昨今は、エンタテインメントのビジネスにおいてもテクノロジーの活用が必須となっていますし、AIの導入例も増えてきているので、開発エンジニアの需要が急速に高まっています。そういった背景もあって、私はEdgeTechプロジェクト本部に配属されたんだと思います。

実は、就職を検討する際、オーディオ機器のメーカーも進路として考えられるなと思って、オーディオ事業に関わるIT企業にもエントリーしていたんです。結果、こちらでも内定をいただけたので、オーディオ製品の開発職に就くか、エンタメ業界に飛び込むか迷ったこともありました。

でも、やっぱり私は、アイドルグループや音楽、アニメが好きだったので、さまざまなエンタメを生み出す人たちをテクノロジーの力でサポートする仕事がしたいと思い、ソニーミュージックグループに入社しました。

その上で、エンタメとテクノロジーを掛け合わせた開発業務に携わりたいというのが第一の志望動機だったので、入社後、思いがけずそれが叶ってすごくうれしかったです。

現場の声を取り入れニーズに即したシステムを開発

──森山さんのように情報学科を修学していると、IT企業に就職するケースが多いと思います。エンジニアを志す人がエンタメ業界や、ソニーミュージックグループで働くやりがいをどのように捉えていますか?

まずは、エンタメが生まれる現場のすぐ近くいられることです。ライブの自動撮影システムを開発する際、作っては現場で試して……を繰り返していたんですね。その際、ライブのディレクターや現場のスタッフの方々から、「この機能は使えるね」「この機能はいらないかな」とまさに現場の生の声をもらえます。そのフィードバックをもとにシステムを改善して、また現場に持っていきました。

ソニーミュージックグループは、Zeppのライブホール運営ビジネスやアーティストのマネジメント事業、レーベル事業も行なっています。なのでライブの自動撮影システムの開発においても、やろうと思えばすぐにライブ会場に持っていき、ディレクターの方に試してもらえる環境なんですね。だからこそ、本当に現場で求められているものが作れるんだなと思いました。

テック系のエンジニア業界ではよくある話だと思うんですが、「凄い技術の開発に携わっているんだけど、どうやって実用化されるかわからない」「ユーザーの顔が見えない」というのがあります。でも、私の今の環境では、現場の近くでダイレクトにコミュニケーションをとることが可能です。

もちろんエンジニアの立場から「こういう機能があると便利じゃないか」とアイデアも出しますが、そのアイデアが本当に使えるのか、使えないのかは、実際に現場でそのシステムを使う方たちに意見を聞くのが何より効果的。それができるのは恵まれた環境だと思いますし、現場からのフィードバックを得ることで、より良いものを作れるのではないかと思います。

──確かに、世の中には実用化されずに消えていってしまった技術はたくさんあるでしょうし、日の目を見ないで終わってしまうことは、エンジニアの方たちにとって悔しいことではないかと思います。

そうですね。それと、今の環境ではエンタテインメントの現場で仕事をされている方々の熱量からも良い影響を受けていて。昨年、自分の企画でアーティスト本人やマネージャーの方とお話しさせていただいた際には、実証実験の前後で「こうしたらもっと良くなるんじゃない?」とフィードバックもいただきました。

──現在携わっているメタバースのプロジェクトでも、やはり現場の声が反映されているのでしょうか。

はい。現役VTuberや彼らをマネジメントするレーベルの方々も参加しているので、現場の知見がいかされていると思います。ほかにも、例えばVR空間のライブステージにどういう照明を当てれば良いのかとなったとき、私のように照明演出の知識がなくてもZeppには照明のプロフェッショナルがいますし、舞台照明家の方が仮想空間上でも現実のライブと同様に照明演出を作れるならそれがベストな選択です。現場の方々の知見をどんどん取り入れることで、より良いシステムが作れるのではないかと考えています。

──社内の先輩エンジニアから刺激を受けるようなこともありますか?

この連載でも取り上げられていますが、昨年、ライブの自動撮影システムの開発プロジェクトリーダーが、ソニーグループからSMEに出向してきたんです。そのリーダーの影響を受けて、私の2期上の先輩が今まで以上に熱心にプログラミングを行なうようになり、その先輩の凄まじい努力を見て、私も大きな刺激を受けています。

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──仕事をする上で、森山さんが実際にプログラミングを行なう機会もあるのでしょうか。

そうですね。メタバースプロジェクトでは、仮想空間上でカメラなどを動作させる際にプログラムを書く必要があるので、UnityでC#言語を使った作業を行なっています。

ほかには今年も自分でいちから考える企画に取り組んでいて。アイドルグループの映像を高画質カメラで撮影し、画像認識によってひとりのメンバーだけを追いつづけて切り出し動画を作るシステムを考案しています。そのシステムを開発するために、ソニーグループのAIを使わせてもらって、C++のプログラミング言語を用いて実装しています。メタバースのプロジェクトと並行していて、かつ、ひとりで企画を起ち上げるのは大変ですが、自分の成長につながっていると実感しています。

エンタメがより楽しく、便利になるシステムを開発する喜び

──開発エンジニアとして充実した日々を送っているのが、ひしひしと伝わってきました。やはり今、お仕事は楽しいですか?

開発の仕事ができるのが、シンプルに楽しいです。また、私たちが開発しているのは「このシステムができると、エンタメがもっと楽しくなるね」「こういうシーンで使ったら、すごく便利になるんじゃない」というシステムで、エンタメを通じて人に楽しんでもらえる、人の感動に直結するシステム開発に携われているのがとてもうれしいですし、それはエンタメ業界ならではだなと思います。

──システムが使われているシーンを思い浮かべやすいので、仕事のモチベーションにもつながりそうですね。

そうなんです。まだまだ実力不足でつまずくことも多く、周りの皆さんにサポートしていただきながらではあるのですが、結果がわかりやすくて、なおかつ自分の興味のあるものを作れることが一番のモチベーションになっています。

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──1年強働いてみて、森山さんはエンタメ業界のエンジニア、なかでもソニーミュージックグループで働くエンジニアは、どういう人が向いていると思いますか?

ジャンルは関係なく、エンタメが好きだという人は向いていると思います。新しい企画を考えるときも、それに取り組むときも、“好き”という想いは大きなモチベーションになりますよね。そして好きであるからこそ「こういうサービス、システムがあったらうれしいよね」と、いろいろなアイデアが生まれやすいはず。

社内でも周りの人たちとエンタメの話をすることが多いので、周囲とコミュニケーションを深めるという意味でも、“これが好きなことに関しては誰にも負けない”というぐらいのものがあるとアドバンテージになると思います。

ほかには、コミュニケーション能力も重要ですね。より良いシステムを開発するには、現場の方々とのコミュニケーションが必須。会社でも上長から「アイデアは雑談から生まれる」とよく言われます。

──コミュニケーション能力の重要性については、これまでこの連載で話してもらった皆さん、全員口を揃えて言ってますね。自分が作りたいものを現場の方にわかりやすく説明するためにも、コミュニケーション能力は重要なんですね。それでは、今後についてうかがいます。森山さんが広げていきたい分野、チャレンジしたいジャンルはどういったものでしょうか。今後どんなキャリアを築いていきたいか、描いているビジョンと併せて教えてください。

今の部署は、自分が考えた企画を作れる環境です。ただ、私の実力不足で一つひとつのスパンが長くなってしまい、次々と企画を提案できてはいません。まずは基礎力をしっかり身に付けて、頭で思い描いたものをパパッとコードに反映できるようになりたいです。

また、EdgeTechプロジェクト本部は発足からまだ4年の新しい部門で、ノウハウもスキルも部門全体で積み上げている状態です。今後は、自分も先輩の立場になっていくので後輩が入ってきたときに、その積み上げたものをしっかり伝えていけるようになりたいと思っています。

──中長期的な視点で考えたときに、「こういうものを実現したい」という野望はありますか?

SNSを見ていると、好きなアーティストのファンの声が目に入ってきますよね。そのなかには「こういう技術があったら、もっと楽しいよね」という声もたくさんあります。そういうシステム、サービスをポンと作れるようになれたら良いですね。そのためには、やっぱりもっともっと開発力を身に付けたいですね。

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文・取材:野本由起
撮影:干川 修

関連サイト

ソニーミュージックグループ コーポレートサイト
https://www.sme.co.jp/(新しいタブで開く)
 
ソニーミュージックグループ コーポレートサイト 採用情報
https://www.sme.co.jp/recruit/(新しいタブで開く)
 
Sony Music | Tech Blog
ライブの興奮をそのまま伝える自動撮影システムのカメラ制御に求められるものとは?
https://tech.sme.co.jp/entry/2023/04/06/203000(新しいタブで開く)

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